軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話:一人前の祝い

俺が初陣を終えてラレーテの町へと帰還した、その日の夜のことである。

無事に初陣を終えたことを祝って軽いパーティが開かれたものの、その後ランドウ先生に呼ばれて夜の町に繰り出す俺がいた。

夜の街に繰り出すと聞くと意味深に聞こえるけど、まさに そ(・) の(・) ま(・) ま(・) の(・) 意(・) 味(・) だ。ラレーテの町の外れに位置する娼館がある通りへと連れて行かれたのだ。それも、何故かナズナも一緒である。いや、本当になんでだ? 護衛の兵士も一緒だけどさ。

既に深夜に差し掛かろうかという時刻。町の住民の多くは眠り、時折巡回の兵士とすれ違うぐらいで人通りはほとんどない。前世と違って二十四時間営業の店があるはずもなく、夜中にわざわざ出歩くのは物好きか、何かしらの明確な目的がある者だけだ。

というか、夜中に開いている店なんて酒場か娼館ぐらいである。この辺りは前世と変わらない。

酒場や町の外れにまとめて建てられている娼館通りは賑わっているが、どんな世界、いつの世でも飲む打つ買うの三拍子は強いということだろう。

「こ、こんな夜更けに若様を連れ出して何事かと思えば……こ、ここは、い、いかがわしい場所ではないですか!」

そして、俺と一緒に連れてこられたナズナが顔を真っ赤にして盛大に怒りを爆発させている。往復十日ほどとはいえ旅の後だからゆっくり休みたかっただろうに……先生がごめんね? 正直俺もベッドでスヤスヤ眠りたいんだけどね?

「そうはいっても領主にとって色々な意味で大事な場所でもあるんだぞ? なあ、ミナト」

「俺に振らないでくださいよ先生。領民が性犯罪に走っても困りますし、なんだかんだできちんと税金を納めてくれますし、そもそも 元(・) 締(・) め(・) は領主なんで……ノーコメントで」

こういった性風俗業に限らず、領内における商業活動の認可は領主の管轄だ。自身の領地にとってプラスになるかマイナスになるか判断して許可を出すが、怒った様子のナズナを前にすると何とも言い難い。とりあえずノーコメントを貫くことにしよう。

「必要だからこそ求められる場所に必ずあるものなんだがなぁ……まあいい、行くぞ」

そう言って俺を促し、大きな娼館へと足を向けるランドウ先生。正直なところ先生らしくない行動だし、何も初陣から帰ってきたその日の夜に連れ出す場所でもないと思うんだが。

(んー……つまり、何か理由があって連れ出したんだろうなぁ)

そう判断してランドウ先生についていく。そもそも先生に言われれば断ることなどできないし、何を考えているのか確認したくもあった。

「わ、若様!? 屋敷に帰りましょう!」

だが、ナズナが俺の腕を掴んで必死に引っ張ってくる。ここがどんな場所か知っているのだろうが、やや過剰ともいえる反応だった。

「嬢ちゃん、帰るなら先に帰っていいぞ。そのために兵士も一緒なんだからな」

「…………?」

帰宅を促すようなランドウ先生の言葉。その意味に疑問を覚えた俺だったが、ついてきていた兵士達の顔を見て疑問を深める。五人ほど兵士がついてきていたが、その全員がナズナを複雑そうな顔で見ているのだ。

ナズナがそれに気付く様子はない。俺の腕を掴み、一生懸命屋敷に帰ろうと訴えてくるばかりだ。そして、そんなナズナを見るランドウ先生の目が少し怖い。普段と比べて柔和に見えるよう 表(・) 情(・) を(・) 作(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) が、妙に目が怖い。

「……先生の誘いだし、俺もちょっと興味があるから行ってくるよ」

ノーコメントを貫くのは無理だった。そう言え、とランドウ先生に促されている気がして、とりあえずそんなことを言ってみる。するとナズナは愕然とした顔になり、続いて泣きそうになり、最後には顔を真っ赤にした。羞恥ではなく、怒りで。

「~~~っ! もういいです! 若様のばかっ!」

そんなセリフを残し、ナズナは来た道を戻り始める。それを見た俺は追うべきか悩んだが、ランドウ先生に目線で制されて動けなかった。

「あとは頼んだ」

「しっかりと送り届けます……やっぱりこうなりましたか」

ついてきていた護衛の兵士にランドウ先生が声をかければ、兵士がため息を吐くようにして応じる。そして一人で帰ろうとするナズナを追って二人の兵士が駆けていった。

「先生、さすがに説明が欲しいんですが?」

「後でする。まずは店に入るぞ」

俺は説明を求めるが、先生はさっさと店に入っていく。そのため俺は小さくため息を吐き、その背中を追うのだった。

今世で初めて入った娼館は、意外と綺麗にしてあるんだな、という感想が真っ先に浮かんだ。

オイルランプで照らされた室内は薄暗く感じるが、二階建てのその娼館は一階部分が受付や飲食のためのスペースになっており、二階が ご(・) 休(・) 憩(・) のための部屋になっているらしい。

