軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第294話:『朽ちた玄帝のダンジョン』 その5

――『朽ちた玄帝のダンジョン』に挑み、五日日。

夜が明けて見上げた早朝の朝は眩しいほどに晴れ渡っており、ダンジョン特有の威圧感がなければ清々しさすら覚えるであろう快晴だった。

すなわち、天気は良好で問題なし。それならば俺以外のメンバーがどうかといえば、こちらも問題がなさそうだった。

「各自、嘘偽りなく報告を頼む」

「さすがに万全とはいきませんが、ボスモンスターに挑めるだけの体力、気力は十分に残っています」

「ナズナ殿と同じく。それに加えて魔力もまだまだ十分残っています」

ナズナとモリオンが真っ先に答えるが、二人とも体調は問題ないらしい。

「ダンジョンに挑んで五日目、と考えるとかなり余裕があります」

「ん……元気」

リリィもメリアも先の二人に続き、己の万全さをアピールしてくる。メリアは力こぶを作るように両腕を曲げ、元気アピールをしているため本当に元気なのだろう。

「透輝は?」

「少し眠いけど、この程度ならすぐに目が覚めるさ。体調はバッチリだぜ、ししょー」

「そう、か……」

俺の体調も悪くない。リリィが言った通り、ダンジョンに潜って五日目ということを考えればかなり余裕があるだろう。

モリオンに確認してもらったが、玄武も昨日の場所からほとんど移動はしていないようだ。つまり、今から挑むのを拒む理由は一つとしてない。

「――決まりだな。今日、ボスモンスターに挑むぞ」

自分自身に言い聞かせるよう、断言する。

そしてそうと決まれば早速準備を進めていく。各自朝食を取り、部分鎧や手甲や脚甲といった装備の点検をし、持ち込んだマジックポーションで魔力を完全に回復する。ここまでの戦闘でも回復ポーションしか使っていないため、まだまだ予備はある。それぐらい余裕がある。

(ふぅ……さすがに緊張するな……)

ドクンドクン、と心臓が脈打つのを感じ取る。程良い緊張感が全身を満たし、心臓の鼓動に合わせて血液が体中を駆け巡る感じがした。

これまで様々な強敵と戦ってきたが、玄武ほどの巨体は初めてだ。大きさでいえば火竜が一番近いが、強さは火竜よりも更に上、格でいえば『魔王の影』と同等程度と見るべきだろう。

ゲームだとそこまで気にしなかったが、玄武の巨体で踏まれればそれだけで即死しかねない。体格差が大きすぎるため、相手の通常攻撃がこちらにとっての即死攻撃になるだろう。それだけ体格差というのは強いのだ。

体長が五十メートル程度、高さは二十メートルを超えるだろうか。尻尾の蛇を含めた場合、どこまで 伸(・) び(・) る(・) かわからない。それだけの巨体なら重さはどれほどになるか。

(そうなると距離を取っての魔法戦がベストか? 複数に別れて、各方角から一斉に攻撃。距離を詰めてくるようだったら逃げて、他の方角は攻撃を継続……そうやって削り切れば勝てる……か?)

『花コン』の戦闘はターン制だったが、現実でそんなことを気にする者はいない。一方的に火力を投射して倒せるのならそうするべきだろう。

俺は朝食代わりの携行食料を齧りつつ、地面に手頃な大きさの石を並べていく。大き目の石を一つ、小さめの石を三つだ。

こちらにはモリオン、メリアという魔法に長けた者がいる。そこに透輝とリリィという、光属性魔法を使える者を加えれば遠距離からの攻撃は相当な威力を期待できるだろう。

ただ、玄武だけに集中できるのなら戦いやすいのだが、あの巨体が暴れれば近隣のモンスターも寄ってくる可能性が高い。そのため火力役に盾役を同行させ、守らせる必要がある。

「三つに別れて遠距離からボスモンスターを削る。そのまま倒せるならそれで良い。難しいようならそこから距離を詰めて仕留める。モリオン、どう思う?」

「非常に簡素化された上で効果的な作戦かと。問題はどう割り振るか、ですね」

そう言われて俺は三つの石を見る。やはり魔法が斬れる俺と透輝、リリィは別にするべきだろう。しかし透輝とリリィも砲台役に参加するというのなら、誰をどうやって守るべきか。

