軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第182話:閉会

学年不問条件不問部門の決着により、予定されていた全ての試合が終了となった。

これにて武闘祭は閉幕となり、最後に上位入賞者を表彰してお開きとなる。

表彰されるのは各部門の優勝者と準優勝者、それと準決勝で破れた二人の合計四人だ。表彰台が運び込まれ、国王陛下から直々に名前を呼ばれて称賛される形となる。

学生の試合ではあるが、王都の民達にとっては十分に楽しめる催しだったのだろう。試合が終わったというのに席を立つ者がほとんどおらず、表彰式までしっかりと見て帰るつもりのようだ。

上位入賞者は整列し、自分の番が来るまでは待機する形になる。そのため俺も学年不問条件不問部門の先頭に立っているのだが、正直なところ滅茶苦茶しんどい。ここまで早く休みたいと思ったのは久しぶりだった。

『一の払い』の完成形――そう呼ぶと再び歩みが止まりそうだが、コレがまた消耗が激しかった。『閃刃』を初めて使った時もそうだったが、普段使っていない筋肉を使った時のような言い知れぬ疲労感が襲い掛かってくるのである。

体力というより生命力とMPを消耗して技を放った気分だ。いやぁ、『閃刃』といい他の技の研鑽といい、自主訓練が捗るわぁ。透輝はしばらく魔法の訓練に集中させたいから、俺自身の訓練に没頭してもいいかもしれない。

「それではこれより、表彰式を執り行う! まずは一年生の剣術部門! 優勝者! 貴族科トウキ=テンカワ君!」

そうやって俺が疲労と戦いながら今後に関して考えていると、表彰のトップバッターとして透輝の名前が呼ばれた。一年生の剣術部門が最初で、学年不問条件不問部門が最後だ。

「は、はい!」

割と能天気なところがある透輝だが、さすがにこういう場では緊張するのか少しばかり声が上擦っている。

「トウキ=テンカワ。まだまだ粗削りだが、最後の一太刀には光るものを感じたよ。これからも修練を積み、頑張ってくれたまえ」

「えっ……あ、ありがとうございます!」

そんな透輝に国王陛下が笑いかけ、優勝したことを示す金のバッジが納められた小箱を手渡す。年金付きの勲章ではなく、正装にも着用できるよう作られた 記章(きしょう) だ。あくまで学生の武闘祭だが、好成績を収めるのは相応に名誉なため、こういった形ある物でそれを証明するのだ。

準優勝だと銀、ベスト四だと銅の記章が授与される。あくまで記念品だが人によっては一生モノの記念品になるだろう。聞くところによると国王陛下直々に授与されたということで家宝にする家もあるのだとか。

(ん? 陛下が透輝に何か……えーっと、『娘をよろしく頼む』か?)

笑顔の国王陛下が透輝の耳元に顔を寄せ、囁くように何か言ったのが見えた。距離があるし声が小さいから聞こえなかったが、唇の動きからおおよその意味を読み取る。

ただ、透輝の表情がどことなく引きつったように見えるから、笑顔の外見ほど明るい声色ではなかったのかもしれない。意味深な よ(・) ろ(・) し(・) く(・) 頼(・) む(・) だったのかな? 手を出したらどうなるかわかってるな? みたいな。

そうやって透輝と国王陛下の様子を見ていると、準優勝のナズナや他の上位入賞者が表彰されていく。学年不問条件不問部門は最後になるためまだまだ長そうだ。

「学年不問の魔法部門! 優勝者、貴族科一年モリオン=ロライナ=ユナカイト君!」

「はい」

疲労に負けないよう気を張って表彰を眺めていると、モリオンの番が回ってきた。さすがというべきか、モリオンは特に緊張した様子もなく国王陛下と相対する。

「一年生にもかかわらず、見事な魔法の腕だった。将来の進路は決まっているのかね? もし決まっていないのなら王国騎士団の席を用意しよう。どうかね?」

おっと、国王陛下からの評価が滅茶苦茶高い。表彰の場で勧誘されるなんて滅多にあることじゃないからな。でもモリオンの戦いぶりを見ていればそれも当然か。全部の部門の中で一番余力を残して優勝したのは間違いなくモリオンだしな。

「御評価いただき、ありがとうございます。恐縮ながら進みたい道は既に決めておりまして……」

「そうか……それは残念だ。もしも気が変わればいつでも王国騎士団の門を叩くと良い。君なら大歓迎だとも」

うん、断るとは思っていたけど、本当にあっさりと断ったな。そんなに進みたい道があるの? というかやっぱりうちに来る気じゃない?