酒を提供しているのか飲んだくれている住民達やその隣に座るやや薄着の女性達が目につくが、俺としてはまあ、こんな感じだよなという感想しか浮かばない。受付には妙齢の女性が座っているが、この世界にもパネルマジックとかあるんだろうか? いや、そもそも写真がないか。

周囲を見回していると、薄いドレスながらもきちんと着込んだ女性が奥の個室に案内してくれる。どうやらこっちの服装や立ち居振る舞いから人目に触れない方が良いと思ったらしい。判断がすごいし怖いね。

そうして案内された個室はこじんまりとしており、八畳ほどの広さにテーブルやソファー、飾り棚がバランス良く配置されている。しかし窓がないため少々息苦しくも感じるが……もしかして密談するために防音性を高めた結果だろうか?

「まあ座れ、ミナト。軽い酒なら飲めるだろ? 女を抱くなら後で選べよ」

「正直疲れが溜まってるんで、酒を飲んだらこの場で寝ますよ……というか奢りですか?」

「ああ、安心しろ。代金は経費ってことでレオンに請求するからな」

風俗に行った金を父親に請求されるとか地獄かな? 仮に女性を抱いたらそれも代金込みで報告されるやつじゃないか。兵士は部屋に入ってきてないけど、ランドウ先生ならそれぐらい普通にやりそうだ。

「冗談だ。無事に初陣を終えた祝いに奢ってやる」

「先生の冗談は切れ味が良すぎて困りますね……それと先生、もう少しこう、お祝いらしいお祝いなら素直に喜べるんですが」

真面目な顔でよくやった、って言ってくれるだけで感動できる自信があるぞ。もちろんこんな場所でそんなことを言われても困るんだが。というかナズナを帰した理由も知りたいんだが。

そうやって俺が困惑していると、酒とつまみを御盆に乗せた女性が部屋に入ってきた。そして慣れた様子で俺とランドウ先生の前にグラスを置き、酒を注ごうとする。

「すまない、俺の分は薄めてくれ」

俺は先んじてそれを制した。祝いの席だと言われれば断りにくいが、今の状況で酒に酔う方が怖い。そのため水を大量に入れて薄めてもらうと、対面に座ったランドウ先生と向き合う。

……今、気付いたんだが。いつの間にやら上座に座らされているな、俺。ランドウ先生が促すままに座ったけど、こういう席次を先生が気にするのもおかしい気がする。剣の師である先生が上座に座ってもいいんだけど。

「お隣、失礼いたしますね」

俺がそんなことを考えていると、酒とつまみを配膳していた女性が自然な動きで俺の隣へと腰を下ろした。そして俺の邪魔になりすぎないよう、それとなく体を密着させてくる。

「…………?」

年齢は俺よりもいくつか年上で、下品になりすぎない程度の薄着を瀟洒に着こなしている。こういう場所だからかやたらとヒラヒラした服を重ね着しているが、この娼館の制服的な代物なのだろうか。それにしては胸元を開いて強調している割に、体形を隠し過ぎている気もするが。

「コイツは先日、野盗を相手に初陣を果たしてな。その祝いに連れてきたんだ」

「まあ、それはすごいです! わたしよりも年下に見えるのに、すごい方なんですね?」

俺が疑問を覚えていると、ランドウ先生が話を振って俺の隣の女性がヨイショしてきた。ついでに俺の二の腕に胸を当ててきたけど、状況が摩訶不思議すぎて逆に怖い。

「俺なんてまだまださ。そこに座るランドウ先生の足元にも及ばないし、未熟に過ぎるよ」

とりあえず俺はランドウ先生をヨイショした。ついでに、興味ごとランドウ先生の席に移ってくれないかなぁ、なんて思う。

「謙虚ですのね。そういうところも素敵ですわ」

ハハハ、何故余計に密着してくるんだい? 状況が違えば喜ぶところだけど、今の状況だと本当に怖い。誤魔化すようにランドウ先生と乾杯して酒を飲むけど困惑し過ぎて味がわからない。

