作品タイトル不明
第164話:天賦の才 その2
武闘祭の参加に関しては生徒ごとに参加の希望が取られ、剣術部門、魔法部門、剣術と魔法の剣魔武門、なんでもありの条件不問の四種類にわかれる。
その上で同学年だけのトーナメントに参加するか、全学年参加のトーナメントに挑むか。つまり八種類の中から参加を希望するものを選ぶ――のだが。
「学園長、私が一年生の剣術部門に参加できないとはどういうことでしょうか?」
武闘祭の開催はまだまだ先だが既に参加受付が行われており、せっかくだからと申請したら学園長に却下されてしまった。
そのため理由を聞きに学園長室を訪ね、相変わらず四十代には見えない若々しいコーラル学園長と向き合う。
「どういうことも何も、お主が一年生の剣術部門に参加したら優勝は決まりじゃろ。全学年参加の剣術部門でさえ優勝はほぼ決まりじゃろうに……むしろなんで一年生の剣術部門に参加できると思ったんじゃ?」
「いえ、私は一年生なんですが……」
一年生が一年生の剣術部門に参加しようとして却下されるなんて、普通は思わないだろうに。
そんな気持ちを視線に乗せると、コーラル学園長はため息を吐く。
「お主が出たら対戦相手にとってはただのイジメじゃろ。お主も自分より遥かに弱い者をいたぶる趣味はなかろうて。そうなると一人の教育者として認められんわい。条件を絞って素手なら……いや、それはそれで負けた側が余計に辛くなるから却下じゃな」
えぇ……せっかく透輝の成長ぶりを大舞台で確認できるチャンスなのに……。
「真面目な話、武闘祭での成績は騎士科の生徒にとって将来の就職先を左右するからのう……お主が出場したら多くの生徒が困るわい」
「実戦では相手を選べませんよ? 学生の内に壁に挑むべきでは?」
「壁が分厚くて高すぎじゃろ……」
うーん、俺に対するコーラル学園長の評価がいやに高いな。しかしまあ、多くの生徒の将来にかかわるからと言われるとこちらとしても困る。
「といっても、お主も一応は学生じゃ。全ての競技に参加禁止とまでは言わん。学年不問、条件不問なら参加しても良いぞ。優勝したら来年からは参加禁止にするがのう」
「一応って……」
扱いが酷くないですか? なんて言いたいところだが、学園長の言い分も理解できる。
各部門での上位入賞者は表彰されるし、学園長の言う通り将来就職でも有利になるが、学年不問条件不問のトーナメントに関しては条件が厳しいだけあって優勝すれば見返りも大きい。
『花コン』では一度優勝すると『百花勲章』が、三年連続で優勝すると『白銅百花勲章』が授与されるのだが、これは現実でも変わらない。
そして俺はといえば、『王国北部ダンジョン異常成長事件』やリンネの件で既に『白銅百花勲章』を授与された経験があった。つまり俺は最難関のトーナメントを三連覇するのと同等の功績を挙げたと見做されており、学園長のいう参加禁止というのも意地悪ではないのだ。
むしろ一度だけでも出場させてくれる分、まだ温情があるというべきか。
(そうなると透輝の方を学年不問、条件不問で出場させて……いや、いくら天才だろうとさすがに今年は無理か。予選を勝ち抜けるかどうかも怪しいぞ……)
一年生の条件不問戦ならまだしも、全学年が対象となると透輝でも厳しい。『召喚器』を使える水準の生徒が何でもありで戦うのだ。剣術の基礎を固めた程度の透輝では良い勝負はできても勝つのは難しいだろう。
それでも主人公らしくなんだかんだで勝ち抜くかもしれないが――。
(今年は参加せず、透輝が十分に成長しているであろう来年に参加するか? それいける? んー……駄目っぽいな。駄目かぁ)
普通に考えたら一年後の方が強くなっているのは透輝だけじゃない。俺も該当するだろう。そうなると学生の内で一番未熟な時期である一年生の時にだけ参加を許すというのも理解できる話だ。学園長の目がそう語っている。
(既に勲章も持ってるし、優勝したらあとは大人しくしてろってことかね……これで俺が負けたらどうするんだろ? その場合はさすがに来年以降も出場していいよな?)
そんなことを考えるが、出場する以上は一剣士として優勝を狙う他ない。透輝と決闘をした時みたいに、勝負に勝って試合に負けるみたいな真似はできないのだ。
(仕方ない……透輝相手に戦うのは模擬戦で済ませるか。実戦さながら、お互いに優勝を狙うトーナメント戦みたいな状況は丁度良かったんだけどな)
透輝を育成するために参加させてください、とは言い難い。透輝を成長させるにあたり、トーナメントで戦わせるのは必須でも俺と戦うのは必須ではないからだ。
(とりあえず、透輝を育成していく上での当面の目標が決まったと前向きに考えよう。部活の試合じゃないけど、透輝としても実力を発揮する場所が決まっているってのは大きいだろうしな)
そうと決まれば透輝を優勝させるためにも訓練内容をもっと手厚くしなければ。
そう結論付けた俺は、コーラル学園長に挨拶してから意気揚々と学園室を後にするのだった。
「――と、いうわけで。十月の一週目に行われる武闘祭。そこを当面の目標として鍛えていくからな」
「えっ、どういうわけ?」
放課後に透輝の訓練を始める前に、俺は改めてそう宣言した。当面の育成方針に関しては既に固めていたが、それを披露する場に関しては決めていなかったため丁度良い。
すると透輝が困惑したように首を傾げたため、武闘祭に関して簡単に説明をしていく。こういうことって普段はアイリスから聞くんだろうけど、武闘祭はだいぶ先の話だしな。まだ四ヶ月ちょっと猶予があるし、アイリスもそんな先の話はしていなかったのだろう。
「へー……こっちの世界の運動会ってそんな感じなのか。ちょっと物騒だなー」
説明を聞いた透輝の反応はそんな呑気なものだった。のほほんとした様子で話を聞く透輝に、俺はしかめっ面を向ける。
「残念ながら俺は一年生の剣術部門について、参加禁止を通達されてしまったからな……実戦に近い環境で透輝と全力で戦うつもりだったんだが」
「ちょっとどころか滅茶苦茶物騒だなっ!?」
それまでののほほんぶりを放り投げるようにして透輝が叫ぶ。物騒じゃないよ、剣を教えている者としての義務と権利だよ。
「ミナト様は既に勲章持ちですからね。全てのトーナメントで出場を禁止されたのですか?」
今日は暇だったのか様子を見に来たモリオンが尋ねてくる。その顔には俺の出場禁止も当然だという納得の色があった。
「学年不問、条件不問なら参加してもいいそうだ。ただし、優勝したら次からは出場禁止らしい」
「まあ、その辺りが落としどころでしょうね。ミナト様が剣術部門に参加すると騎士科の面々が優勝できなくなりますし、死活問題かと。派閥の連中には間違っても学年不問、条件不問でトーナメントに出ないよう通達しておきます」
いや、別に自信があるのなら出てもらってもいいんだよ? 派閥とか関係なく、勝てると思ったら挑んできてくれていいんだよ?
