軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第142話:舞踏会 その4

予想外の、メリアからのダンスのお誘い。

喋ってはいないけど、誘うように右手を差し出してきているからダンスのお誘い……だよな?

「……メリア嬢? 踊るのは別に構わないが、相手を間違えていないか?」

俺は透輝じゃないよ? 透輝はあっちで……あー、俺が四曲踊っている間に力尽きたのか、休憩用の椅子に座ってダウンしているな。その傍ではアイリスが心配そうに透輝の世話をしているが、立場的に普通は逆じゃない? アイリスは王女様だよ?

「…………?」

俺の言葉を聞いたメリアは小さく首を傾げた。何か間違えてる? とでもいわんばかりに。

(相手を間違えてる、と言いたいんだけど……えぇ? 本当に俺と踊るの? ほら、周りからも何事かって思われてるじゃないか……)

『誰?』とか『見たことないんだけど』なんて呟きが周囲から聞こえる。自意識過剰でなければ、俺と踊ろうとしているメリアに対しての反応なのだろう。

『花コン』でもメリアからの好感度が百を超えている場合、こうしてダンスに誘われるためメリアの行動自体がおかしいってわけじゃない。行動はおかしくないけど、どう考えてもメリアに対する好感度を稼いだ覚えがないからやっぱりおかしい。

(そもそもメリアって踊れるんだっけ? 『花コン』だと踊れなかったはずなんだが……)

舞踏会でメリアと踊る場合、ダンスを習っていないはずの主人公がメリアに教えることになったはずだが……オレア教でも戦闘技術は教えてもダンスは教えていないはずだしな。

「…………ん」

そうこうしている内に音楽が流れ始め、メリアが小さく、しかしたしかに声を漏らしながら右手を突き出してくる。踊れということだろう。

(ま、まあ、踊れというなら踊るけどさ)

誘われたら踊るのが礼儀だし、構わないっちゃ構わない。そのためメリアの手を取るが――。

(なんか滅茶苦茶見てくるな……)

やっぱりというべきか、メリアはダンスの心得がないらしく動きが滅茶苦茶だった。それなのに視線は俺の顔をじっと見ており、瞬きする暇すら惜しむように、視線で穴でも開けるように、真っすぐに見つめてくる。

さすがにドレスまでは用意できなかったのか、メリアは制服姿だ。『花コン』でも序盤は情緒が育っていないからか、スカートの裾が翻るのにも無頓着でステップを踏んでいる。あああ、ちょっと、はしたないから雑にステップ踏むのやめなさいって。

俺が手を引いてステップを少なめに踊るよう促すと、メリアは不思議そうな顔をしながらもそれに従って踊り方が大人しくなる。

「そうそう、落ち着いてステップを踏んで……そう、はいこっち」

仕方ないから教えながら踊ることにする。身長差があるから踊りにくいが、メリアも運動神経自体は悪くない。こちらの誘導に素直に従って踊ってくれる。

「そう、そう……うん、良いステップ。メリア嬢は中々センスがあるな」

「…………」

適度に褒めながら踊ると、再びメリアがじっと見つめてくる。何か言いたげというか、無感情の中にも訴えるものがあるというか、そんな瞳だった。

「……メリア」

「え?」

「……メリア」

自分の名前を繰り返すメリア。それを聞いた俺は首を傾げたが、まさか、と言いたいことに思い至る。

「そう呼べと?」

「…………ん」

ど、どういうことだ? なんでメリアの方からそんなアプローチを……いやこれアプローチか? 何を考えているのか全然わからないから、こっちとしても反応に困る。

「あー……メリア? これでいいかい?」

「ん」

これまでで最速の返事だった。そう、これでいいんだ……。

(やばい、本当にメリアの考えが読めんぞ……透輝ならわかるけど、なんで俺? 『花コン』と現実の違い? 仮にそうだとしても何がメリアの興味をひいた?)