(うちの騎士団に入れて、騎士団長がゲラルド、その脇をモリオンが固めて……うーん、そうなったら次世代のサンデューク辺境伯家は盤石だな)

ははは、と半ば現実逃避するように思考する。いやぁ、それだけの戦力があれば大規模ダンジョンの間引きも楽にできそうだなぁ。その前に『魔王』をどうにかしないといけないんだけどね?

「学年不問の条件不問部門! 優勝者、貴族科一年ミナト=ラレーテ=サンデューク君!」

「はい」

教師に名前を呼ばれたため返事をして国王陛下を見る。王城では何度も会ったけど、それ以外の場所で会うのは初めてだ。

「ミナト=ラレーテ=サンデューク。『王国東部の若き英雄』の名に恥じぬ剣技、しっかりと堪能させてもらった。既に第三等の勲章を授与しているが、これも一つの勲章だ。受け取ってくれたまえ。優勝おめでとう」

そう言って差し出されたのは他の優勝者と同じで金のバッジである。それと一緒に『百花勲章』が入った小箱も渡され、俺は胸に右手を当てて最敬礼してから受け取る。

話そうと思えば王城に呼び出して話せるからか、俺に対するコメントは控えめだ。普通は気軽に呼び出して話すことはないはずなんだが、一応、臣下ではあるが親戚でもあるからな。

それでも勲章を授与されると観客から大きな歓声が飛ぶ。勲章の授与式を見る機会って少ないし、これも一つの見世物だろう。これで負の感情が少しでも減って『魔王』の発生が先延ばしになれば助かるしな。

(色々と実りのある武闘祭だったな……って、これで来年からは出禁か)

最後にそんなことを思い、多くの歓声を浴びながら武闘祭が閉幕したのだった。

武闘祭があった日の夜。

普段なら自主訓練として第一訓練場で夜遅くまで剣を振り回している俺だが、今日は疲労も大きいし軽めのメニューである。

ここ最近は夜も賑わっていた第一訓練場だが、武闘祭が終わったこともあってかガランとしており、この場にいるのは俺と、俺が呼び出した透輝だけだった。

「武闘祭が終わったその日も訓練って……まあ、正直に言ってそうじゃないかなって思ったけどさ」

「といっても今日はさすがに軽めだぞ? 試合で掴んだ感覚を少しでも体に覚え込ませたいが、疲れが溜まりすぎると害しかないからな」

透輝は呆れたような顔だが、その手には訓練用の木剣が握られている。透輝もなんだかんだで剣を振ってから休むつもりだったのだろう。剣士として良い傾向だ。

「ま、俺も素振りをするつもりだったけどさ……それで? 用件っていうのは?」

準備運動をしながら透輝が尋ねてくる。その問いかけを受けた俺はどう答えたか迷ったものの、迷う必要もないか、と用意していたものを取り出して差し出した。

「透輝、これを」

「……これは?」

俺が透輝に手渡したのは、 剣帯(けんたい) である。

透輝は基本的に『召喚器』を使って戦うだろうから必要ないとも思ったが、ポーション等を携帯するためのポケットがついた特注品だ。

以前、野外実習で透輝にポーション等の持ち運びについて聞かれたことがあったが、あれから買う様子がなかったためこちらで用意したのである。

「剣術部門で優勝したお祝いだ」

「えっ? いいのか? うわっ、かっけー! ありがとう!」

俺が剣帯を手渡すと、目をキラキラとさせながら腰に巻く。うん、ある程度は調節できるから大丈夫だとは思ったけど、サイズは問題ないな。

「本当は俺も剣を教えてくれた先生に倣って剣を渡そうと思ったんだが……正直なところ、透輝が使う『召喚器』以上の剣が見つかりそうになくてな。それでも剣士として見た目から入れるよう、とりあえず剣帯を用意したってわけだ」

別に剣を差さずとも、ポーション類を携帯するためのものと割り切って使えば良い。もちろん『召喚器』以外の武器を携帯するために使っても良いのだ。

「はー……こういうのをもらっちゃうと、俺も『召喚器』以外に剣が欲しくなるなぁ。ミナトは『召喚器』以外にも武器を持った方が良いと思うか?」

「そりゃあそうだろ。俺だって……ほら」

そう言って俺が見せたのは、予備の武器として携帯している短剣である。普段使うことはないが、スギイシ流には投擲術も含まれている。そのため斬って良し投げて良しの刃渡り三十センチほどの短剣を選び、携帯しているのだ。

