軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七十九話 新領主誕生

チョレックス王とアヴコロ公爵の長い話し合いが終わった。ちなみに、休憩を宣言されたりはしなかったため、待っていたこちら側は、隠してはいる者のうんざりした空気が流れている。

その中で、チョレックス王が扉の近くにいる護衛兵に告げる。

「アレクテム、フッテーロ、サルカジモ、ヴィシカの四名をここに呼べ」

「はっ! ただいま呼んでまいります!」

兵が駆けだし、十分ぐらい後で、呼ばれた四人が入ってきた。

アレクテムは臣下の礼を取り、フッテーロ、サルカジモとヴィシカは立ったまま礼をする。

「…………」

「お呼びと聞き、参上いたしました」

「父上、なんの用でしょう?」

「兵士の訓練が残っているのですが?」

アレクテムは厳粛な雰囲気で黙ったまま頭を下げ、フッテーロはいつもの調子で、サルカジモは気楽な感じに、ヴィシカは少し不満そうにして言葉を放った。

チョレックス王は四人の姿を認めて一度頷き、そして新たに言葉を紡いでいく。

「四名も知っているであろうが、ミリモスがアンビトース地域を手に入れた。その手腕は褒めるに値する功績である。ミリモスが持つ地域軍がこれほど精強であることは喜ばしい」

そう俺のことを持ち上げたところで、視線がフッテーロに向く。

「そこでフッテーロには、新たな隣国となるスポザート国まで、大使として国交を結ぶための親書を運んでもらいたい。道案内は、ドゥエレファ――に任せると、後にソレリーナから「折角ノネッテに来た夫を追い返して、私の出産に立ち会わせなかったわね!」と怒られてしまいそうだな。ドゥエレファの護衛の者にお願いすることになるであろう」

「畏まりました。大役、お引き受けいたします」

フッテーロの返事に満足そうに頷いたチョレックス王だったが、ここで口調が少し硬いものへと変調した。

「さて、ミリモスの地域軍に負けないよう、本国たるノネッテ国の軍もより精強にならねばならぬ。そのためには、まず頂点である元帥位を定めることが肝要であると、我と宰相は考えを一つにした」

この発言に、アレクテムが待ったをかけた。

「元帥位をサルカジモ王子ないしはヴィシカ王子のどちらかに決めるにしても、王が定めた訓練期間は満了しておりませんぞ!」

「サルカジモもヴィシカもよく学んでいると報告がきている。就任が多少早まったところで問題はあるまい」

「兵士でも音を上げるほどの一番厳しい試験を、訓練期間終了間際に設定しておるのです。それを超えないうちは、元帥位を任せるに不安がありますぞ」

「アレクテムの懸念はもっともだが、時世が元帥位を空けたままを許さんのだ。理解してくれ」

チョレックス王がアレクテムを言いくるめ終えたところで、サルカジモとヴィシカの様子が少し変化した。

サルカジモは『いよいよ自分が元帥になれる』と内心が聞こえてきそうな浮かれ調子になり、ヴィシカは『まだ兵士としての訓練は終え切っていないのに』と少し残念そうな顔をしている。

そんな様子の二人に、チョレックス王が厳粛な声を向ける。

「さて、元帥位を争った二人に聞こう。次なる元帥に相応しい者は、お互いの内のどちらだと考える?」

チョレックス王の質問に、一も二もなく手を上げたのは、サルカジモだった。

「それはもちろん、この俺だ! ヴィシカなんかには、元帥の位はもったいない!」

兵士として厳しい訓練を潜り抜けてきた自負からか、俺がロッチャ地域の領主になる前に見たときより、より自信に溢れている。

一方でヴィシカはと言うと、少し考えこむような格好をしながら、謁見の間にいる全員の姿を見ていく。チョレックス王とアヴコロ公爵。俺とパルベラ姫にファミリス。そしてヴィシカとは初対面である、ドゥエレファとアテンツァとジヴェルデ。

