軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第162話:勧誘 その3

生徒会室と同じく、学術棟の四階に存在する生徒会用の錬金術の工房のチェックをメリアに見守られながら行い、無事に完了した俺はアイリスに報告を行い、錬金術に必要な素材に関してルチルに交渉する許可を得ることができた。

そのため休日を挟んだ次の登校日になると、派閥の人間を技術科へと向かわせてルチルにアポイントを取る。今までは自分の足で向かっていたが、今回は生徒会の人間としての正式なコンタクトだ。派閥の人間にもしっかりと協力をしてもらう。

そうやって事前の根回しをして、相手方の承諾を得られたため実際に会うことになった。

時刻は放課後、場所は貴族科の食堂である。前世風に言えば喫茶店での打ち合わせみたいな感じだ。

打ち合わせといっても今の段階では資料もない。シトリン商会が学園に錬金術の素材を卸せるかどうかの確認をするのが目的だからだ。まあ、俺としてはルチルと交友を深めるのが主目的だが。

(といっても、以前会った時の感じからすると仲を深めるのが難しそうな相手だけどな)

どうにも俺への隔意を感じるし、それでいてその感情を隠しながら接してくるだけの理性がある相手だ。こうして気取られている以上、隠しきれてはいないんだけどね。

そんなわけで放課後になり、透輝に今日の分の訓練メニューを伝え、そのまま貴族科の食堂へと向かう。するとさすがは商人というべきか、食堂では既にルチルが待っていた。

「やあ、ルチル。こちらから面談を希望したのに待たせたようですまない」

「いえいえっ! 商談と聞けば先に待ちたくなるのが商人というものでして! それに到着してから一分も待っていませんから!」

ルチルは一見友好的に見える営業スマイルを浮かべ、席に座るよう促してくる。そのため俺も席をどうぞと勧めてからお互い席に着いた。

「さて、まずは何か頼まれますか? 私、貴族科の食堂に来るのは初めてでして。何かお勧めのものがあればそちらを頼もうと思うのですが」

「ははは、さすがにどこの科でも食堂のメニューは一緒だろうさ。好きなものを頼むといい。今回はこちらが持ち込んだ話だし、奢らせてもらうよ」

「それはそれは……サンデューク殿に奢ってもらうなど、クラスメート達に知られれば嫉妬されそうですな。知っていますか? 技術科ではサンデューク殿のことが話題に挙がらない日はないんですよ?」

本題に入る前の雑談として、そんな話を振ってくるルチル。雑談にしては反応に困る内容だが……え? なんでそんなに噂になってるの?

「そうなのかい? それはなんとも照れるな。ただ、入学してすぐの頃なら決闘ばっかりしていたから話題になってもおかしくはないんだろうが……まあ、今は先日の野外実習のこともあるか」

「ええ、そうなんです! 現れるはずがない中級モンスター! 更には上級モンスターの火竜まで現れて! ピクニックが一転して絶望的な状況に変わり、最早これまでかと諦めかけたその時! サンデューク殿が空を飛んで火竜の翼を斬り! そのあとは首まで斬り落とした! その姿はまさに英雄の如し!」

まるで吟遊詩人か何かのように声を張り上げ、身振り手振りを交えて語るルチル。うん、周囲の視線が刺さるからほどほどでやめてね? あと、ジャンプはしたけどさすがに空は飛べないからね?

「数日経とうと大勢の口に上るのも当然というものでしょう! 英雄譚のような……いえ、まさに英雄譚そのもの! そんな光景を目の当たりにすれば、ね?」

そう言って微笑むルチルだが、それはそれとして仄かに悪意がにじみ出ている。これは……嫉妬だろうか? 何に対してのものかはわからないが、妬むような感情が薄っすらと透けて見える。

(火竜を倒したこと自体は心から称賛しているが……俺が活躍したことを妬んでいる? ジェイド先輩みたいにお前が気に入らねえ! って感じならわかりやすいんだが……)

俺に対して負の感情を抱いているのはわかるが、何故そうなっているのかまではわからない。それでいて隠そうとするだけの冷静さも残っているあたり、ルチルとしては八つ当たりに近い感情だと思っている……のか?

