軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第390話:救援の途 その1

――キッカの国。

それは、アーノルド大陸から東へと海を渡った先にある島国である。

前世の創作物で見かけた、ジパング的な国だと思えば大きな間違いはないだろう。極東にある島国的なアレである。

『花コン』ではランドウ先生の出身地として名前が出てくるが、具体的な国の情報等はランドウ先生の口から語られる内容でしか触れられず、直接訪れたり、ダンジョンに挑んだりはできなかった。

国の形は国名にもなったキッカ――菊の花のようになっており、中央に丸い陸地があり、その周囲にいくつもの群島が集まる形になっている。服装は和服、武器は刀や槍や弓、貴族や武士が存在し、中央の島にはミカドなる一族が存在しているそうだ。

そんなキッカの国から届いた、まさかの救援要請。正確に言えば現地にいたオレア教徒経由で情報が入ってきただけだが、ダンジョンの規模が規模だけに放置もできない。

なにせ、詳しい情報は不明だが中規模以上で大規模ダンジョンにも迫ろうかという広さがあるというではないか。

これの何がまずいかといえば、仮に大規模ダンジョンと同様の大きさ、性質を持つのだとすれば、『魔王』の発生場所になり得る可能性があるという点だ。

パエオニア王国から遠く離れた島国に『魔王』が発生するのなら、こちらに被害が出にくくて良い?

それはたしかにそうだろう。 発(・) 生(・) 直(・) 後(・) に(・) もたらされる被害は確実に減る。あるいは被害がキッカの国だけで収まる可能性もある。島国ということは周囲を海に囲まれているということだ。発生したモンスターが海を渡る手段を持たないのなら、キッカの国が滅ぶだけで済むかもしれない。

だが、モンスターの中には飛行能力を持つものもいるし、島国に発生したダンジョンということは水棲のモンスターが生まれる可能性もある。北の大規模ダンジョンで倒した玄武のように、明らかに泳げそうなタイプのモンスターがいるのだから楽観視はできないだろう。

そうなると、どうなるか?

時間が経てば島国という陸地で大量のモンスターが生み出され、船ではないからこう呼ぶのは不適切だが大船団を組み、アーノルド大陸の ど(・) こ(・) か(・) ら(・) で(・) も(・) 上陸して侵略ができるという、とんでもなく危険な状況が出現してしまう。

ないとは思うし、あってほしくない事態だが、アーノルド大陸全体を包囲され、全周囲から一斉に攻められるという悪夢みたいな攻勢を仕掛けられる危険性すらあった。戦力の分散は本来愚策だが、相手が無尽蔵に出現するモンスターなら話は別である。

そして更に、『魔王』がキッカの国に陣取って動かない、なんてことになれば最悪だ。こちらが攻め込むには海を渡らざるを得ないが、その頃には水棲系モンスターがわんさかと溢れているであろう海を渡るのはほぼ自殺行為だろう。

そうなると少数精鋭での首狩り戦術を仕掛けるしかない。キュラスに強者を乗せて海を渡り、直接『魔王』を叩くのだ。

もっとも、その場合は『魔王』だけでなく『魔王の影』も出てくるだろうし、それに何より大量のモンスターが邪魔をするに違いない。

そんな状況で大量のモンスターの波を掻き分けて進み、『魔王の影』を退け、『魔王』を叩くとなると一体どれほどの奇跡と幸運に恵まれる必要があるのか。

つまり、キッカの国にデカいダンジョンが存在するというのは潜在的な世界の危機というわけだ。

また、単純にダンジョンのせいで人的被害が出て負の感情が大量に溜まる、なんてことが起きたら目も当てられない。

『魔王』の発生が前倒しになれば、その分、人類側が不利になってしまう。現状でも備えは進めてあるが、時間はある方が良いのだ。ただ、その時間も主力となる『花コン』のメインキャラが学園に揃っているタイミングに限るという、微妙なものだが。

そんなわけで、キッカの国に出現した『桜花のダンジョン』は可及的速やかに破壊する必要があるのだ。

「――と、いうわけでだ。ついこの前に西の大規模ダンジョンを破壊したばかりだが、今度はキッカの国で問題が発生した。そのため、その対処に当たりたいと思う」

オリヴィアから話を聞いた翌日。今日は日曜日ということもあり、俺は朝から寮の談話室に透輝をはじめとしたメンバーを集めていた。

集めたメンバーは透輝、ナズナ、メリア、リリィ、モリオンといういつものメンバーである。そこに、今回はランドウ先生が加わっていた。

「あの、ししょー……なんで大師匠がいるんです?」

「うん、良い質問だ透輝。それはな、今回のダンジョンにはランドウ先生も同行するからさ」

おそるおそる、といった様子で尋ねてくる透輝に答える。ランドウ先生は壁際で壁に背中を預け、腕組みをして目を瞑っており、ピリピリとした空気を発しているから余計に気になるのだろう。

「えっ……大師匠が!? ということは……その、そんなにヤバいダンジョンなのか? 強いモンスターが出るとか?」

「現状ではそこまで詳細な情報は届いていない。ただ、中規模以上大規模未満といった規模らしくてな。現地ではそれなりに被害が出ているらしい。続報がないということは破壊もできていないと思われる」

『桜花のダンジョン』と名付けられたデカいダンジョンが発生し、被害が出ている。オリヴィアの元に届いた情報はその程度で、出現するモンスター、現地の具体的な被害、ダンジョンの正確な場所や規模は不明なままだ。

これが仮に『魔王の影』の策略だとしても、今回ばかりは問題ない。なにせやる気というか、 殺(や) る気に満ち溢れたランドウ先生がいるからだ。『魔王の影』の一体や二体、それこそ残り三体全てが襲ってきても互角以上に戦えるだろう。

