軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百二十一話 似てても違う

「ミリモス! ちょっと、どういうことよ!」

接収した領主館の扉を開けざまに、ガンテが大声を放ってきた。

玄関ホールで待機していた俺が顔を向けると、ガンテの見た目は双子のカリノと似たり寄ったりの様相だった。いや、カリノより少し化粧気が強いかもしれないな。

「久しぶり、ガンテ姉上。それで、どういうこととは?」

「なんで貴方が、ここに居るの!」

「そりゃあ、フェロニャの中央都を陥落させたからだけど?」

「だからなんでよ! ハータウトを攻めていたはずでしょ!」

「ハータウトの中央都にフェロニャの兵士が居るのが見えたから、じゃあフェロニャの方を先に落とそうってことになったんだよ」

来る疑問を次々と答えていくと、ガンテが怒り心頭といった顔つきになった。

「なんでよ! せっかくハータウトの中央都で雌雄を決しようと、万全の準備を整えていたっていうのに!」

「いやいや。万全の準備が整っている兵隊に、真正直に挑むはずがないでしょ。そんなことをしたら、味方の兵士に被害が出ちゃうし」

「兵士の死が嫌だっていうのなら、戦争なんかせずに、帝国に降伏しておきなさいよ」

確かに兵士が死ぬのは嫌だけど、それ以上に嫌な未来が予想できるからこそ、俺は帝国と戦争しているんだよ。

「そんなことはできないね。仮に戦争せずに降伏したら、帝国はノネッテ合州国の民を苛烈に扱うだろうから」

「そんなことないわ。帝国は寛大よ。従順な者を苛烈に鞭で打つような真似はしないわ」

「それって逆を返せば、帝国は必要と思えばどんな苛烈なこともするってことだろ。じゃあやっぱり、戦争せずに降伏するなんてことはあり得ない」

「帝国が降伏したノネッテ合州国を弾圧するとでも?」

「当然だろ。戦争をしなかった場合、帝国の支配下のノネッテ合州国の土地には十二分の兵力が残ることになる。そんな潜在的な敵を、帝国が取り締まらないはずがない」

だからこそ、ノネッテ合州国が取れる方法は、戦争一択なのだ。

勝利すれば、ノネッテ合州国が大陸を統一する。敗北した場合でも、ノネッテ合州国の兵力は失われ、帝国が弾圧を選ぶほどの脅威さはなくなるのだから。

「ノネッテ合州国と帝国との戦争の是非は、いまはどうでもいいだろ。話し合うべきは、フェロニャの土地を、ガンテが明け渡す気があるのかないのかだ」

「そんなもの、あるわけないじゃない!」

ガンテがサッと手を上げると、ガンテの周囲にいる護衛たちが腰の剣を抜いて構える。見たことのある意匠と薄っすらと刃が光っていることから、帝国製の魔剣のようだ。

対して俺の方はというと、玄関ホールの中には俺一人しかいない。

人数的に優位に立ったからか、ガンテが勝ち誇った顔になる。

「この場でミリモスを倒してしまえば、ノネッテ合州国の軍隊も瓦解するというものよ。さあ、やってしまいなさい!」

ガンテが命令を出すと、護衛たちが一斉に斬りかかってきた。

俺の左右二方向から、三人ずつ一列になっての突撃。

俺が列の先頭二人を斬り殺している間に、後続が攻撃を届かせるといった類の、味方の犠牲を覚悟した決死の突撃だ。

本気で殺しにきている護衛たちを見つめつつ、俺の心は平静のままだった。

正直言って、護衛の身動きから察せられる技量は、脅威に感じるほど大したものじゃなかったからだ。

だが、それは仕方がないことだ。

なにせ護衛という存在は、敵を倒すことよりも、守護対象者を護りきることに主眼を置く。我が身を盾にしたりや殿で足止めしたりは得意でも、なにがなんでも敵を倒すという戦い方には熟練していない。

