軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

「今日の稼ぎは……800シルバーか、ここらへんにしては稼げた方かな」

街外れの森の中、一人の青年が欠伸をしながら呟いた。

青年の片手には大きく膨らんだ金塊袋が握られている。

夕暮れになるまで食事もせず、森の中でモンスターを倒し続けた成果だ。

「とはいえ、疲れたな」

そうは言うが、手に入れたお金をどう使うかを想像して、青年は笑みを浮かべる。

とりあえず一息つこうと、青年は近くにあった木を素手でスパッと斬り捨て、切り株となった場所に腰を置いた。

「そろそろ溜めたお金を使って、家に専属のメイドでも雇うか?」や「カジノを経営して、エンターテイナーになるのもいいなあ」など、この世界で普通に暮らしていては、決して手の届かないお金の使い道に、青年は思いを馳せる。

鏡 浩二。

これといった貴族の名門の生まれでも無く、どこにでもいる平凡な村で生まれた平凡な青年。

両親は幼少の頃に他界してしまったが、元々衣服屋を営んでいた普通の夫妻の間に生まれた青年だ。

青年の手元にあるのは800シルバー。

衣服屋を営んだとして、半年かけて稼げるかどうかの金額を、たった一日で手にした男は現在、800シルバーが入れられた金塊袋を乱雑に振り回している。

というのも、鏡の全財産において、800シルバーなど、大した額ではないからだ。

鏡の全財産は預けているお金を合わせると5480ゴールドを超える。

一般人が人生で使うだろう金額が、平均50ゴールドとされているこの世界で、多額の財産を所持しているのだ。

只の衣服屋の息子から抜け出し、大富豪となった鏡には、

『人生ちょろすぎてちょろちょろちょろりんこですわ』

としか言えなかった。

何故、これだけの金額を稼げるのか?

鏡は気付いてしまったのだ。

モンスターを倒すと、お金が手に入る事に。

ステータスという概念が、この世界に広がったと同時に生み出されたとされる生物【モンスター】。

真相はわからないが、世間一般的にはそう言われ、人にあらゆる害をもたらす。

しかし、モンスターは倒すとお金を落とす。

街が発行している討伐指定のモンスターであれば更にボーナス報酬を支払ってくれる。

そのことに、鏡は生まれて二年目にして気付いてしまった。

事の始まりは、最弱と名高いグリーンスライムが村の中に入り込み、たまたま鏡と出会ってしまった所から始まる。

モンスターが危険な存在と知っていた鏡は、直接殴り合わず、その場に落ちていた石や木の棒を投げに投げまくって、グリーンスライムを無傷で倒してしまったのだ。

それと同時に、鏡は手にしてしまった。80ブロンズというその世界の通貨を。

ゴールド、シルバー、ブロンズ、1ゴールドは10000シルバーの価値があり、1シルバーは10000ブロンズの価値がある。

80ブロンズは、鏡が週に一度、親からおやつとして食べさせてもらえるお菓子が2個程買えるくらいの金額だった。

はっきり言って全然高くもない、駄菓子程度のお菓子だったが、当時の鏡にとってお菓子は最も価値のある食べ物であり、そしてそれを二つも購入可能な80ブロンズは、大金に見えたのだ。

だからか、それ以降、鏡はお金を稼ぐ事を「ちょろい」と考えている。

しかし、モンスターと戦い稼ぐということは、常に死と隣り合わせにいるに等しい。

「パパァァァぁああああああ“あ”あ!」

「私の……息子ぉぉぉぉおおおおおおおお!」

現に、モンスターに殺された者は数知れない。

それこそ、最弱と呼ばれているグリーンスライムに殺された人たちも星の数はいるだろう。

実際として今まさに、二人の親子がグリーンスライムに殺されそうになっている状況に、鏡は遭遇した。

鏡も最初こそ、物を投げるという手段を使ってグリーンスライムを倒したが、素手で殴っていれば殺されていただろう。

最弱と呼ばれていても、戦いに慣れない者にとって、モンスターは死の可能性がある危険な存在だからだ。

グリーンスライムは毒を持っている。接近戦など挑んで小さな傷を負えば、それだけで弱者は命を失うだろう。

それが数体で攻めてくればどうなるだろうか? それは充分に脅威と呼べる存在になる。

鏡が察するに、少し離れた場所で襲われている親子二人は、モンスターと戦った経験が浅かった。

どう考えても、戦えるとしたら親の方になるのだが、腰が引けていることから、今までモンスターと戦わずに生きてきたのだと判断できた。

しかしそれは別に変なことではない。この世界において、モンスターと接触しないように生きるのは至って普通のことだ。何故なら勝てずに死ぬ可能性の方が異常に高いからだ。

今こうしている間にも、親子二人はグリーンスライムに突撃を受けて死んでしまうだろう。

まるで鉄球をぶつけられたかのような強い衝撃、そして毒のダブルコンボで確実に死ぬ。

だがそれは、【LVが1だった場合の話】である。

LVとは、この世界の神が人々の成長度合いを数値にして表現したものである。

その数値に比例して、身体能力は勿論、神が与えた役割と生活環境に応じた便利なスキルや魔法を与えられる。

鉄球のような衝撃に感じるグリーンスライムの突進も、LV5もあれば、雪玉をぶつけられた程度に感じられる。だが、親子二人がそのレベルに達している可能性は低いと、鏡はすぐに諦めをつけた。

