軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二百三十三話 一騎討ち――攻防

俺は全力で戦う準備を完了させ、油断なく構える。

そしてテスタルドは、大剣を振り上げて突っ込んできた。

「我が剣『懲罰と慈悲』の恐ろしさ、味わうがいい!」

そんなことを言いながらも、やってくるのは相変わらずの振り下ろしだ。

俺は地面から土砂が巻き上がることを予想して、被害を受けない場所まで、神聖術で増した脚力を生かして一足で後退する。

俺の予想は当たり、テスタルドが振り下ろした大剣が地面に当たり、土砂が吹き上がって地面に浅い穴が開く。

土砂の向こうにテスタルドの姿が隠れてしまったので、俺は彼を視認するために、横に回り込むように素早く移動を開始。三秒も経たずに、俺はテスタルドを視認できる位置に到達した。

吹き上がった土砂の向こうにいたテスタルドは、俺が居た位置に顔を向けている。俺が移動していることには気付いていない様子だ。

ならこのまま、迂回攻撃を行う。

俺はそう考えようとして、テスタルドが剣を横に構えて振り抜こうとしていることに気付き、慎重さを発揮して攻撃を取りやめた。

「ぬううぅぅああああ!」

テスタルドから大きな唸り声が上がり、大剣が横薙ぎに力強く振るわれる。

大剣は落ちてきていた土砂が横に両断し、土砂を周囲に吹き散らせた。

その威力は目を見張るものがあり、もし俺が元の位置にいたら両断されてしまっていたかもしれないと、危惧を抱かせるに十分だった。

「土砂を噴き上げるほどの打撃と、空間まで断ち斬るような斬撃。この二つを駆使することが、テスタルドの真骨頂ってわけか」

警戒して観察を選んだことで、テスタルドの戦法を理解できた。

俺は、ファミリスとの訓練で培った様々な戦い方の中から、テスタルドに対するに相応しい戦い方を選び取る。

「大剣の威力は驚異だけど、動きは鈍いし、剣の振りも遅い」

相手の特性を言葉を呟くことで、俺は強く自覚する。そして選んだ戦い方に間違いがないと、最終的な判断を下した。

俺を見失って顔を巡らせている、テスタルド。その横合いから、俺は剣を構えて突進する。

こちらの足音を聞きつけたのか、テスタルドの顔が振り向く。

「そこに居たか!」

迎撃するため、テスタルドは大剣を横に振るい始める。

しかし、その速度は遅い。テスタルドの大剣が届くより、俺が自分の剣の間合いに到達して攻撃する方が早い。

それはテスタルドも攻撃の途中で理解したのだろう。大剣を振るう手を途中で止め、大剣の腹を盾にするように構え直した。

その防御によって、俺の攻撃は直前で防がれてしまった。

「ははっ! これほどに軽い攻撃ならば、剣で止める必要もなかったか!」

「そりゃ、こっちは連撃だからね!」

俺は一撃が防がれた直後には、既に二撃目を放っていた。

テスタルドが大剣で再び防いだ瞬間に、俺は一歩横に移動しながら三撃目を放ち、別方向から攻撃する。

「ぬうぅ!? 素早いな!」

テスタルドは大剣での防御が間に合わず、左腕の鎧で防ぐ。

神聖術で身体も武器も強化している俺の一撃は、鉄板も切り裂くほどだ。それを片腕の鎧で防いだということは、テスタルドも油断なく鎧を神聖術で強化できているということだな。

「でも、無傷じゃない」

俺の攻撃によってテスタルドの左腕の鎧には、ハッキリとした一筋の傷が生まれている。

何回か攻撃を当てれば、鎧を斬り裂いて、その内側にある肉体に刃が届くはずだ。

なら俺がやるべきは、攻撃の手を可能な限り止めないこと!

俺は四撃目を放ち、テスタルドが大剣で辛くも防いだところで、大きく息を吸って肺に空気をためた。高速の連撃中は、文字通りに息つく暇がないため、必然的に無呼吸行動をしないといけないからだ。

