軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第153話:火竜退治 その2

手応えは硬いが四肢や鱗と比べると斬りやすかった翼が宙を舞い、火竜が体勢を崩す。残った片翼を必死に羽ばたかせているが、それでは余計に体勢を崩すだけだ。

「ッ、ガ、アアアアアアアァァッ!」

体勢が崩れたことで『火炎旋封』が乱れ、モリオンが放った『風食轟雷』に押し切られる。炎の渦が雷を纏った竜巻に飲み込まれ、一気に消滅していく。

――そして『風食轟雷』が直撃する。

バチバチと雷が弾ける音を鳴り響かせながら、頑強な鱗を切り裂くように竜巻が火竜の体を切り刻んでいく。

だが、直撃はしても『火炎旋封』とギリギリまで撃ち合っていたからか、火竜を仕留めるには至らない。地面に向かって落下し始める火竜は未だに息があり、戦意も残っているように見えた。

そんな火竜を見ながら、俺も落下する。火竜の翼を叩き斬ったけど勢いは死んでないし、そのまま火竜から離れる軌道で落下していく。

投げたボールのように山なりの軌道で跳んだため、勢いを殺すために目についた木々を空中で蹴って強引に勢いを殺していく。そして最後には木の幹に着地すると、盛大に木がしなって勢いを吸収してくれた。

(足は……問題ないな)

『瞬伐悠剣』の力を使い、全力で駆けて跳んでと負担をかけたにもかかわらず足の痛みはない。アレクから『雷光速』をかけてもらったから、そのおかげだろうか。あるいは、初めて『瞬伐悠剣』の力を使った時と比べると俺の体も大きく、強くなったからか。

(まあ、ずっと使い続けられるわけじゃないんだが……)

『瞬伐悠剣』の力を使う際は、そちらに意識を割かれてしまう。魔力のように操って使うのではなく、体の一カ所に常に力を入れ続けるような集中力を要するのだ。

そのため気を抜くと効果が消えてしまう。自分自身の『召喚器』は一度も使えたことがないからこれが『召喚器』の使い方として正しいのかはわからないが、ナズナに聞いた限りでは盾でバリアを張る時も似たような感覚らしいから、大きく間違ってはいないだろう。

体のどこにも問題がないことを確認した俺は木の幹から飛び下りて着地すると、地面に落下した火竜のもとへと駆けていく。まだ火竜は死んでおらず、勝負はついていないのだ。

「グルゥ……ガアアッ、ガアアアアァァッ!」

俺に片翼を斬られ、威力が減衰したとはいえモリオンの『風食轟雷』が直撃した火竜は痛みに悶えるように、苦しむように、地面でのたうち回っていた。

ただし、のたうち回るといってもその巨体である。周囲の木々を薙ぎ倒し、地面を陥没させ、痛みに苦しむ声は大気を揺らす。迂闊に近付けば押し潰されそうだ。

とどめをさそうにも、その 不(・) 規(・) 則(・) な(・) 暴れぶりは剣で斬るには厄介すぎる。ならばモリオンに魔法でとどめをさしてもらうか、と思ったが、俺は敢えて剣を構えた。

(ランドウ先生なら火竜が暴れていようと問題なく斬れる……でも、今の俺には無理だ。両断するより先に 剣(・) 筋(・) が(・) ズ(・) レ(・) て(・) 刃が止まっちまう)

硬質なゴムのような手応えがある、火竜の筋肉。そこに金属に匹敵する硬度の鱗が貼り付いており、なおかつ肉体がデカいためどうしても両断するよりも先に刃が止まってしまう。

完全に動きを止めていれば両断できるのかと言われると微妙なところだが、相手が動くと難易度が跳ね上がるというのは間違いない。

(プレゼント……プレゼント、ねえ)

この火竜を斬ってみろ、ということだろうか。そのためにわざわざリンネは姿を現し、火竜をこの場に呼び出したのだろうか。それは本人が姿を消したため確認のしようがないが。