何故なら、親子二人の周囲に表示されているステータスウインドウに、村人という役割が書かれていたからだ。

能ある役割と呼ばれているのは八種。戦士。武闘家。僧侶。魔法使い。盗賊。商人。狩人。呪術師。

天啓とも呼ばれる特殊な力をもつ役割は三種。王族。勇者。賢者。

そして最もその人口が多く、力無きものとして農業や宿屋。街を発展させるために尽くす最弱の役割……村人。

戦う力を持たない村人が、モンスター討伐の稼業に乗り出すのは自殺行為に等しい。

それだけ、村人は弱いのである。レベルが上がっても、大きな成長が望めない。

つまり、モンスターとの実戦経験を積むような自殺行為をするものは少なく、基本的に村人はLVが1から4が普通なのだ。他の強い者に協力を願い出てレベルを上げる者もいるが、それでもLV10が関の山。

「……仕方ねえなぁ」

仮に、親のレベルが高くても、戦い方を一切知らないのでは充分殺される可能性はある。

そう即座に判断した鏡は、自分の鼻穴に指をつっこみ、念入りにほじりにほじった後、少量産出された鼻糞を指で丸め、指で軽くピンッと弾き飛ばした。

直後、突然粉砕するグリーンスライム。

あまりもの不可解な現象に、親子二人は揃って口をぽかーんっと開ける以外の行動ができなかった。

ただ呆然としながら粉々になったグリーンスライムの破片と、グリーンスライムを倒した事により産出され、地面に転がり落ちた80ブロンズを眺め続けるのみ。

「よぉ……大丈夫だったか? 大丈夫だな? よーし、大丈夫だ」

そして、そんな状態の親子の前に、黒髪の短髪をポリポリと掻きながら、明らかに弱そうで、冴え無さそうで、二十歳前半くらいのカッコよくもなければカッコ悪くもない、平凡中の平凡、【THE・村人】といった雰囲気を纏う青年。鏡がゆったりと親子二人の前に姿を現す。

「こ、これ……あんたが倒してくれたのか? 一体どうやって?」

「鼻糞ほじって飛ばしただけだけど?」

理解不能な事を言いながら、落ちている80ブロンズを拾いあげる鏡を見て、親子二人は額に油汗を垂らしながら、親子仲良く『は……鼻糞?』と同じ言葉を脳内で呟いていた。

この青年の鼻糞を飛ばす力が強かったのか?

それとも鼻糞がとんでもなく恐ろしい何かなのか?

あまりにも非常識な光景を目の当たりにしたせいか、そんなどうでもよい思考をする親子二人。

「ほら少年、これを受け取りな」

その時、鏡は拾い上げた80ブロンズを少年へと投げ渡す。

「グリーンスライムを倒すだけで80ブロンズも手に入るんだぜ? 凄くねえか?」

「え……いや、全然そうは思わないけど」

「まあ……そうだよな。そう考えるのが普通だわ」

グリーンスライムを目の前にしただけで、モンスターに恐怖心を抱いた少年の返答を聞き、鏡は残念そうにそれだけ伝えると、踵を返して街を目指して歩き出す。

「え…………ちょ、はひっ⁉」

親子二人はそんな鏡の後ろ姿を見送り、その時たまたま鏡の周囲に表示されているステータスウインドを視界に入れて驚愕の表情を浮かべた。

ステータスウインドウに開示する情報は、個人で自由に設定可能である。

基本的に、ステータスに表示されるパラメーターは隠している者が多い。

だが、鏡はたまたま、神から与えられた役割とレベルの二つを表示していた。

「あ……やべ、さっき開いたまま消すの忘れてた」

途中で気付き、鏡は慌ててステータスウインドウを閉じる。

しかし時既に遅く、親子二人の脳裏には、本来なら何も驚く事のないはずの情報二つが焼き付いていた。

そのたった二つだけで、顎が外れる勢いで口をパカッと開き、眼球が飛び出すかの如き勢いで、親子二人は驚愕してしまう。

そこに記されていたもの、それは―—――

鏡 浩二

役割:村人

LV:999