軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百十二話 平穏からの不穏・後編

ノネッテ国とハティムティ国は、いままで国交がなかった。

国交がないのはなにもノネッテ国だけでなく、俺が戦争を経て支配した旧小国も同じことだ。

なにせハティムティ国は、いまでは国という体裁だけど、俺が子供ぐらいのときは部族連合という集まりだった。

その部族連合は、それぞれの部族に掟があったものの、統一した法というものがなかったため、他の国からは野盗と大差ない存在と見られていたという。

だからこそ、普通の国はハティムティ国と国交を結ぼうとはしなかったわけだ。

いまはハティムティ国が国として認められてはいるけど、それは野盗が国を乗っ取ったから仕方なく国として認めた、って感覚からだ。

つまり、第三の大国の候補国と目されてはいるけれど、大多数の小国からは、ハティムティ国はちゃんとした国とは思われていないわけだ。

さて、そんな国交のないハティムティ国から、手紙で要望が来たわけだけど。

これがまた厄介だった。

国交がない相手だから、そんな義理はないと突っぱねることは可能だ。

もしくは、これを機に国交を結ぶため、あえて食料を融通することもできる。

しかし相手は、野盗と評価されるほどに、常識が通用しない相手だ。

この手紙を、荒くれものからの要求と考え直せば、その厄介さが際立ってくる。

つまりだ。

要求を突っぱねたら、下手に出ていればつけあがりやがって、と難癖をつけてくる。

要求を飲んだら、今回要求を飲んだのだから当然に次回も飲むに違いない、と舐めてかかってくる。

どちらの選択肢を選ぼうと、ハティムティ国に集られることを避けられない。

そして一番厄介なところは、要求が『魔物の餌』という部分だ。

魔物を世話したことのある人物なんて、ハティムティ国の王だけしかいない。

そのため、魔物に与える食料の量がどれぐらいで適性かなんて知識は、ハティムティ国以外の誰も持っていないのだ。

要するに、ハティムティ国の言い値で、こちらが払うしかない。

例え魔物に与えるもの以上の量――ハティムティ国の兵や民に配る分が入っていたとしても、そう指摘する根拠を用意することが出来ないからな。

そもそも、食料を渡したところで、ハティムティ国が大人しくしてくれる保証はない。

ハティムティ国の主力は魔物だ。

こっそりと配下の魔物を使ってノネッテ国の国土を荒らしたうえで、その魔物はハティムティ国とは関係のない野生の魔物であると、簡単に言い逃れることができる。

ハティムティ国に飼われているか、それとも野生の魔物なのかなんて、判別する方法がないんだから。

つまり、結論はなにかというとだ。

「食料を渡すだけ損ってことだ」

ハティムティ国は、まともに約束を守るとは思えない。

約束を守らない相手からの要求なんて、突っぱねる一択に決まっている。

でも、要求を跳ね除けられて面子を潰された荒くれ者が、次に何をしてくるか予想がつく。

「折角平和になったのに、また戦争か。しかも相手の主力は、魔物ときたよ」

思わず愚痴が口からあふれ出てしまった。

すると、近くで作業をしていたホネスとジヴェルデが笑顔を向けてくる。

「センパイは、戦争に愛される星の下に生まれたみたいですね」

「魔物が相手なのでしたら、倒しても人に恨まれる心配がない分、何時もの戦争よりも心持ち楽ではありませんか」

「気楽に行ってくれるね、まったく」

戦争を行うことは、タダじゃない。多大な戦費と食料を消費する行為だ。

それなのに、こうも頻繁に戦っていたら、国内が荒れる原因になってしまう。

いやまぁ、今のところは戦争特需で商業が活発になっているし、食料生産も不作年に当たっていないから余裕はあるけどさ。

しかしそれは幸運だからで、長々と続くと考えてはいけない部分だしな。

とはいえ、ハティムティ国と事を構える事態から逃れることはできないだろう。

仕方がない。とりあえずは、ハティムティ国に対する防御を主体にして、軍に警戒態勢に移行させよう。

ハティムティ国の厄介な要求への対処を考え終え、次はキレッチャ国からの手紙を開く。

こちらはこちらで、対応に困る内容が書かれていた。

「センパイ。キレッチャ国からの手紙も、なにかを要求しているんですか?」

ホネスの問いかけに、俺は首を横に振る。

「要求の逆だよ。ノネッテ国に物資を貸付ける打診だ」

「貸付、ですか?」

「ああ。キレッチャ国から物資を借り入れれば、すぐに次の戦争に入れるぞ、ってね」

俺が手紙の内容を要約すると、ジヴェルデが忍び笑いを漏らした。

「ふふっ。あなたって、他の国には戦争狂のように思われているのね」

「失礼なことだよな。俺は、状況が許さないから、仕方なく戦争をしているっていうのに」

「そうつれない事を言うから、戦争の方から寄ってくるのではありませんの?」

くすくすと笑うジヴェルデの言葉に、俺は言い返せずに閉口してしまう。ちょっとだけ、そうかもとしれないと思ってしまったからだった。

俺は話題を切り上げるため、わざと視線をキレッチャ国の手紙に戻す。

「こちらも、必要ないと拒否するべきだな。特に必要とはしていないし、贈与ではなく貸付というあたりに後からむしり取ってやろうって気が満々だしな」

「でも、いいんですの?」

ジヴェルデの問いかけに、俺は何がと視線で問いかける。

「キレッチャ国の手紙は、ノネッテ国だけに送ったとは限らないではありませんの」

ジヴェルデの補足説明を受けて、俺はハティムティ国の手紙に視線を向け直す。

「そういえばタイミングがいいな。キレッチャ国とハティムティ国は手を組んだってことか?」

「流石にそこまで話が行ってないと思いますわよ。ただ、キレッチャ国が食料を与える代わりに、ハティムティ国にはノネッテ国を攻撃しろと要求することは、あり得るかもしれませんわ」

ハティムティ国からは、食料を渡しても、まともに代金が取れそうにない。

なら、お金ではなく行動で払ってもらうってことか。

そして標的は、ノネッテ国ってわけだ。

ハティムティ国からしてみれば、配下の魔物を食わす食料が手に入るうえ、戦争の相手を用意して貰える。上手くいけば、領土拡大とそれに伴う食料生産地が手に入る。

キレッチャ国にしてみれば、多少の食料を配るだけで、ハティムティ国の魔物という戦争の手駒を動かせる。上手くいけば、ハティムティ国とノネッテ国が共に消耗することで、漁夫の利を得られる機会ができる。

考えれば考えるほど、ノネッテ国に取っては状況が悪く、ハティムティ国とキレッチャ国の側には都合の良い状況だな。

「これは国防に重点を置かないと、まずい事態になりそうだな」

とりあえず、仮想敵国をハティムティ国に定め、そのための用意をする準備に入ることにしよう。

キレッチャ国の動向の情報も、可能な限り収集する必要がある。

まったく、平穏ってものは長く続かないもんだな。