軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 貴族の反乱

僕、アリストロ・クレ・ティナウストスは今から一世一代の大戦に挑まんとしていた。

僕の目の前には、集めた傭兵が三百人。

「さあ! カヴァロ国に混乱を起こす存在、ミリモス王子を倒しに行くぞ!」

「「うおおおおおおおおおおおお!」」

傭兵たちの意気が良い。

ティナウストス侯爵家が貯めた財貨を惜しみなく与えてあるうえ、ミリモス王子を殺した暁には民への多少の狼藉は目をつむると約束しているからだ。

傭兵たちの様子に満足していると、僕の家令が近寄ってきた。

「義腕将軍は、兵を連れて庶民区へ向かったようです」

「こちらの狙い通りか。して、ミリモス王子の近くに居る兵は、どの程度か?」

「義腕将軍の連れていた兵を差っ引けば、多く見積もっても百人ほどでしょう」

「僕の手元に三百。貴族区に待機している同士に声をかければ、こちらの戦力は二千人。これは勝ったな」

二十倍の戦力差があれば、戦上手と噂のミリモス王子であろうと、恐れるに足りない。

僕と家令の会話が聞こえていたのか、傭兵たちも勝った気で余裕そうな態度だ。

「さあ、出立だ! カヴァロ国を、僕の手の中に!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

僕は傭兵たちを連れて屋敷を出る。

向かう先は、ミリモス王子がいる議事堂。

そうミリモス王子は、先の戦争で破損している王城を使わず、議事堂を接収して住処にしているのだ。

あの議事堂は、我々貴族たちが国を良く運営するべく話し合う場所。

独裁者が居座っていい場所ではない。

だから、この戦いは、我ら貴族の神聖な場所を手に入れるための聖戦であるのだ。

貴族区で待機していた同志と合流し、戦力は見積もっていた以上の二千五百余名となった。

決死の戦いと気張って、財貨を全て使った家がいくつかあったためだ。

ミリモス王子を討伐した暁には、その気概を買って、件の家々を優遇する必要があるな。

傭兵たちを引き連れて道行けば、居合わせた人々は慌てて道の端へと逃げていく。

傭兵たちは、逃げる人の中にいる女性に目を向けて、下卑た笑顔を浮かべている。

ふんっ。品性下劣とはこのことだが、背に腹は代えられない。

ミリモス王子を倒した後は、金を受け取らせ、少し良い目を見せ、立ち退いてもらうとしよう。その際に反抗するのなら、国の治安のためにも始末せねばならないな。

そんな予定を立てていると、議事堂の前に人影が見えた。

目を眇めて見やれば、ミリモス王子が鎧と剣を見に帯びた完全武装で一人立っているではないか。

彼の周囲に他の人影はない。

さては、こちらの戦力の多さを見て、兵士に逃げられたか。

それにも関わらず、一人だけで大軍の前に立つ勇気は褒めねねばなるまい。

僕は手を上げて、血気に逸る傭兵たちを制止し、ミリモス王子に声をかける。

「ミリモス王子。圧倒的な戦力差があるにもかかわらず、議事堂の中に籠らずに外で戦おうという、その気概は立派ですな」

僕へ、ミリモス王子は笑顔を向けてきた。

「気概というなら、ある意味、そっちも立派だね。自分たちの行いを悔いずに、権利を取り戻すために反乱という形を選ぶなんてね」

「悔いる? なにをですか? 我々は『悪い事』など、した覚えがありませんが?」

「……どうして貴方がたの権利を、俺が執り上げると判断したか。その理由は伝えたと思っていましたが?」

「ああ、あのとき言われた事ですか。あの程度のこと、貴族なら当たり前の行いでしょう。それを問題にしたのは、貴方に反抗的な我々から権力を取り上げ、協力的な貴族を引き込むための策謀だったと、我々は見抜いておりますとも」