俺達やランドウ先生を学園から引き離し、オリヴィアを狙う……なんて可能性もゼロではないため、俺達が不在の間は精鋭で固めるようオリヴィアにも言っておいた。

ただ、『花コン』での『桜花のダンジョン』関係のイベントがキッカの国で発生したような形になるが、場所が違えば状況も違う。そもそも『花コン』でなら 男性主人公(とうき) ではなく女性主人公じゃないと発生しないはずなのだ。

つまり、これもまた現実だから起きた事象ということだろう。まさかキッカの国に行き、ダンジョンを破壊することになるなんて考えもしなかった。

もっとも、これまでと違ってキッカの国は 他(・) 国(・) になる。オレア教の影響力もアーノルド大陸ほどではなく、これまでのような無茶はできない面もあるだろう。

一応、キッカの国はパエオニア王国と同盟を結んでおり、有事の際は援軍を出し合う程度には親しい。実際に援軍を出した事例はほとんどないようだが、それでもまったく国交がない国に赴くよりはマシだろう。

それに、両国の同盟にはサンデューク辺境伯家が関わってもいるのだ。

初代のサンデューク辺境伯……当時はサンジョウケなる名前で、この国に仕える際にサンデュークという家名を授けられたと伝わっている。それに、俺やコハク、モモカといったように、サンデューク辺境伯家の人間がキッカの国風の名前をつけられているのもそれらの縁が理由だ。

そして当然だが、今回は俺達だけでなく、パエオニア王国からも竜騎士に乗って文官等が外交官として現地に向かう。というか、既に向かっている。

同盟国に対してそういう 姿勢(ポーズ) を見せるという面もあるが、外交官を通して国としての助けが必要ならその用意があると伝えるためだ。

そういう意味でいえば俺達は先遣隊みたいなものだろう。戦力的に考えると本体というか本命というか、俺達以上の戦力を派遣しようと思ったら数で補う必要があるが。

「えーっと……悪い、わからないことがあるから一個質問してもいいか?」

透輝が挙手をして疑問を示す。それを聞いた俺が頷いて先を促すと、透輝は首を傾げながら言う。

「ダンジョンを破壊しに行くのは別に構わないんだけど、今回は他所の国になるだろ? 俺達が首を突っ込んでも大丈夫なのか? ほら、国際問題になるんじゃあ……」

「良い質問だな、透輝」

俺が今しがた考えていたことを疑問としてぶつけられ、丁度良いからと説明を行うことにする。

「まず、パエオニア王国とキッカの国は同盟関係にある。この点はいいな?」

「ああ、それは知ってる。学園のテストでも出たしな」

「そうだ。で、この同盟なんだが、ざっくりと説明すれば『有事の際に戦力を出し合おう。助け合おう』っていう軍事同盟になるわけだ」

そう言いつつ、俺は用意しておいた簡易的な地図に目を落とす。そこに描かれているのは世界地図で、本当に簡易的な、おおまかな地形と国名がわかるだけのものだ。今回必要になると思い、貴族教育で習った記憶をもとに即興で書き上げたのである。

「本来は国同士の戦争が起きたら協力し合おう、なんて同盟なんだ。パエオニア王国とキッカの国の間にはいくつか国があるからな。どちらかが攻められたらその背後を突ける」

俺は世界地図を指でなぞりつつ、説明を続けていく。

「そういう同盟だが、普段からそれなりに国交がある友好国でもある。だから助けに行く。今回の件を 有(・) 事(・) と捉え、同盟国として救援の手を差し伸べようっていうわけだ」

「ふーん……そういうものなのか……」

「ああ。それに国教というわけじゃないが、現地ではオレア教も多少は根を張っているからな。今回の情報がオレア教経由できたように、 そ(・) ち(・) ら(・) か(・) ら(・) の(・) 要(・) 請(・) でもある」

今頃現地では情報収集が進められているだろう。ただ、現地の被害もよくわかっていないし、ダンジョン内の情報は望み薄かもしれない。

「なるほどなぁ……とりあえず現地に行かないことにはどうしようもないのか。今回はこのメンバーで行くのか?」

「そうなる。キュラスがもう少し成長していればアレクも連れて行くんだが……」

本当はアレクも連れて行きたかったが、キュラスの体がまだまだ育ち切っておらず、七人乗せて飛ぶのが限界っぽいのだ。それに、今回は海を渡る必要がある。人数オーバーで途中で落下して全滅しました、なんてことになったら目も当てられない。

「……大師匠がいるからか、ものすごく攻撃的なパーティに思えるな」

「まあ……」

パーティのバランスから考えると、攻撃に偏っているのは間違いない。前衛として俺、ランドウ先生、ナズナ、リリィ、中衛がなんでもできる透輝、あとは後衛がモリオンとメリアのふたりだけという前衛が多めのパーティだ。

透輝もどちらかというと前衛寄りだし、前衛と後衛の割合が五対二になってしまう。俺とランドウ先生でツートップ、透輝を中衛、ナズナとリリィは後衛の護衛、みたいな形で考えるとそれなりにバランスも良いが。

「とにかく、情報は以上だ。出発は二時間後とする。それまでに準備を整えて集合してくれ」

そう言いつつ、ランドウ先生を窺う俺。何か言うことがあれば、と思ったが、腕組みをしたまま沈黙している。

「……それじゃあ、解散」

終始無言だったランドウ先生の胸中にどんな感情が渦巻いているのか、それはわからない。そのため俺が音頭を取り、解散を宣言してこの場はお開きとしたのだった。