軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 困った王子様

ミリモスが任務を果たして帰ってきた。

その報告を我――ノネッテ国の国王、チョレックスは謁見の間で受けた。

「それで、ミリモスとアレクテムは?」

「帝国の兵士が持っていた装備を研究部に渡し、旅の汚れを落としに井戸へ向かったようでございます」

我の弟であり宰相でもある、サスディ・アヴコロ公爵が苦笑いと共に放った言葉に、我は目を瞬かせてしまう。

「我に会うのを後回しにして、研究部に顔を出し、水浴びをしているのか?」

「普通、謁見は申し込みの順に面会が叶うものなので、時間がかかるのです。ミリモスは、その待ち時間を有効活用しようと思って、こんな行動をしているのでしょうね」

「王子が王に会いたいと申し出れば、順番など割り込み出来るものだと、ミリモスは知らぬのか」

「はははっ。末弟は王となる教育をする必要がないからと、魔法と武技の訓練に明け暮れるままにさせたのは、王ではありませんか。城でのしきたりなど、知っているはずがありませんでしょう」

実弟ならではの容赦のなさに、我は思わず呻いてしまう。

「ぐぬっ。まあ良い。アヴコロ公がこの話を出したということは、ミリモスの謁見の番になったということであろう」

「その通りでございます、王よ。招き入れて、よろしゅうございますね?」

「無論だ。さあ、任務を果たして帰り、成長した姿を見てやろうではないか」

我が胸を張って許可を出すと、謁見の間の扉が開かれた。

先頭を歩くのは、我が子、ミリモス。

その後ろに、守役として就かせた、軍で生え抜きの猛者として有名なアレクテムが続く。

両者は部屋の中央まで進み出ると、臣下の礼を取った。

本来ミリモスは王子であるので、臣下の礼は正しくはないのだが、元帥位という身分があるので間違いではない。

そんな評価を考えていると、サスディに軽く突かれてしまった。

わかっておる。王から発言せねばならないことぐらいはな。

「二人とも、顔を上げるとよい。そして、任務の報告をせよ」

我が告げると、ミリモスとアレクテムが顔を上げる。

ほう。ミリモスめ。少し見ない間に、男っぷりが上がったようだ。

どうやら旅は、顔つきに変化が現れるほど、困難であったようだな。

「チョレックス王に、任務の結果を奏上いたします」

声にも大人としての張りが出てきたように感じる。

うむうむ。順調に成長しているようで嬉しいぞ。

感じ入りながら、ミリモスの報告を聞いていく。

ノネッテ国を出立し、メンダシウム国を通り、魔導帝国マジストリ=プルンブルの領内を旅して、神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルとの戦いが行われる近くの町へ。

特に問題がなかった話だったが、ここから予想外の話が飛び込んできた。

「――帝国製の装備を回収中に、神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルの姫君である、パルベラ姫と彼女を守り切って死亡した騎士とお会いしました。アレクテムが死した騎士を供養しますと、お礼としてこの短剣と硬貨が入った袋を頂戴いたしました」

耳を疑う報告に、我は思わずアレクテムに顔を向けると、静かに頷き返してきた。

どうやら本当のことらしい。

すると、ここまで静かにしていたサスディが、宰相として発言する。

「ミリモス元帥。その短剣、見せていただけますか?」

「どうぞ、お確かめください。柄の真ん中に、神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルの紋章が刻まれております」

護衛騎士の一人がミリモスから短剣を預かり、こちらに持ってくる。

サスディと共に確認してみれば、確かに神聖騎士国の騎士王家の紋章が刻まれていた。

我は思わず頭を抱えそうになり、寸前のところで王の威厳を保ちなおす。

「ミリモスよ。この短剣、いかがする気か?」

「? ご質問が良く理解できませんが、モノが良いので普段使いにしようかと考えています」

この答弁で、ミリモスが短剣の価値を何もわかっていないことが判明した。

騎士や民の身分では当然の反応だが、王家の人間でこの反応はいただけない。

一から十まで説明してくれようかと考えるが、ミリモスが十二歳という事実を思い出す。

ここは知らせずにおくのがいいか、知らせた方が良いのか、サスディとアレクテムと話し合う必要がある。

「……そうか。では確認が取れた短剣は返却しよう。さあ、報告の続きをせよ」

我の言葉に従い、ミリモスは帝国製の装備を回収してからの話を始める。

帰りの道中で盗賊を何人も斬り殺してきたことも衝撃的だったが、神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルの紋章が入った短剣ほどには驚きはしなかった。

「――研究部に預けた武装を解析し、複製することができれば、ノネッテ国の国防の向上に繋がり、率いては次にメンダシウム国が攻め入ってきたときは楽に撃退できるようになると断言できます」

「うむ。研究部には解析を進めるよう、我自らが言葉を掛けておく。ミリモス、初任務ご苦労であった。下がってよいぞ。ああ、アレクテムは話すことがあるので、この場に残るように」