だからこそ護衛たちは、俺のことを――神聖術を使える相手には誤った戦法を使っているようだしね。

「さて――とッ!」

俺は一気に神聖術を全開で発動すると、向かって左の列の先頭の懐へ一瞬で踏み込む。

急に俺が目の前に現れたと錯覚を起こしたのか、俺の目の前にいる護衛は目を丸くしている。

その驚きが抜ける前に、俺は彼の腹を思いっきり蹴りつけた。

神聖術で強化された脚力によって、先頭の護衛はサッカーボールよろしく吹っ飛んだ。

「――ぐええぇぇー!?」

「「なんとぉ!?」」

吹っ飛ばされた先頭に巻き込まれ、後続の二人を巻き込んで地面に倒れる。

もつれて倒れた彼らは、立ち上がるまで数秒の時間が必要だ。

その数秒で、俺は右側に残っているガンテの護衛たちに殴り掛かる。

ここで彼らが護衛である習性がでる。護衛は基本的に、護衛対象に攻撃が向かわないよう、敵からの防御を受け止める方法を取ることが多い。俺の目の前に居る彼らもまた、俺の攻撃を確りと受け止めようとしている。

しかしその行動は、神聖術を使う者が相手だと、悪手にしからならない。

だって神聖術で増した膂力に対して、並みの肉体で耐えきることなんて無理なのだから。

「はあッ!」

俺が気合を込めて拳を三回振るえば、護衛たちは地面に蹲った。

俺はそれぞれの腹を殴ったのだけど、彼らは丸太を腹に食らったような衝撃を感じたことだろう。少なくとも俺がファミリスと訓練しているとき、腹を殴られたり蹴られた際には、そんな気持ちになるからね。

ともあれ護衛は無力化したので、俺はガンテに近づきつつ剣を抜き、刃をガンテの首筋に沿えた。

「俺を殺そうとしたからには、そっちも殺される覚悟があるわけだよね?」

俺が半目で睨みながら言うと、ガンテは顔面蒼白で足を震わせる。足の震えっぷりは、たっぷりと布地があるドレスが揺れるほどだ。

「わ、わわわ、私を殺す気なの……?」

ガンテの首筋にある刃を怖々と見ながらの質問に、俺はあえて笑顔を向けることにした。

「さっき、俺を殺せばノネッテ合州国は瓦解するって言ってたよね。それって、ガンテ姉上にも同じことがいえるんじゃない? ここで殺してしまえば、フェロニャの兵士や民が反抗する意味を失うって」

「じ、実の姉を、本当に殺すの? 嘘、よね?」

「殺すかどうかは、俺の意思じゃなくて、ガンテ姉上の選択で、ですよ。いまこの場で降伏するなら、殺さずにすみますけど……」

俺の言葉尻を濁した説明の意味を、ガンテは正確に理解してくれたようだった。

「わ、わかったわ。降伏するわ。フェロニャの全ては、ノネッテ合州国に降伏する。だ、だから、剣を退けて頂戴」

「賢明な判断でたすかります。ああ、でもあと一点」

「な、なによ。他に何かあるっていうの?」

「いえ。この後、俺とノネッテ合州国の軍隊は、ハータウトを占領しないといけないわけで。ハータウトが陥落するまで、ガンテ姉上は牢屋に入ってもらいます。ああ、もちろん貴族用にで」

「私に牢屋に入れっていうの! そんなの――わ、わかったわ。大人しく牢屋で待つことにするわ」

ガンテは激昂しかけたが、首筋に刃があることを目で再確認して、花が萎れるように前言を撤回した。

「じゃあ、決まりで。おい、牢屋に連れていってくれ」

俺が大声を放つと、一分ほど経ってから、玄関ホールにノネッテ合州国の兵士がやってきた。そしてガンテとその護衛たちを連れて、この建物の中にある貴族用の牢屋へと連行していった。

さてさて、これでフェロニャの地はノネッテ合州国のものになった。

ハータウトも、左右をノネッテ合州国の領土で挟まれる形になったから、抵抗せずに降伏することだろう。

これでノネッテ本国の土地を奪還できれば、ノネッテ合州国は失地を回復することになる。

「ノネッテ本国に攻め入るには、他二つの戦線にも頑張って欲しいところなんだけど」

現状どうなっているかなと期待しつつ、俺は次の行動に移ることにしたのだった。