軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第351話:次の目標

三年生が卒業し、新年度を迎えるまでの春休みとは呼べない微妙な時期。

ここ最近ではなかった呼び出しを受けた俺は、深夜になると図書館を訪れていた。深夜になったことに特に意味はない。これまでそうだったのと、自主訓練に没頭しているとどうしても時間が遅くなってしまうだけだ。

(間違いなく健康には良くないだろうけどな……)

そんなことを思いながら人気のない図書館の中を歩いていく。

草木も眠る丑三つ時、なんてほど深夜ではないが、他の生徒達は眠りについているであろう時間帯。そんな時間にもかかわらず、図書館の一番奥まで足を運ぶと当然のようにオリヴィアが待っていた。

「呼び出して悪いわね。丁度良いタイミングだったわ……」

そう告げるオリヴィアだったが、灯りとして置かれたランプに照らされた顔は夜の暗さを差し引いても真っ白だった。視線を巡らせてみると、休憩用の机にはいくつも書類の山が築かれている。俺を待っている間、仕事を片づけていたのだろう。

「俺も人のことは言えませんが、きちんと休むべきでは?」

「『魔王』が発生するまで、あと一年程度なのに?」

休むよう伝えると、こちらが納得するしかない理由が返ってくる。以前ほどではないが、不安を抱えて深夜まで剣を振っている俺には反論できない理由だった。

「だからこそ、でしょう? 無理をし過ぎて肝心なタイミングで倒れてしまった、なんてことになったらどうするんです?」

それでも自分のことを棚に上げ、一般論として反論を口にすればオリヴィアは口を閉ざしてしまう。うん、自分でもどの口で言っているんだろう、なんて思ったよ。

「……色々と言いたいことがあるけど、今は言わないでおくわ」

「そうしてください。言われたら俺の方が反論できませんから」

オリヴィアほどではないが、無茶をしていると自覚している身である。『魔王』をどうにかできたらしばらくの間、何も考えずゆっくりとしたいわ……なんてことを胸に秘め、毎日肉体的、精神的に追い込んでいるのが俺という人間だ。本当、オリヴィアのことは言えないわ。

「それで? 今日はどのような用件ですか?」

軽く言葉を交わしたら本題へと移る。オリヴィアを見ていたら早めに切り上げた方が良いと思えたのだ。そっちの方が俺も早めに休めるってものである。

「用件は二つよ。まず一つは、先日の王都での兵士を鍛えた件……アレ、効果があったみたいね」

「と、仰いますと…… 引(・) っ(・) か(・) か(・) り(・) ま(・) し(・) た(・) か?」

「ええ。王都の北門から侵入しようとしたアスターに気付けたそうよ。そのまま気付いてないフリをして王都に誘い込んだものの、途中で勘付かれて飛んで逃げられたみたいだけどね……こちらが見抜く手段を見つけたと判断するでしょうし、しばらくは王都にも来ないでしょう」

その話を聞き、俺は安堵の息を漏らす。三ヶ月近い時間をかけて兵士にスギイシ流を仕込んだが、見事、変化したアスターの違和感に気付けたらしい。

(スギイシ流の技を教えるのは有効だったか……いや、本当に良かった。これで無駄になったら心が折れるところだったわ……)

ランドウ先生の見立てもあったから間違いはないと思っていたが、きちんと効果があってなんとも喜ばしい。だが、ネフライト男爵を呼んで対処しようとした段階で気付かれ、逃げられてしまったようだ。

(覚えが良かった兵士は陛下や殿下についているはずだし、城門は 覚(・) え(・) が(・) 悪(・) い(・) 兵士が受け持っていたはず……それでも気付けるってことは、油断さえしなければ見落とすことはない……か?)

俺の感覚としては、アスターは魔力で固めた人形に本体が入り込んで操作をしているような感じである。普通の人間も魔力を持っているから間違えやすいが、普通の人間の魔力は体の表面に漂い、アスターの場合は体の中までみっちりと魔力が詰まっているように感じられた。

その上で、糸で操られた人形のように不自然に魔力が動くのだ。スギイシ流の剣士はそれを違和感として掴むわけだが、『一の払い』を覚えた程度の 浅(・) い(・) 習(・) 熟(・) でも見抜くことができるというのは大きな収穫である。

(それにしても、アスターはなんでまた王都に侵入しようとしてたんだ? 何か気になることでもあったのか?)