お見通しだと告げたところ、ミリモス王子は呆れ顔を返してきた。

「そういう認識だったわけか。結局のところ、我が身可愛さが優先ってことか」

ミリモス王子は、訳の分からない独り言を呟いている。

どうやら、絶望的な戦力差に、頭がおかしくなられてしまったらしい。

それならば、ここで彼の人生に幕を引いてあげることが、貴族としての我々の役となるだろう。

「もはや問答は付きました。ミリモス王子、おさらばです」

僕が持ち上げた手を前へ振ると、傭兵たちが武器を手に突撃を始めた。

迫りくる二千五百余名の姿を見ても、ミリモス王子は余裕の顔を崩さない。

孤立無援の状況で、その表情。やはり現実を受け止めきれず、心が壊れてしまっているに違いない。

そう僕が考えていたところ、傭兵たちが立てる足音を越えて、ミリモス王子の声が微かに聞こえてきた。

「火種が火に、火は炎に、炎を蛇へ。烈火の鱗を纏い、消えぬ鈍火の舌を伸ばし、うねり進め火蛇。インゲィム・ヴィーカラ」

これは呪文――ミリモス王子は魔法を使えたのか!?

僕が驚いているのと同じで、走り迫っていた傭兵たちからも驚きの声が上がる。ミリモス王子の手から、炎で作られた縄のようなものがうねり出て、傭兵たちの眼前を右に左にと薙いできたからだ。

「うおっ! 熱ッ、炎だぞ!?」

「落ち着け! 魔法なんて、帝国相手じゃなきゃ、恐れるに足りん!」

「魔法が止まったら、次の呪文が完成する前に突撃すりゃいい!」

その通り。魔法など、しょせんはコケ脅しの類。

ミリモス王子の余裕顔が、魔法を頼みの綱としてのものだったのなら、目論見違いもいいところだろう。

「さあ、敵は苦肉の策しか持ち合わせていない。傭兵の諸君、勝利と褒賞は目前だぞ!」

僕が煽りを入れると、傭兵の一人が盾を掲げて魔法の炎を無理やり突破する。

その心意気に僕が感心していると、その傭兵が吹っ飛ばされて転がり戻ってきた。

「何事だ!?」

僕の疑問に答えるように、ミリモス王子の手前に新たな姿。ミリモス王子の魔法が止まり、その姿がハッキリと見えるようになった。

それは人の形を二回り大きくして少し膨れさせたような形の、無骨な見た目の鉄製の全身甲冑。

その甲冑と同じものが、議事堂の中から続々と現れ、ミリモス王子の背後に整列を始めた。

「こちらの出方を見るために、手勢を議事堂の中に隠していたのか」

しかし、ミリモス王子が従える全身甲冑の数は少ない。

精々が百人。事前情報にあった通りの数でしかない。

「こちらは二千人。押しつぶしてしまうのだ!」

僕の号令に、傭兵たちは武器を手に、全身甲冑の者たちへ突撃する。

一撃二撃は甲冑の装甲に止められるだろうが、二十倍もの数の暴力の前には太刀打ちできないものだ。

僕が余裕で状況を見ていると、予想外の光景が目に入ってきた。

全身甲冑が武器を持つ手を一振りすると、一度に傭兵たちが五人ほど吹っ飛んだのだ。

「なにぃ!?」

甲冑一人だけの行いなら、まだ個人差と納得できた。

しかし、全ての全身甲冑が同じように、傭兵たちを纏めて吹っ飛ばしている。

あり得ない光景に呆然としていると、僕に従う貴族の中から一人、怖々とした声を上げる者がいた。

「あ、あれはもしや、先の戦争で王城の門をわずかな数で破壊したという、謎の甲冑部隊では!?」

「知っているのか?!」

「い、いえ。王城の中で戦った者で生き延びた者はいないため、遠くで観戦をしていた民からの噂としてしか聞いてはなく。それに、王城の門が全身甲冑を着た百人に壊されたという噂など、信じるに値しないとばかり」

王城の門は、攻城兵器を用いても多大な時間がかかるように設計されていた。

それが僅かな時間で突破された。

その時間の短さゆえに、王城の中に裏切り者がいて門を開け、ノネッテ軍は内通者を隠すために後に門を破壊した。我ら戦いに参加できなかったカヴァロ貴族は、常識的な考えの下、そう判断していた。

