作品タイトル不明
第27話:必殺技
『花コン』ではゲームらしい要素として魔法以外に必殺技というものが存在する。
言葉の通り必ず殺す技ではなく、通常攻撃よりも与えるダメージが大きかったり、連続攻撃だったり、特殊な効果を発揮したりする技のことだ。
物理系の必殺技を使うためには HP(ヒットポイント) を消費し、魔法系の必殺技を使うためには MP(マジックポイント) を消費する。中にはHPとMPの両方を使用する必殺技もあるけど、その数は少ない。
『花コン』におけるランドウ先生の必殺技は四つ。その全てが物理攻撃だが、ランドウ先生の主要キャラ中トップの攻撃力を更に増やしたり、確定でクリティカル攻撃にしたり、条件を満たせば即死させたりする。
俺の『召喚器』が成長? した結果、そんな必殺技を伝授してくれるらしい。いや、技としか言ってないから別のことかもしれないけどさ。
「先生、技を教えると仰いましたが具体的にはどんなものなんですか?」
わからないから素直に聞いてみる。既に戦い方や斬り方は教わっているし、初陣で実践もした。そのためゲームで必殺技と呼ばれた技のどれかだと思うものの、それを俺が知っていたらおかしいからランドウ先生の発言を待つ。
「その前にミナト、お前は魔力はあっても魔法が下手だったな。あれは今でも変わらないか?」
その問いかけに俺は頷きを返す。
昔と比べたら魔法の訓練も進み、一応は魔法を使えるようにもなった――が、才能の乏しさから習熟は芳しくない。コハクと比べると何倍もの時間をかけて覚えているような有様である。
「下級の魔法なら少しは使えるようになりましたが、実戦で使えるレベルじゃないですね」
一番得意なのは『火球』だけど、撃つまでに時間がかかる。そのため近付いて斬った方が遥かに速いぐらいで咄嗟に使えるものではない。暴発させて超至近距離で相手諸共自爆するぐらいならすぐにできるんだが。
「そうか……お前に魔法の才能がないのも原因の一つだろうが、俺の戦い方を覚えると魔法が覚えにくくなるのかもしれんな。魔法は使えないものと割り切って戦うのも手だぞ」
ランドウ先生、物理一辺倒ですもんね……って、ちょっと待ってほしい。魔法が覚えにくくなるってどういうこと?
そんな俺の疑問が伝わったのか、先生は腕組みをして眉を寄せる。
「俺は魔法が使えねえが、魔力自体は扱える。おそらくだが俺の技と魔法とじゃあ魔力の運用方法が違って、俺の技に慣れると魔法が使いにくくなるんだろうよ。ああ、一応聞いておくがどうする? お前が魔法の腕を磨きたいっていうのなら普通に鍛えるが」
「是非先生の技を教えてください」
俺は即答した。普通が嫌というわけではなく、ランドウ先生のことだから滅茶苦茶厳しく 叩(・) き(・) 込(・) ん(・) で(・) く(・) れ(・) る(・) だろうけど、ここは迷うところではない。
だってそうだろう? 俺(ミナト) の魔法の才能の無さは『花コン』でわかっているし、体感としても理解しているんだ。魔法に関する勉強と鍛錬まで辞めるわけではないが、どっちつかずになるぐらいなら魔法を切り捨てるさ。
俺がこれまで学んだこととして、魔法を使う際の感覚は前世でいうところの散水ノズルとホースの関係に近い。体という名のホースに 魔力(みず) を通して、散水ノズルみたいに魔力の出し方を変換するのが魔法である。
変換した結果属性魔法として出力されるわけだが、俺の場合は散水ノズルの部分がポンコツなのだ。
一番扱い慣れている『火球』はまだしも、他の属性魔法を使おうとしても 機能(さいのう) がないのか上手く発動できない。『火球』にしても散水ノズルが目詰まりしたように 魔力(みず) がスムーズに流れないのだ。
魔法の才能がある人間は散水ノズルが多機能で、シャワー状だったり霧状だったり高圧洗浄だったりとちょっとした切り替えの感覚で複数の属性魔法を使いこなすのだろう。