「しかし、まあ、なんだ……」

ランドウ先生は珍しく酒を口にすると、俺を見て言葉に迷うように目線を伏せる。

「よくやった、ミナト。手頃な相手だと思ったが、あの程度の傷で倒せるとは思わなかったぞ」

「先生……」

珍しく――本当に珍しく、ランドウ先生が俺を褒めてくれた。

本当にこんな場所と状況でなければ素直に喜べたんだが……いや、ここは喜んでおこう。

「手頃な相手だと仰っていましたからね。勝つにはどうすればいいか、必死に考えましたよ」

あ、駄目だ。喜んでおこうと思ったけど、勝手に口の端が吊り上がっている俺がいる。普通に嬉しいし、ランドウ先生に認められたようで誇らしくもあった。

「本当は戦いの後に褒めてやりたかったが、お前が正気じゃなかったからな」

「その言い方は誤解を招きそうなんで、さすがに勘弁してください」

ほら、それまでシナを作ってた隣の女性がそれとなく俺から距離を取ったじゃないか。

「あの時は真正面から斬り込むとは思わなかったぞ。一対一で戦えとは言ったが、お前のことだ。それを無視して周囲の兵士と一緒に囲んで叩くか、何か奇策を用いると思ったんだがなぁ」

「あの状況で一対一以外の選択肢はありませんでしたよ。というか先生、仮に俺が負けていたらどうするつもりだったんです?」

何を思ってこんな場を設けたのかわからないけど、とりあえず気になったことを聞いておく。すると先生は酒を煽り、小さく苦笑した。

「お前が死ぬ前に相手を斬るつもりだった。そうでないとあの騎士団長殿も納得しなかったんでな。さすがに辺境伯の嫡男を見殺しにするわけにはいかんだろう」

あ、その辺はちゃんと助けてくれるつもりだったんだ。そしていざとなれば助けると確約したからこそウィリアムも不満を飲み込んだ、と。

(というか、一対一で戦えって言いながら俺が兵士を使って囲んで叩くと思ってたのか)

あの状況でそんなことはできなかったし、奇策を用いると思われていたのもなんだかなぁ……わざと空振りして相手の攻撃を誘ってカウンターを狙うのは十分奇策っぽいけど。

「『召喚器』を盾代わりにしたり、投げたり、魔法を使ったり……それぐらいはすると思ったんだが、まさか剣だけで勝つとはな。俺の人を見る目もまだまだ甘いというわけだ。いや、お前が予想以上に育っていたのか」

そう言ってどことなく嬉しそうに酒を飲むランドウ先生。やめてください、そうして褒められるとむず痒くなります。

「と、ところで先生、そろそろ俺をこの場所に連れてきた理由を教えてくださいよ」

照れ臭くなって話題を変えるとランドウ先生は視線をずらし、俺の隣に座った女性を見た。

「初陣を乗り越えて剣士として童貞を切ったんだ。アッチの方も童貞を捨ててこい」

あらやだお下品……いや待て。先生の性格を思い出せ。いくらなんでもおかしい。抱けるなら抱きたいけど、話の流れ的にもおかしすぎる。

というか俺、一応辺境伯家の嫡男だし、童貞的な意味での初陣がこういう形で大丈夫? 女性に溺れないようにとか、将来結婚した時に相手に恥をかかせないためにとか、それっぽい理由は思い浮かぶけどタイミングがおかしくない?

そんなことを考えながら先生を見ると、目の奥に試すような気配がある……ような?

(考えろ……考えろ、俺。仮に女に溺れないよう耐性をつけさせるためだとしても、先生が手配する必要は……後腐れないように? いやいや、これ後々問題になるやつじゃないか? 自制心が足りん! とか言ってボコボコにされるやつじゃない?)

俺の周りの大人は妙に試したがるから困る。多分俺を鍛えるためにやっているんだろうけど、楽しんで試している人も絶対にいるわ。

俺は思考しながら隣に座る女性を見る。さっきは少し距離を取られたけど、今はもう、密着と呼べるほどに身を寄せてきている女性を。

いや本当、抱けるなら抱きたいし、そのヒラヒラの服を脱がしてみたい――ん?

