作品タイトル不明
向き合うこと、それが始まり-15
「ミリタリアを殺さぬのか?」
「殺さねえよ。結局こいつも、この世界の仕組みのせいでこうなっちまったんだろ? じゃあ俺が本当に倒さなきゃいけないのはこいつじゃない。まあ、お灸は据えさせてもらったけどな」
それだけ言って鏡は軽く笑みを浮かべると、王は目の前に再び剣を取り出して身構える。
その行動を見て、鏡も再び表情を強張らせ、王に対して睨みつけた。
「別に俺はあんたを倒したいわけじゃない。クルルを解放しろ」
「っふ……優位になったから再度交渉というわけか? ならぬ」
「じゃあ、あんたを倒してクルルを助けに行くだけだ」
そう言うと、鏡は拳を握り締める。だがそれを見た王は、何故か突然笑い声を上げ始めた。
「ワシを倒せばバリアも洗脳の効果も消えるとでも思ったか? ワシを倒しても何も解決はせぬ、優位になったと勘違いさせたようで悪いが、何も現状は変わっておらぬよ」
その言葉を聞くとほぼ同時に、鏡は王の目の前へと接近して掴みかかろうとする。だが、掴みかかろうとした手はそのまま空を切り、王は鏡の目の前から消え去り、少し離れた場所へと姿を現した。
「……エステラーと同じことが出来るってことか?」
「そういうことだ。お主を倒すのは確かに不可能だが……お主もワシを倒すことはできん。諦めるのだな。お主では……世界を変えることなど出来ぬ」
そう言われ、鏡は仕方がなさそうに軽く溜息を吐くと、クルルがいるはずの別塔へと身体を向け、そのまま歩いて側面の柱に挟まれた場所にあるバリア前へと移動する。
「……何をするつもりだ」
不可解な行動を前に、王は思わず表情を歪めて問いただそうとする。
「あんたが解放するつもりがないなら、俺がこのバリアをぶっ壊してクルルを助け出す」
そして返ってきたその言葉を聞いて、王は呆れた表情でやれやれと溜息を吐いた。
「無駄だ。先程も言ったが、そのバリアは与えた反動をそのまま返す。破壊するよりも早く、お主の身体が壊れるだろう」
「そんなの、やってみないとわからないだろう? 停戦協定にしたってそうだ。魔族と戦わなくても強い存在を生み出す方法なんていくらでも考えられるだろ。やる前から諦めんなよ」
「くだらん……この仕組みを止められるわけがないのだ。真の英雄が現れるまで、本当の意味で全ての救いが訪れる日まで……ワシは使命を果たす。それだけだ」
「なら……俺が終わらせてやる」
「……なんだと?」
「あんた達が今まで送り出してきた強い奴等ってのが、結局その救いを与えることが出来なかったから次が必要なんだろ? なら……俺で打ち止めだ」
「何が言いたい?」
「俺が……絶対に救ってやるって言ってるんだよ」
それは、冗談で言っているようなそんな迫力ではなかった。少しばかり見える鏡の鋭い視線、そして暴力的なまでに説得力のあるその物言いに、王は思わず額に汗を浮かばせる。
「その保証が一体どこにある? 笑わせるな……! ワシが望む救いはお主が思っているよりも遥かに重い! 思い上がるな……世界を知ったつもりになっているだけの小童が! 世界はそう簡単に救えぬ!」
「だからやる前から諦めんなって、それにあんたは一つ勘違いしてる。俺が魔族と仲良くしてくれってのはお願いなんかじゃない。ただの……取引だ」
「取引だと? 取引とは価値があるものを掲示して初めて成り立つ。お主ごときが……何を掲示するというのだ?」
「今まで……レベルを上げること以外に明確な目標を作って全力で取り組んだことなんて一度も俺はなかった。適当にお金を集めて、ただ目の前の火の粉を振り払うくらいしかしてこなかった」
「何が言いたい?」
「わからねえか? 俺が、全力で、あんた達を救うという目標に取り組んでやるって言ってんだ。神をぶっ飛ばす以外に何かに使うつもりもなかった俺という存在が、全力で味方してやる。今まで培ってきたこの力を1ミリも惜しまずあんた達を救うために使ってやる」
「お主に……それだけの価値があると?」
その問いに、鏡は答えなかった。だが王は理解した。答えるまでもない程に、鏡にはその自信があるのだと感じ取ったから。
「わからんな……どうしてそこまでしてこの世界の仕組みに抗おうとする」
「そんなもん知ったからに決まってるだろ」
「知ったからだと?」
「俺も……最初は諦めてたよ。諦めてお金を集めるだけのつまらねえ生活を送ってた。いつか、どこかで神をぶっ飛ばす機会があればいいって、明確な目標もたてずにな。でもな、出会っちまったんだよ。皆とな」
「どういうことだ?」
「魔族なのに人間と傍にいようとするこいつらが、魔族って知っても人間と同じように接してくれる俺の仲間が大事で仕方がない。大好きなんだよ俺は! でも……それを守るにはこの世界の仕組みが邪魔なんだよっ!」
そして、鏡は高らかにそう叫びちらすと、バリアに向かって全力で拳を打ち付けた。
その瞬間、鏡の腕がバリアの反動により大きなダメージを受け、ぶしゅっと腕のあちらこちらから血を噴出させる。あまりにも痛々しい光景に見ていたメノウと王は表情を歪ませる程だ。
「ならばその意志を最後まで貫き通せるか見届けてやろう。クルルの洗脳が完了すればお主の意志も削がれるであろう。クルルの洗脳は間もなく完了する。洗脳が完了すれば、どんな言葉も響かなくなるだろう。クルルを殺さぬ限り……お主の理想は実現しなくなる」
「だったらそうなる前に、俺がクルルを助け出す」
そう言うと、鏡はダメージを負った腕で再びバリアを殴りつけた。自分の痛みなんて一切気にした様子もなく、真剣な形相を崩さないまま、何度も何度も大きな爆音をたててバリアを殴りつけ、自分の腕だけじゃなく体全体にダメージが行き渡る程に何度も。
「わからん……わからぬ! なぜそこまでして?」
そして、その異常すぎる目の前の男の姿に、王は遂に戸惑い始める。
先程、死にそうになったにも関わらず、目の前の存在はそれでも死を恐れぬ程の気迫でバリアを殴りつけ、その度に全身から血を噴出させている。異常だった。狂っていた。
少なくとも、王はこんな存在を見たことは一度もなかった。
すると鏡はその表情を見て、その顔が見たかったと言わんばかりに顔をにやつかせる。