軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第125話:決闘三昧 その5

明けて翌日。

俺は朝から食堂でそれとなく周囲を観察し、ジェイドがいないかをチェックしていく。

(『花コン』のビジュアルで特徴的な部分は……濃い緑色の髪を短く切ったツンツンヘアーと、顔が俺と一緒で険しい系だったはず……)

素行不良というか、ヤンキーキャラだからか顔立ちも険しい系に描かれていた。それが現実だとどうなっているかが問題だが、濃い緑色の髪と組み合わせればわかりやすいだろう。

(……それっぽいのはいないな……うーん……やっぱりカトレア先輩に用がある、みたいな感じを装って二年生の教室に行くか? 昨晩手合わせしたし、怪我は負わせてないけどカトレア先輩が大丈夫か気になった、みたいな感じで……)

そんなことを考えたものの、周囲からの注目度が思った以上にやばい感じがするから躊躇してしまうわ。俺が先輩の教室に行ったらすぐ情報が出回りそう……そしてモリオンが何か深読みしそう……。

(『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時にネフライト男爵に世話になったし、男爵の息子がいると聞いて挨拶に来ました……は、『花コン』序盤のジェイドには地雷なんだよな)

パエオニア王国で一、二を争う強者であり、国王陛下の信頼も篤く、一代で男爵になったネフライト男爵。

そんな男爵の次男であるジェイドは幼い頃から父親のような立派な人間になれ、と周囲のプレッシャーに晒され――グレた。年齢的に反抗期に差し掛かったタイミングで、それはもう盛大に反発したのだ。

貴族の子女が周囲のプレッシャーに負けて反発したりグレたりっていうのは、別に珍しいことじゃない。『花コン』でのミナトも弟であるコハクの優秀さ、辺境伯家の嫡男としてのプレッシャーが重かったこともあり、剣術に傾倒して粗暴な性格へと育っていた。

ジェイドも似たような感じで、そのシンパシーがあるからこそ『花コン』で数少ないミナトに対して好意的なキャラだったのだ。

そしてジェイドの場合は優秀な弟がいるミナトと異なり、優秀な兄がいてそちらと比較されてきたのだ。そのため父親や兄の話題は地雷になるのだが――。

(ネフライト男爵の名前を出せないんじゃ接触する理由が見つからんぞ……王都出身だから派閥も中央貴族だし……いつか透輝とジェイドが出会ってから、透輝経由で面識を持つしかないか?)

こういう時ばかりは自分の立場の面倒さが厄介だ。もう少し学園生活が落ち着けば 取(・) り(・) 巻(・) き(・) を減らすべきだと思うが、今は東部貴族の団結ぶりを他の派閥に見せるタイミングらしいし、またしばらくはこのままだろう。

食堂に朝早くから来て遅刻ギリギリまで滞在すれば会える可能性は高いだろうが……。

(ちょっとおかしなことをするだけで噂になるんだよなぁ……それに、そこまでして会う必要があるかと言われると……)

俺はただ、本の『召喚器』に載っている最後の一人がジェイドかどうかを確認したいだけだ。今まで記載されたメンバーから考えるとジェイド以外あり得ない……あったとしても隠しキャラのはずのメリアが載っているぐらいだろう。

(そういえば以前、図書館でメリアが顔を見せてきたけど……あれで『召喚器』に載っていないんだから、今のところは何も影響を与えていないはず……多分……相変わらずなんであそこにいたのか謎だけどさ)

なるべくゆっくり食事を取りつつ、それとなく周囲を観察しつつ、考え事をする。でもそろそろ周囲の面子が食べ終えてきてるし、俺も食べ終えないと不自然か。

( 主人公(とうき) を今度図書館に連行……もとい、連れて行ってメリアにも会ってみないとな。いや、俺が一緒だと出てこないか? まずは透輝を誘導して図書館に行くよう仕向けないと……)

そんな色々なことを考えつつ食事を終えた俺は、ジェイドらしき人物がいないことに内心だけで落胆しながら食堂を後にするのだった。

そしてその日の放課後。

昨日の決闘騒ぎで打ち止めだったのか、教室に南部貴族の先輩や他の派閥の貴族が姿を見せることもなく。数日ぶりに平和な放課後を過ごせそうだな、なんて考えた俺は生徒会室へと向かうことにした。

昼休みも食堂にジェイドらしき男性の姿はなく、こうなったらカトレアに話を振ってジェイドに関して情報収集しようと思ったのだ。

同じ貴族科で、父親が有名なネフライト男爵ならカトレアも知っているはずである。昨晩の手合わせの件もあるし、俺が話しかけにいってもおかしくはないだろう。

そう思って廊下に出て、生徒会室に行くから大丈夫と言ってもついてくるモリオン達に苦笑することしばし。ここ数日の決闘騒ぎが影響しているのかビシバシと飛んでくる周囲の視線をやり過ごしながら歩き――不意に、敵意が乗った鋭い視線を感じ取った。

視線を感じて目を向けた先。そこには廊下の向こう側から一人の男子生徒が近付いてくる姿があった。

その男子生徒は身長が俺よりも僅かに高く、百八十センチに届くかどうか。制服を着崩してネクタイを緩め、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ状態で歩いてくる。