(何か引っかかるな……なんだっけ? この状況もだけど、前に何かあったような……あっ)

記憶を探るとピンとくるものがあった。そのため苦笑を浮かべ、ランドウ先生を見る。

「これも試験ですか? 女性を抱く時は隙だらけになる、でしたっけ?」

そうだそうだ。以前ランドウ先生にそんなことを言われたんだった。食事や風呂、トイレや睡眠、あとは女性を抱く時は隙だらけになるから気を付けろって教えられたんだった。

そして、その教えを思い出すようなことがあれば何か危険が迫っている、とも。

(そう考えたらこの女性の服、ヒラヒラが多すぎて体形どころか武器も隠せるな)

そう思ってしまえば動くのも早い。俺は女性の腕を掴んで捻り上げ、関節を極める。そして懐を叩いてみると、妙に固い感触が……これ、鞘に納まったナイフだな。

「おう、よく思い出したな。あの野盗を斬った時も思ったが、お前は剣の才能自体は凡才だが頭は悪くねえ。そのまま精進しろ」

俺の行動を見たランドウ先生は微塵も動揺した素振りを見せないどころか、それが当然と言わんばかりの態度だった。褒めてもくれたけど、さっきと比べると嬉しく思えないのはなんでだろうか。頭が悪くないと言われても、 中(・) 身(・) の年齢を考えるとそちらでも凡才だからか。

「失礼。手荒に扱ってしまったな」

俺は女性の腕から手を放し、頭を下げる。ランドウ先生に雇われてこんなことをしたのだろうが、災難な目に遭わせてしまった。

「い、いえ、お気になさらないでください。こちらこそ大変失礼いたしました」

女性は恐縮した様子で首を横に振る。俺の立場が立場だけに、無礼討ちもあり得ると思ったのか。その場合はランドウ先生が止めるだろうけど、この女性からすればその確証はないだろうし。

「手間をかけさせたな。これは詫びだ。取っておいてくれ」

ランドウ先生がそう言って小袋を差し出す。中身は……金属が擦れる音がしたからお金だろう。まさかそのお金も経費としてレオンさんに請求しませんよね?

女性は小袋を受け取ると、俺に一礼してから部屋を出て行く。その背中を見送った俺は一つ大きなため息を吐き、水で薄めた酒を飲んだ。

「それで先生、何故こんなことを?」

「大丈夫だとは思ったが、お前が女の色香に弱いかどうかの確認をな……あとは女遊びを覚えるならこの店を使うよう話しておいてくれ、とレオンのやつに頼まれたんだ」

「父上ぇ……」

レオンさんも面と向かって話すのが憚られたんだろうけど、そんな心配はしないでほしかった。というか、そんなことを伝えるためにランドウ先生を使い走りにする度胸がすごいわ。

俺が呆れていると、ランドウ先生が真剣な表情で俺を見ていることに気付く。そのため酒をテーブルに置き、背筋を伸ばして先生の言葉を待った。

「改めて言うが、今回はよくやった。俺から見るとまだまだ未熟だが一人前……半人前の剣士にはなったな」

「なんで減らしたんです?」

「一人斬ったぐらいじゃなぁ……不意打ちの対処や乱戦を経験させて、あとは格上相手との戦いを乗り越えて一皮剥ければ一人前だと認めてもいいが。まあ、世間じゃ一人前と認められるぐらいの腕にはなっただろう」

ランドウ先生の基準が厳しすぎる……でも、半人前とはいえ剣士として認められたのなら素直に嬉しい。

俺がそんなことを思っていると、ランドウ先生がテーブルの下に手を突っ込む。そして細長い布包みを取り出した。

「で、だ……一人前になった祝いに、これをやる」

そう言われて差し出されたものを受け取る。ずしりと重みを感じる物体だったが、その重さは手に馴染むものがあった。

俺は中身を予想しつつ、布包みを開ける。すると予想通りというべきか、鞘に納まった一振りの剣が姿を見せた。俺は一言断ってから剣を抜くと、部屋に置かれたオイルランプを頼りに刀身をじっくりと観察する。

長さは切っ先から柄尻まで一メートル少々で、普段俺が使っている剣とほぼ同じ。重さも似たようなものだがやや軽いか。形は両刃のロングソードでこちらも普段使っている剣と同様。ただし、妙な違和感がある。

「これ……もしかして『召喚器』ですか?」

「よくわかったな。ダンジョンで手に入れたやつなんだが、お前が一人前になったら渡そうと思っていて……まあ、こっちが本命の祝いの品ってやつだ」

鞘は別に作らせたものだが、とランドウ先生が言う。その言葉を受けて確認してみると、金属製でしっかりとした作りの代物だった。鞘だけで立派な武器になりそうだ。

こういった使い手がいない『召喚器』――持ち主がダンジョンの中で死亡した際に使っていた『召喚器』がその場に残り、そのダンジョンか別のダンジョンで入手できることがある。

ランドウ先生も想い人が使っていた『召喚器』を探してあちらこちらのダンジョンに潜っているし、この剣もその道中で見つけたものなのだろう。

死んだ人物が使用していたものということで縁起が悪いと考える人もいるが、俺は特に気にしない。縁起が悪い云々で言ったら、俺なんて『花コン』でほぼ確実に死亡する身だ。俺以上に縁起が悪いものも早々ないだろう。

