軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百六十七話 特訓と新たな噂

俺は自身の領地であるルーナッド州にて、ファミリスを相手に特訓を始めた。

前騎士王テレトゥトスに言われた通り、自分の戦力の増強が必須だと判断したからだ。

俺の実力向上が必要だという見解は、ファミリスも同じだったようで、特訓を快く引き受けてくれた。

しかし俺は、ファミリスとの特訓は、以前の稽古と比べて、とても大変なものになることを、あらかじめ覚悟しておかなければいけなかったと後悔した。

「どぅあああああああ!?」

「どうしたのです。この程度で音を上げるなど!」

以前の稽古でファミリスは、その場から動かない状態で俺の相手をしてくれていた。

しかし特訓が始まってからのファミリスは、縦横無尽に動き回りながら、俺を攻撃してくるようになっていた。

以前の稽古ですら手も足も出なかった俺は、ファミリスの動きについていけず、必至に攻撃を避け続けるだけの存在に成り下がっている。

「くそっ! 防御してばっかりじゃ、じり貧なのは分かっているのに!」

俺は愚痴りながらも、必至に身体と剣を動かしてファミリスからの攻撃を防御する。

ファミリスの攻撃は、ただでさえ一撃必殺の威力がある。

それに加えて特訓では、踏み込んでの攻撃を多用してくることもあって、俺が今まで体験してきた以上の威力が来る。

この威力だけでも防御に苦労するのだけど、ファミリスは体捌きや足捌きを使って攻撃の角度を変えてくることをしてくる。

正面にいたと思えば側面に回り込まれていたり、剣を防御した瞬間にファミリスが俺の懐に入って来て手足で攻撃してきたり、下がる俺を追いかけて連続攻撃をしてきたり。

以前までの稽古と比べると、攻撃の威力も幅も手数も増えている。

これほどに圧力の強い攻撃だと、防御し続けるだけだと直ぐに防御の手が間に合わなくなってしまう。

だからこそ俺の方から攻撃して、ファミリスの攻撃の手を止めさせないといけない。

それは分かっているけど、攻撃に移る糸口すら掴めずに、ずるずると防御し続けてしまっているのが現状なんだよな。

防御に防御を重ねてきたけど、とうとう手が間に合わなくなり、ファミリスの蹴りが俺の腹にクリーンヒットした。

「げぐぶっ!?」

見た目は足の裏で軽く蹴ったようだったファミリスの蹴りだったけど、食らってみると丸太が激突したかと思うほどの衝撃がきた。

神聖術を全力で使っているのに、この威力!?

俺は驚きを得ながら、後方へとぶっ飛ばされた。

そして空中に居る俺へと、ファミリスが追撃で跳びかかってくる。

「防御し続けて活路を見出す気だったのなら、防御中に体勢を崩すことは死であると学びなさい!」

ファミリスは俺への忠告を発しながら、剣を大上段に振り上げてからの振り下ろす。

俺は空中に居る状態ながらに、剣を掲げて防御。攻撃を受けることに成功する。

しかし成功はしたものの、踏ん張る土台が存在しない空中で攻撃を受け止めたため、そのまま地面に叩き落とされる結果になった。

「げはっ――くおっ!?」

背中から地面に落ちた俺に、ファミリスは容赦なく突き刺しを狙ってきた。

慌てて転がり避けながら、地面を手で押すようにして、俺は体を起こす。

しかし俺が中腰から立ち上がろうとする状態になったところで、ファミリスから蹴りが来た。つま先でこちらの顔面を蹴りつけにくる、トーキックが。

食らうわけにはいかないが、体勢が崩れ過ぎていて、左右や後ろに避けることはできない。

立ち上がることを放棄してしゃがみ込むか、腕で防御するしかない。

俺は、左腕で防御することを選択した。

「いぐっ!?」

左腕を犠牲にすることを覚悟して防御したが、予想以上の痛みで、俺の口から悲鳴が漏れてしまう。

しかし蹴られた左腕が痺れて動かなくなることと引き換えに、蹴られた威力を利用して跳び退くことができた。

少しだけ距離を空けられたことで、一呼吸分だけ休憩をはさむことが出来る。

俺は一呼吸を、肺の中の空気の入れ替えと、右手一本で剣を構えることに費やす。

そして二呼吸目に、改めて攻めかかってくるファミリスを、こちらからも攻め込んでいく。

両手が健在なときでも防御一辺倒に押し込められていたんだ。

片手一本になってしまった今、無理を押してでも攻撃に転じなければ、あっという間に負けてしまう。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