顔立ちは険しい系……というか、なんか俺を睨んでいる。濃い緑色の髪を短く切り揃え、逆立てるようにしてツンツンヘアーにしていた。

(……おいおい……探していたのはたしかだけど、そっちから来るのかい……)

その外見的特徴を確認した俺は、思わず内心で呟く。確定とはいわないが、高確率でジェイドだ。隠しキャラのメリアを除き、俺が探していた『花コン』の最後のメインキャラである。

廊下の中央を堂々と、足音を立てるようにして歩いてくるジェイドと思しき男子生徒。そんな男子生徒の姿に先行して声をかけようとしたバリーが困惑したように動きを止める。

学園の制服は一応、ネクタイやリボンの色で学年がわかるようになっている。三年生が赤色、二年生が黄色、一年生が青色だ。そのためバリーも相手のネクタイを見て、先輩だと気付いて対処に困ったのだろう。

いま歩いている場所は貴族科の一階、つまり一年生がいる場所だ。先輩がわざわざ単独で訪れるとしても、廊下の中央を遮るように歩く者はいない。いるとすればそれは、 用(・) 事(・) が(・) あ(・) る(・) 場(・) 合(・) ぐらいだろう。

(昨日一昨日のこともあるし、決闘を挑みに来たって思うよな……)

バリーが困ったように俺を見てくるが、俺としても困る。会いたかったのはたしかだけど、なんでジェイドがわざわざ足を運んできたのか。

そのまま廊下を進み、向かってくるジェイドと三メートルほどの距離を開けて向かい合う。俺もジェイドも足を止めて視線を交え――ジェイドが口を開く。

「なに見てんだよ、アァ?」

そしてそんな、不良としては 定番(テンプレ) というか、リアクションに困ることを言われてしまった。

「一年生だけが利用する廊下のど真ん中を、二年生が一人で歩いてくれば見られるのも当然では?」

眼鏡のツルを押し上げつつ、モリオンが呆れたように言う。

「は? 別に俺がどこを通ろうが俺の勝手だろうが」

お前は一体何を言っているんだ、と言わんばかりにモリオンへ返答するジェイド。うん、まあ、そうだね。別にこの廊下は俺の領地ってわけでもないし、誰でも通れるね。

「……暗黙の了解も知らないと?」

「そんなものがあったとして、俺が守らねえといけねえ理由は?」

ジェイドがモリオンの言葉を鼻で笑う。なんでこんなに喧嘩腰なのかはわからないが、モリオンとは相性が悪そうだな。

「…………」

ちら、と視線を向けてみればナズナは無言でジェイドを凝視している。いやこれ凝視でいいのか? ジェイドに倣ってガンつけてない? 不良漫画かな?

(うーん……これは良くない流れだな……)

もう少し穏便に接触したかったが、どうにも向こうさんは 衝(・) 突(・) をお望みらしい。ただ、その理由がわからないし、俺個人としては『花コン』のメインキャラと揉めるのはあまりよろしくない事態なんだが。

「……もしや、ネフライト男爵閣下の御子息だろうか?」

このままだとモリオンの方から喧嘩を売りそうだったため、仕方なく俺は地雷ワードを口にする。これで俺の方に意識を向けてくれるだろ。

「アァ?」

「その顔、閣下に実に似ている。たしか、閣下の御子息が貴殿ぐらいの年齢だったはずだが……」

そう言いつつモリオンへ視線を向けると、モリオンも合点がいったのか一歩後ろへと下がった。

「ネフライト男爵閣下の御子息ですか……言われてみればたしかに、よく似ていらっしゃる。『王国北部ダンジョン異常成長事件』の際の恩義もありますし、今回は退きましょう」

「そうしてくれ。それで……閣下はお元気ですか? 王都に来てからご挨拶もできておらず、いずれお伺いしたいと思っていたのですが……」

俺は友好的な笑みを浮かべてそんな話を振る。 相(・) 手(・) の(・) 目(・) 的(・) は薄々察しているが、それに乗る義理はない。

「おっと、その前に名乗るべきでしたね。ミナト=ラレーテ=サンデュークです。貴殿の御父上にはお世話になりました」

俺はそう言って右手を差し出す。『花コン』ではジェイドは 不良(ヤンキー) キャラだが、こうして友好的に接すれば相応の態度を取る……はず……。

「チッ……ジェイド=ネフライトだ」

良かった。ジェイド本人で合っていたし、舌打ちされたけど名乗り返してくれた。右手も握ってしっかり握手を……握手を……あー……。

(力いっぱい握ってくるなぁ……腕試しだと思えば大人しいもんだけどさ)

腕試しというか、力試しというか。俺の右手を握って力を込めてくるため、俺も力を入れて握り返す。

剣術に握力は必須だから俺もかなり鍛えてある方だが、ジェイドは『花コン』では素手での格闘を得意としているから握力も強い……あ、比べてみたら俺の方が若干強いな。握り返せるわ。