「なんだモリオン、君は出ないのか?」
「はい。私は学年不問の魔法部門に出ようと思っていますので」
モリオンの選択はある意味当然というべきか、この学園にいる魔法使いのトップを決める魔法部門を選択するらしい。
剣魔部門や条件不問はどちらかというと実戦志向で、相手を如何にして倒すかを競うからな。まあ、魔法部門も方法が魔法に限定されるだけで、相手を倒すってことに変わりはないんだが。
(自分で言うのもなんだけど、俺を剣術部門で出場禁止にするならモリオンも魔法部門で出場禁止にした方が良いような……撃とうと思えば上級魔法を撃てるんだぞ?)
学生なら中級魔法を扱えるだけで天才だと騒がれるところだが、モリオンは光と闇属性を除いた全ての属性で中級魔法を使える。その上で上級魔法まで使えるのだから、俺よりも出場禁止に相応しいんじゃないか、なんて思えるわけで。
まあ、俺が知らないだけでモリオンを上回る魔法の使い手が生徒の中にいる可能性も否定できないし……仮にモリオンがぶっちぎりで優勝したら俺と同じく、来年から出場禁止に……なるか? 俺は勲章持ちだから仕方ないけど、モリオンはそうじゃないからな。
優勝したからと出場禁止にした場合、学年不問条件不問で三年連続で優勝して『白銅百花勲章』を狙うこともできなくなる。
「それではわたしが一年生の剣術部門に出場しましょう。その頃ならテンカワも基礎が固まっているでしょうし、剣だけでの戦いなら丁度良い勝負になるかと」
俺とモリオンの会話を聞いていたナズナがそう提案をする。
能力的にナズナは『召喚器』ありの条件不問戦が一番向いているが、使うのが盾とあって負けない戦いは得意でも勝つための戦いはそれほど得意ではない。そのため同学年限定での剣術勝負というのは悪い選択肢ではないだろう。
ナズナもなんだかんだで俺と同じ年数、剣を振ってきたのだ。今では盾の扱いを重視して守ることに特化した戦い方になっているものの、剣が振れなくなったわけではない。
(うーん……たしかにナズナなら剣術だけに限れば透輝の相手として丁度良いか? もしも透輝の成長が俺の予想を超えて育っていったらナズナでも厳しいかもしれないけど……)
それはそれで透輝に自信をつけさせる結果になるだろう。それで過信を抱くようなら伸びた鼻を叩き斬るまでだ。
(武闘祭の前に斬るための練習もさせて……可能ならダンジョンにも放り込むか。いやぁ、育てるためにやるべきことが山積みだな)
剣術の基礎を固める段階でコレなのだ。魔法を教える段階になればどうなるか。モリオンに協力を頼むとしても、今回みたいに 手(・) 頃(・) な(・) 壁(・) を用意しなければならないだろう。
俺は魔法に関しては知識だけで実践はボロボロだしな。その辺りは追々、モリオンと相談しなければなるまいよ。
ランドウ先生が学園に赴任すればスギイシ流の技を教えてもらえるよう頼む予定だが、それまでに先生の目に留まる水準まで透輝を鍛え上げなければならない。
俺がランドウ先生に教わり始めた時は七歳だったため、体の成長を待ちながら鍛える形になった。しかし透輝はある程度体が育っているため、こうして詰め込むようにして鍛えることができる。
「やるからにはナズナには優勝するつもりで戦ってもらわないとな。ナズナ、俺の従者として盾の扱いだけではないというところを見せてやってくれ」
「はっ! 若様の従者として恥じない成果をご覧に入れてみせます!」
俺が発破をかけるように頼むと、ナズナもノリノリで答えてくれる。それを見た透輝が『マジかよ』みたいな顔をしているけど、マジだよ。本当は俺が相手をしたかったけど、俺の忠臣が相手をしてくれるよ。
「透輝も当然、優勝を狙ってもらうからな。この短期間でもかなり伸びているし、これからはもっと厳しく鍛えていく。いいな?」
「おう! もちろんだっ!」
俺の言葉に元気よく返事をする透輝。うん、良い返事だ。それなら宣言通り鍛えさせてもらおう。
こうして、武闘祭に向けて透輝をよりいっそう厳しく鍛える日々が始まったのだった。