軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第87話:東の大規模ダンジョンへ その2

大規模ダンジョンから馬で一時間とかからない場所にある城塞都市カールソン。

人口はおよそ一万四千人だが、国境線の近くということで来訪する旅人や商人、滞在する騎士や兵士、冒険者を含めれば更に千人単位で上乗せされるであろう都市だ。

大規模ダンジョンが近いということは、大規模ダンジョンに潜った者達がもたらすアイテムや資源が手に入りやすいということでもある。そのため一攫千金狙いの冒険者、市場に流れる貴重なアイテムを求める商人など、住民以外の者も相応に見ることができた。

さて、この世界においてたまに見かける冒険者だが、冒険と名がつく割にやっていることはダンジョン専門の何でも屋みたいな感じである。

軍に所属するには性格が向かない、規則で縛られるのが嫌だ、そもそも騎士はおろか兵士として働くだけの能力がない。そんな者達が選ぶのが冒険者という道であり、性格が向いてないけど強者、なんてパターンを除けば上級冒険者でさえ強者と呼べる者は少ない。

そんな冒険者はダンジョン内の調査――地形が変動することもあるためあまり参考にはならないが地図の作成、出現するモンスターの確認、モンスターの間引き、ダンジョン内で取れる資源の調査、ダンジョンが 基点(コア) の破壊で崩壊するかボスモンスターを倒して崩壊するかの調査等々、色々なことを行う。

冒険者は下級、中級、上級と分類され、その中でも大規模ダンジョンに挑む許可が出るのは上級冒険者のみ。

これはダンジョンの中で死なれて余計な負の感情を発生させないため、そして新たな『魔王の影』が発生する確率を少しでも下げるための対策だが、危険地帯ということもあってその手の対策が実施されるのも仕方がないことだろう。

冒険者以外の場合だとサンデューク辺境伯家が抱える騎士団、それも新兵を外して精鋭で固めた部隊を投入するぐらいだ。ただしダンジョンの破壊までは目指さず、大規模ダンジョンが今以上に成長しないようモンスターを間引いて数を減らすのが目的である。

これまでの経験則として、ダンジョン内のモンスターを間引きし続ければそれ以上ダンジョンが成長しないことが知られている。

もちろん何事にも例外はあるが、その例外も『魔王の影』がダンジョンに手を加えた、何かしらの要因が重なって異常成長した等の人間側では対策がほぼできない、本当に例外ばかりだから気にするだけ無駄だろう。

大規模ダンジョンはその広さ、モンスターの強さから隣国と協定を結び、モンスターを間引きし続けることでこれ以上の拡大を防いでいるのが現状だった。

そんな、本来は入るためにも一定の資格が必要となる場所。それが大規模ダンジョンであり、これから俺が挑む場所である。

(まあ、俺は大規模ダンジョンを管理するサンデューク辺境伯家の嫡男だし、その辺はフリーパスなんだが……こりゃまた、入ってもいないのに 雰(・) 囲(・) 気(・) が(・) あ(・) る(・) な……)

城塞都市カールソンで一泊し、朝から馬に乗って大規模ダンジョンの傍までやってきた俺は空気に乗って漂ってくる異質な気配に眉を寄せる。

ダンジョン内部は独特の気配があるが、大規模ダンジョンはそれが顕著なのだろう。なにせダンジョンに入っていないのに危険が感じ取れるのだ。

軍役で遭遇した異常成長したダンジョンの中もすごかったが、さすがに大規模ダンジョンよりも劣るらしい。いや、この場合は大規模ダンジョンの方が突き抜けているというべきか。

「ナズナ、本当についてくる気か? 俺としては駐屯地で待っていてほしいんだが……」

空気を感じ取って眉を寄せる俺だが、同行していたナズナは顔色を悪くしながら体を震わせている。どう見ても大規模ダンジョンに挑むには色々と 足(・) り(・) て(・) い(・) な(・) い(・) んだが。

「い、いいえ……絶対、若様についていく……ううん、若様を守るんです、から……」

震えているが、そう言い切ることができる程度には覚悟が決まっているらしい。なるほど、それならその覚悟を買ってついてきてもらおう――とはさすがに思えない。

「君の気持ちは嬉しいがそれとこれとは話が別だ。俺を守るも何も、まずは自分自身を守った上でだな」

「ああ、そうだ。一つ言い忘れたことがあった」

俺がナズナを止めようと喋っていると、その途中で遮るようにランドウ先生が声を上げる。

「いいか、嬢ちゃん。俺や騎士団長殿がお前さんの同行に何も言わなかったのは、 今(・) 回(・) の(・) こ(・) と(・) も(・) テストだからだ。騎士団長殿からまた依頼を受けていてな。何をテストしているかは教えないが、お前さんの行動が今後の人生を分けるとだけは先に教えておいてやる」

