軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百六十八話 移動準備

ジヴェルデとの結婚は、俺とジヴェルデの他にはアテンツァを含めた数人だけが出席する、内々に済ます小さい式となった。

それはなぜかというと、ジヴェルデは俺との結婚を機に、元アンビトース王族たちとの縁を切ると決めていたからだった。

「あちらは既に、ヴィシカ王子の下についているのです。わたしがミリモス王子と結婚したからと、変な期待を持って近づいて来られたら、新たな争いの火種になりかねませんもの」

どうやら、アンビトース地域で俺に近しい派閥が生まれないように、という配慮らしい。

でも、なんとなくだけど、ジヴェルデは『人質』に出したことの仕返しで、縁切りを決めたんじゃないかって雰囲気もあるんだよな。

なににせよ、生家との繋がりを切ってまで、俺の妻になる気でいるという決意は、受け取らざるを得ない。

いままでも不自由をさせてきたつもりはないけど、これから先はもっと気を使ってあげなければいけないだろうな。

ジヴェルデとの結婚式が終わり、初夜を経験した後、今度はルーナッド地域へ行く用意に駆けまわることになった。

俺が居ない間、ロッチャ地域の運営を任せる文官の選出。帝国との貿易の責任者に、帝国に足元を見られないように、交渉の特訓を指せる。研究部へ、研究課題と魔導鎧のバージョンアップの打診を送る。

その他にも、こまごまとした引き継ぎを行っていった。

そうした作業がひと段落ついた頃、パルベラの体調が復調し、赤ん坊であるマルクの首が座った。

「これでルーナッド地域に移動することができるようになったわけだけど……」

俺が言葉を濁しながら見る先に居る人物は、ファミリスだ。

ファミリスは見慣れた鎧姿だが、以前とは違いがある。

それは、幅広い布で出来た抱っこ紐が肩がけされた姿であり、その抱っこ紐の中に入ったマルクだった。

「本当にその姿で、移動するわけ?」

「なにか、問題でも?」

ファミリスのすぐさまの返答に、俺は思わず口をつぐむ。

騎士国の騎士という、大陸でも滅多にいない強者であるファミリスに預ければ、旅中のマルクの身の安全は保障されたようなものだ。その点だけを見れば、苦情を引っ込めるしかない。

「抱っこ紐越しとはいえ、鎧に当て続けて、大丈夫なのか?」

「ご心配なく。マルク様の体調を崩すような真似はしません。それに、幼子の頃から鎧や武器に親しむことこそが、良い騎士への道の一歩となるのです」

ファミリスの変な主張を受けて、俺はパルベラに顔を向ける。

「あんなことを言っているけど?」

「ファミリスの言葉は少し大げさですね。でも神聖騎士国では、戦装束の兵士や騎士に子供を抱いてもらうと、その子は健康に育つと信じられているんですよ」

「だからファミリスは、マルクを抱え続けているってこと?」

「あれは単に、マルクが可愛すぎるから手放したくなくなった、というだけです」

パルベラの指摘通り、ファミリスのマルクを見る顔つきは、いままで見たことがないほど優しいもの。

当のマルクはというと、周りに話し声があるのにもかかわらず、抱っこ紐の中でスヤスヤと眠っている。どうやら図太い性格をしているようだ。

引継ぎが終わり、旅の仕度も出来たところで、俺と家族はルーナッド地域へ移動することにした。

ロッチャ地域からルーナッド地域は、かなり離れた位置になる。

でも、俺やファミリスが『人馬一体の神聖術』を使えば、一両日ぐらいの時間で戻ってくることが可能だ。

「時々、ロッチャ地域の状態を見に戻ってくるから、気を抜かないでね」

冗談ぽい口調で役人や研究部の面々に釘を刺して、俺と家族はルーナッド地域へ出発した。

旅程の中、山岳地帯に開けられたトンネルを抜けて、ノネッテ本国へ。

王城で三日ほど滞在し、その間にチョレックス王にマルクを見せた。

「おおー、これがミリモスの子か。うむうむ、利発そうかつ豪胆さが伺える顔つきよ」

大喜びするチョレックス王とは裏腹に、宰相であるアヴコロ公爵は苦い顔をしていた。

後で個人的に会いに行くと、言っても仕方がないことだと前置きをした後で、内心を語ってくれた。

「フッテーロの縁談がまとまらないのですよ」

「フッテーロ兄上はノネッテ国の王太子ですよ。引く手あまたじゃないんですか?」

「フェロニャ地域で領主として、帝国相手に外交をしています。自然と付き合いは、帝国の方の方が多く鳴るわけです」

「ああー。次期王の妻に、帝国の人は据えられないと」

「フッテーロもそのことは分かっていて、帝国から紹介される令嬢はお断りしているのですが、それがかえって評判を上げているようでしてね」

「それまたどうして?」

「どんな美姫にもなびかない高潔な王子という評判が、一人歩きしているのですよ。そして決してなびかない相手だからこそ、帝国貴族も落とそうと躍起になる」

「なるほど。帝国からやってくるそうそうたる面子を見てしまえば、こちらがお見合い相手に用意した淑女の皆さんは尻込みして辞退してしまうわけか」

「いい加減、結婚させたいのですけどね……」

結婚させたい理由は、俺に子供が出来たから、と言いたげだな。

実際、このままフッテーロ兄上が結婚できなかったら、ノネッテ国の王になったとしても、次の代はマルクが筆頭王位継承者になってしまうしね。

そんな事態は、俺としても望んではいない。

「きっといつか、フッテーロ兄上と結婚したいって人が現れますよ。気長に待ちましょう」

「そう願うばかりですよ」

アヴコロ公爵の心情が聞けたことで、俺は安心して彼と別れることができた。

いや本当、アヴコロ公爵が変なことを考えていなくてよかった。

だってファミリスも、アヴコロ公爵が苦い顔をしていることに気付いていて、子供を守らんとする母熊のように警戒していたしね。

気にすることはないと、ファミリスに伝えて落ち着かせることにしよう。