「自分から攻めかかってくる意気は良いですが――怪我を負ってから本気を出すのでは遅い!」

いや、防御し続けていたときも本気をだしてましたよ。

そんな俺の心の声が届く間もなく、俺はファミリスに撃沈させられてしまったのだった。

ファミリスとの特訓に明け暮れる日々を送ってはいるものの、領地運営の業務だって手を抜けない。

全身の筋肉痛と特訓でできた傷と痣の痛みに顔を顰めながら、俺は執務をこなしていく。

俺の見た目が痛々しいからか、ホネスとジヴェルデから心配そうにしている。

「センパイ。あまり無茶はダメですよ。身体がキツイなら、こっちに業務を多く振ってくれて良いんです」

「そうですわ。助けうのが、夫婦の形というものですわ」

「ははっ、ありがとう。でも、こうして書類仕事をしている方が、痛みが紛れていいんだよ」

有り難い申し出を断りつつ、俺は執務を続行。色々な部署からの報告や陳情を読んで、適切な処理を行っていく。

そんな業務作業中に、気になる報告があった。

とある噂が、ルーナッド州だけでなく、ノネッテ合州国の各地で流れているというものだった。

所詮は噂だと軽く見ることもできたけど、その噂に統一性が見られると特筆されていては、見逃すことが出来なかった。

ノネッテ合州国は広い。国土の端と端の噂が同じであることは、情報の流通が口頭のみの世界であることを考えると、とても奇異に映るためだ。

「噂の内容は――俺が騎士国に喧嘩を売ったため、遅かれ早かれノネッテ合州国が騎士国に攻められる。逃れるためには、俺を領主の座から引きずり落とすしかない」

これはもはや噂というより、俺を罷免するための同士を募っている内容だよな。

こんな話が、ノネッテ合州国の全土で流れているとなるのか。

俺は内容に苦笑いすると、報告書を確認済みの箱に入れ、別の報告書を手に取る。

その姿を見ていたのか、ホネスが驚いた顔を向けてきた。

「センパイ。それ、放置するんですか?」

「この噂についてってことなら、対策する気はないね」

「噂を真に受けた人たちが集まって、一揆を起こすかもしれないんじゃ?」

「俺としては一揆と話し合って落としどころを探っても良いし、面倒だからと殲滅することもできるし、領主の座を返上してもいい。だから一揆が実際に起こったら考えるよ」

俺が気にするだけ無駄というスタンスでいると、ジヴェルデから問い詰めるような口調がきた。

「一揆が起きた場合、領主の座を返上する気でいるんすの?」

「一つの選択肢としてはね」

「信じられませんわ。想像上とはいえ、領主を辞めようとなさるだなんて」

何をそんなに不思議に思っているんだろうかと考えて、そういえばジヴェルデはアンビトース王族だったと思い出した。

長年に渡って土地を治めてきた王族の一人としては、人を治める立場をあっさり放棄しようとする俺の態度が理解不能なんだろうな。

けど、俺にしてみたら、この立場は仕方なく就いているに過ぎないんだよね。

「俺は軍の総大将としての責任感から、戦争で攻め取った土地の管理を担っている。だから俺よりも領地を良く運営する人がいるのなら、明け渡したってかまわない。それこそ領主の立場を放棄して一市民になったなら、ファミリスと特訓をしなくてもよくなるしね」

後半を冗談口調で言ったからか、ジヴェルデは不満そうな顔になる。

「あなた以上に、領地領民のことを考える領主はいませんわ」

「そうかな? 結構いると思うけど?」

「絶対に居ませんわ。領地を富ませるため、民の暮らしを楽にするため、魔導具の使用を堅持すると決めて騎士国に反抗した者など、あなた以外に存在するはずがありませんわ」

大袈裟に言いすぎだよと思った。

でも、この世界の人たちにとってみたら、騎士国の言い分を跳ね除けるなんて真似は恐ろしくてできないんだろうなとも納得した。

それでも俺にしてみたら、領主として『正しい』行いをすることが騎士国への態度として正答なのだ、と思っての行動しただけ。

それこそ、領地領民のことを考えずに騎士国というブランドに早々に膝を屈したら、それこそ騎士国に反感を抱かれる行動だろう。

つまりは打算。

ジヴェルデが表現したような、心清き名君などでは決してない。

そもそも、俺としては今の立場は不満なのだ。

俺がノネッテ国の末弟王子だった当初からそうだけど、俺の本命は魔法の研究だ。

兵としての訓練や、戦争での総大将や、領地の領主なんて立場は、俺にとってみたら重い足かせにしか過ぎない。

そこまで考えて、俺が騎士国の提案を蹴った理由を新たに思い至った。

「それに騎士国の要望を呑んだら、魔法の研究が出来なくなっちゃうしね」

そうだよ。魔導具だって魔法の分野の一つ。

その研究を阻害されることは、俺の趣味の観点からも受け入れられないよな。

俺の口振りで、魔法研究が騎士国の提案を蹴った理由の一つと分かったのか、ホネスとジヴェルデは呆れ顔に変わっていた。

「センパイは、趣味人なところを直してくれれば完璧なんですけどね」

「趣味の一つも許すのは夫婦円満の秘訣と聞きはしますけれど、趣味を理由に大国に喧嘩を売るのは行き過ぎだと思いますわね」

二人は溜息を同時に吐いた後、俺に『趣味もほどほどに』と注文を付けて、書類仕事に戻っていった。

俺は、そこまで言われるほどかと首を傾げながら、執務作業の続きを行うことにしたのだった。