軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百三十五話 一騎討ちが終わり……

剣を掴まれたり、決定打が打撃だったりと、一騎討ちは予想外の内容になってしまった。

でも、怪我なく終えたことに、俺は安堵していた。

俺が剣を鞘に納めていると、俺に殴られて顔が腫れたテスタルドがゆっくりと立ち上がる。

「良き一騎討ちであった。しかしながら、お主ほどの齢の青年に負けるなど、やはり我が『正義』は正しくはなかったということだな」

苦悩の表情で変なことを言うテスタルドに、俺は首を傾げた。

「一度の戦いで負けただけで、貴方は自分の考えが間違えだと判断するんですか?」

「そうとも。我が『正義』が真に正しいのならば、天の助けがあるはず。それこそ、初代騎士王様の英雄譚のように」

なんか、現実を知らない子供のようなことを言っているぞ。

でも、改めて思い出したことだけど、そういえば騎士国って宗教国だったっけ。

なら初代騎士王の立身出世物語は、前世の聖書のような位置づけにあるのかもしれない。

俺が考えに沈んでいると、テスタルドから変なモノを見る目を向けられてしまった。

「なぜ思案顔なのだ? 初代騎士王様の英雄譚を知らんわけではないだろう?」

「申し訳ないですけど、知りません」

「……お主の師は、語って教えなかったのか? いや、そもそも神聖騎士国に生まれ住んで、知らずに済むものか?」

「悪いですけど、俺は生まれも育ちも騎士国じゃないですよ」

「なにを言っているのだ? 神聖術を使えるということは、神聖騎士国の出であろう?」

「騎士国の騎士に神聖術を教わってはいますけど、発現は自力でです」

「なんと。お主は天然モノであったか」

物凄く驚いたような顔のあとで、テスタルドは大笑いを始める。

「はっはっはっは! 初代騎士王様のように、自力で神聖術を見につけた者だったとは! これは敗けるわけよな!」

愉快そうに笑っている。

その理由は、どうやら俺と初代騎士王と繋げて、今回の一件を英雄譚の一幕のように感じているからなんだろうな。

こんな風に俺とテスタルドが一騎討ち後とは思えないほど和やかな雰囲気でいると、リリドコロが肩を怒らせて近寄ってきた。

「テスタルド殿。負けてしまわれて、どうするお積りか」

「積りもなにも、あるまい。勝負は水物。こちらが負けることもある」

「なにを悠長な! 貴方は『聖約の御旗』の旗頭なのですよ!」

「怒るな。なに、初代騎士王様とて全勝無敗の存在ではなかった。時には敗けることもある。この敗北を次に繋げることこそが、強者という存在よ」

リリドコロの怒声などどこ吹く風と、テスタルドは俺に向き直る。

「お主に敗けたこと、我が『正義』を洗練するための試練と受け止める。そして次に我が道とお主の道、再び交わる日を楽しみにする」

「こちらとしては、今回のような一騎討ちは特例で、二度目は遠慮しておきたいですね」

「はっはっは! 道が交わるか、交わらぬかは運命ということか!」

上機嫌でテスタルドは、『聖約の御旗』の陣幕へと向かっていった。

とりあえず、これで一騎討ちは、フォンステ国の勝利で終わったな。

そう一息ついていると、リリドコロが俺を憎々しげな目で睨んできた。

「一騎討ちの約定は守る。『聖約の御旗』は二度とフォンステ国に連合に入れとは言わんし、賠償金も払おう――だが後に連合に入っておけばよかったと思っても、もう遅いのだと記憶しておくといい」