錬金術と比べれば魔法の方が才能があるだろうけど、剣術と比べるとどっちもどっちだ。『花コン』や『魔王』が発生するまでの時間を考えると伸びやすい分野を鍛えた方が良い。
そんな俺の返答をどう思ったのか、ランドウ先生はじっと俺の目を見てくる。
「わかった。それならまずは防御の技だ。以前俺が魔法を斬ったことがあっただろ? アレだ」
「ありましたね。武器に魔力を纏わせる、でしたか……今なら覚えられますか?」
体内で魔力を操って魔法を発動するのと、武器に纏わせるのとじゃあ後者の方が難しそうだが。
「覚えられるか、じゃねえ。覚えるんだよ」
「あ、はい、そうですね。覚えます」
すごい、前世だったらパワハラだって言われそうなことを真顔で言われた。でもたしかに、遠距離の攻撃手段をほとんど持たない俺にとって魔法を斬ることができれば大いに助かる。
「もう一度実演してやるから魔法を撃ってみろ」
「少し待ってくださいね……………………よし、『火球』」
魔力を掌に集め、炎に変換するイメージで火属性の下級魔法である『火球』を発動させた。そしてランドウ先生に向かって撃つと、ややゆっくりとした動作で刀を振って切断される。
魔法の産物とはいえ、飛んできた火の玉を真っ二つにされると怖い。それでもランドウ先生が言っていた通り、刀に魔力が 乗(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) のが感じられた。斬られた『火球』はそのまま霧散し、宙へと消える。
「今みたいにへっぽこな魔法だったらお前に渡した剣でもそのまま斬れるだろう。だが、今のお前の腕じゃあ魔法を斬ることはできても そ(・) れ(・) だ(・) け(・) だ。斬った魔法がそのまま着弾する」
「……? 先生が斬ったら魔法が消えましたよね? 何が違うんですか?」
魔法の先生みたいに擬音で説明されたら理解できないだろうけど、わからないことは尋ねるしかない。そんな俺の疑問に対し、ランドウ先生は地面に丸を書いた。
「この丸を今の『火球』とするが、普通に斬ったらこうなるだけだ」
そう言って丸を両断するように縦線を入れるランドウ先生。それはそうだろう、と俺は頷く。
「だが、魔力を武器に乗せた状態で斬ると『火球』を構成している魔力の結合ごと斬れる。この丸全体で一つの魔法を構成しているわけだが、それを邪魔することで魔法として成立しないようにするわけだ」
「おお……なるほど」
思ったよりも論理的な説明だった。間違っても擬音だらけで天才肌の人間しか理解できないような話じゃなかった。
「1+1は2になるだろ? 1が魔力、2が魔法と考えろ。間にある+を消したらどうなる?」
「魔力しか残りませんね。だから先生が斬ると魔法が魔力になって霧散したわけですか」
話として聞く分には簡単な理屈に思える。いや、こういった技っていうのは案外簡単な理屈を突き詰めたものかもしれないし、妥当なのか。
「ん? そうなると、中級以上の範囲がデカい魔法でも端っこを斬れば防げるんですか?」
疑問を覚えたため尋ねるが、仮にそうなら魔法使いにとって天敵となり得る技だろう。そう思った俺だったが、ランドウ先生は首を横に振る。
「良い質問だが、そりゃ無理だ。今の例で話すと魔法は込めた魔力の量や難易度によって1+1が大量に連続したものになる。だから斬った部分は消せても他の部分はそのままだな」
「……つまり、魔力の結合を一撃で大量に斬れる威力があるか、一瞬で複数回斬る技量があれば中級以上の魔法も斬れるってことですよね?」
実現の有無はともかく、理屈の上ではそうなるはずだ。まあ、今の俺には無理だろうだけど。ランドウ先生は普通にできそうだけど。
そんなことを考えながら尋ねた俺だったが、ランドウ先生からの反応がない。何事かと思って視線を向けてみると、ランドウ先生はどこか感心したように小さく笑っていた。