「なっ!?」

ナズナがビクリと体を震わせ、窺うようにしてランドウ先生を見る。

「て、テストの内容……は……」

「教えないって言っただろうが。嬢ちゃん、お前さんは何かをする度に『これは正しいですか?』って尋ねるのか? そりゃ付き人どころか勤め人としても失格だろうよ」

呆れたようにランドウ先生が言うと、テストの内容を推測するためかナズナは口を閉ざして何事かを考え始める。それを見た俺はナズナに聞こえないよう、小声でランドウ先生に話しかけた。

「やっぱり、ウィリアムはまだ認めてなかったんですね」

ナズナの覚悟を買って復帰を認めたのかと、少しだけ思ったんだが。さすがにそんな甘い考えは通じないらしい。

「そりゃ一度職務から外したやつを復帰させるのに、 仕(・) え(・) ら(・) れ(・) る(・) 側(・) のお前に何も言わないのはおかしいだろ」

「……俺に何も言ってないってことは、もしかして俺も何かテストされてます?」

ウィリアムの行動に疑問を覚えて尋ねると、ランドウ先生はにやりと笑う。

「さあて、どうかねぇ……レオンや騎士団長殿には何やら考えがあるみたいだが、俺としちゃあお前には必要がないと思えることだからなぁ。ああ、これだけは伝えとくが、レオンの奴は『机上で教えることがないから宿題だ』って言ってたな」

「父上ぇ……いや、ウィリアムもか……」

あの人達、俺を試すのが好きすぎるだろ……中身がただの子どもだったらとっくの昔に捻くれてるぞ。だけどまあ、中身は子どもじゃないわけで。

(本当にナズナへのテストがあるとして、先生がわざわざそれを伝えたってことは……これ、俺のテストはナズナの扱いに関することじゃないか?)

ふむ、と一つ頷いて俺は思考を巡らせる。

(昔、父さんも言ってたな……嫡男たるもの、普段から周りのこと、家臣のことに気を配っておけって。それで問題に気付けなければ後々大きな問題に発展するって……コレのことかぁ……)

昔教わったことを、時間が経ってから強く実感する。この話を聞いたのは……たしか五歳ぐらいの時か。こうして俺がしっかりと覚えていて、思い出すことまで含めてあの頃教育したんだろうか? それなら未来を見通し過ぎてレオンさんがマジで怖いわ。やっぱり今からでもコハクを後継者にしてくれないかな……。

(いや、待て待て。こうして思い出せて、今から手を打てるってことは教えが身についてるってことだ……事前に手を打てって話だけど、思い出せただけまだ良しとしよう、うん)

今以上に強くなりたいと意気込んでいたが、こうして宿題を与えることで 脇(・) が(・) 甘(・) い(・) とレオンさんから指摘された気分である。何が教えることがない、だ。まだまだ学ばなきゃいけないことばっかりじゃないか。

(俺に対するリップサービス……じゃ、ないな。必要なことは教えたから、あとはこうやって実践で身に着けていけってことか? それならそう教えてくれれば……って、これはアレだな。自分で気付かないと意味がないやつだな)

他人に教えられるのと、自分で気付いて実践するのとでは大きな差がある。前者でしっかりと学べる者もいるだろうが、後者みたいに自分で気付いたからこそしっかりと記憶に残り、実践できるようになる者は多いだろう。少なくとも俺はそのパターンだ。

(ということは、だ。ナズナのテストも俺が頑張ればどうにかできる? いや、一緒にクリアするタイプのテストか?)

以前、ナズナが俺の傍付きから外された経緯を思い出す。あの時は……そうだ、ナズナが傍付きとしての役目を放棄したこと、俺の傍付きとして相応しい行動を取れなかったことが原因で解任されることになった。

それが今回の場合はどうだろうか? 大規模ダンジョンに行くと聞いてもこうしてついてきたし、実力が伴っていないとしても俺から離れずに大規模ダンジョンの中までついてこようとしている。

(実力が伴っていないっていうのはウィリアムもわかっているはず……それでも俺についてくるのを止めなかった理由……俺への宿題……ああ、そっか。ナズナが傍付きとして合格かどうか、判断するのはランドウ先生じゃない……コレ、俺が判断を下すやつか)

ランドウ先生はテストだと告げたが、結果を決めるのが誰かは告げていない。そこに来て俺への宿題という言葉。

(俺がナズナ……いや、家臣を適切に扱えるか、抱えている問題を解消した上で俺が望むように動かせるかどうか……それがテストっぽいな)

本当、レオンさんもウィリアムも、試すのが好きだし読み解くのも大変だ。もちろん読み違えていて全然違うテストを想定されている可能性もがあるが。

(すぐに思い浮かぶのはこれぐらいしかない。まずはこの前提で動くか)

結論としては修行しつつ、ナズナを 上(・) 手(・) く(・) 扱(・) う(・) 練習をしろってことだろう。屋敷を離れている間、貴族として他人を動かす勉強を兼ねていると思えば文句も言えない。