(うーん……困った。昔のモリオンみたいな対抗心に近いけど、モリオンと比べると ね(・) じ(・) 曲(・) が(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 感じがするな)

モリオンの場合はお互いに神童なんて呼ばれていたし、領地も東部同士でそれなりに近いから噂が届きやすく、対抗心を抱かれるのもまだ納得ができた。

だが、ルチルは王都在住で俺の領地から遠く、立場も貴族と商人で違いがある。

(『花コン』だとルチルはシトリン商会の跡取り息子って立場に嫌気がさしてはいたが……仮にまったく同じだとしても俺を嫌う理由が見つからん。いや、自分の立場と比較して良く思っていないのかもしれないけど……)

ルチルは大商会の跡取り息子とあって、非常に恵まれた立場といえる。それこそ並の貴族よりも豊かで恵まれた生活を送ってきたはずだ。

しかし『花コン』ではそんな立場に生まれたからこそ、何をするにしてもシトリン商会の影がちらついてしまう。自分に近付いてくる人間もシトリン商会という大商会の財力等を目当てにした者ばかりで、幼い頃から人間の欲というものを散々目の当たりにしてきたのがルチルだ。

(それらの事情から考えてあり得そうなのは……俺が 自(・) 力(・) で(・) 成(・) 功(・) し(・) て(・) い(・) る(・) ように見える、とか?)

初めて会った時も俺の実績がどうこう言っていたしな。ただ、その予想が合っていた場合、俺からは関係の改善ができないというか……。

(俺が何かを言ったとしても、お前がそれを言うな、で終わりそうだな。もちろん、表には出さずに内心だけで言うんだろうけど)

あくまで俺の推測だ。ただ、的中していた場合は俺から歩み寄ってもどうしようもなさそうな推測である。一応、こうして商談に来てくれるぐらいの冷静さがあるから、長く付き合っていけばどうにかなるのかもしれないが。

(長く付き合うっていっても 制(・) 限(・) 時(・) 間(・) があるからな。どうしよう……)

時間をかけて交流して、その間に『魔王』が発生しました、では話にならない。可能な限り速やかに打ち解けたいんだが、その糸口も掴めないわけで。本当にどうしたもんか。

「知らないところで噂されるというのは、なんとも面映ゆいものだね。飾らずに言うなら……まあ、なんだ、照れてしまうよ」

とりあえず会話で少しでもルチルからの印象を好転させよう。ただし、ルチルも商人として教育を受けてきた身だ。露骨に態度を変えるとすぐに勘付かれてしまうだろう。そのため本音でぶつかることにする。

「おや、様々な異名で呼ばれるほどに功績を挙げられた方でも照れるのですか? てっきり慣れているものかと思いましたが」

「いやいや、それなりに功績を挙げてきたのは事実だがね? 照れるものは照れるさ」

『サンデュークの神童』とか『王国東部の若き英雄』とか言われると、照れるのを通り越して背筋が寒くなってしまうぐらいだ。本当に勘弁してほしい。

しかし貴族としては挙げた功績に見合った態度を取らないのも問題になる。謙遜のし過ぎは美徳ではないのだ。

「正直なところ、功績以上に扱いが大きくて困っている部分もあるんだ。ただ、それは 仕(・) 方(・) の(・) な(・) い(・) 事(・) 情(・) が関係してもいるからね。文句も言えないよ」

ふぅ、とため息を吐く。俺が英雄扱いされているのも、民衆向けに明るい話題を提供して負の感情の発生を抑えるためという側面があった。

負の感情が『魔王』の発生に関与していることをルチルが知っているかは不明のため、ぼかした形で話す。すると、ルチルはどこか意外なものを見るように小さく目を見開く。

「驚きました……貴方のような存在でも愚痴を吐くんですね?」

「おっと、これは失礼。すまないな。少し気が抜けていたようだ。他人の愚痴など聞いても面白くないだろうに」

俺はわざと弱味を晒すように苦笑する。

俺に対して色々と思うところがあったとしても、俺も君と同じで文句があれば愚痴を言うし、同年代の子どもなんだよ、というアピールだ。愚痴の部分は本音だから見抜けまいよ。

「いえ、むしろ興味深いですよ。 あ(・) の(・) サンデューク殿がそんなことを考えているなんて驚きです」

「そうはいうが、俺もまだまだ未熟な身だからなぁ。技術科でどんな噂が流れているかは知らないが、完全無欠な人間とでも言われているのかい?」

「まあ、それに近いことは言われていますね」

「言われてるんだ……」

冗談だったんだけど。完全無欠っていうのはアレクみたいな人間を指して使う言葉だよ。俺の場合、いくらでも欠けているからね。むしろ欠けすぎてウニみたいにトゲトゲしているぐらいだ。

「他にどんな噂が流れているのか、興味が湧くが……聞くのが怖いからやめておくよ。そろそろ本題に入るとしようか」

「私はもう少し話していても良かったですけどね。それでは商談に移りましょうか」

俺としてはこの雑談こそが本題と言えたが、あまり長々と続けていると違和感を持たれるだろう。そう思って話題を変えると、ルチルは少しだけだが言葉通り話し足りなさそうな表情を見せた。

このまま喋り続けて、生徒会に勧誘できれば最高なんだが……さすがにそれは厳しすぎるだろう。

「本題といっても、君の家に掛け合ってもらって生徒会宛てに錬金術の素材を卸せるかどうか、というのが最初に確認するべきことでね。実際のところどうなんだい? ポーションの取り扱いを始めるとは聞いたが、素材を他所に回す余裕はあるのかな?」