「俺が習った流派は素手でも戦えるように鍛えるが、武器のあるなしは大きいからな。ただ、透輝の場合は『召喚器』が名剣すぎるからなぁ……『召喚器』を使うなら正直な話、邪魔でしかないだろ」

『召喚器』は扱いに慣れれば長時間発現したままにできるし、透輝の場合邪魔な重りにしかならないかもしれない。『瞬伐悠剣』みたいに他人の『召喚器』なら優れた切れ味や頑丈さを期待できるし、能力を引き出すことができるなら携帯する意味もあるのだろうが。

ま、それは追々考えれば良いことだ。俺は剣帯をつけて喜んでいる透輝に真剣な表情を向ける。

「透輝」

「はい」

こちらの雰囲気から真剣な話題だと察したのか、透輝も真剣な表情で頷く。いつの間にかそんな反応もできるようになったんだなぁ、なんて内心で少しだけ感心した。

「剣術部門で優勝したお祝いとは言ったが、君が優勝する確率はそこまで高くないと思っていた。もちろん、鍛え始めて五ヶ月程度で優勝の可能性があるってだけで普通はすごいんだが……君は試合中にどんどん成長して強くなったな」

その成長ぶりはこちらの予想を超えるほどのものだった。相手に攻め込まれても崩れず、防戦に徹し、一戦ごとに成長し、そして勝った。言葉にすればそれだけだが、普通は格上相手に攻め込まれたら負けるだろう。

「一人前になったとは言わん。まだまだ未熟で、半人前が精々だ。だけど、剣術部門で優勝するほどに成長したんだ。剣を教えた身として誇らしく思うよ」

「ミナト……」

俺の言葉を聞いた透輝は目を見開き、僅かに声を震わせる。そして照れたように頭を掻くと、少しばかりだらしなく表情を崩した。

「へ、へへへ……そんな風に言われると照れるな。なんか、改めて優勝したんだって気分になってきた」

おうおう、喜んどけ喜んどけ。実際、大したもんだよ。俺が逆の立場だったら優勝どころか本戦出場も怪しかったわ。

そう考えると透輝の才能の高さを改めて実感するけど、剣を教えた相手がここまで成長すると嬉しいわけで。うん、下手すると自分が優勝するよりも嬉しいかもしれない。いや、普通に自分の優勝より嬉しいわ。

「そういうミナトもどこか嬉しそうだな。優勝がそんなに嬉しいのか? それとも他に何かあったとか?」

俺の表情の変化に目ざとく気付いたのか、透輝が尋ねてくる。優勝は優勝でも、俺じゃなくてお前さんの優勝だからな?

ただ、嬉しかったことは他にもあった。そのため苦笑しながら答える。

「これから先どうやって、どれぐらい成長できるか悩んでいたけど、思わぬ打開策が見つかってね。一人の剣士として、それが嬉しくてたまらないんだ」

多分だけど、これもランドウ先生の 宿(・) 題(・) だったんだろうなって。『三の突き』まで覚えたから『閃刃』に辿り着くのは当然として、そこから先、自らの腕を磨くために何が必要で、どうすれば良いかに気付けるかどうか。

気付けなくても普段から剣を振り続けていれば少しずつでも成長していたんだろうけど、今回の 気(・) 付(・) き(・) で一気に目の前が啓けた気分だ。

ランドウ先生に教わらなければ大幅な成長は最早望めないと思っていたが、自力でもまだまだ成長できそうである。

――それが、とても嬉しかった。

「えぇ……ミナト、まだ強くなるのかよ……観客席で見てたけど、あんなバカでかい水の塊をぶった切っておいてこれ以上どうするっていうんだ?」

しかも電気がバチバチ鳴ってたのに、なんて言って顔をしかめる透輝に、俺は小さく笑う。

「なあに、まだまださ。少なくとも強くなれる余地があるのなら強くなる……それが剣士って生き物だよ」

「……ししょー、剣士の前に貴族じゃなかったっけ?」

そんなツッコミを入れてくる透輝に対し、俺は笑みを深めた。貴族だけど剣士でもあるからいいんだよ、なんて。

思った以上に実りのある武闘祭が終わって。俺はまた一歩、前へと進んだのだった。