軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百七十九話 戦争は続く

ノネッテ合州国と騎士国との戦争は、五日目に突入した。

初日でノネッテ合州国側は、それなりの被害が出たが、それ以外だと今まで大した人的被害は受けていない。

その理由は、騎士国が本腰を入れて戦おうとしていないから。

騎士国の軍勢は二日目以降、強く攻めてノネッテ合州国側の盾に被害を与えた後、反撃を受ける前にパッと帰る。少し時間を置き、また同じ行動を繰り返すことを行っている。

これは俺の想像だけど、戦争初日でノネッテ合州国の堅守の陣形を打ち壊せなかったことで、二日目以降は無理に攻めて双方に被害を出すよりも、ノネッテ合州国の盾の破壊に重きを置いたんだろう。

事実、受けている被害の割に、盾の消耗具合は初日に比するほどだ。

しかし盾の消耗は激しくとも、相手の狙いが盾の消費にあるとわかれば、対策の打ちようもある。

陣地に招いている鍛冶師には、三日目から魔導鎧の装甲の整備よりも、盾の修復の方に力を入れてもらうことにしている。

そのお陰で、使用不能になる盾の数の増加具合は、俺が想定していたよりも緩やかだ。もっとも、修復不可能と判断されて修復の材料にした盾もあるので、総数としては減少傾向にあることは真実だったりもする。

その総数も、次の物資輸送隊が来れば、戦争開始時点と同じ数に戻る目算だから、何も問題はない。

こうして個々人の資質で頑張る騎士国と、大量の物資と人員で粘るノネッテ合州国の戦いは、お互いに相手へ被害らしい被害を与えていない膠着状態になっている。

そして膠着状態は、ノネッテ合州国側にとっては望むところ。

時間を稼ぎに稼げば、帝国の軍勢が騎士国領地を侵攻し続けて、やがて騎士国の絶対防衛戦に到着する。

そこまで帝国の軍勢が到着してしまえば、いま俺たちと戦っている騎士国の軍勢の多くは、帝国を抑えるために領地に戻らざるを得なくなる。

その状態になれば、騎士国は帝国とノネッテ合州国との二正面戦争に突入することになり、やがて帝国とノネッテ合州国の軍勢の量にすり潰される未来が決まる。

つまり時間は、ノネッテ合州国の味方というわけだ。

今日までの戦争の状況を思い返している間に、攻め寄せてきた騎士国の軍勢は最前線で数分間戦った後、今までと同じようにサッと引いていった。

再び大した被害のないままに騎士国を追い返せたことに、ノネッテ合州国の兵士たちは歓声を上げている。

こちらが追い払ったのではなく、相手が引きさがってくれただけだと、ちゃんとわかっているのだろうか。

浮かれる兵士たちの気持ちを引き締めるべきかと、俺が考えているとドゥルバ将軍が顔を寄せて内緒話を持ちかけてきた。

「理由はどうあれ、士気が上がっているのであれば、無理に冷や水を浴びせる必要はないのでは?」

どうやら俺の内心を察して、忠告してくれたようだ。

「しかしな。あまりに浮かれて、相手を侮るような気持ちになってはダメだろ。相手は、あの騎士国なんだから」

「仰られる通り。ですが、綱紀を引き締めるときは見極めねばならぬもの。敵を追い返したときではなく、自軍の陣地内で起こした失態を咎めることで、正すのが良いかと」

「危険な戦場では士気の意地に腐心して、兵士の気持ちを引き締めるのは安全な陣地でやれってことか」

こういう戦場での機微は、俺よりも長い時間に渡って将軍職を任じられてきたドゥルバ将軍ならではだろうな。

それにしても、陣地内でミスが出るまで、綱紀の引き締めを待つというのもな。

物事の大事になりそうな『ヒヤリハット』は、気付いた端から消すほうが、大事故に繋がる可能性を消すという意味で有用なんだけどなぁ。

どうしたものかと悩んでいる俺の耳に、再びドゥルバ将軍が小声を放ってきた。

「幸い、夜間警備の者たちの仕事が手抜きになりつつある、との報告が来ている。実際、手抜いている現場を押えて大声で咎めれば、他の兵士たちにも伝わるかと」

「夜警の兵士に怒りつつ、他の兵士たちにも騎士国に気を抜くなと釘を刺すわけか」

「この手の仕事は、某にお任せを。兵士を怒鳴りつけるのは、慣れておりますからな。ミリモス様は、戦場の動向に気を配ってくだされ」

有り難い申し出に、俺はドゥルバ将軍に綱紀の引き締めを任せることにした。

しかし戦場の動向といっても、騎士国の戦法が変わる気配はないから、こちら側の動きや隊列を変える意味はない。

それでも何か変化があるかなと思って見ていたが、五日目の戦争もお互いに大した被害もないまま閉幕となった。

そしてこの日の夜、ドゥルバ将軍の胴間声が陣地内で響き渡った。

その声から察するに、夜警の農民兵たちが集まって、手製の道具で賭け事を行っていたようだ。

叱責の声は、やがて騎士国を侮るなと釘を刺すものに変わっていく。

これほどの大声だ。きっと陣地で休む兵士たちの耳に入ったことだろう。そして騎士国を侮り始めていた気持ちを、引き締める切っ掛けになったことだろう。

その俺の考えが間違いないことは、翌日に起きぬけてきた兵士たちの顔をみれば、すぐにわかった。

どの兵士たちの顔も、初日に騎士国の軍勢を相手したときのような、緊張を含んだ戦意をみなぎらせていたのだから。

兵士たちの気持ちも一新されて、懸念材料がなくなった。

そう思っていた俺の頭を殴りつけるように、六日目の戦場は今までと違った場面が現れることになる。

それは騎士国の動向を探っていた偵察兵の報せから始まった。

「緊急報告! 騎士国の軍勢が、陣形を構えつつあります!」

今までの戦場で、組織的な運用がなかった騎士国の軍勢が、ここにきて陣形を使った戦い方を見せようとする。

その厄介さに俺は気付いたが、しかし取る戦法は堅守で変えられない。

そもそもが、時間稼ぎに特化した布陣だ。不用意に堅守以外の戦法を行えば、それだけで自軍が崩壊しかねない危険性がある。

「……各隊に通達。より一層、防御に重点を置くように伝えろ」

「はっ、伝えて参ります!」

伝令を走らせて、今日の戦いは昨日までとは違うのだと報せて回らせることしか、俺にはできなかった。