軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第329話:二年目の文化祭 その4

色々と疲れるやり取りが終われば、それぞれに別れて文化祭を楽しむこととなる。

ローラさんやアイヴィさんは名残惜しそうにしていたが、今回は自分達の青春時代の懐古も目的の一つだ。そのためか、多少渋ったぐらいで俺達を解放してくれた。

「うちの家族がすまないな、カリン……迷惑を掛けた」

カリンと二人きりになり、軽く休憩しながら俺は謝罪する。レオンさん達が来ているかな、とは思ったが、あそこまでの騒動になるとは思わなかったのだ。

「いえ……ミナト様の婚約者候補として受け入れていただけたみたいで、嬉しかったです」

俺の謝罪に対し、カリンははにかみながらそう告げる。ローラさんとアイヴィさんは大はしゃぎだったからな……まあ、カリンだけでなくカトレア先輩にも矛先が向いていたし、義理の親子仲が良いものになりそうなら幸いってことで。

(カリン側は……見当たらんな。まあ、以前顔を合わせているから、構わないといえば構わないんだが……)

カリン側――キドニア侯爵やその御夫人、カリンの姉であるランジュさんなどが来てないかとさっきから探しているが、どうにも見当たらない。ここまで探して見当たらないってことは、最初から来ていないのだろう。

そう判断した俺は周囲の確認を打ち切る。ただし、アスターの件もあるため頭の片隅は常に臨戦態勢だ。何かあっても即座に対応できるようにしつつ、カリンをエスコートしていく。

最初に向かったのは自分達の教室だ。クラスメート達の作品が展示されているため話題にも困らないし、最初に見て回るには無難だろう。

――そう、思っていたんだが。

なんか兵士がいて物々しいな、とか、野次馬が多いな、なんて思いながら教室に向かったら、そこには国王陛下がいた。その傍にはネフライト男爵の姿もあり、国王陛下の護衛を務めているようだ。

「む? ミナトか。久しいな……と言うほどではないか」

「先月の叙勲式以来でございますね、陛下」

向こうから声をかけられたため、教室に入って畏まった返事をする。人目もあるし、普段みたいに私的な場での対応をするわけにはいかないのだ。

それでも国王陛下から声をかけられたとあっては無視できない。そう判断した俺だったが、廊下の方からビシバシと視線が飛んでくる。通りがかった野次馬に何事かと思われているのだろう。

「あまり畏まるな、とは言えんか。迷惑をかけるな」

そんな俺の様子に気付いているのか、それとも視線を向けられることに慣れていて気付けないのか、国王陛下は苦笑を浮かべ、気さくな様子で話しかけてくる。

初めて会った時は三十歳を僅かに超える程度だった国王陛下も、今や三十代後半だ。相変わらず王様らしい豪奢な衣服を身に着けているが、歳を取った割に外見の変化がほとんど感じられない。

隣に立つネフライト男爵も初めて会った時同様、濃い緑色の髪を短く刈り揃え、精悍な顔立ちをこちらに向けてきている。

初めて会った時はもっと力量差を感じたものだが、今は多少なり 差(・) が(・) 縮(・) ま(・) っ(・) た(・) ように感じられた。俺は成長期で、ネフライト男爵はランドウ先生と同様に肉体的なピークが過ぎているからだろうか。

今日のところは護衛に徹しているらしく、こちらに目礼を送ってくるだけで話しかけてはこない。そのため俺も目礼を返すに留める。

「しかし、こうして見ると学生時代を思い出すな。余がこの学園に通っていた頃もこうして文化祭で展示をしたものだ」

どうやら国王陛下は話し相手が欲しかったらしい。この場を辞するかどうか迷っていたが、構わず話しかけてくる。

「変わらずに伝統として存在するというのも良いものですね、陛下」

「まったくだ。ミナトの絵は……うむ、なんというか、 味(・) の(・) あ(・) る(・) 絵(・) だな」

「陛下、そこは真っすぐに下手だと仰ってください」

気を遣われる方がきついです。一応 見(・) ら(・) れ(・) る(・) 絵(・) にはなっているはずだが、国王陛下みたいに審美眼が磨かれた人物から見ると下手の一言で済むだろう。

今年俺が描いたのは、一見すると木々が生えた森の絵である。しかし絵のタイトルは『大規模ダンジョン』だ。そう、せっかく北の大規模ダンジョンに行ったんだからと絵に描いてみたのだ。

結果はなんというか、ただの森だなって……いっそのことモンスターを付け足して描こうかと思ったけど、蛇足になりそうだったから辞めた。今からでもタイトルを『森』に変えてしまおうか。

「そちらのお嬢さんは……ミナトと一緒にいるということは、キドニア侯爵の次女か。君の絵はどれかね?」

「か、カリンと申します。わ、私の絵はこちらに……」

国王陛下に話を振られたカリンが緊張しながら答える。さすがに国王陛下が相手だとそうもなるか。

「ほう……これは中々……」

今年カリンが描いた絵は、去年と同じく名前の由来となったカリンの花である。ただ、去年と比べて更に上達しているように見えた。他にも向日葵や赤いバラといった花の絵が描かれており、見応えがある。

(カリンの絵と比べて、俺の絵の拙さよ……なんでこんなに差が出るんだろうな?)

