軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百五十七話 視察団との会談

騎士国の視察団を受け入れる判断をしてから一日で、早々と視察団はルーナッド州の首都にやって来た。

これほどの素早い移動、騎士国の視察団だけあって、全員が神聖術を使えることは間違いない。

俺は玉座の間――旧ルーナッド国の王城を再利用している関係で、部屋の名前はそのままにしている――で、視察団の到来を待っていた。

そんな俺のもとに、文官が一人、玉座の間にある裏手の出入口から入ってきた。

「ミリモス様。前騎士王様は視察団と別れ、居住区に向かわれました」

「分かった。『彼』は俺の妻の父親だ。それとなく気を配ってくれ」

「承りました。私的な身内という形で、歓迎いたします」

文官は一礼し、裏手へとすすっと下がっていった。

さて。

形だけとはいえ、前騎士王テレトゥトスは騎士国からの代表者ではなく、俺の妻の父親としてルーナッド州に来たことになった。

それならテレトゥトスの歓迎は、パルベラを始めとする妻たちに任せよう。

そして俺は、前騎士王という大駒を失った視察団に、注力することにしよう。

そう気持ちを固めたところで、視察団の到着の知らせがきた。

面会の許しを与えると、秒と置かずに玉座の間の扉が開き、十名ほどの人物が入ってきた。

視察団と思わしき人たちの格好はというと、鎧姿を好むファミリスを知っている方からすると意外なことに、有り触れた礼服姿だった。

礼服と言ったって、帝国の軍服基準のものや、ノネッテ合州国の各州の民族衣装ではない。

俺が服の知識に乏しいから的確な表現に困るけど、白を基準とした宗教服といった感じの服装だ。

その服の白色に、度の汚れが付いていないのを見るに、控えの間で旅装から礼服に着替えたんだろうなということは察することができた。

視察団の人たちが、程よい位置まで近寄ってきたところで、俺の方から声をかけた。

「ようこそ、はるばる神聖騎士国からお越しくださいました。私が、この州の領主を努めております、ミリモス・ノネッテです」

王子口調で挨拶と自己紹介をするも、視察団からは冷ややかな態度だ。

「我々の目的は、事前に通告してあった通り。ミリモス・ノネッテ様におかれましては、我々の活動の邪魔をなさらないでいただきたい」

聞きようによっては、かなり無礼な物言いだ。

これが騎士国という強国を背景にしての強気なら、俺の方も対抗する必要がある。ここで俺が弱気を見せるということは、ノネッテ合州国が騎士国に舐められることに繋がるからだ。

しかし視察団の人たちの様子を見るに、 上下関係(マウント) を取りにきたといった感じではない。

どちらかというと、腹に据えかねた感情を言葉にだした、という形が適切なように思われた。

俺と視察団は初対面。

どうして悪感情を持たれたのかと首を傾げかけて、ああっと納得した。

「もしかして、前騎士王テレトゥトス殿に対する、私の態度がお気に召しませんでしたかね?」

俺が少し申し訳なさを感じながら問いかけると、視察団の人たちはその通りとばかりに頷き返してきた。

「祖父が孫に会うのに条件を付ける。その行動は『正しい』といえますまい」

その主張は最もだけど、それは騎士国側からすればの話だ。

「しかしながら、これから敵同士になるかもしれない国の代表者の一人を、無条件で 領主(わたし) の子と会わせることは、警備上の観点から正しいことだとは言えません」

こちらが譲る気がないと知って、視察団の態度が改めて固まったようだった。

「では、我々のことは神聖騎士国からの視察団とだけ、記憶に置いてくだされ。それと、貴殿からの案内なく、州内を自由に行き来する権利を頂きたい」

言葉を飾ってはいるけど、俺と仲良くする気はないとの申し出。

流石騎士国の人間と言えばいいのか、相手に反感を持たれても構わないと言いたげな、一本気な態度だ。

しかもその態度は、強国の一員ゆえの湿った傲慢さからではなく、調査においてなれ合いは不要だからという乾いた仕事倫理から来るものだと、彼らの雰囲気から察することができる。

要は、俺が企みで前騎士王テレトゥトスを引き離そうと、そうでなかろうと、視察団は役目を真っ当したと示そうとしているわけだな。

前騎士王への忠誠心からか、それとも仕事への真面目さからか。その理由は分からないけど、いじましいにも程があるね。

仕事に邁進しようとする態度は、俺の好むところでもあるので、彼らの望みを聞くことにした。

「分かった。神聖騎士国の視察団に、自由に州内を行く権利を持たせると約束する。なんなら、他州へ自由に行く許可も、俺からフッテーロ王へ掛けあおうか?」

「それは望外の申し出ですが――よろしいので?」

「私としては、魔導具の使用を悪い事だとは思ってないので」

暗に、俺が正しいと思うことと、視察団が正しくないと思うかは別問題だと示した。

そんな俺の態度をどう思ったのか知らないが、視察団の態度が少しだけ軟化する。

「では、その許可を頂きたく」

「貴方たちがルーナッド州を見終える前に貰えるよう、フッテーロ王をせっつくとするよ」

この俺の言葉を区切りとして、視察団との面会は終了になった。

視察団が王の間から退室した後、俺は護衛役として立たせていた武官を呼び寄せる。

「釘を刺しておくが、あの視察団に監視はつけちゃダメだからな」

「他国からの使者に監視を付けることは、規定の行動なのですが?」

「こちらは隠すようなものはないんだ。それなのに監視を付けて、変に勘繰られては逆効果だよ。視察団は好き勝手に放流させておけばいいって」

「州内で問題に巻き込まれたら、当州の所為にされる恐れがあるのでは?」

「こちらの案内を拒否しての、自由行動だよ。自己自由には自己責任が付随するもの。それが『正しい』論理だと思わないか?」

この建前で騎士国の視察団の文句は封殺できると臭わすと、武官はなるほどと頷いた。

「では視察団は、それとなく注視するということで」

監視はしないけど注意は払っておくとの宣言に、俺は苦笑いしてしまった。

「心配性だなぁ。まあ、彼らの後をつけ回さなければいいってことにするよ。領内の巡回と治安維持は、兵士の役目なのは確かだしね」

武官が一礼の後で、関係各所に『監視取りやめ』の報せを伝えにいった。

さて、面会は終わった。

そして前騎士王テレトゥトスを歓迎しに、パルベラとファミリスだけでなく、ホネスやジヴェルデと子供たちも行ってしまっている。

『御父様には、 私(わたくし) の子供だけでなく、ホネスやジヴェルデの子供も愛してほしいですから』

とパルベラの主張したからだ。

ホネスとジヴェルデが事務室にいないため、書類仕事は必然的に溜まってしまっている。

そのため、会談を終えた俺のこれから役目は、その溜まった仕事を片付けることだ。