時間を置いたとはいえ、またアスターが現れたことに首を傾げる。学園に侵入してこなかったということは、王都で何か探りたいことがあったと考えるべきだが――。

(学園にはランドウ先生がいるからな……消去法で王都に行った可能性も……)

いくら『魔王の影』とはいえ、自分を確実に殺しそうな相手がいる場所に侵入する度胸はなかった可能性がある。そのため本当の狙いは別にあったものの、次善策として王都に侵入した可能性は否定できなかった。まあ、アスターに問いただせない以上、全ては推測でしかないが。

「それで、二つ目の用件はなんでしょうか? 西の大規模ダンジョンについてですか?」

「正解よ。そろそろ攻略の目途を立てておきたいと思ってね」

アタリを付けて話せば、正解だと返ってくる。『魔王』の発生まで残り一年程度になったため、そろそろ西の大規模ダンジョンの破壊を進めておきたいようだ。

西の大規模ダンジョン――『花コン』では『 禍(まが) つ白帝のダンジョン』と呼ばれる場所だ。

その特徴は北の大規模ダンジョンで倒したゾンビ化した玄武と同様に四神の内の一体、白帝……西を司る白虎をボスモンスターとし、なおかつ 基(・) 本(・) 的(・) に(・) 獣系モンスターが出現するダンジョンだということだろう。

既に北の大規模ダンジョンを破壊しているため、 通(・) 常(・) の大規模ダンジョンと違って難易度が上昇していることはオレア教経由で確認が取れている。ゲーム基準でいえば五レベル分の上昇になるが、俺としては雑魚モンスターが確率で即死する闇属性魔法を使ってこないだけ気が楽でもあった。

(というか、死霊系モンスターしか出なかった北の大規模ダンジョンが酷かっただけだよな……最初に潰して正解だったわ)

他の大規模ダンジョンなら攻略するのが楽、とまでは言わないが、北の大規模ダンジョンと比べればだいぶ易しいだろう。多少雑魚モンスターが強くなったとしても闇属性魔法の脅威と比べればマシだ。

「以前伝えたけど、オレア教で調査した結果、北の大規模ダンジョンを破壊する前よりもモンスターが強くなっているわ。それ込みで尋ねるけど、勝算はあるのかしら?」

「即死魔法が飛んでこないのなら十分に、とだけ答えておきます。とりあえずどの程度の強さなのか確認したいので、北の大規模ダンジョンを破壊したメンバーで一度挑んでみたいと考えていますが……」

以前のように俺、透輝、ナズナ、モリオン、メリア、リリィの六人パーティだ。即死魔法が飛んでこないとしても前衛、後衛のバランスがそれなりに良いため、偵察するにはうってつけだろう。

(そのままボスモンスターに挑めるメンバーでもあるが……まあ、時間はまだそれなりにある。ゆっくり、確実に進めていくか)

連携訓練もしているし、北の大規模ダンジョンを破壊しただけあって全員、息が合っていると言える。ゾンビ化した玄武と戦った時のように、何かあった時は二手に別れて行動することも可能だ。

それに、北の大規模ダンジョンに挑んだ時と比べ、各自が成長しているというのも大きい。透輝はいつものこととして、ナズナは『掌握』に至ったし、モリオンは未完成ながら最上級魔法の発現に指をかけている。

メリアとリリィに関してはそこまで見れていないが、元々他のメンバーよりも強かった。それにリリィは『相埋模個』の力だけでお釣りがくるほどである。

鼻が利く獣系モンスター相手でも問題なく通じるかは試してみないとわからないが、多分、大丈夫だろう。北の大規模ダンジョンの時のように、短時間でも安心して休めるというのは非常に心強いのだ。

(他のメンバーと比べると、一番成長していないのは俺になる……か)

北の大規模ダンジョンに挑んだ時と比べれば成長し、強くなったと自負しているが、他のメンバーのように目を瞠るほどの成長はできていないだろう。

俺の場合、『召喚器』の『掌握』以前で足踏みし続けているというのも大きい。いつになったら名前を教えてくれるんだろうな……なんて、期待し続けて既に何年になるだろうか。

中身のページは順調に埋まっているし、何やら輝くページも増えつつあるが、それが強さに直結しているかと言われれば微妙なところだ。ページが増えた分、身体能力も増しているがその強化幅はあまり大きくないし。

(でも、西の大規模ダンジョンを破壊するぐらいまでは俺でもついていける……よな?)

不安はあるが、大丈夫だと自分に言い聞かせる。すると、そんな俺の様子をどう思ったのか、オリヴィアが少しばかり眉を寄せながら口を開く。

「前回同様、こちらで用意できる物があるならいくらでも用意するわ。ただ、『魔王の影』が手を出してきてもおかしくないし、油断だけはしないこと。いいわね?」

「もちろんです。アスターが出てきたら仕留めるようランドウ先生にも言われていますし、油断はしませんよ」

よりにもよってオウカ姫関連でランドウ先生を挑発したしな。生きていたら厄介なのは俺も同意するところだし、次に会うことがあれば全力で仕留めるしかないだろう。

(俺としては、バリスシア相手にリベンジといきたい気持ちもあるが……ま、そこは大規模ダンジョンの破壊を優先しないとな)

『魔王の影』にとって、大規模ダンジョンは重要ではあるが必須というわけでもない。

それでも『魔王の影』がちょっかいを出してくることを警戒し、何かあれば対処できるようにしようと、そう思ったのだった。