(――上等じゃねえか)

たしかに才能という面では凡庸な俺だが、これでも剣士としての自負がある。ランドウ先生から教わったスギイシ流の技なら、火竜だろうとなんだろうと両断できるという確信がある。

(コイツが斬れなきゃ『魔王』はおろか、『魔王の影』すら斬れないだろ……それなら斬るしかねえ)

『瞬伐悠剣』の切れ味と、俺が持つ剣の技量。それが合わされば金属ぐらいなら斬れる。だが、火竜の肉体は金属の下に 緩(・) 衝(・) 材(・) のようにみっちりと筋肉が詰まっているのだ。

硬軟併せて叩き斬るには、これまで以上の斬撃を繰り出すしかない。

斬るだけならできるが、 両(・) 断(・) す(・) る(・) となると『一の払い』による魔力の操作、『二の太刀』による斬る技術、『三の突き』による急所を貫くための見切りが必要になる、のだが――。

(全部を混ぜ合わせると……奥義の『閃刃』、に……なる?)

まさか、と剣の柄を握る手に力がこもる。リンネの狙いと火竜の存在がつながった気がして、脳に閃きが走る。

(待て、リンネがオウカ姫なら『閃刃』を知らないはず……いや、先生に聞いた話だと、『一の払い』と『二の太刀』は完成していたけど、それ以上の技は形になっていなかった……つまり、どんな技かの構想は知っている? だからこうして火竜を?)

俺に『閃刃』を学ばせるためか? そうだとすればその意図は? 何故わざわざ俺にそんなことをさせる? 『魔王の影』だとしても人類の、いや、俺やランドウ先生の味方なのか?

そんな疑問が脳裏で飛び交い、思考がごちゃごちゃになる。しかし俺は意識して深呼吸をすることで強引に思考を打ち切ると、眼前の火竜をじっと見た。

色々と思うところはあるが、これは絶好の機会だ。リンネの目的が何であれ、俺が剣士として一皮剝けるチャンスがやってきたのだ。

一回の実戦は百回の訓練に勝る。それも、火竜という一対一だったなら勝てるかわからない強敵が相手だ。そんな強敵相手に、奥義の試し打ちができる。 そ(・) う(・) し(・) ろ(・) と促されている。

(俺が『閃刃』を使えるようになったとして……『魔王の影』には何のメリットもない。でも、『魔王の影』じゃない、リンネ本人には何かメリットがある……のか?)

そうだとしても、それがなんなのかはわからない。手のひらの上で誘導されて、何かまずい状況になるかと思ったが『閃刃』を覚えるデメリットが見当たらない。

技というのは理論で理解できて、訓練で意識して練習したとしても、実戦で使えなければ意味がない。その絶好の機会が、目の前にある。

ドクン、と心臓が高鳴った。それは剣士としての高揚だ。今まで斬れなかったものが斬れるかもしれないという興奮だ。

問題があるとすれば、俺にできるかどうかだが。

(昔、一度だけ似たような斬り方をしたことがあるが……あの時は無我夢中だったし、『三の突き』は覚えていなかった。つまり、三年分の修行の集大成ってとこか?)

かつて、ボスモンスターと化したデュラハンを倒した時。その最後の一太刀は『二の太刀』に『一の払い』を混ぜ込んだような斬り方だった。

金属でできた全身鎧であるデュラハンの体を、袈裟懸けに両断した あ(・) の(・) 斬(・) り(・) 方(・) 。アレを更に発展させれば『閃刃』になる、ということだろう。

ランドウ先生がわざわざ教えなかったのも、全ての技を磨いていけば自然と辿り着ける技ということなのかもしれない。あるいは自分で気付けという先生なりの宿題だったのかもしれないが。