「夜の見張りの時みたいに、透輝とメリア、俺は……モリオンだな。あとはリリィとナズナか」

リリィとナズナのところが火力が弱いが、その分、俺達が頑張れば良い。一ヶ所に固まって一斉攻撃を加えるという手もあるが――。

(固まったら最上級魔法が飛んでくるだろうな。固まってなくても飛んでくるかもしれないけど、的を散らせば狙いが定まらないかもしれん……三つじゃなくて二つに別れるか?)

そうして前後を挟み、攻撃を加えるのはどうだろうか。的を絞らせないという意味では三つに別れるよりも劣るが、護衛が一人、砲台が二人という組み合わせなら攻撃、防御の両面で上回るだろう。それにモンスターが寄ってきたとしても一人が対処し、残った二人の片方が護衛に回ることができる。

(その場合は……リリィとメリア、モリオンと透輝で組ませて、俺とナズナが護衛に入る形か。どっちを守るかは……)

俺は指揮官として思考する。心情的にはリリィとメリアだが……いや、意思疎通の面で考えても俺がリリィとメリアの方につくべきか。

そう判断した俺は決断を下し、これからの作戦をメンバーに伝えていくのだった。

朝食を終え、準備も終え。近隣周辺にいる雑魚モンスターを狩って回ったらボスモンスターの攻略に取り掛かる。

俺、メリア、リリィ。

透輝、モリオン、ナズナ。

この組み合わせで二手に別れ、玄武を挟み込んで攻撃を加えていくのだ。俺とナズナが逆でも良かったのだが、それをするとメリア達側に 指(・) 揮(・) 官(・) がいなくなる。

向こうはモリオンがいるため指揮を任せることができるが、ナズナに関しては……まあ、指揮官の適性はない、としか言い様がなかった。そのため俺がメリアとリリィの方へと回ったのである。

「モリオン、そっちの指揮は頼んだぞ」

「お任せください、ミナト様。見事ご期待に応えてみせましょう」

モリオンに頼むと、なんとも頼もしい返事がかえってきた。そして二手に別れ、玄武を左右から挟むように布陣する。

一応、作戦の第一段階として最初にリリィの『相埋模個』を試す予定だ。もしも『相埋模個』が通じるのなら玄武の意識を曖昧にし、そのままタコ殴りである。ついでに俺が持ち込んだスグリの『禁忌弱薬』も試してみる予定だ。

そうして俺達もモリオン達も配置につく。仮に『相埋模個』が効けば頭上に魔法を撃って報せるが、それがなければこちらの攻撃を合図としてモリオン達も攻撃を行う手筈となっていた。

ダンジョンの入口からここに来るまで森の中を通ってきたが、玄武がいる場所は木々が薙ぎ倒されて平地になっている。

俺達は平地の端、木々があるギリギリの場所に隠れているが、平地は直径で二百メートル程度の円形。まるで戦いの舞台として作られたのではないか、と錯覚する。玄武がいるからか平地に他のモンスターの姿はない。ただ、ある程度は 掃(・) 除(・) し(・) た(・) とはいえ戦い出したら周囲から寄ってくるだろう。

「これ以上は近付くと気付かれるか……リリィ」

「うん。任せて」

リリィが『相埋模個』を発現し、玄武の姿を鏡面に映し出す。上級モンスターのヴァンパイアでさえ意識を操ることができる『召喚器』だが――。

「……駄目、効果がないよ」

俺とメリアしかいないからか、普段通りの口調で話すリリィ。どこか悔しそうにも聞こえるその声に、俺は意識して笑みを浮かべた。

「なあに、ここに来るまでリリィの『召喚器』で楽をさせてもらったんだ。ボスモンスターぐらいは自力で倒せってことだろうよ。メリア」

「ん」

俺は剣帯に差していた『禁忌弱薬』のフラスコを取り出す。そして玄武に向かって投擲すると、メリアが風の魔法を使って更に遠くまで運んでくれた。

『禁忌弱薬』はそのまま飛び、玄武の巨体に命中して中身をぶちまける。するとそれを攻撃だと認識したのか、玄武が首をもたげてこちらへと視線を向けてきた。

(ハハッ……巨体すぎて『禁忌弱薬』が効いたかどうかもわかんねえな)