「なるほど……しかし、ランドウ先生? さっきの話って喋って良いやつだったんですか? 俺でもある程度推測できるようになる、重要な情報だったと思うんですが」

「ん? 別にいいだろ。レオンの奴から見れば物足りないのかもしれねえが、俺としちゃあ問題があるようには思えねえしな」

「……と、仰いますと?」

俺の実力に関してもだけど、ランドウ先生からの評価が妙に高いような気がする。なんだろう? 嬉しいけどちょっと怖い。

「だってお前、今回 俺(・) を(・) 頼(・) っ(・) た(・) だろう? もう気付いているみたいだから言うが、部下の扱いはともかく、問題に行き当たったら他人に相談して頼れるじゃねえか」

レオンも息子に甘いよな、なんてからかうように呟くランドウ先生に、俺は数秒経ってから合点がいったように手を打つ。

(そういえば、何かあると隠したがる性格だってレオンさんに言われたな……そっか、今回は隠さずに相談したし、その辺りもテストに……ということは……)

折を見て 家臣(ナズナ) と正面から向き合って話し合うことも必要だな、と結論付ける俺だった。

「これはこれは……お久しぶりです、若様。しばらく見ない内にずいぶんとご立派になられて……」

大規模ダンジョンの傍、徒歩で十分とかからない場所に造られているサンデューク辺境伯家騎士団の駐屯地。そこで魔法の先生であるフェリクスに出迎えられた。

「久しぶりだな、フェリクス。貴公に魔法を教わって以来か」

相変わらず丈の長いローブに杖という魔法使いらしい格好のフェリクスに、俺は笑って挨拶をする。

騎士団の駐屯地は木材を格子状に組み合わせて作った壁で正方形の敷地を囲い、壁の外には空堀を設けて防衛力を高めた造りになっている。駐屯地の四隅には見張り台が建てられ、常に兵士が周囲を警戒しているのが見えた。

敷地内には騎士や兵士が寝泊りするための天幕が並び、簡素ながら長屋みたいな建物もいくつか建っている。更には騎士団向けに商売するつもりなのか荷馬車を引いた商人の姿もあった。

俺は挨拶もそこそこにレオンさんからもたされていた手紙を取り出すと、フェリクスへと手渡す。するとフェリクスは目を細めながら手紙を受け取り、すぐに開封して中身を読み始めた。

「……ははぁ、なるほど……スギイシ殿と共に修行の旅とは……辺境伯家の嫡男というより、騎士修行をする見習いみたいですね」

そう言いつつ、僅かに視線を滑らせてナズナを見るフェリクス。ナズナはそれに気付かず、周囲の様子を観察しているが――。

(ナズナについて、フェリクスにも何かしらの指示が出た……か? そうなると……)

さりげなくナズナの様子をうかがう仕草からそう判断した俺は、これからの予定を脳裏に思い浮かべる。

(修行の期間は俺の出来次第として、短期間で終わるわけじゃない……さすがのランドウ先生もいきなり大規模ダンジョンの中で寝泊まりさせる気はないみたいだし、ここで重要なのは……)

俺は横目でランドウ先生を見て、続いてフェリクスを見る。そして最後にナズナを見ると、こちらから働きかけることにした。

「ナズナ、これからについてだが」

「はいっ! どこまでもお供いたします!」

俺が話しかけるとぱっと表情を輝かせるナズナ。そんなナズナの様子に意味深な薄い笑みを浮かべるフェリクスを横目に見つつ、俺は言う。

「いや、まずは修行をするにあたって環境をどうにかする必要があるだろ? 寝泊りする場所、日々の食事、風呂やトイレの確認、消耗品の手配……いいか、ナズナ。俺はそれらを全て 傍(・) 付(・) き(・) と(・) し(・) て(・) の(・) 君(・) に(・) 任(・) せ(・) る(・) 。そのための権限も与えよう」

そう言って、身分証の代わりに持ち歩いている短剣をナズナへと手渡す。水戸黄門の印籠ではないが、騎士団が駐屯しているこの場所でなら相応に 意(・) 味(・) が(・) あ(・) る(・) 代物だ。

「え? えっと……」

「いいかい、ナズナ。俺の修行の成果がどうなるか、それは君にかかっていると言っても過言じゃない。まずは俺を支えるため、色々と手配を頼むよ」

困惑するナズナにそう畳みかける。ランドウ先生が城塞都市カールソンで食料を買い込んだのも、ひとまずはこの駐屯地で住環境を整えることを前提としていたからだろう。

ナズナの教育とテストを兼ねているため、その辺りは口に出さない。ナズナが自分自身で気付いてくれないと意味がないからだ。

それでも言外の意図を込めて喋る俺に、詳細はわからずとも何かあると察したのだろう。戸惑った様子でナズナが頷く。

「よし……それじゃあ頼んだよ、ナズナ。俺は 慣(・) ら(・) し(・) としてダンジョンに潜ってみる。先生、それでいいですよね?」

「ああ、いいんじゃねえか?」

フェリクスと違ってどこか楽し気に笑うランドウ先生の姿に確信を抱きつつ、ナズナに命令を下した俺は人生で初めてとなる大規模ダンジョンへと挑むのだった。