軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第190話:ダンジョン調査 その2

とりあえず予定していた一時間の調査を三回行い、持ち込んだ紙に結果を記入していく。

一回目はモンスターが六体現れ、素材は魔力草が二十六個、毒草が十二個の合計三十八個採取できた。

二回目は一回目にかぶらないよう場所を移動し、素材の採取もナズナに頼んだ。その結果モンスターが五体現れ、素材は魔力草が六個、毒草が四個の合計十個採取できた。

三回目は一回目と二回目の場所にかぶらないよう注意しつつ調査を行い、モンスターは四体、素材は魔力草が五個、毒草が三個の合計八個採取できた。

さて、たった三回と試行回数は少ないが、この時点でわかったことがある。

(やっぱりスグリはとんでもねえわ……なんでナズナの三倍以上素材を集めてるんだよ……)

一回目と三回目を比較したら四倍以上の差だ。スグリは何でもないように謙遜しているが、これが天才錬金術師か、と密かに戦慄する。錬金もそうだが、素材を集める段階から 目(・) 利(・) き(・) がすさまじいのだ。

魔力草は植物によくあるように緑系統の色をしており、外見は短めのほうれん草みたいな感じである。それでいて低品質のものはやや薄め、枯れたような緑色をしているため秋も深まる今の時期だと似たような色合いの草が多く、パッと見て発見するのは困難なのだが。

「申し訳ございません、若様……」

そしてナズナはといえば、落ち込んだ様子で頭を下げてくる。動体視力や運動能力を比較すればナズナの方がはるかに上だろうが、それでも素材の採取数で大きく負けたことがショックだったようだ。そこはショックに思わなくてもいいからな?

「何を言うんだナズナ。資料にあった通りの採取数とほとんど変わらないじゃないか。今回の場合はスグリがすごかった、というべきだろう」

「……レッドカラント嬢に手伝ってもらってこの数なのですが」

ナズナが採取する際、スグリが一緒に見て採取しても大丈夫なサイズまで育っているかをチェックしてくれた。ナズナも発見数はもっと多いのだが、採取できるサイズの素材となると数が減るのである。

素材の採取に関してはそんな感じだが、出現したモンスターに関しては特筆すべき点がない。出現したモンスターもキラーバードと火吹き鳥だけだし、数もこれまでの調査から大きく変わることがなかった。

何かあったとすれば、刃毀れが怖いのか透輝がアイリスからもらった剣を鞘に納め、『鋭業廻器』を使ってモンスター退治を始めたぐらいだが……普通の剣を使って刃毀れさせずに生き物を斬るにはまだ腕が足りないか。

「時間が許すならもう一時間調査をしてもいいんだが……もうじき夕暮れだしな」

日時計をもとにして、現在時刻は午後三時過ぎ。季節柄日暮れが早まってきているし、あとはボスモンスターである雷鳥の調査を片付けてダンジョンから脱出するべきだろう。

「というわけで、ちょっと行ってくる。諸君らはここで待機だ。モンスターが弱いから大丈夫だと思うが、ナズナは面倒を見てやってくれ」

ナズナに透輝達のことを託し、俺はダンジョンの中心部目指して駆け出す。とりあえずは速度優先で、中心部に近付いたら気配を消して近付くことにする。

(ダンジョン内の地形や植生、出現するモンスターには異常がない……何かあるとすればボスモンスターか、こうして俺が一人になったタイミングか)

リンネが何か仕掛けてくるなら今だろう、なんて思いながら周囲を警戒しつつ走る。野外実習の際に火竜をけしかけたことといい、聞きたいことは色々とあるのだ。

(……何も起きないな)

だが、今のところ何かが起こる気配はない。ダンジョンが異常成長したり、ダンジョンの規模に合っていない強力なモンスターが出現したり、地形がいきなり変化したり、リンネが不意打ちを仕掛けてきたりと、何が起きても対応できるよう注意していたんだが。

(何も起きないとそれはそれで拍子抜けというか……いや、そうやって気を抜いたところを狙って……俺相手に狙ってどうするんだ? 自意識過剰だった? 今まではただの偶然? でもリンネは明らかに意図を持って行動しているし……)