これでメリアが照れているだとか、顔を赤くしているだとか、 わ(・) か(・) り(・) や(・) す(・) い(・) 反応をしているのならこちらとしてもギリギリ理解できる。しかし真顔なのだ。いくら情緒が育ってないとしても、真顔すぎて反応や内心が読めない。

それでもあり得るとすれば。

「もしや、オレア教の教主であるオリヴィア殿から何か言われましたか? 俺と踊ってくるように、とか」

メリアやオレア教との関係でつながりがあるとすれば、オリヴィアぐらいしか思いつかない。

「……?」

しかしメリアは不思議そうに首を傾げるだけだ。そっか……違うのか……。

(マジでわかんねぇ……たまに学園内で見かけてたけど、接触はあまりしてこなかったじゃないか)

俺が光属性の魔法の使い手なら、メリアが反応を示すのも理解できる。メリアにとっては同類になるからだ。実際、メリアが『花コン』で主人公に興味を持つきっかけはソレである。

そのあとは交流を通して仲を深めていくが、 最(・) 初(・) の(・) き(・) っ(・) か(・) け(・) が俺にはないはずだ。透輝と一緒に顔を合わせたから他の生徒と比べれば印象に残っているのかもしれないが、こうしてダンスに誘ってくるような好印象は残していないはずである。

(印象は関係なく、ただ気が向いたから誘いに来ただけって可能性もある……か……?)

脳裏に疑問が飛び交いつつ、なんとか一曲踊り終える。するとメリアはそれで満足したのか、一つ頷いて俺に背中を向けて歩き出した。向かう先は……透輝のところか。

(ええ……もしかして俺を練習台にした? ダンスを教わりたかっただけ? 本命と踊る前にちょっと練習していこう、みたいな)

それならメリアの行動も納得がいく。

こういってはなんだが、俺とカリンのペアは周囲と比べて目立っていただろうし、見知った顔が上手にダンスを踊っているから教わりに来ただけなのかもしれない。それなら納得できる。

そんなことを考えつつ、さすがに五曲連続で踊って少しばかり疲れた俺は近くにいたメイドさんから飲み物をもらい、壁際へと移動した。

「お疲れ様です、ミナト様」

すると、すぐさまモリオンが近付いてくる。息を切らせた様子もないため、一度も踊ってはいないようだ。

「君は踊らないのか?」

「ええ。私は誰が誰と踊っているか、その確認を優先しておりました」

そう言いつつ、モリオンは基本的に曲ごとに踊る相手が変わっていくフロアへと視線を向ける。

「舞踏会はこれからもあります。その時、今日と同じ相手と踊るのか、それとも別の相手と踊るのか……それによって見えてくるものもあるでしょうから」

「……ほどほどにな」

その見えてくるものって、弱点とかじゃない? そう思ったものの、詳しくは聞かないことにする。

「その点、ミナト様はさすがですね。婚約者候補と傍付きが相手なら誰も疑いようがありません。ただ、最後のあの少女は一体……かなりの手練れに見えましたが?」

「図書館で出会った子なんだが、どうやら俺にダンスを習いにきたらしい」

「……ミナト様に、ですか? それはなんとも……」

さすがのモリオンも反応に困ったように眉を寄せる。そうだよな、俺としても同じ気持ちだよ。

「ふむ……しかし貴族科では見たことがないですし、騎士科や技術科にもあのような生徒がいた覚えはないのですが……いえ、時折学園内で見かけてはいたのですが、自由に行動できているということは そ(・) の(・) 許(・) 可(・) があるということですし……」

「あまり深く考えすぎない方が良いぞ。何事にも知らない方が良いことがあるからな」

なにせオレア教の秘蔵っ子だ。知ったからといって消されるわけじゃないが、メリアに関してはその立場を追求しても意味はない。

「……なるほど、 そ(・) う(・) い(・) う(・) 立(・) 場(・) の存在ですか」

モリオンは納得したように頷くが、多分、どこかのお偉いさんの隠し子とかって考えてるな、コレは。隠し子じゃないが、オレア教の重要人物って意味では間違ってないが。

そうやって俺がモリオンと話していると、周囲からチラチラと視線が飛んでくる。そのためそれとなく周囲を確認するが、ドレス姿、制服姿の女子生徒がさりげなく距離を詰めつつ、こちらを見ている。

(……なんか囲まれてない? 殺気も敵意もないから気付かなかったわ……なんでこんなに……って、メリアと踊ったからか?)

