軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第311話:二年目の武闘祭 その6

「――そこまで! 勝者! トウキ=テンカワ君!」

「…………」

その宣言を、俺は無言で聞いていた。観客席に腰を下ろし、ただじっと、聞いていた。

モリオンはたしかに限界を超えていた。不完全だったとはいえ『花コン』だと使えなかった『木竜ノ嵐霹』を形にし、不可能だと思っていた壁を壊していた。

そして、透輝はそんなモリオンを上回った。まさにこの世界の、『花コン』の世界における主人公だと言わんばかりに覚醒してみせたのだ。

「…………」

俺は無言で口元に手を当てる。土壇場での透輝のこの成長具合い……これを才能で片付けて良いものかと思案する。

(主人公だから、天才だから強くなるのは当然。そう考えるのは透輝に失礼だと思うが……やっぱり努力の量に対する成長の仕方がおかしい……)

ある意味当然のことではあるが、何事も玄人より素人の方が成長が早いものだ。それこそ『花コン』のようなゲームで考えると簡単だが、レベル一のキャラクターが百の経験値を得るのとレベル五十のキャラクターが百の経験値を得るのとでは、成長の仕方が違う。

レベル一のキャラクターならいくつかレベルが上がるだろう。だが、レベル五十のキャラクターにとってはたった一のレベルも上がらない、端数のような経験値に過ぎないこともある。

あるいは、素人の頃の成長速度のままで成長し続けるからこその天才なのかもしれないが。

(透輝が成長するのは良いことだが、まさかモリオンが負けるとはな)

実際には魔法が破られただけで、戦闘で負けたわけではない。実戦で戦うのならモリオンの方が ま(・) だ(・) 有利だろう。現段階でも十中八九、モリオンが勝つと思う。

今しがたの試合の序盤で見せたように、下級や中級魔法だろうと上手く戦法を組み立てれば透輝を完封することも可能だからだ。

だが、不完全とはいえ最上級魔法を真っ向から打ち破ることで透輝が勝利した。

俺が以前打ち破った 本(・) 物(・) の(・) 『木竜ノ嵐霹』と比べて不完全な分、威力は低い。精々上級魔法の三割から四割増しぐらいの威力だろうか。本物なら二倍近い威力を叩き出す。

それでもモリオンが渾身の力を振り絞っただけあって、今しがたの魔法には最上級魔法と名乗れる迫力があった。

――そして、それを透輝が斬った。

「…………」

俺が沈黙し、あれやこれやと思考している間にも試合が進んでいく。残ったのは各部門の決勝戦で、試合の度に観客が大きな声援を上げるのが聞こえてくる。

(……そろそろ特別試合の準備をしないと)

透輝とカトレア先輩の試合が行われれば、少しの休憩を挟んで特別試合が行われる。そのため準備をするべく立ち上がり、控室の方へと足を向けた。

決勝戦は見ない。いや、見る必要がない。モリオンの最上級魔法を打ち破ってみせた透輝を見れば、カトレア先輩に勝ち目がないからだ。

今の透輝に勝つには剣なり魔法なりで透輝を上回る必要がある。しかし透輝は上級魔法を問題なく斬れるだけの技量を身に着けたし、魔法も使おうと思えば光属性魔法を上級まで使えるのだ。

カトレア先輩の総合力はかなり高い。だが、剣と魔法の両方が使えても特化しているわけではない。並の相手ならそれで構わないし、同じ『花コン』のメインキャラでもコハクのように似た傾向の能力の持ち主なら倒せる。だが、今となっては 主人公(とうき) を倒すには――。

「まさか一番難易度が高い、条件不問戦で決勝まで来るなんて……それに、あのモリオン様を倒すなんて思いませんでした。あの方は幼少の頃から神童と謳われた魔法の天才なのですよ?」

「へへっ……もう一度同じことやれって言われたらできる自信がないけど、なんとか勝ったよ。それに、モリオンが真っ向勝負を挑んでくれなきゃどうなってたか……あとはカトレア先輩に勝てば優勝だな」

控室に向かう途中、廊下の先からそんな声が聞こえてきた。それが透輝とアイリスの会話だと察した俺は瞬時に気配を消すと、壁に背を預けて様子をうかがう。

「知っての通り、カトレア先輩は凄腕の魔法剣士です。勝てば優勝とは言いますが、勝てる見込みはあるのですか?」

「んー……戦う前にこういうことを言うのってフラグになるから怖いんだけどさ。今日の俺、調子が良いんだよな。だから多分、 カ(・) ト(・) レ(・) ア(・) 先(・) 輩(・) に(・) は(・) 勝てるよ」

「カトレア先輩には?」

アイリスの怪訝そうな声が聞こえてくる。カトレア先輩に勝てるというのも驚きながら、その言葉に続くものが何なのか気になったのだろう。

「カトレア先輩に勝ったらミナトとの特別試合だろ? 先輩に勝つ自信はある。でも、ミナトに勝てる自信があるかというと……うん、ぶっちゃけるとないな」

俺に勝つ自信がない。そう朗らかに言い放つ透輝だが、 そ(・) れ(・) だ(・) け(・) とは思えない空気があった。

「でもさ、あのミナトとこんな大舞台で戦うことができる……戦えるんだ。勝ち負けは別として、全力で挑みたいって思ってるよ」

「そう……ですよね。さすがにミナト様が相手では」

「――そして勝つ」

アイリスの言葉を遮るようにして、透輝が言う。拳を握り締めたのか、ぎゅっと、小さく音が鳴るのが聞こえてくる。

「見ててくれよ、アイリス。君が召喚した奴は強いんだって、そんな俺を召喚した君はすごいんだって、絶対に証明してみせるから」

「透輝さん……」

俺に勝つという、絶対の自信があるわけではない。それでも勝つんだと、勝ってみせるんだと、透輝はアイリスに誓うように言う。

そんな透輝の言葉に感じ入るものがあったのだろう。アイリスの声が震え、熱と湿り気を帯びたように感じられた。

「…………」

透輝の言葉を聞いた俺は無言で小さく微笑むと、足音と気配を消したままでその場を後にする。 あ(・) ん(・) な(・) 宣(・) 言(・) を聞かされたからには手加減は無用だ。むしろ手加減をすれば失礼になるだろう。

