軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百五十五話 戦線崩壊

最新式の魔導鎧を着た五人が、テスタルドと戦いながら主戦場から離れていく。

恐らく、カバリカ国にとってはテスタルドが状況打開の要だったのだろう。

テスタルドが魔導鎧の兵たちとの戦闘が長引けば長引くほど、カバリカ国の軍隊の士気が落ちていく。

士気の落ち込みは、程なくして戦闘を続ける意気が消沈する域にまで至った。

「も、もうダメだ!」

カバリカ国の兵の一人が悲鳴を上げ、逃げだす。

一人が逃げれば、二人逃げる。二人逃げれば四人が。四人が逃げれば――と雪だるま式に逃走する兵が出始めた。

「こら、戻れ! 戻って戦え!」

指揮官らしき人物が声を張り上げて逃走を阻止しようとするが、ノネッテ国の兵士が振るった斧槍によって、物理的に言葉を喋れなくされた。

そうして指揮する者がいなくなり、兵士の逃走の歯止めが一層かからなくなる。

兵の逃走は、もはや軍隊の潰走に変わっていた。

「追撃だ!」

ドゥルバ将軍が声を高く命令する。

その命令には俺も同意だけど、追撃でどれだけのカバリカ国の兵を倒せるか、ちょっと悲観的だった。

実を言うと、ノネッテ国の兵士たちは追撃戦での攻め手は不得手だ。

重装歩兵なので、最高速度も継続した速力も出せないため、武器と鎧を捨てて身軽に逃走する敵兵を取り逃すことが多い。

旧型の魔導鎧を着た兵士については、最高速度は出せるけど、稼働時間が限られている。

そんな走力が遅い重装歩兵に変わって、脚が速い俺や 馬車(チャリオット) に乗るドゥルバ将軍など、身軽に動ける者が追撃では頑張らないといけない。

だけど数に限りがあるため、倒せる敵兵の数は必然的に少なくなってしまう。

「無駄に兵を疲れさせる必要もないし、ほどほどにしておこうか」

ここでの敗北は、カバリカ国にとって致命傷だ。

ノネッテ国の軍隊には勝てないと知ったからには、他の『聖約の御旗』の参加国は兵を引き上げさせて自国の防衛戦力に充てるはずだ。

なぜなら、テスタルドの活躍が、いまのところはだけど、良い所がない。つまり『聖約の御旗』に参加するメリットだった防衛における抑止力に、テスタルドは不適格だと、他の参加国は見なさざるを得ない。

防衛に不安が出たのなら、一兵でも多く引き上げて、自国の防衛に宛てたいと思うのは、国の統治者として当然の考えの帰結となる。

だからカバリカ国は、次の戦場で動員できる兵力は今回以上に少なくなることが確定しているというわけ。

今回でも楽に勝てたのだから、数が少なくなる次回の戦場など、もっと楽になるのが道理。

ここで追撃を強行するより、次の戦いで当たった方が、結果的に敵の被害を大きくできると、俺は見たのだ。

「まあ、次の戦場があれば、だけど」

戦場には、カバリカ国の兵たちが捨てた装備が、あちらこちらの地面にある。

これほどの装備が捨てられてしまっているんだ、次はまともに戦えすらできないはずだ。

つまるところ、カバリカ国は次の戦いにい毒どころか、降伏以外に選択肢がない状況になってしまっている。

俺は旧型の魔導鎧の活動限界時間直前に、ドゥルバ将軍を呼び止めた。

「追撃はここまででいいよ。魔導鎧を着た兵を休ませないといけないし」

「むむむっ、残念ですが、致し方ないでしょうな」

ドゥルバ将軍は集合の号令を出し、ノネッテ国の兵たちは追撃を止めて集結した。

「被害はどれほどか!」

「自軍の被害は、怪我人が百人ほど、死者若干名です!」

兵の一人が大声で報告したあと、さらに言い難そうに言葉を続ける。

「ですがその、未だに敵の元騎士と戦っている状況ですので、被害が増える可能性も……」

兵の言葉に、ドゥルバ将軍と俺は、うっかりしていたと顔を、魔導鎧を着た五人とテスタルドの戦闘へと向ける。

そこでは、一進一退の攻防が行われていて、白熱した状況だった。

「くぬぅ! 大きな鎧でカサを増しただけの相手に、こうも後れを取るとは!」

「デカい一撃にだけ気を付けろ! 他は耐えられる!」

「確りと抑えてろ! 攻撃が当てきれない!」

戦闘を見て、ドゥルバ将軍は俺に、どうするかと問いかける視線を向けてきた。

「どうせなら、捕虜にしておきたいかな」

「ですが、相手は騎士国の元騎士ですが?」

「縄で何重にも全身をグルグル巻きにしちゃえば、ロクに動けなくできるよ。俺自身が試して、実証済みだよ」

「では縄を用意させましょう。ですが、どうやって大人しくさせるので?」

「それはまあ、俺の役目だろうね」

やりたくはないけど、やるしかない。

でも、素のままで行くのも芸がない。

そこで俺は、縄の用意が整ってから、旧型の魔導鎧を一着拝借することにした。

久々に着る魔導鎧は、濡れた金属のイオン臭と、着ていた兵士の体臭に塗れていた。

正直、あまり長居したくない。

「よしっ、行くぞ!」

魔導鎧を動かし、俺はテスタルドへと駆け出す。

だが、武器は持っていない。

「新手か!」

テスタルドは俺に反応して、大剣を叩きつけようとしてくる。

俺は避けようと思ったが、それより先に、最新式の魔導鎧を着た一人が大剣を受け止めてくれた。

「助かった! ありがとう!」

「その声、ミリモス王子!?」

防御してくれた兵士が驚く声を聞きながら、俺はテスタルドに肉薄する。

テスタルドは跳んで下がろうとするが、それより一瞬早く、俺が魔導鎧の両腕と両足で抱き着くようにして拘束できた。

「ぬおおおお!? こんな拘束など!」

「ぬぐぐぐぐっ! 縄、急いで!」

俺が魔導鎧の全力を使いながら大声を出すと、縄を用意していた兵士たちが駆け寄って来てくれた。

まずテスタルドの両足、次に両手と腰を括り巻くようにして、縄がかけられる。

一先ず縄での拘束が形になったところで、俺は離れる。

その後、縄を持つ兵士たちが手早くテスタルドを縄で何重にもぐるぐる巻きにしていき、やがて身動きすら取れない完璧な拘束となった。

「よもや、こんな情けない姿を晒す羽目になるとは!」

テスタルドが神聖術を使いながらグネグネと身を動かすが、何重にも巻かれた縄を千切り飛ばすことはできないようだ。

「よしっ、拘束終了。捕虜として運ぶよ」

「運搬なら、俺たちにお任せを!」

「この鎧なら、人ひとり運ぶなんて楽勝です」

「仮に縄がちぎれても、この鎧でなら最拘束可能でしょうぜ」

名乗り出てくれた最新式の魔導鎧を着た兵に、テスタルドの身柄は任せることにした。

そうして、テスタルドという戦利品を連れた状態で、俺たちはカバリカ国の王都を目指すことにしたのだった。