シトリン商会がポーションの販売を始めるというのは、ジョージさんを通して実家のレオンさんにも報せてある。王都に居を構える大商会の一つが 主(・) 力(・) 商(・) 品(・) になり得るものを増やすというのだ。その情報は価値が大きかった。

(生徒会で使用する分とはいえ、他所に素材を回せるのだとすればそれだけの在庫を集める力があって、物流もしっかりしているってことだが……)

ポーションを作るには錬金術師と素材が必要となる。そのどちらが欠けても意味がなく、大々的に売りに出せるぐらいポーションを作れるということは相応に素材の在庫も抱えている、ということを示唆するわけだが。

「そうですね……生徒会に卸す分ぐらいならどうとでもなりますが、当商会としましては完成品であるポーションの方をご購入いただきたいわけでして」

「それも道理だな。ただ、こちらも凄腕の錬金術師に協力を頼んでいてね。素材があればこちらでも作ることができて安上がりなのさ」

そう言ってから、俺は意識して笑う。

「生徒会の予算も有限だからね。節約できるところは節約すべきだ。そうだろう?」

「それはごもっともですが……失礼ですが、レッドカラントさんはそれほどの腕前と? 四大家でも『赤』を司る家ですが……」

おっと、俺が誰に頼んでいるかは既に看破しているらしい。まあ、特別隠していたわけでもないしな。

「おや、俺がスグリと面識があることは知られていたか」

「それはもちろん。エリカさんもそうですが、貴方と接触があった生徒はすぐに噂になりますからね」

「はははっ、それは怖いな。そうなると君とこうして会っていることも噂されるってわけだ」

いや、本当に怖いわ……何が楽しくてそんなことを噂するの? たしかに前世の現代日本と比べると娯楽が乏しい世界だけど、もうちょっと他にやるべきことがあるだろ?

「明日登校すれば私はクラスの人気者ですよ、きっと。サンデューク殿とどんな話をしたのか、興味津々で聞かれると思います」

「ははは……はは……あー、もう少し配慮すれば良かったか。すまないな」

そんなことになってるなんて思わなかったわ。いやまあ、派閥の下の方からそれらしいことは報告があったけど、ここまでとは思わなかったよ。

軽く謝罪してから俺は本題に戻ることにする。

「スグリの手を借りるというのは正解だ。これまでに何度か彼女の家からポーションを買ったことがあってね。 馴(・) 染(・) み(・) の(・) 店(・) というわけさ」

「む……さすがはサンデューク辺境伯家。四大家の一つと太いつながりがあるとは……たしかにレッドカラントさんが相手では分が悪いですね。四大家の人間がポーションを作るというのに、当商会のポーションを買ってもらうというのはさすがに躊躇われます」

性能的には変わらないだろうが、信頼性という面では負けると思っているらしい。その辺り、素直に引き下がるルチルに俺は内心で評価を上げる。

「君の商会のポーションに関してだが、そっちは個人的に買わせてもらうよ。とりあえず十本ほど注文していいかな? 当家の別邸にも報せてあるから、場合によってはそちらからも商談がいくはずだ」

「それは……嬉しいですが、十本も何に使うんですか?」

素材に関しては卸してくれるみたいだし、せっかくだからとポーションを買おうと思ったらその用途について聞かれてしまった。そのため俺は、別に隠すことでもないか、と思いながら答える。

「今、縁があって剣を教えている男子生徒がいてね。手軽な回復手段が多くあれば色々と 無(・) 茶(・) が(・) で(・) き(・) る(・) だろう? 俺自身の訓練でも無茶ができるし、まとまった数のポーションがあると助かるんだよ」

大規模ダンジョンで修行していた頃は、使っては宝箱から拾い、拾っては使いとポーションのお世話になっていたからな。

「……レッドカラントさんにも作ってもらうんですよね?」

「ああ。作ってもらうが?」

そっちの分は生徒会の予算で素材を購入するんだし、生徒会で活動する際に使う予定だ。具体的にいうとダンジョンの攻略に持っていく予定である。

「俺自身まだまだ未熟だし、そんな身で教えるとなるとどうしても手荒になる部分が出るからね。だから と(・) り(・) あ(・) え(・) ず(・) で十本、ポーションを頼むよ」

なくなったらまた注文するから、と今後の顧客にもなれることを伝えると、ルチルはどこか引きつったような笑みを浮かべる。

「素材の件と併せまして……ご注文、たしかにお引き受けいたしました。早速実家に連絡しますよ」

俺はそんなルチルの様子に首を傾げながらも、引き受けてもらえるのならと詳しい条件を詰めていくのだった。