思わず内心で笑ってしまった。こちらを見ただけだというのに、その動作だけで風が巻き起こったのだ。

玄武の顔を見るが、『禁忌弱薬』が効いた様子はない。亀の顔だから確証はないが、多分、効いていない。

ゾンビでもあるから回復ポーションを投げつけた方がダメージがありそうだが、貴重な回復のリソースだ。魔法攻撃が可能な状況でポーションを攻撃に使うのはさすがにまずいだろう。

「よし! メリア! リリィ!」

「ん!」

「任せて!」

『相埋模個』も『禁忌弱薬』も試した以上、ここからは真っ当な戦いである。俺が声を上げるとメリアとリリィが答え、メリアは『生新光明』を、リリィは『光弾』を撃って玄武を攻撃する。

こちらの攻撃に合わせ、玄武を挟んだ反対側から透輝の『光活唱』とモリオンの『風食轟雷』が飛んできた。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!』

並のモンスターなら挟まれただけで即死しかねない魔法に、玄武が声を上げる。その声は衝撃を伴うほどに大きく、魔法を撃つメリアとリリィが思わず顔をしかめるほどだ。

(さすがに声は斬れないからな……)

これが魔法なら切り裂くのだが、さすがに大音量の声は斬れない。それでも玄武にダメージを与えられていると確信できるほど、苦痛に満ちた声だった。

「いいぞ、このまま……っ!?」

悲鳴を上げる玄武が、その体を横へと回転させる。それに伴い、尻尾の蛇が周囲一帯を薙ぎ払うようにして振るわれる。

尻尾の蛇は玄武と比べると細く、太さは二メートルもない。だが、俺達からすれば 二(・) メ(・) ー(・) ト(・) ル(・) も(・) あ(・) る(・) のだ。そんな尻尾が木々を薙ぎ倒し、壁のようにこちらへと迫ってくる。

「跳べっ!」

タイミングを見てそう叫び、地面を蹴って迫りくる尻尾を飛び越える。それと同時に斬りつけてみるが、足場がない空中で斬るのは困難なほど硬く、同時に柔軟さを兼ね備えた手応えが返ってきた。

(単純な硬さじゃない……ゴムみたいな弾力……いや、もっと硬いか?)

速度が乗っているというのもあるだろう。斬りつけた際の手応えに眉を寄せつつ地面に着地する。透輝達は……向こうもきちんと回避したようだ。

ただし、隠れていた木々が薙ぎ倒されたことでこちらの姿が露見した。玄武の視線が完全にこちらを捉え、その瞳に敵意が宿る。

(このサイズ差だとさすがに迫力があるな……さて、どうやって攻撃してくるかな?)

俺がそう思った、その瞬間だった。

玄武の体が僅かに沈み込み、巨体が躍動すると共に地面が大きく揺れる。

――玄武が、跳んだ。

「お、おおぉっ!?」

思わず驚きの声を上げる。あの巨体にもかかわらず、玄武は高く跳躍していた。人間と同程度の跳躍力だとしても、その巨体で跳べば数十、いや、百メートル近い跳躍となる。

そんな玄武の跳躍に度肝を抜かれるが、玄武が殺気と共に魔力を集中させていることに気付く。

(『花コン』で『朽ちた玄帝』が使ってくる魔法は――)

ゾンビ化しているが、玄武は前世において北方を守護する水神だ。すなわち、使ってくるのは水属性の魔法で。なおかつ、大規模ダンジョンのボスモンスターとして最上級の魔法を撃ってくる。

「各自、迎撃の準備ぃっ!」

俺は透輝達にも聞こえるように叫ぶ。それと同時に剣に魔力を込め、迎撃の体勢を取る。

水属性最上級魔法――『 水竜(すいりゅう) ノ(の) 波濤(はとう) 』。

上空へと跳び上がった玄武から、最早壁としか表現のしようがない水の塊が発射されたのだった。