『花コン』でもこういった『召喚器』はダンジョンで入手することができ、キャラクターが装備することができた。普通の武器よりも能力が高く、使い手との相性によっては『召喚器』が持つ能力を引き出すことができる、とも言われている。

この剣と俺の相性がどんなものかはわからないが、仮に能力が使えずとも『召喚器』というだけで頑丈かつ切れ味も良いはずだ。少なくとも俺の本の『召喚器』よりはよっぽど役に立つ。

「試しに俺も使ってみたが、癖がなくて使いやすい良い剣だったぞ。切れ味も頑丈さも十分にあるし、俺が教えた戦い方にも合うはずだ」

ランドウ先生はそう締め括るが、どうしよう……普通に嬉しいし感動する。 あ(・) の(・) ランドウ=スギイシに認められたのだと、そう思える。

「ありがとう、ございます……この剣に恥じないよう、もっと精進します」

少しばかり言葉に詰まりながらも、俺は頭を下げた。まさかこんな物を用意してくれているなんて思いもしなかった。

「おう、精進しろ……だがまあ、剣を渡しておいてなんだが」

僅かに言いよどむような気配を感じ、俺は頭を上げる。そしてランドウ先生を見ると何やら悩んでいる様子だったが、数秒も経つとその顔に真剣さが増す。

「いいか、ミナト。その剣を抜く時……いや、 抜(・) く(・) べ(・) き(・) 時(・) を見誤るな」

「抜くべき時、ですか?」

「ああ。お前は辺境伯家の嫡男だ。その立場自体が一つの武器になる。必要な時に抜かないのは論外だが、むやみやたらに抜くんじゃねえ」

それは普段戦い方を教える時とは別種の、心構えに関するものなのだろう。良い武器を手に入れたから使いたくなるのを戒めようとしている? いや、そうじゃない。ランドウ先生の顔を見ればもっと別のことだってわかる。

「あと三年もすればこの国の学園とやらに通うんだろ? 初陣を乗り越えたお前に腕試しで挑む奴がいてもおかしくねえ……が、この剣は簡単には抜くな。抜くなら殺すつもりで抜け。 斬(・) ら(・) な(・) く(・) て(・) い(・) い(・) も(・) の(・) を斬るぐらいなら、絶対に抜くな」

そう話すランドウ先生の顔に浮かんでいたのは、僅かな悔恨だった。自らの失敗を悔やむような、遠い日の記憶を恥じるような、そんな顔だった。

「初陣を乗り越えた後、俺も調子に乗った時期がある。腕自慢がいれば挑んだし、挑まれれば応じて斬った。だが、お前の立場だと挑むこと自体が問題になりかねない。それをよく自覚し、抜くべき時以外はその剣を抜くな」

たしかに、『花コン』でもミナトは主人公に対して決闘と称して何度か挑んでいた。その結果何度も負けるわけだが、辺境伯家の嫡男が敗北するというのは想像以上に重いだろう。

敵やモンスターと戦う時、訓練の時に抜くのは当然のことで、 そ(・) れ(・) 以(・) 外(・) の時にどう扱うかをランドウ先生は説いているのだ。

「……はい。肝に銘じます」

剣だけでなく、ありがたい教えまでもらってしまった。そのため俺は再度、深々と頭を下げる。心底の敬意と感謝を込めてだ。

俺は十秒ほど下げた頭を上げ、ランドウ先生をじっと見る。最初は死亡フラグを回避するため、なんていう理由だったけど、ランドウ先生に師事して良かったと思えた。

ただし、一つだけ残念な点があるとすれば。

「おい、なんだその顔は」

「いえ。非常に嬉しいんですが、やっぱり渡す場所とタイミングを選んでほしかったなぁ、なんて思いましてね」

本当、それだけが残念である。いつも訓練をしていた練兵場で真面目な顔で渡されていたら、号泣していた自信があるぐらいには残念だ。なんで俺、娼館の一室で一人前の証みたいな代物を渡されているんだろう。

「……そういう畏まった場は苦手でな。許せ」

ランドウ先生は困ったように視線を逸らして、そう言った。それがどこかおかしく思えた俺は剣を鞘に納めてから破顔する。

ナズナに関して尋ねるつもりだったが、そういう雰囲気ではなくなってしまった。明日、改めて聞くとしよう。

俺はそう思い。

「本日よりナズナを若様の傍付きから外し、ブルサの町へと送りました」

夜が明けた翌日。

朝一番で俺の部屋を訪ねてきたウィリアムにそんなことを言われるなんて、考えもしなかった。