そんなことを考えつつも、気配を殺して雷鳥が寝床にしている大木へと近付いていく。風向きは……こちらの方が風下だ。太陽の位置を確認するが足元の影からバレることもない。足音も殺して呼吸も止める。

そうやって近付いてみると、高さ三十メートルほどの木の上に雷鳥の姿があった。大きさは三メートルほどで、こちらに気付いていないのか目を閉じてじっとしている。

(ああやって見るとデカいだけでただの鳥にしか見えんな……大きさ、色、外見に変化はなし、と)

当然といえば当然のことだが、縄張りに足を踏み入れても気付かれなければ敵対はしないのだろう。 普(・) 通(・) の(・) ダ(・) ン(・) ジ(・) ョ(・) ン(・) のボスモンスターということで戦ってみたい気持ちもあるが、倒してしまうとダンジョンが崩壊するためお預けだ。

(そういえば、野外実習の時は火竜が襲ってきたし、本当の意味で普通のダンジョンのボスモンスターって初めて見たな……)

相応の強さがあるんだろうけど、デュラハンや火竜と比べると威圧感が乏しく、透輝の練習相手に丁度良いぐらいだろうか、なんて考えてしまう。

今の透輝なら苦戦はするだろうけど、戦っている最中に成長して逆転勝利が狙えるぐらいの差しかない。しかし、試合や実戦で毎回逆転勝利を狙えるぐらい成長していくのって、控えめに表現しても化け物みたいな才能だな。

(うーん……あの雷鳥が巨大化したり、手足が生えて襲ってきたり、大木が実はモンスターで動き出したり……は、しないか)

期待しているわけではないが、本当に何も起きないようだ。まあ、まだダンジョンを巡って一ヵ所目である。とりあえず退くとしよう。

「あ、おかえりミナト。どうだったんだ?」

気配を殺したまま離脱し、距離が離れて気付かれる心配がなくなったら全速力で透輝達のもとへ戻ると、すぐに透輝が反応して声をかけてくる。

「資料にあった通りだった。これで一つ目のダンジョンは調査終了だな」

「そっか……てっきり見たついでに斬ってくるかと思ったんだけど……」

「斬ったらダンジョンが崩壊するからな?」

そんなことするかよ、とツッコミを入れる。国が管理しているダンジョンだから、緊急事態を除けば破壊なんてもってのほかだからな? ダンジョンが異常成長して村や町が飲み込まれたり、新規に出現して明らかにやばいタイプのダンジョンだったりしないと破壊しちゃ駄目だからな?

さて、合流が済んだらダンジョンからの撤退だ。何もなかったとはいえ、脱出するまでがダンジョン探索である。今度はナズナと透輝を先頭に立たせ、俺が殿を務めてダンジョンの外へと向かう。

そして、無事に脱出ができた。そう、脱出できたのである。何かが追いかけてきて襲い掛かってくる、なんてこともなく、平穏に脱出できたのだ。

「…………」

俺は思わず無言で振り返り、ダンジョンの内部を見透かすように目を細める。しかしそれで何が見えてくるというわけもなく、俺達は近くの村まで引き上げるのだった。

その日の夜。

王城向けに提出する報告書を正式に書き上げた俺は、寝るまでの暇潰しに剣を振ろうと借りていた民家から外に出る。小さい村のため暇を潰せるものが何もないのだ。

借りた民家はキッチン代わりの土間と大き目の部屋が二つという間取りで、男女で一部屋ずつ利用する形になる。布団が人数分はなかったため、野営用の道具から防寒用の布地を引っ張り出してきて雑魚寝だ。

「ぁ……み、ミナト様。外に何かご用、ですか?」

外に出るとスグリが馬車のキャビンから顔を覗かせながら尋ねてくる。一体何事かと思えば、日中に採取した素材の数々を錬金術用に加工しているらしい。切ったり刻んだり干したりだ。ただ、その馬車は借り物だからできれば外でやってね?