制服姿のメリアと踊ったことで、貴族科の人間でなくても誘えば踊ると思われたのだろう。たしかに誘われたら踊るけどさ……視線を向けられてもこっちからは誘わないよ? 俺が誘うのは立場的にもカリンだけだからな。

「あっ! ミナトくんだー! ねえねえ、一緒に踊ろうよー!」

と、思っていたらエリカに誘われてしまった。周囲の空気も視線も何のその、俺のところに一直線に来たと思ったらストレートに誘ってくる。勢いが良すぎてドレスの裾が翻っているから、落ち着きなさいね。

エリカはさすがに自前でドレスを用意することはできなかったのか、少々スタイルに合っていないドレスを着ていた。色合いも黄色で少し子どもっぽい感じがするが……いや、エリカには似合っているか。

「それは構わないが、エリカは踊れるのか?」

「んー……見よう見まね!」

「ははっ、そうか。それじゃあ踊るとしようか」

うん、ここまでストレートなお誘いなら乗るしかあるまいよ。俺は苦笑を零し、エリカの手を取るのだった。

「ふぅ……さすがに疲れたな……」

舞踏会も終わり、寮の部屋に戻った俺は椅子に座って大きな息を吐く。

エリカと踊った後、他にもダンスに誘われたため踊ること……何回だ? 途中から『はい喜んでー』って心境で踊ってたからな。早めに切り上げれば良かった。

割合は貴族科と騎士科がほぼ半々、あとはエリカみたいに技術科の生徒がごく僅かだ。いや、それでも思った以上に誘われたわ。こっちから誘うつもりはなかったけど、次から次に誘われたし、その余裕がなかったとも言える。

俺がカリンから 乗(・) り(・) 換(・) え(・) る(・) ことを期待してのことか、それとも『王国東部の若き英雄』の名前はそれなりに重いのか、リネット嬢にもダンスを誘われるとは思わなかったが、本当に多くて疲れた。回数で言えば一年生の中で一番踊っていたんじゃないか?

冗談だったんだろうけど、アレクがダンスの誘いにくるかと思ったんだが……俺の様子を見て苦笑しながらどこかへ行ってしまったし。大変ねぇ、と同情してくれたのかもしれない。

そんなことを考えつつ、俺は本の『召喚器』を発現する。毎晩寝る前に確認しているが、今回の舞踏会でページが増えているのではないか、と思ったのだ。

(んー……お、やっぱり増えてるな……増えてるけど……んん?)

今回の舞踏会で三ページ、新しく増えていた。

五十一ページ目に当たる、新規に増えた一枚目。それは俺と踊るカリンの絵だ。少しだけ恥ずかしそうに、はにかむように微笑みながら踊る姿が描かれている。

新規に増えた二枚目は、俺と踊るナズナの絵だ。どことなく緊張した様子で踊るナズナの姿が描かれている。

そした三枚目。五十三ページ目に当たるページに描かれていたのは、元気いっぱいといった様子で踊るエリカの絵だ。何度か足を踏まれたが、実に楽しそうに踊っている。

(……メリアの絵はない、か)

エリカの絵を確認した俺は、その後のページもめくっていく。しかしメリアに関しては描かれておらず、思わず首を傾げてしまった。

(メリアの方から誘いに来たし、何かしらの影響を与えていると思ったんだが……前提が間違っているのか? それとも本当に透輝と踊る前にダンスを習いに来ただけで、俺に対しては何も思っていない? それはそれですごいな)

何かしら思うところがあってもおかしくなさそうだったが、実は何も感じていなかったのかもしれない。ダンスが上手そうだし、一応知り合いだから教わろう、ぐらいの感覚だったのか?

「増えないものは仕方ない、か……」

そう呟いて本を閉じる。

ページが三ページ分増え、僅かだが身体能力が向上したように感じるし、寝る前に剣を振ってくるとしよう。疲れはあるがそれはそれ、これはこれだ。疲れた時は疲れた時なりの剣の振り方がある。

(透輝については予想通り、アイリスと踊っているところが見れたし……メリアが来たのは予想外だったけどさ)

透輝のところに行っていたが、時期的に好感度が百を超えているということはないはずだ。それでも踊りに来た理由があるんだろうけど……メリアだからなぁ。気が向いたから立ち寄って踊ったぐらいの感覚かもしれない。

これがゲームなら好感度もある程度見れるんだが、さすがに現実だと無理だ。多分、オリヴィアの『巧視魂動』でも好感度までは見れないだろう。

(来年の舞踏会では透輝がメインヒロイン達と踊れるようになっていればいいんだが……)

主人公にとって異性のヒロイン、ヒーローとしか踊らないから、グランドエンドに必要なメンバー全員の好感度を調べることはできない。

それでも来年の舞踏会では透輝が複数のヒロインとダンスを踊れるよう祈りつつ、俺は自主訓練へと赴くのだった。