なにやら脅し文句のようなことを呟いて、リリドコロはテスタルドを追っていく。

その後ろ姿を見ながら、俺は腕組みして首を傾げる。

「ああして、なにか企んでます、って伝えてくれるのは、律義なのか馬鹿なのか……」

少し考えても答えは出なかったので、リリドコロの能力について考えることは止めた。

その代わり、一騎討ちで敗れた『聖約の御旗』が、次にどんな手を使ってくるかの予想に思考を向けることにしたのだった。

一騎討ちに勝利して、フォンステ国の国境の町では祝勝会を執り行われることになった。

夜になり、篝火が焚かれ、酒樽が開けられ、無料で広間に集まった人たちに配られる。

「かんぱーい! これで、我が国の独立は保たれた!」

「一騎討ちの代理を買ってくれたうえに勝利してくれた、ノネッテ国のミリモス王子に! かんぱーい!」

「ざまあみさらせ! ルーナッド国の業突く共!」

溜まっていた鬱憤を晴らすように、住民たちが笑いながら酒を飲む。

こちらに向かって杯を掲げてくる人に、俺も返礼で杯を掲げ返しつつ、ゆっくりと酒を飲んでいく。

俺の杯の中が空になる寸前に、横からピッチャーのような陶器が突き出てきた。顔を向けると、煽情的な服装を見につけた女性が笑顔で立っていた。

「ミリモス様。お代わりはいかがです?」

「ありがたく、いただきます」

ピッチャーから注がれるのは、発酵の弱いエール。それに香辛料を入れ込んで、香りと刺激を入れたもの。

舌に香辛料がビリビリくる感覚に慣れず、チビチビと飲みながら、ツマミを口に放り込む。

そうした俺の飲みっぷりの渋さを見てか、注いでくれた女性が身を寄せてくる。それも、煽情的な服から見える胸の谷間を強調しながら。

きっと『そういうこと』のための女性なのだろうけど、俺はその行動を手で制する。

「妻が居ますので」

「……一夜の遊びも許してくれない人なのかしら?」

「俺が妻を裏切らないと誓っているだけです」

「ふふっ。王子様は奥さんを愛しているのね。それは悪い事をしちゃったわね」

名残惜しさの欠片もなく、女性は笑いながら別の方向へ去っていく。

それが逆に、立ち去らせたはずの俺に、一抹の残念さを抱かせた。

今の感情は一時の気の迷いだと斬り捨てて、俺は酒で口を湿らせる。

そうして俺なりに宴会を楽しんでいると、また新たに一人の男が俺に近づいてきた。

彼は、俺が国境の状況を調べて欲しいとお願いしていた、この町の役人だった。

「ミリモス王子が懸念していたように、ルーナッド国との国境の様子が変になってました」

「具大的には?」

「フォンステ国からルーナッド国に入る際、とても厳しい身体検査を行っています。そしてルーナッド国からフォンステ国に入ることは、できなくなっているようです」

そう行動するようルーナッド国に指示したのは、この町から既に出ていった、『聖約の御旗』の連中だろう。

そして行動の目的は――

「――ルーナッド国からフォンステ国に入る情報を制限することが狙いかな。身体検査も、ルーナッド国からの間者を警戒してのことだろうし」

「ということは?」

「大体的に人の行き来を制限するってことは、人が一目見てわかるような、口の端に話題を乗せやすそうなこと。考えられるのは、軍事行動かな」

「軍事――兵を集めていると?」

「さっきの一騎討ちは、ルーナッド国が戦争を止めた変わりに起こったものだったよね。なら一騎討ちでフォンステ国が勝ってしまったら、ルーナッド国が独自に軍を動かすこともあり得るんじゃない?」

動きが速いことを考えると、兵をすぐに集められるよう、準備していたんだろうな。万が一、一騎討ちで敗けた場合の備えにね。

この備えを準備していたのは、テスタルドの仕業じゃないだろう。良くも悪くも、彼は一本気だしね。

考えられるのは、俺に意味深な忠告をしてきた、リリドコロだろう。

「これは、国境侵犯を警戒しなきゃいけないだろうね」

「兵を集めた方が良いでしょうか?」

「そうした方が良いと思うよ。でも、これはあくまで助言だよ。フォンステ国の兵を動員する権限は、俺は持ってないからね」

俺が国境の動きを探ってほしいとお願いしたのは、知らずに戦争に巻き込まれることが嫌だったからだ。

もし戦争になるとしても、それはフォンステ国とルーナッド国の話であり、ノネッテ国の王子である俺の出番はない。

例外は、フォンステ国がノネッテ国に援軍を申し出た場合だけど――ノネッテ国とフォンステ国の間には、ルーナッド国の他にサグナブロ国がある。

戦争を起こそうとしているルーナッド国は置いておくとしても、サグナブロ国の許可がなければ、ノネッテ国からの軍をフォンステ国への援軍に出すことはできない。

さてさて、フォンステ国の王はどんな選択をするだろうかと、俺は他人事だと考えながら酒で唇を湿らせたのだった。