「あ、そ、そうでしたっ。道具があったから、つい……」

どうやら積み込んだ道具を移動させる手間を惜しんだようだ。まあ、それなら仕方ない。ダンジョンの調査で素材を入手できると聞き、簡易的ながら錬金の道具を持ち込んで良いと決めたのは俺だ。素材を加工せずに学園に帰るまで保管していたら、多少なり傷んでしまうのである。

スグリはランプの明かりを頼りに作業をしていたようだが、俺からするとよくそんな環境で作業ができるな、と感心してしまう。錬金術はちょっとした色や匂いの変化を察知する必要があるため、ランプの明かり程度では心許ないと思うのだが。

「その程度の明かりだけで作業ができるなんてさすがだな。俺だったら失敗ばかりしそうだ」

剣で斬るのはそれなりに得意でも、材料を切ったり刻んだりはまた別だ。錬金術に関する俺の才能のなさは、サンデューク辺境伯で召し抱えている錬金術師の女性から教わってよく理解している。

「え、えへへ……み、ミナト様は、その、わたしなんかをよく褒めてくださいますけど、わたしなんてまだまだで……」

「スグリ」

謙遜かと思ったが、相変わらず本心から自らを卑下するスグリを前にその名前を呼ぶ。

「以前言っただろう? 俺は君の努力に敬意を表する。同時に、君の才能も素晴らしいと思う。その腕に見合った態度を取れ、とまでは言わないが、謙遜もほどほどにしておきなさい。いいね?」

「あ――は、はいっ」

スグリの目をじっと見つめながら言うと、スグリは何度も頷く。あまり説教はしたくないが、スグリは自分の実力通りの態度を取るだけで周囲からの見る目も変わると思うんだ。

(ま、やれと言ってそれができれば苦労はしない、と)

技術的なことなら可能だろうが、性格的な部分は中々に難しい。そう判断した俺は空気を変えるように話題も変える。

「そういえば、透輝とは面識がなかったんだったか。実際に会ってみてどうだった?」

錬金のレシピ、閃いた? なんてことは直接聞けないため、遠回しに確認をする。折を見て聞いておきたかったんだよね。

「どうだった、と言われましても……えっと、その……あ、あまり話してなくて……」

「そうか……いや、透輝は別の世界の人間だからな。話してみたら錬金術の助けになるきっかけだったり、何かしらの閃きがあったりしないか、なんて思ったんだ」

俺の問いかけに対し、スグリは困惑した様子である。学園での交流ではないからか、さすがにゲームみたいにポンポン錬金レシピを思いつく方がおかしいのか、期待した効果はないようだった。

「あ……えと、悪い人ではない、と……思いました、よ?」

うーん、俺が聞いたからなんとか感想を絞り出しました、と言わんばかりの反応だ。そんなスグリの反応に思わず苦笑していると、スグリは小さく首を傾げる。

「そういえば、その、ミナト様、だ、ダンジョンの中で何か気にされていました、よね? 何か、ありました……か?」

おっと、日中に俺が周囲を警戒していたことに気付かれたらしい。まあ、割と周囲を見ていたからな。

「強力なモンスターが出ることもなく、ダンジョンが異常成長することもなかった……それが不思議でね」

「え、えっと……そ、それって、普通のこと……では?」

「……うん、そうなんだけどね?」

スグリが困惑したように首を傾げているけど、俺としては異常事態だったんだ。

(警戒は解けないとしても、気を張り詰めすぎるのも良くないからな。明日からはもう少しだけ気を抜くか)

とりあえず非戦闘員のスグリに気付かれない程度には警戒を抑えるとしよう。でも、今日もそこまで露骨に態度に出していたつもりはないんだが……頻繁にスグリの視線を感じたし、それだけ注目されていたってことかな。

「とりあえず、何事もなくて良かったってことさ。それじゃあ俺は運動がてら素振りをしてくるよ。スグリもほどほどのところで切り上げて、明日に備えて寝るように」

「は、はい……おやすみなさい」

「ははは、おやすみには少しばかり早いがね。それじゃあ、おやすみ」

そう言って俺は、明日も何事も起きなければいいが、なんて思いながら素振りに向かうのだった。