作品タイトル不明
向き合うこと、それが始まり-17
「こんな……ことが?」
バリアと別塔を破壊しても、着弾とみなされない程に貫通力のあるタダの魔力の塊。魔法本来の機能を果たすまでもなく吹き飛んだそれを目の当たりにして、王は口を開いたまま言葉を失わせる。
「クルル!」
別塔が破壊されたことにより頂上部分が崩れ落ち、クルルの身体は瓦礫の破片と共に宙へと投げ出される。それを目の当たりにした鏡はすぐさま王の間から飛び出し、崩れ落ち行く瓦礫の破片を足場に伝ってクルルの元へと向かう。
「か……鏡さん?」
「よう、目が覚めたか? 助けに来たぜ?」
何が起きたのかはわからなかった。だが、自分のことを助けに来てくれたというのはわかった。薄れゆく意識の中で確かに聞こえたのだ。鏡の声が。
「私も…………頑張ったんですよ?」
そう言って、クルルは洗脳が解けたばかりで力が入らない身体で微笑を浮かべる。
本来なら、とっくにクルルの洗脳は完了しているはずだった。だが、その記憶だけは絶対に失わせないというクルルの強い意志が、王の洗脳の完了を遅らせた。
それ程までに、鏡と出会い、アリスと出会い、知り得た少しの間の日々がクルルにとっても大切なものになっていたからだ。
「ああ、よく頑張ったな。おかげで間に合った」
すると鏡はそう言って、宙に投げ出されたクルルを両腕で受け止めると、まるで苦労なんて微塵もなかったと言わんばかりのいつも通りの笑顔を浮かべる。
だが表情はそれても、ボロボロな姿までは隠せていなかった。全身血まみれで、傷だらけで、それでもこうやって自分のことを思って笑顔を浮かべてくれる。
それが、クルルにはたまらなくて、思わず瞳に涙を浮かべた。
「声…………聞こえてましたよ?」
そしてそれと同時に、王の洗脳により、徐々に薄れていく意識の中で確かに聞こえた声を思い出しいた。
『レックス……クルル! 二人纏めて俺が……攫いに来たぜ!』
その声が聞こえてから、結構な時間経っている。きっと、自分のためにこんな風になるまで頑張ってくれたのだろう。それがわかって、クルルは鏡に抱きかかえられながら、感情をむき出しにしてわんわん泣いた。
「なんで急に泣くんだよ。助かったんだから泣くなよ」
「う、嬉しくて泣いてるんです! どうしてそんな無茶するんですか! 死んだらどうするんですか!」
「そんなの、大事な仲間を失って後悔したくないからに決まってるだろ?」
そして面と向かってそう言われ、クルルは思わず目をパチクリとさせて頬を紅潮させる。
「ところでクルルたん。相談があるんだが」
「な、何ですか?」
「ここまでは何とかしたけど、俺……制限解除の効果切れちゃった」
「え?」
「……えへへ」
「いや! えへへじゃないですよ!」
そう怒った口調で言いながら目に涙を浮かべながらも、クルルの表情は笑顔だった。
嬉し泣きさせられたと思ったら紅潮させられて、そして今度は青冷めさせられて慌てさせられる。
この短い間にこんなにも色んな感情を引き出してくれるのは恐らく世界できっとこの人だけだろう。そう感じ、鏡とこれからもずっと一緒にいたいと思いながら、クルルと鏡はなんとか上手く着地しようとぎゃーぎゃー言い合いつつ落下して行った。
「こんなことが……ありえるのか?」
その一方で、鏡に抱きかかえられて落下していく自分の娘を眺めながら、王はブツブツとつぶやき、自分の意志や信念を疑い始めていた。自分は間違っているのか? と。
『どうやら……ありえるらしいな。また驚かされたよ、あの村人には』
「お主は…………」
すると、王の脳内に直接語り掛けるかのような声が響く。何事かと周囲を見渡すと、そこには先程まではいなかったはずの魔族の男が立っていた。だが王は、その人物を知っていた。自分と同じ、立ち位置に存在するものだったから。
『我々の考えは間違っていない。その仕組みに抗ってもいけないものだ』
「ならば……やはり、ワシはあの者の言葉を受け入れるわけにはいかぬ」
『そう、受け入れなくてもいい。だが、あの者の価値は絶大であるのもまた事実だ』
それを聞いて、王は押し黙る。既に王も、そう思えてしまっていたから。
『あの者に賭けてみても良いのではないか? 少なくとも、あの者が失敗する……その時まではあの者の願いを聞き入れる価値はある。私はそう思った』
「……取引か。確かに……あやつの働きに賭けてみるのは悪くはない」
そこで王は、鏡が言っていた言葉を思い出していた。この世界の常識を一つ覆すことで、鏡という存在が、自分達が望む戦士となってくれる。
そして、鏡にそれだけの価値があるかという疑問は、既に解消されていた。
となれば、下す判断は、既に王の中で決まっていた。