「すぅーーーー。むッ!」

呼吸を止めた状態で、五撃目、六撃目を連続して放ち、一足跳んで位置を変えながら、七撃、八撃目を行う。

攻撃がどこに当たったかを、詳しく把握はしない。そんな理解をする暇もないほどに攻撃を放っていくことに集中する。

俺の視覚では、景色が目まぐるしく変化し、テスタルドの見え方も前後左右と刻々と変化していく。

俺の聴覚では、俺の剣がテスタルドの大剣や鎧を打つ金音が鳴り響いている。

触覚は、体を移動させる足裏と、剣を操る手に集中して、他の体の部位からの情報は無視だ。

味覚は、激しい運動で急速に干上がる喉と口内の味がしている。

そして嗅覚で、テスタルドの反撃に移る臭いを感じ取った。

「ぬううぅぅぅ! 離れるがいい!」

テスタルドは防御を解いて、俺の攻撃を胴体で受ける。

そうして一撃を食らう代わりに、テスタルドは大剣を横薙ぎに自分の周囲を巡るように一回転させる攻撃を放ってきた。

大剣の軌道の高さは、俺の腰元に据えられている。そのため俺がテスタルドの至近にいる限り、絶対に食らってしまうような攻撃だった。

一度退いて呼吸を整えてから、もう一度攻撃に入るのが賢い選択だろう。

しかし俺は、訓練でその選択をしたことで、ファミリスに痛い目にあったことを思い出す。

俺は離れる選択を止め、迫りくる大剣の軌道の下に潜るため、地面に腹ばいになるような低姿勢になることを選んだ。

俺の後頭部と背中のすぐ近くを、テスタルドの大剣が通過する感触がする。あと数センチ姿勢が高かったら、頭皮や背中の肉を削がれてしまったかもしれない。しかし無事に、攻撃を回避することに成功した。

すると目の前には、大剣を大振りしたことで、大きな隙を晒すテスタルドの姿。

俺は剣を突きの構えにしながら体を起こし、剣の切っ先を突き込んだ。狙うはテスタルドの、右肩だ!

突きは当たり、テスタルドの鎧を貫通して、肩の肉を断って骨に当たる感触がした。

「ぐぬっ! 貫通を許すとは!?」

テスタルドが呻きながら繰り出してきた蹴りを、俺は剣を引き抜きながら後ろに跳んで回避する。

俺の剣先に赤い血。テスタルドの右肩の鎧の穴からも、同色の血が流れ出てきた。

その明確な痛手に、野次馬たちから悲喜様々な声が上がる。

「まさか、テスタルドが傷を受けるなんて!?」

「拙いんじゃないか、これ!?」

「う、うおおおおおおお! やるじゃないか、あの助っ人!」

「どうなるかと思ったが、勝てるぞ!」

勝敗が決したかのように、勝手なことを叫ぶ野次馬たち。

一方で一騎討ちを行っている俺とテスタルドは、まだ構えを解いていない。

俺は剣先の血を、剣を振るって払い飛ばす。剣先が血で滑って、千載一遇の好機を逃すことがないようにだ。

そして、ここで言葉で揺さぶりもかけることにした。

「テスタルド殿。貴方の戦い方は、一騎討ちに向いてませんね。恐らく、戦場での多対一を想定した範囲攻撃主体の戦闘術ですよね――」

一撃一撃は必殺でも、相手を追い詰める連撃にはなっていない。土砂を噴き上げるのも、横薙ぎの回転斬りも、一対一の状況じゃ隙が多い印象だ。

しかし、これが戦場で多数の相手をする場合なら、話が違ってくる。

一撃必殺で敵を屠れば、後の体力の温存に繋がる。土砂の噴き上げは敵の連携を防ぎ、横薙ぎの回転斬りで迫ってきた敵兵を一挙に倒すことが可能。大きな大剣も、 攻撃範囲(リーチ) を生かして優位を取りつつ、時には剣の腹を盾に防ぐことで、防御にも生かせる武器だ。

なるほど。戦場での剣法としてなら、これほど理にかなった戦い方もない。

「――っていう俺の予想、当たってますよね?」

改めて問いかけると、テスタルドは大笑いだした。

「よく見ている。こちらの戦法は丸裸というわけだ! はっはっは!」

可笑しそうなテスタルドに向かって、『聖約の御旗』の陣幕から声がかけられる。声の主は、フレッサ・リリドコロだった。

「笑っていられる状況ではないですよ! このまま敗けでもしたら、『聖約の御旗』の瓦解も見えてくるのですぞ!」

「心配は要らぬ! やるべきことは、変わらぬからのだからな」

テスタルドは厳めしい顔を、さらに険しくしながら、大剣を右肩の上に担ぐように構える。

見るからに、俺が接近してきたときに、大剣の一撃をカウンターを合わせる狙い。

片肩に傷を受けて、何度も連続して全力で剣が振れなくなった状況の中では、一番状況を打開できる戦法だった。

「さあ、来るが良い!」

意気込んで待ち構えるテスタルドに、俺はどうするべきかを考える。

テスタルドの右肩からの出血は多い。安全策を選ぶなら、様子見を続けることで失血させ、出血多量による力の喪失を狙うことが賢い。もしくは、テスタルドの攻撃範囲の際を出入りすることで、剣を触れなくなるまで空振りを誘発させることも、友好な手段の一つだ。

「でも、一騎討ちに適していない戦法の相手に真正面から勝てないようじゃ、長年にわたって教えてくれているファミリスに申し訳が立たないよね」

俺は真正面から戦う際の勝ち目を探り、腹を据える。そしてテスタルドと一撃勝負で決着をつけることを選択したのだった。