それをリンネが教えたのか、あるいは偶然状況が整っただけなのか。俺は一歩一歩、火竜に歩み寄りながらゆっくりと剣を持ち上げていく。

既にアレクからの援護魔法は切れた。その上で『瞬伐悠剣』の力を解き、身体能力を平常のものへと戻す。

「若様! 火竜を仕留め」

「下がっていろ」

ナズナが駆け寄ってきたが、俺は一瞥せずに言い放つ。視線は火竜に固定し、呼吸を整え、間合いを測るように歩幅を小さいものへと変える。

「ミナト君? 一体何を……」

「あれは……ああ、そうか。デュラハンの時の……アレク殿、魔法はもういい。ミナト様に任せよう。きっと、面白いものが見れる」

アレクとモリオンの声が聞こえたが、意識を集中しすぎて構う余裕がない。柄頭に左手を這わせ、緩く構える。

「グルルゥ……ガァッ、ガアアアアアアァァッ!」

近付いてくる俺に気付いたのか、痛みを押し殺すような声を漏らしながら火竜が臨戦態勢を取った。片翼を斬り飛ばしたため最早飛べず、地面を駆けることしかできないが、それでも十分に脅威の存在だ。

火竜が地を蹴り、一気に加速する。二十メートルほど離れていた間合いを瞬時に潰し、前肢を振り上げ、俺を叩き潰そうと振り下ろしてくる。

さすがの火竜といえどダメージが大きいのか、先ほどと比べれば動きが遅かった。それでも痛みを怒りに変えて、力を込めて。

回避しなければ叩き潰されるだろう一撃。体重だけでも何十倍、下手すれば百倍以上ありそうな巨体が全力で繰り出す打撃は俺を虫のように潰すだろう。

必殺の一撃が降ってくる。空気を押しのけ、風切り音を轟かせながら。

「――――」

息を吐いて、踏み込んで、剣に魔力を乗せて、でも余計な 力(・) み(・) は乗せないで。振り上げる剣は最短距離を通り、刃先を当てる瞬間、柄を握る手に力を込めて。

不思議と、澄んだ金属音が鳴ったような気がした。剣で鱗や肉を斬る時には鳴るはずがない音が、たしかに耳に届く。

両手の中に、不思議な感覚があった。これまでにないぐらい心地よく物を斬れた手応えが脳髄まで痺れるような感覚を走らせ、俺の視界の端で両断された火竜の前肢がクルクルと宙を舞うのが見える。

――ああ、そうか。斬れたのか。

そんな感想を他人事のように抱いて、前肢を斬るために剣を振り上げた体は自然と前へと動いていた。

前肢を斬った時の感覚をまた味わいたくて。今ならきっとまたできると確信して。前肢を振り下ろしたことで俺でも手が届く位置まで下りてきた火竜の首へと、刃を振り下ろす。

『一の払い』のように魔力を込め、『二の太刀』のように技術の粋を凝らし、『三の突き』のように急所を貫く。

スギイシ流奥義――『 閃刃(せんじん) 』。

それはきっと、ランドウ先生が放つものと比べればまだまだ未熟なのだろう。それでもこれまでの鍛錬の集大成、俺の剣士としての全てを乗せた一閃だった。

繰り出した刃が火竜の首を抵抗なく通過し、剣を振り切った俺は必殺の確信と共に血を払うように剣を一振りする。しかし切れ味が想像以上に良かったのか剣には血の一滴も付着しておらず、それを横目で確認しながらクルリと剣を回した。

「プレゼント、か……言い得て妙だな」

そして思わず呟く。剣士として、間違いなく 贈物(プレゼント) だった。新たに一皮剥けるのに最適かつ最高の相手だった。

呟きと共に剣を鞘に納める。それと同時に火竜の首が上下にずれ、一拍遅れて血が噴き出す。

(次があるとすれば、今度は最初から一対一で斬れるようにならないとな)

重い音を立てながら火竜の体が地面に倒れ伏すのを聞きながら、俺はそう思うのだった。