「その通りだ。俺も試したことがあるが、見たことがない光属性以外の中級魔法なら全種類斬れた。上級魔法は使える奴が限られているから試し切れちゃいねえが、火属性は斬れたな」
「どっちの方法でですか?」
「一撃で斬る方だ。以前中規模ダンジョンでドラゴンと戦ったんだが、火属性の上級魔法を使ってきてな。斬れると思ったから試してみたが、魔法のど真ん中を斬ればなんとかなったぞ」
それでなんとかなるのって、貴方だけだと思いますよ? そう言いたかったが、俺も中身は歳を取った大人である。曖昧に微笑んで触れないことにした。
というか、『花コン』の火属性の上級魔法って『 火炎旋封(かえんせんぷう) 』じゃん。敵全体に大ダメージを与えつつ確率で火傷を負わせて1ターン行動不能にするやつじゃん。刀一本で斬って無効化するような魔法じゃないよ。
サンデューク辺境伯家の兵士でも防御せずに直撃すれば数十人まとめて焼き払いかねない魔法を撃たれて、真っ向から斬って捨てたのか……やっぱり人類のバグ枠だわ、この人。
ちなみに『花コン』の魔法は下級が二文字、中級が三文字、上級が四文字、最上級が五文字で名前がつけられている。魔法の属性によって威力や範囲は変わるものの、上級の魔法となると基本的に個人に対して撃つものではない。威力も範囲もオーバースペックなのだ。
(そんなものを撃たないといけないって判断したドラゴンもドラゴンだけど、斬れると思ったからって本当に斬ったランドウ先生もランドウ先生だよ)
さすがは『魔王』を殺せる可能性を持つ人だ。尊敬するけど普通に怖い。
「さすがにあのレベルの魔法となると斬るのは少しばかり骨だったがなぁ……今ならもっと楽に斬れると思うんだが。今度試してみるか」
今より強くなってどうするんだろう? いや、強くなってくれる分には構わないけど、その分、俺への期待も重くなりそうだ。
「防御向きの技だから最初に教えるが、おそらくお前にとって一番相性が良い技だろう。賢しいからな」
「ははは、褒められているって思っておきますね」
俺が半笑いでそう言うと、何を思ったのかランドウ先生は刀を軽く振る。すると訓練用に用意されていた巻き藁が突如として真っ二つになった。
「ちなみに、武器に纏わせた魔力を飛ばせばこんな芸当もできるぞ」
「すごい」
飛ぶ斬撃とか男のロマンみたいな技じゃないか……驚きが一周して逆に淡白な反応になったよ。でもそんな俺の反応でも十分だったのか、ランドウ先生はどこか自慢気な様子だった。
(『花コン』でも主人公を一番弟子って認めたあとはこんな感じだったっけ……)
ふと、そんなことを思う。俺を 半(・) 人(・) 前(・) と認めてくれたことがランドウ先生の態度の変化として現れているようで、少しばかりむず痒い。
それはそれとして、飛ぶ斬撃が俺の 少年心(こどもごころ) をいたくくすぐった。男はいくつになっても少年心を忘れられない生き物なのだろう。
「とりあえず最初にこの技を教える。今度俺が出発するまでにもう一つぐらい技を仕込めるかもしれんが……もしかするとそっちの方がすぐに覚えるかもな」
「そうなんですか? それならそっちから覚えた方が良さそうですが」
ランドウ先生の言葉に疑問をぶつけてみる。するとランドウ先生は僅かに言いよどみ、ため息を吐いてから俺を見た。
「お前が野盗を斬った時のアレだ。 あ(・) の(・) 斬(・) り(・) 方(・) に近くてな。さっき見せた技……『一の払い』は多少の技術と魔力で斬るが、『二の太刀』は完全に技術だけで斬る。お前があの時の境地にすぐさま立てるなら覚えられるとは思うが……」
「それは……たしかに、難しいかもしれませんね」
あ(・) の(・) 時(・) は極度の緊張状態にあって、なおかつ死中に活を求めるような決死の覚悟があった。訓練でそんな境地に立つのは困難を極めるだろう。
(……あれ? そうなるとこの人は普段からそういった境地にいるわけか?)
