軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百五十九話 四十日間

騎士国の視察団による、ルーナッド州での魔導具の使用調査は、実に四十日にも及んだ。

もちろん四十日間もルーナッド州の首都にいたわけじゃない。

首都から離れ、ルーナッド州に点在している町村で、使用されている魔導具の調査をしていたという。

そんな視察団が動き回っている四十日の間、前騎士王テレトゥトスはというと、俺の屋敷の客まで暮らして子供たちと遊ぶ毎日を送っていた。

前騎士王だけあり、テレトゥトスは身体から常に威圧感を発しているような威厳がある。

その威厳の度合いは、俺のような前世が小市民な存在からすると、テレトゥトスの前に立つだけでも腹を据えなければいけないほどだ。

いや俺だけじゃなく、俺の家族を世話してくれている使用人たちも、テレトゥトスから自然発生している威厳を苦手としている。

誰であっても、溢れ出る威厳からテレトゥトスが苦手になりそうなものだが、俺の子供たちは違っていた。

長男のマルクを始めとする喋って歩ける子たちは、テレトゥトスに怖気づく様子もなく、その膝に乗りたがる。そして膝に乗せてもらえば、楽しそうにお喋りを始める。テレトゥトスは、話を静かに聞いているだけにもかかわらず。

人に敏感なはずの赤ん坊であっても、テレトゥトスに抱かれるとニコニコと笑顔を浮かべ、しばらくするとスヤスヤと眠ってしまう。

パルベラとの子供だけなら、血の繋がりがあるからと納得できたが、ホネスやジヴェルデとの子供も同じだ。

それこそ子供たちには、大人が失ってしまった特殊な感性があって、テレトゥトスの事を無害と判定しているんじゃないか。そんな妄想をしてしまうほど、異様な懐きっぷりだ。

あまりにもテレトゥトスが子供たちに好かれるため、俺の父親のチョレックスはさほどな疲れていないことを「同じ祖父なのに」と嘆いていたっけ。

ともあれ、テレトゥトスは子供たちと遊んでいたため、この四十日の間に魔導具についての調査をしたような様子はなかった。

パルベラには、代表でテレトゥトスの相手を任せていたので、確認のために「変わった点はなかったか」を尋ねてみた。

「変わった点ですか。御父様の雰囲気が、玉座に着かれていたときと比べて、柔らかくなったなと感じたくらいです」

「……言われてみれば、俺が以前に面会したときに比べれば、たしかに威圧感は減っていたような気がする」

しかし今でも威圧感満載だろうと、俺が声に出さないでいると、俺の心の声を悟ったかのようにパルベラは笑う。

「御父様は御顔の変化が乏しい御人ですものね。慣れていない方だと、取っ付きにくいと感じてしまうことは、仕方がないことでしょうね」

「取っ付きにくいというか、俺としては近寄りたくない――いや、テレトゥトス殿の間合いに入りたくないんだよなぁ」

近寄れば近寄るほどに緊張してしまうというか、自然と戦いへの気構えが発生するというか。

とにもかくにも、落ち着かない心持ちになってしまう。

俺がそう吐露すると、パルベラは思い出したといった身振りをした。

「そういった気持ちは、戦う力のある者が抱くものだと、幼い頃に爺やから教えられました。 私(わたくし) は、全く感じないことなので、気持ちが分からないと思ったものでした」

「今でもパルベラは、テレトゥトス殿から威圧感のようなものは感じていないのか?」

「私は娘ですよ。どうして実の父親を恐れる必要があるのです?」

心底不思議そうに聞いてくるパルベラを見るに、どうやらテレトゥトスは騎士王として立派な人物だったけど、父親としても大した男性だったらしい。

「となると、俺もテレトゥトス殿に倣った方が良いかもな」

「ふふっ。ミリモスくんが御父様のように表情を固めても、変でしかないです。今のままで十分に魅力的ですよ」

本心とも慰めともとれるパルベラの言葉。

しかし不意に『魅力的』と言葉の一撃を貰って、俺は軽く赤面してしまった。

顔が赤くなった俺を見て、パルベラは一層に笑みを深くする。

「ミリモスくんって、褒めると意外と照れますね」

「そりゃあ、褒められ慣れてないからね」

「皆さん、ミリモスくんのこと褒めていると思いますけど?」

「褒めるといっても、それは統治や戦争の手腕に対してだ。人格を褒められることは少ないんだよ」

「そうだったでしょうか?」

パルベラは顎に手指を当てて、不思議そうに首を傾げる。

俺はパルベラに褒め殺しにされる直感が働き、慌てて話を逸らすことにした。

「それよりも、明日視察団が俺に面会を求めてきている。きっと魔導具の使用が『正しい』か『正しくない』かの判定を伝えにくるんだろうと思う」

「どうして、その話を私に?」

パルベラは、政治や数字に明るくないと自覚している。

そのため、ホネスやジヴェルデが執務室で俺と働いていても、自分は執務の役には立たないからと一歩引いた立場で良しとしている。

まあ、執務とは別方向――例えば要人や客人の出迎えとか、俺への面会者への立ち合いとかには、騎士国の姫だったパルベラが適任なので頼んだりするのだけど。

だからこそ、俺が政治の話を持ちかけたことに、パルベラは疑問を抱いたんだろうな。

でも、騎士国の関係において言えば、ホネスやジヴェルデよりも、パルベラが一番だと俺は思っている。

「ちょっと確認しようと思ってね。パルベラやファミリスに、騎士国から伝言とか来てない?」

「いいえ、来ていません」

「じゃあ最近、黒騎士が接触してきたりは無い?」

「ありません。でもそういえば、視察団が来て以降、黒騎士を見かけませんでした」

「今までは、そんな事態はなかった?」

「神聖騎士国からの情報を伝えがてら、私へのご機嫌伺いで姿を見せることが、十日に一回ほどあります。しかし今は、長い事、姿を見ていません」

「ファミリスの方に姿を出しているって可能性は?」

「ありません。もしあったとしたら、ファミリスが私に知らせないはずがないですから」

黒騎士がパルベラたちと接触を控えている。

これはとても重要な情報じゃないかと、俺の勘が囁いている。

きっと黒騎士は、パルベラやファミリスと接触することで、俺へ騎士国の視察団の情報が漏れることを嫌ったんだろう。

その嫌った理由が、単純に情報漏洩を恐れたからか、それとも視察団の魔導具使用に対する見解が悪いものだと見越してのものかは、判別がつかないけどね。

なににせよ、視察団との面会する際には、色々と気を付けておくべきかもしれないな。