(ああ、いいよ透輝……全力で戦おう)

そうすれば、君はもっと輝いてくれるに違いない。

そう内心で呟いた俺は、口の端が吊り上がるのを止めることができなかった。

「――そこまで! 勝者! トウキ=テンカワ君!」

学年不問条件不問部門の決勝戦。

透輝とカトレア先輩の試合は、事前に予想した通りの結末に終わった。

剣術と魔法の両方でカトレア先輩を上回りつつある透輝が終始優勢に試合を運び、危なげなく勝利したのである。

これによって透輝の優勝が決まり、俺との特別試合が決定となった。

透輝は休憩と治療を兼ねてポーションを飲みに下がり、俺は一足先に特別試合の舞台へと上がる。すると観客席からざわざわと、期待と喧騒が混じった声が聞こえ始めた。

だが、それに構わず俺は腕を組んで目を閉じる。静かに深呼吸を重ねて心身を落ち着かせ、これから始まる試合のことを想う。

心臓が大きく高鳴っているが、緊張ではなく期待と興奮からだ。心地良い緊張感と共にドクドクと心臓が鳴り、全身に血液が流れていくのを感じ取る。

頭の天辺から足の指先まで血が通い、それに合わせて 意(・) 識(・) も(・) 通(・) る(・) 。今なら体の全てをミリ単位で制御し、意のままに操ることができるだろう。

透輝は今日、壁を乗り越えてみせた。

そんな透輝の姿を見た俺は、絶好調である。

「……きたか」

近付いてきた気配にそう呟き、目を開ける。するとそこには緊張した面持ちで近付いてくる透輝の姿があった。

「疲労は大丈夫か? 魔力の消耗は?」

「しっかりとポーションを飲んできたし、どっちとも大丈夫だよ……ただ、まあ、なんていうか……正直なところ逃げたいです、はい……」

「なんでだ?」

こんなに心が躍る戦いは早々ないんだぞ、なんて思いながら尋ねる。すると透輝は頬を引きつらせて苦笑した。

「いやだって、ミナトがやる気満々じゃんか……なんでそんなになってんの? やる気満々を超えてパンパンじゃん」

破裂しそう、なんて呟く透輝だが、たしかに今の俺はやる気で溢れている。

強者と向き合っているというのもあるが、あの透輝が、俺が一から教えた弟子が強敵を打ち破って目の前に立っているのだ。これで奮わない師匠はいないだろう。

(師匠を超えるのが弟子にとって最高の孝行、か……ああ、負けたくないが、超えてくれとも願ってしまうな)

この気持ち、この興奮になんと名前を付ければ良いのか。喜び、期待、その他諸々の感情が混ざり合い、俺の中で熱意となって体を動かそうとしている。

「なんでこんなにやる気なのか、か……逆に聞くが透輝、なんでだと思う?」

俺は逸る気持ちを抑えながら尋ねる。是非ともわかってほしい。今の俺のこの気持ちを。

「えっ? えー……それがわからないから聞いてるんだけど……」

だが、透輝は不思議そうな顔をするだけだ。首を傾げてなんで? と呟いている。

「これからの戦いが楽しみだからさ。自分で言うのもなんだが、この学園で俺と 勝(・) 負(・) に(・) な(・) る(・) 生徒はほとんどいない。かといってランドウ先生が相手だと俺の方が弱い。わかるか? これからの戦いは、俺にとって貴重で大切なものなんだよ」

強くなったことが原因で、満足のいく戦いができなくなった。それはそれで強くなった証なんだろうけど、今よりももっと強くなるために同格や格上の相手と戦う機会が減ったということでもある。

透輝はまだ、同格とも言えない。だが徐々に、今日の戦いの中でも確実に、俺との距離を詰めてきているのだ。

「師匠……そんなことを言われたら、俺が強くなったって勘違いしちまうよ」

透輝は困ったように言う。自惚れないよう、自らを戒めるように。

「胸を張れ、透輝。お前は強くなった」

だが、俺は首を横に振る。初めて剣を振り始めた時はあんなに弱かったのに、今では一人前の剣士になったと俺が認める。他でもない、師匠である俺が認めるのだ。

俺は腰に差した剣に手を伸ばし、柄を握ってゆっくりと抜いていく。

「だが、強くなったといってもまだまだ先がある……今日、俺は お(・) 前(・) の(・) 壁(・) に(・) な(・) り(・) に(・) き(・) た(・) 。今はまだ、負けてやれん」

いくら成長したといっても、まだ負けてやれない。俺に負けて、その悔しさを糧にして更に強くなってほしい。そんな願いのもと、俺は剣を抜く。

「それではこれより、特別試合を行う! 学年不問条件不問部門の優勝者、トウキ=テンカワ君対! 去年の優勝者にして『王国東部の若き英雄』ミナト=ラレーテ=サンデューク君! 両者、構えて――試合、開始ぃっ!」

俺と透輝の準備が整ったと判断した審判がそう宣言し、特別試合が始まったのだった。