軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百九十四話 コル国への対処

俺はプネラ国の王都に入ると、早速ルーナッド地域から文官を呼び寄せて、占領統治を始めた。

貴族軍と新王の軍と戦争を行ったことで、大分プネラ国の民は疲弊していた。

このまま放置すると、民衆の怒りがノネッテ国に向く可能性がある。

その可能性を潰す目的で、ひとまずプネラ国の中に食料と日用物資を運び入れ、戦後補償として配り回ることにした。

生活に困窮する恐れがなくなったこと、その支援がノネッテ国のものだったことが合わさり、民衆の戦争被害に対する憤りは小さくなった。

反乱の芽が小さくなったことに、俺は安堵すると共に疑問にも感じていた。

貴族軍と新王の軍に参加していた者たちの多くは、ドゥルバ将軍の軍に蹴散らされ、大多数が死傷したり行方不明になっている。

だから身内を失った者の怒りは根深いだろうと思っていた。

しかし俺の予想とは裏腹に、民衆の感情は落ち着きを取り戻している。

どういうことだろう。

「ああ、それは。騎士国の騎士様が、この地を巡ってくれているからですね」

とは、俺がルーナッド地域から呼び寄せた、文官の一人の言葉だった。

「俺の監視役として、騎士国が寄こしてきた、あの騎士のお陰って、どういうこと?」

「あの騎士様が土地を巡ってくださることで、民衆が憤ることを諦めるんです。自分たちの境遇が正しくないものなら、あの騎士様がノネッテ国の王子を倒しに動くはず。しかし動いていないということは、自分たちの境遇は正しいものなんだと感じるようです」

文官は「厄介事は、転じれば益事に変わるもの」と慣用句を告げてから、さらに言葉を続ける。

「そうして、一度憤りを引っ込めて冷静になれば、ミリモス王子の統治が民に優しいものだと理解できるようになります。そして理解すれば、さらに諦めがつきます」

「国は敗けたけど、自分たちの生活はむしろ良くなったからと、亡国の念を忘れるってことだね」

ともあれ、プネラ国をルーナッド地域へ編入させる手続きは、順調に進みそうだな。

さてさて、プネラ国の占領統治が順調なので、コル国との戦争についても考えを向けよう。

コル国攻めは、エン国からの要望があってのもの。

エン国としては、ピシ国と決着がつくまで、ノネッテ国はコル国の軍勢を引き付けておいて欲しいはずだ。

そこで俺は、ドゥルバ将軍の軍に対し、コル国を攻める速度をゆっくりにするように通達した。

その通達が不服だったのか、ドゥルバ将軍が前線から離れて俺のもとへとやってきた。

「兵とは拙速を尊ぶもの。それなのにあえて侵攻を遅くせよとは。どういうことか説明していただきたく、参上した」

ドゥルバ将軍の顔にある、不服といった表情を見て、俺は苦笑いする。

「まあまあ、落ち着いてよ。ちゃんとした理由があるんだから」

俺は手振りで着席を勧めると、ドゥルバ将軍は不満げな顔を崩さないまま椅子に座った。

「それで、どういうことなのでしょうかな?」

「まずは事情から説明するよ」

コル国に攻め込むことはエン国からの要望であることを伝えると、ドゥルバ将軍は理解した顔をした。

「そのエン国とやらの動きに合わせる必要がある、ということですな」

「それもあるけど、あと二つ、目的があるんだよ」

俺は指を一つ立て、言葉を続ける。

「一つは、ドゥルバ将軍の軍は連戦に次ぐ連戦で疲弊している。その疲労を回復を目的に、ゆっくりとした進軍を命じたわけだ」

「我が配下の兵は、疲れてなどおりません」

意固地に言うドゥルバ将軍に対し、俺はどう言ったものかと困ってしまう。

「疲れていなくとも、休憩を多くとって体力を回復させることは、兵士たちにとっては良い事でしょ。急いで攻める理由もないのに、いたずらに兵士の尻を蹴飛ばしたところで、士気は下がりはしても上がりはしないでしょ?」

「ふむぅ――ミリモス王子の用兵方針であるとして、記憶はしておきましょう」

ドゥルバ将軍は攻め気が強い性格をしている。その性格から、兵士は叩けば叩くほど働くと思っていそうだ。

俺としては、引き締めるところは引締められれば、後は緩くても良いと思うんだけどね。

俺とドゥルバ将軍の用兵方法の違いはともかく、理由の二つ目だ。

「もう一つは、無理に攻めなくても、コル国はノネッテ国に降参するんじゃないかなってね」

「彼我の戦力差を見て、降伏すると?」

「うーん。ノネッテ国との戦力差というよりは、エン国がピシ国に勝った場合、コル国が生き残る術がなくなってしまうからだね」

コル国は、エン国とピシ国とも戦争中だ。

現時点では、エン国とピシ国が相争っている。しかしその戦争がエン国の勝利で終結してしまえば、エン国は次にコル国を攻めることは間違いない。

ノネッテ国とエン国の二国を相手にしては、コル国のただでさえなかった勝ち目が皆無になってしまう。

「だからコル国は、遅かれ早かれ、降参してくると思うんだ」

「その説明では、エン国とピシ国の戦争が終わった後の話ですな。それでは、コル国は我が国ではなくエン国に降参する可能性もあるのではないですかな?」

「その可能性はあるけど、ノネッテ国とエン国、どちらに降伏した方がいいか、分からないわけはないと思うけど?」

ノネッテ国が新たに支配した土地を、どうやって治めているか、そのサンプルケースは沢山ある。少し調べれば、山ほど証拠が集まるだろう。

翻ってエン国はどうか。国内をどう統治しているかは調べることができるが、新たに支配した土地の民をどう扱うかは、実例がないのでわかっていない。

帝国ですら新支配地の民を二等民として扱っていることを考えると、エン国が新支配地の民への扱いは帝国のもの以下になることは疑いようはないはずだ。

「少なくとも俺がコル国の王なら、身売りするならノネッテ国だろうね」

俺の考えを知って、ドゥルバ将軍は頷いてから首を横に傾げる。

「なるほどと頷きたくはなるものの、果たしてコル国が、そうやすやすと降伏するでしょうかな」

「降伏しないと、ドゥルバ将軍は考えているの?」

「いえ、いつかは降伏するでしょうな。ですが、いつ降伏するか、どこに降伏するかは、果たしてミリモス王子の考えと下りになるかどうか」

ドゥルバ将軍はそんな感想を呟くと、急に椅子から立ち上がった。

「ミリモス王子の存念は聞かせていただいた。納得できる部分も多く、指示に従うに否はなくなった。前線に帰らせていただきたい」

「それは構わないけど、一日ぐらい、ゆっくり宿を取ったら?」

「我が身の置き場所は、兵たちの中。それが、不義の戦いで両腕を失ったのにも関わらず、こうして将軍として取り立ててくださる、ミリモス王子への恩返しとなると心得ているゆえに」

生真面目な顔で敬礼してから、ドゥルバ将軍は足早に去っていった。

俺はドゥルバ将軍を見送ってから、半笑いになる

「いまのって本音なのか、それとも両腕を斬り落とした俺への皮肉なのかな」

ドゥルバ将軍の性格を考えれば、皮肉を言う人間ではないかと、俺は半笑いを苦笑いに変えたのだった。