「テメェ……」

ジェイドの額に冷や汗が浮かび、気合いを入れ直すようにして右腕に力を込められる。ギリギリ、ミシミシと音が鳴りそうなぐらい力が込められているが……やっぱり俺の方が若干強いな。

「どうかされましたか? そろそろ手を離しても?」

どのタイミングで手を離せばいいんだろうか、なんて思いつつ尋ねる。するとジェイドの左腕が持ち上がって俺の襟元を掴んで――。

「ふむ……一応お聞きしますが、 こ(・) れ(・) にはどんな意図がおありで?」

胸倉を掴んできたため、それを見下ろしながら尋ねる。敵対的な態度とあわせて何がしたいのかはわかるが、何故そんな態度を取られるのかがわからないのだ。

ヤンキーキャラなら相手の胸倉を掴んで凄む程度のこと、朝の挨拶ぐらいの気軽さでやるかもしれないし……闘争心は感じるが殺気の類は感じないため、俺としても反応に困る。

ジェイドが俺の胸倉を掴んだ時点でモリオンが真顔になって右手をジェイドの脇腹に突き付け、ナズナも盾の『召喚器』を発現して構えて……その構えって殴るやつじゃない? シールドバッシュでもするつもりかな?

「見りゃわかんだろ? 喧嘩を売りに来たんだよ」

「ほう、喧嘩を……決闘ではなく?」

「わざわざ決闘にして懸ける願いなんざねえよ。俺はお前が気に食わねえ。だから喧嘩を売りに来た」

そう言って真っすぐ睨みつけてくるジェイド。やっていることは無礼もいいところだが、裏表なく、気に食わないからという理由で喧嘩を売りに来た真っすぐさ自体は好ましい。あくまで個人的な印象としては、だが。

(面と向かって話をしたから『召喚器』のページが更新されてるだろうし、俺としてはこれ以上の用はないんだが……)

これ、無視して立ち去っていいやつか? 喧嘩を売りに来ました、なんて言われて、そうですか、お疲れさまでした、なんて言って立ち去ったらどうなる?

今後、透輝を誘導してグランドエンドを目指すとして、だ。ジェイドにこのまま執着され続けるのは色々と面倒というか、時間的にも機会的にも ロ(・) ス(・) が(・) 大(・) き(・) く(・) な(・) り(・) そ(・) う(・) じゃないか。

(できれば透輝に解決してほしい問題だけど、何故か俺の方に絡んできてるし……これは透輝が解決できる問題じゃないよな)

俺が気に食わないから喧嘩を売りに来たんだ。俺以外の人間が対処できるかと言われると微妙なところだろう。

「貴様、いくらなんでも失礼だろう。喧嘩を売りたいのなら私が買ってやろうか?」

「ハッ! 腰巾着は引っ込んでろ! テメエなんざお呼びじゃねえんだよ!」

「その腰巾着にも勝てないのに、ミナト様に喧嘩を売る無様さを指摘してやっているのだが……」

「アアンッ!? んだとコラァッ!」

すごい、ほんの数秒黙っていただけでモリオンとジェイドが喧嘩をおっぱじめようとしているぞ……モリオンもネフライト男爵への恩義があるから退くつもりだったのに、さすがに無視できなかったか。

あとジェイド? 君が近接戦闘が得意なのは『花コン』で知ってるけど、既に右手を添えられた状態じゃモリオンに勝てんよ。撃とうと思えばその状態から上級魔法を撃つからね。

「そうだな……さすがに喧嘩を受けるわけにはいきませんが、決闘なら受けるとしましょうか」

「あ? だからこっちには決闘に懸ける願いなんざ」

「こちらにはありますから」

そう言ってから、俺はにっこりと微笑む。

「何故そこまで俺に突っかかってくるのか……俺が勝てばその理由を教えてもらいましょうか。それなら受けますよ」

ジェイドがここまで俺を嫌う理由。それを把握しておかなければ今後の『花コン』の進行に差し障るだろう。ルチルも俺に対して隔意があるようだったが、決闘で本音を聞き出せるのなら聞き出したいところだ。

「ああ、もちろんこっちは剣は使いません。先輩に合わせて素手で戦います」

「――へえ?」

それまでモリオンを威嚇するように睨んでいたジェイドだが、俺の言葉を聞いて真顔になる。

「おい……そりゃ、なんだ? 俺なんざ素手で勝てるってことか?」

「さて、それは戦ってみないことにはなんとも」

そこまで話してから、俺も真顔になって視線をぶつけた。

「スギイシ流は剣だけに 非(あら) ず。素手だから勝てると思われるのは心外ですよ」

続いて、右手を拳の形に変えてジェイドに向かって突き出し、挑発するように笑う。

「それとも、素手同士の決闘でも逃げますか? ――男の子だろう?」

拳での勝負だ。ジェイドの性格から考えると、ここまで挑発すれば逃げられないはずである。

「……ハッ! 良い度胸じゃねえか! いいぜ! やろう! 俺が負けたら何でも答えてやるよ!」

一転して楽しそうに笑うジェイド。そんなジェイドの笑みに、俺もまた笑って返すのだった。