我がアレクテムを残すことに、ミリモスは意外そうな表情を浮かべていた。

しかし気にするほどのことではないと判断したのか、一度深々と頭を下げてから立ち上がり、扉から外へと出ていった。

ここで我は、護衛騎士たちも謁見の間から立ち去らせた。

さて、内緒話をする準備は整った。

ミリモスが貰った短剣の件を、サスディとアレクテムと話し合わねばならぬ。

「あの短剣の厄介さ。二人は理解しておるだろうな?」

確認のために聞くと、二人とも頷き返してきた。

「騎士王家の紋章入りの短剣を持つ者は、どんな用件であろうと騎士王と面会が一度は必ず叶う。この事実は、神聖騎士国の後ろ盾を得ているに等しい。贈り贈られた両者に、そんな意図がないとしても、混乱の種になることは必然ですね」

サスディが非難するように言うが、アレクテムにも言い分があったようだ。

「パルベラ姫は戦場の習いに従って短剣を贈ったのです。それを無碍に断りでもしたら、『正しき行い』を標榜する騎士国の逆鱗に触れかねませんぞ」

「姫を助けにきた騎士に、返却することもできたでしょう?」

「万が一のために、ミリモス様には場を離れて貰っておりましたのでな。そんな機会はありませんでしたな」

国の経営を握る宰相サスディと、軍で生え抜きのアレクテム。

立場の違いから、両者の意見がぶつかり合うことは分かっていたことか。

「二人とも止めよ。過去の行いは覆らぬ。いまはあの短剣の厄介さを、ミリモスに伝えるかどうかを問題にするべきであろう」

「知らすことはありません。黙っていましょう」

「ミリモス様は聡明です。知らせてた方が、安全と考えますぞ」

二人は、ここでも対立するか。

「そう考えた理由を、二人とも話せ」

まずはサスディからと、我は指名する。

「あの短剣を利用すれば、ノネッテ国の次期王にミリモスがなることも可能です。なにせ神聖騎士国は、大陸を二分する大国の片方。その後ろ盾があるのと同等の価値があるのですから」

「ミリモスが短剣の威光を知れば、次の王になろうとすると?」

「その可能性がないと、断言することはできません」

サスディの答弁は最もだと感じたが、アレクテムにとっては違ったようだ。

「はっはっは! ミリモス様が次の王になりたいと望んでいるだと! 笑わせおる!」

「何がおかしいか!」

「宰相殿は、ミリモス様のご気性を知らぬと笑ったのだ。あの方はな、王の椅子に興味がないどころか、価値を見出してもおられんはずよ」

「……王子でありながら、王になりたくないと?」

「にわかには信じがたいと言いたげだが、誰にも教わらぬうちに魔法を使い始め、魔法ではなく剣を学べと言われれば神聖術に目覚め、元帥になれば帝国の装備を鹵獲しながら神聖騎士国の姫と 懇意(こんい) になるのが、ミリモス様じゃ。ワシらのような凡愚に推し量れる器ではないわ!」

「その言い分に従うのなら、王になれと言ったら、ミリモスは何になると予想される」

「神聖騎士国、魔導帝国に続く、第三の巨大国でもお作りになるかもしれぬな。もしや大陸統一を成し遂げるやもしれぬ」

随分な大言壮語だが、それほどにアレクテムは旅の中でミリモスを気に入ったと見える。

サスディも、生え抜きの軍人であるアレクテムの余りに過大な評価に、ミリモスのことをどう扱うか決めかねるようすだ。

さて、ここは王である我が、短剣の意味をミリモスに知らせるかどうかを決めねばならぬな。

「二人の意見は理解した。そして、ミリモスに短剣の意味を伝えることを決める。その役目は、アレクテムが行うように」

「兄上、本気ですか!?」

余程意外だったのか、仕事中であるのに、サスディめが兄上呼びに戻っておる。

では我も、王ではく兄として言葉を吐かねばなるまい。

「なあ、サスディよ。アレクテムが言うように、ミリモスの動きは読めぬであろう。もしもあの短剣の意味を知らぬままに不用意な動きをしてみよ。それこそ、我らの想像の埒外の騒動を引き起こしかねぬ」

「教えれば、その騒動は起きないと?」

「サスディは聡明な子だ。あの短剣が、ある種の危険物であると知れば、不用意に見せびらかす真似はせぬはずだ。現に旅の帰りの道では、周りの者に短剣の立派な拵えを見とがめられぬようにと、ボロ布を巻いて隠していたそうではないか」

「それは、そうかもしれませんか……」

「言っておくが、これ以上の問答は余計だぞ。王である我が、伝えるべきと決めたのだからな」

「申し訳ありません、王よ。御心のままに」

サスディが納得してくれたようで、安心した。

我はアレクテムに、ミリモスに短剣の件を伝えて来いと身振りする。

「では我が王よ、失礼いたします」

アレクテムは一礼し、謁見の間から出ていった。

その後ろ姿を見つつ、サスディへ次の謁見の準備をするように命じながら、頭の中ではミリモスのことを考えてしまう。

末の子だからとあまり手をかけてこなかったというのに、兄弟姉妹の中で一番に成長しているとはどういうことか。

しかもまだ十二歳。伸びしろはまだまだあるだろう。

全く困った王子であると、肩を竦めずにはいられないな。