その後で、ヴィシカは主張を告げた。

「ノネッテ国軍の元帥位は、サルカジモ兄に渡します」

意外な言葉に、チョレックス王は驚いた様だった。

「サルカジモに元帥位を渡すとは、どうしてか?」

「もともと訓練を二人とも超えた際には、サルカジモ兄が元帥になると決まっていた。なら訓練期間が切り上がるとしても、その道理は適用されるべきと考えたのです」

「では本当に、元帥位を諦めると?」

「はい。サルカジモ兄には、ノネッテ国軍の元帥位『が』似合っていると思います」

ヴィシカの口調に、俺は疑問を持った。

サルカジモを認めているような口振りではあるのに、敬っているような感じが一切ない。負け惜しみで口調を強くしているのかとも思ったけど、それにしては元帥位に執着するような言葉の響きすらない。

どうしてだろうと俺が考えている間に、チョレックス王はサルカジモへ顔を向け直していた。

「ヴィシカの意見は聞いた。ではサルカジモに、もう一度聞く。元帥位を本当に求めるのだな?」

「もちろん! そのためだけに、兵士の訓練をこなしてきたのです!」

「これは警告である。元帥になると一度決めてから後に、賞罰によって以外に元帥位から外れることはできなくなるぞ。そして元帥を罷免されるような失態があれば、王子としての立場も剥奪せねばならなくなる。そのことを重々承知して、再度宣言せよ。サルカジモは元帥位を求めるか、否か?」

「何度聞かれても、返答は一つ。元帥になります!」

サルカジモの堂々とした宣言に、チョレックス王だけでなく隣のアヴコロ公爵も頷いた。

「よかろう。では只今この時より、サルカジモはノネッテ国軍の元帥となる。宰相、書状と勲章を持て」

「はっ。今すぐに」

アヴコロ公爵は一度謁見の間から去り、少しして書状と勲章を携えて戻ってきた。

チョレックス王は書状を手に取ると、玉座から立ち上がり、サルカジモへと宣誓する。

「汝、サルカジモ・ノネッテに、ノネッテ国軍の元帥位を与える。異存はないな?」

「はい! 元帥の役目、お受けします!」

チョレックス王は読み上げた書状をアヴコロ公爵に戻す。そしてアヴコロ公爵は玉座の横から歩き出し、サルカジモの前へと移動する。そしてサルカジモの胸に勲章をつけ、書状を手渡した。