技術的には大差ないと思うんだが、出来上がった絵を見比べると雲泥の差がある。なんというか、カリンの絵には訴えかけてくるものがあるのだ。俺の絵は逆に、何も感じない。前世で見たような大量生産されたチラシの写真みたいだ。綺麗だけどそれだけだよねっていう。

(ま、まあ? 別に画家を目指しているわけでもないし? 貴族教育の一環として習っているだけだし?)

そんな言い訳とも負け惜しみともつかないことを内心で呟く俺。悔しくなんてない、ないんだ。本当だ。

「うーむ……絵もそうだが……これは……」

国王陛下が俺の方をチラリと見てくる。そしてそんな国法陛下の仕草を見て、何故かカリンが顔を真っ赤にして俯いてしまう。はて、なんだろうか?

(絵に何かある? 上手い絵だ……俺の絵とは比べ物にならんな。『花コン』だとそういう描写はなかったはずだけど、カリンって絵画の才能もあったのか……いやでも技術ならそこまで劣っていないはず……)

むむむ、と対抗心を燃やす俺。この 非才(ミナト) の身だろうと、曲がりなりにも幼少の頃から培ってきた技術で劣るのは悔し……いや、悔しくないよ?

(技術では大差ないはず……それ以外の部分がなぁ……なんというかこう、感情と一緒に描き込まれている感じがするんだよな)

それだというのに、俺の絵と来たら……大規模ダンジョンで感じた威圧感の欠片も感じない、ただの森だ。訴えかけてくるものがない。ペラッペラの絵だ。やっぱりモンスターを描き加えるべきだったか……絵の真ん中にリッチかデュラハンの絵でもドーンと。駄目か。

(うーん……気のせいか、廊下からも呆れたような視線が飛んできている気がする……『アイツ、あの絵で芸術のつもりか?』みたいな……いや、さすがにそれはないか。被害妄想だな……)

国王陛下が一緒にいるからか、文化祭ということで大勢の客がいるからか、普段以上に視線が飛んでくる。やばい、こんな絵を展示していることが今更ながらに恥ずかしくなってきた。

(ら、来年はもう少し頑張ろう……そうしよう……)

美術の授業を受ける際はもう少し真面目にやろう、なんて思う俺だった。

衆人環視の中、国王陛下と共に自分達の作品を観賞するという罰ゲームみたいな時間を乗り越え。俺はカリンと連れ立って食堂のテラスへと足を運んでいた。ある意味スタート地点に戻ってきたようなものだが、精神的に疲れたのだ。

「ミナト様はすごいですね……わたし、国王陛下と直に対面したの初めてで……すごく緊張しました。変なこと言ってなかったですか?」

「きちんと対応できていたとも。あと、俺は何回も会っているからね。慣れているって部分が大きいよ」

カリンとお茶を飲みながらそんな風に答える。

一応、血縁だけで見れば俺にとっては 従兄弟伯父(いとこおじ) でもあるし、これまでに王城で何度も会ってきたっていうのもある。

口に出したら無礼討ちもあり得るから言わないけど、私的な場面では割と愉快なおっちゃんって面もあった。そのため俺としては公的な場で会う時はさすがに大変だが、私的な場で会う分には気楽な人である。

俺は国王陛下にとって学園の後輩であるレオンさんの息子という立場でもあるし、これまでに色々と功績も挙げてきた。そのため割と可愛がられているのだろう。

逆に、普段関わりがないカリンみたいな立場からすると、気楽に接するのは難しいに違いない。直接顔を合わせ、直答を許されるだけでも本来は名誉なことなのだ。

俺はカリンと話をしながら、それとなく周囲へ視線を向けた。普段よりも人が多いこともあり、ひっきりなしに人が行き交っている。

在学生、卒業生、王都の民、来賓の貴族と、様々な立場の者が興味深そうな顔をしながら歩いていく。前世みたいに携帯電話があるわけではないし、はぐれたら再会するのも一苦労だろう。迷子の呼び出しセンターもないのだ。

ざわざわと普段の学園とは比べ物にならないほど騒がしく、遠くでは叫ぶような、歓声のような声も聞こえるほどである。

(……ん? なんだこの気配……なんか、変な気配が……)

そうやって人の流れを観察していると、不意に妙な気配を感じ取った。

不審な人物がいたわけではない。アレクのように奇抜な格好をしている者がいたわけでもない。ただ、人混みの中に二足歩行の犬が紛れ込んでいたような、 本(・) 来(・) は(・) お(・) か(・) し(・) い(・) はずなのにおかしいと思えないような、妙な気持ち悪さがあった。

「何やら騒がしいですね……何事でしょうか?」

俺が眉を寄せていると、カリンが怪訝そうな声を漏らす。その声に釣られて俺が視線を向けると、何やらバタバタと駆け回る兵士の姿があった。

「国王陛下がいらっしゃるというのにあの慌てよう……何かあったか?」

事件か何かか、と俺が呟くと、視線の先にいた兵士と目が合った。そして驚いた様子でこちらへ駆けてきたかと思うと、学園内にもかかわらず剣を抜く。

「動くな! 貴様を陛下の暗殺未遂で拘束する!」

そして、剣を突きつけながらそんなことを叫ぶのだった。