もしくはそんな境地に立たずとも技を繰り出せるほどに技術を練り上げているのか。どちらにせよ優れた才覚と血のにじむような鍛錬があってのことだろう。
(魔法対策は必須だし、まずは『一の払い』をしっかりと身につけないと……『二の太刀』はゲームだと確定でクリティカルが発生してたけど、実際の技としてはどうなんだろう? そもそもクリティカル攻撃自体どうなってるのか……)
『花コン』におけるランドウ先生の強味。それこそが高い攻撃力に加えて高確率で発生するクリティカル攻撃で、なおかつ必殺技を使えば攻撃力を増加させた上でクリティカル攻撃を確定で発生させたり、相手のレベル次第では即死させたりするけど、現実だとどうなるのか。
心臓や首といった、致命傷になる部分を攻撃することがクリティカルになるのか。ランドウ先生の技量を実際に目の当たりにすると、相手の隙を突いて一太刀で急所を斬ることなど容易だろう。ゲームでの高いクリティカル発生率が現実だと高い技量に置き換わっていると見るべきか。
ちなみにランドウ先生の即死攻撃は三つ目の必殺技、『三の突き』である。ボスキャラ以外に限るがランドウ先生よりレベルが五以上低かったら確定で即死させ、仮にそうでなくとも攻撃力を二倍にして必ず命中する。
でもそれってレベル差関係なく、心臓や脳を貫けば普通の生き物は即死するよな……そういった事態を防ぐために防具を身に着けるけど、ランドウ先生の場合防具ごと貫くだろうし。
『花コン』というゲームでの演出だと納得していたけど、四つ目の必殺技にしてランドウ先生の奥義である『閃刃』もどうなるのやら。
こっちはHPの消耗が大きいものの、最速で行動して攻撃力3倍に確定でクリティカル攻撃ととんでもない性能だった。他のキャラが二桁前半のダメージを出しているところに軽く三桁のダメージを叩き出すぐらいである。
これって現実だとどうなるんだろう? そもそもHP自体存在するのかどうか。他のキャラと比べて数倍高いダメージを叩き出していたけど、現実でそこまでの差が出るものなのか。ランドウ先生の場合は下手すると全ての攻撃が即死技みたいになるけど。
そんなランドウ先生の弱点は一対一に特化していて複数人を攻撃する全体攻撃技がないことだったが、『一の払い』を実際に見た俺としては疑わしい。
(あれって単体にしか効果ないけど、遠距離からでも魔法を斬れるだろうし連射すれば疑似的に全体攻撃できるよな?)
ゲームだとプログラムで定められた以上のことはできない。しかし現実なら色々とできるわけで――なんて俺が色々と考えているのは、常に一緒にいたナズナがいなくなったからだ。
この世界が『花コン』と同じなら、王立ペオノール学園へ通い出すまでに 俺(ミナト) の傍付きからナズナが外れることはなかった。
そもそもこうしてランドウ先生に教えを受けている時点で物語から外れているが、『花コン』の主人公の攻略ヒロインであるナズナがいなければどうなってしまうのか。他の人間がナズナの役を代行する形になるのか、それとも根本から物語が崩壊してしまうのか。
そうなると『花コン』自体成立が怪しくなるが――。
(くそぅ……未来のことがわかれば違う動き方もできるのに……)
ミナトの行動としては既にかなりおかしいが、所詮は主人公のライバルにもなれないかませ犬。主人公の攻略ヒロインと比べれば『花コン』というゲームの範疇では立場が軽い。
――本当に、『花コン』の通りに進むのならだが。
(いかんいかん、今は目の前のことに集中しないと。怪我でもしたらどんな訓練になるか……)
本当に『魔王』が発生するかわからないが、これ以上『花コン』の始まりを妨げることがないよう注意しなければ。
そうは思うものの、『魔王』の発生もそうだが肝心要の『花コン』の主人公が本当に召喚されるのか。それを知る術がないのが地味に精神的な負担だった。主人公が召喚されなければ『花コン』自体始まらないのだから。
せめて王都に行って主要な人物達が実在するのかどうかだけでも確かめたい。しかし俺が住むのは爵位が示すように辺境の地にある。
まあ、辺境の地とは言うけど、他国との戦いに備えて配置された場所ってことは他国との交易が盛んな場所でもあるから栄えているし、田舎ってわけじゃないけどね。王都まで距離があるから気軽に行けないって意味では辺境の地だけど。
そのため『花コン』が始まるまでは領地で悶々としながら過ごすしかない。初陣の時みたいに領内を見回ることはあるだろうけど、王都に行くのは王立学園に通う時になってからだ。
ちなみに『花コン』の移動手段の中にはドラゴンに乗って移動する、なんてものもある。ダンジョンで入手したドラゴンの卵を孵化させて生まれた時から育て、人間に慣れさせることで騎乗可能な生物として運用する者がこの世界にはいるのだ。
竜騎士とも呼ばれる彼ら、彼女らが操るドラゴンに乗って移動すればサンデューク辺境伯家からだろうと王都まで一日とかからない。しかし竜騎士はサンデューク辺境伯家でさえ抱えておらず、そのほとんどが王都で働いている。
緊急性が高い情報を得たり、事件が発生した場合に王都と各地を行き来するのが竜騎士の仕事だからだ。
だからこそ、嫡男という立場が重しにもなる俺はサンデューク辺境伯家の領地から出る機会がほとんどない。王立学園に通う時か、王都に重要な用件がある時ぐらいだ。
そのため俺はまったく、微塵も考えていなかったのだが。
「ミナト、王家との契約で定められている軍役についてだが、今年はお前に任せようと思う。せっかくだし王都を見てきなさい」
予想外にも、レオンさんにそんなことを言われたのだった。