アヴコロ公爵が玉座の横に戻るのを待ってから、チョレックス王は再び口を開く。

「これでサルカジモが元帥である。以後、ノネッテ国軍の発展に尽力するように。そして、アレクテム」

「はっ! ここにおります!」

「貴様はサルカジモ元帥のお目付け役という、新たな任務を与える。新たな元帥を支えてくれ」

「老い先短いこの身命を賭して、サルカジモ王子を立派な元帥へと導くとお約束いたしますぞ」

アレクテムが監視役になったことに、サルカジモは少し嫌そうな顔になる。だが元帥になれたことの喜びの方が勝っていたようで、すぐに笑顔に戻る。

さて一見すると、ヴィシカは元帥位の競争に負けてしまったのだけど、それが本当に正しい認識なのだろうか。

ではここで改めて、チョレックス王の息子の現状を考えてみよう。

まず俺は、ロッチャ地域の領主である。

次にフッテーロ。スポザート国へ大使として出されることから、外交役としての役割が期待されているとわかる。

そしてサルカジモは、いままさに元帥になった。ただし、就任してからは自分から降りることはできないと念を押されたうえで。

最後はヴィシカ。新兵として訓練はしているものの、実質は 無役(フリー) である。

ではここで、ドゥエレファがチョレックス王にした助言を思い出す。

『アンビトース地域の新たな統治者には、ミリモス王子以外のノネッテ王家の王子を据えることが最上』と語っていた部分。

そして現時点で、その役目を引き受けられる人物は、たった一人。

そう、無役であるヴィシカしかいない。

そんな俺の考えが正しいと裏付けるように、チョレックス王はヴィシカに告げる。

「ヴィシカに命じる。ソレリーナの夫であるドゥエレファからの助言を受け入れ、ミリモスが手に入れた砂漠の土地――アンビトース地域の領主となれ」

ヴィシカは、唐突な命令にも関わらず、まるで分っていたかのように平然と礼をする。

「チョレックス王の命、頂戴いたしました。いまから僕は、アンビトース地域の領主となります」

その宣言に、サルカジモが待ったをかけた。

「どういうことですか、父上! ヴィシカが新たな土地の領主だなんて!」

「砂漠の土地の領主は、我が子の中で男子が望ましいと、あのドゥエレファから献策があったためだ」

「で、では、俺が領主になっても――」

「お前はノネッテ国軍の元帥であろうが。元帥は領主と併任はできぬことは、ミリモスが先例となって示してある」

チョレックス王がため息交じりに告げると、サルカジモの顔が怒りに歪んだ。

「まさか、ヴィシカを砂漠の領主にするために、父上は俺に元帥位を押し付けて!」

「ヴィシカも元帥位を望んだ後に、我がサルカジモに元帥を任じたのなら、そう恨まれるのは当然であろうな。だが、そうではない。元帥になりたいと申したのは、サルカジモ自身であろうが」

「それは、その通りですが――はっ! そもそもヴィシカが元帥を辞退したことも変だ! やはり裏取引があったんだ!」

「下種な勘ぐりは止めよ。ドゥエレファからの献策は、この謁見の間で先ほど行われたもの。その献策の後にすぐ、お前たちを呼び寄せたのだ。情報を与える時間的な余裕などあるはずがないではないか」

チョレックス王の言葉を補佐するように、ヴィシカも喋り出す。

「ミリモスたちを護衛して王城に入ってから、サルカジモ兄と僕は同じ場所に居たじゃないか。この耳に新領主の情報が入っていたなら、サルカジモ兄の耳にも入らないと道理が通らない」

「なら、なんでお前は元帥位を辞退した! いままで、元帥になるために厳しい兵士訓練をしてきたんだ。それを止めるってことは、何か理由があってのことだろ!」

「理由は単純に、勘が働いただけだよ。謁見の間の様子を眺めて、元帥にならない方が良いんじゃないかって」

「そんな不確かな勘で、元帥を下りる判断をしただと?」

信じられないと驚愕するサルカジモに対し、ヴィシカは溜息交じりに返す。

「サルカジモ兄にも変だって気付く機会はあったんだよ」

「そんな機会、あるはずがない!」

「父上が、元帥位は賞罰によってしか離脱できないって言って、さらに元帥を罷免されたら王子ではなくなるって言ったあたりだよ。あの発言で『元帥になった者を容易く止めさせてはくれない理由ができたんだ』って気付けたはずでしょ。あの言葉を聞いて、僕は自分の勘が正しかったと直感したよ」

ヴィシカの説明に、サルカジモは分からなかったと驚愕している。

それを横目に、チョレックス王がアヴコロ公爵に叱られていた。

「ああして感づかれていたとは、やはり言葉を与え過ぎていましたよ。子供がかわいいからと、助言を与えるのはおやめくださいと言ったではありませんか」

「だがな。今回の件は、サルカジモを騙すも同然のような真似になるのだから、引き帰す道は示しておくべきだと考えてしまったのだ。許せ」

「その親心が通じずに終わったようですが?」

「それは仕方があるまい。ヴィシカの方が聡かった。それだけのことである」

四者がそれぞれの姿を見せているが、とりあえずアンビトース地域の領主はヴィシカに決定した。

これでアンビトース地域とスポザート国との関係をどうするかは、ヴィシカとドゥエレファの話し合いで決めることができるようになった。

それは良いとして、ここまでの話で俺たちは蚊帳の外に置かれていたわけだし、休憩を与えてくれていてもよかったんじゃないかなと、体調がさらに悪そうになっているジヴェルデを見て思わずに入られなかったのだった。