しかし、噂の通りであったとしたら、あの全身甲冑は攻城兵器並みの戦力ということになる。

「それを手元に置いていたということは、さては、この状況は罠か……」

義腕将軍と兵の多くを離れさせることで、我らをおびき寄せる。そして少数精鋭の全身甲冑部隊で撃滅する。

そんなミリモス王子の目論見が分かったところで、我ら貴族は後退することはできない。

傭兵を集めるために財貨を使い尽くているし、戦勝した統治者に歯向かってもいる。今回失敗したら、二度と立ち上がる機会はない。

「ええい! 甲冑を相手にせず、ミリモス王子だけを狙うのだ!」

ミリモス王子は、甲冑に守られているだけだ。数に任せて突撃すれば、刃が届き得る。

傭兵たちも活路はミリモス王子の命を取るしかないと判断したようで、三十人ほどが一丸となって、ミリモス王子に突撃を仕掛けている。他の傭兵たちも動き、全身甲冑たちの動きを封じ込めに入る。

「「「うおおおおおおおおおおお!」」」

雄叫びを上げて走る傭兵たちへ、身近にいた全身甲冑が武器を振う。

一振りごとに人数が削られていくが、十人ほどが突破を果たし、ミリモス王子の前へ。

「ははッ! 直掩をつけてないなど、馬鹿なヤツ!」

傭兵から勝利宣言とも言える声が上がる。

これは勝ったと、僕も思った。

しかし現実は、僕と傭兵の思惑を裏切ってくれた。

「俺が直掩を配置しなかったのは、必要ないからだよ」

ミリモス王子は涼しげな声を放ちながら、剣で傭兵たちを一人二人と斬り殺していく。

時に踊るように滑らかに、時には直線的に素早い動きで血煙を巻き起こし、あっという間に十人ほどの傭兵が地面に倒れ伏させていた。

「……聞いてない。ミリモス王子がこんなに強いなんて、聞いてないぞ!!」

僕は慌てて勝ち筋を探す。

全身甲冑の部隊も、ミリモス王子も、我々には歯が立たない相手だと判明してしまった。

別の方策を立てる必要がある。

「そ、そうだ。ミリモス王子の奥方がやってきていると聞いた。恐らく議事堂の中に立てこもっているはず。迂回して中に入り、人質に取れば」

おぼろげに見えた勝ち筋を周囲に伝えようとしたところ、僕は急に背筋が寒くなった。

「お前。いま、パルベラを人質にすると言ったか?」

戦闘音が鳴り続けている中で、そのミリモス王子の声だけがハッキリと聞こえてきた。

「んッ、なっ……」

ゾッとする声の威圧感に、僕はたじろいでしまう。

その僕が見ている光景の中で、ミリモス王子が前へと進み始め、こちらに近寄ってくる。それも、剣で傭兵たちを薙ぎ払いながらだ。

「は、早く、ミリモス王子を殺すんだ! 早くしろ!」

なりふり構わず大声で命令するが、命令に従って行動を起こした傭兵は、全て斬り捨てられた。

その異様な戦闘力に、とうとう傭兵たちは及び腰になり、ミリモス王子に挑みかかる者はいなくなってしまう。

それならばと、同志の貴族たちが立ち向かってくれたが、傭兵が敵わぬ相手に勝てるはずもなし。全員の首と胴が別れる結果となる。

そして無人の野を歩いてきたかのように、ミリモス王子はあっさりと僕の目の前にやってきた。

「パルベラにはファミリスが付いているから心配は必要ないんだろうけど――俺の妻を人質にしようと考えるヤツは殺さなきゃならない」

前半は優しげに、後半は背筋が凍るほどの殺気を伴って、ミリモス王子は言ってきた。

僕は、眼前からくる強烈な殺意に、動けなくなってしまう。

指を動かすどころか、息の吸うことすら、自分の意思ではできない。自然と震え出した歯によって、ガチガチと音を鳴らすだけが、今の僕が出来る全てだった。

「は、ひ。ひ、ふ」

「死ね」

残酷な宣言と共に、ミリモス王子の剣が振るわれ、僕の首に刃が。

すると急に景色がぐるぐると回り出し、周囲の建物、地面、空、路地、地面、空と、目まぐるしく切り替わる。

やがて地面に倒れて横倒しになった僕の目の前に、頭を失い、首から血を噴き上げる『誰かの死体』があった。

あれ。どこかで見たような服装――と疑問に思ったところで意識が、段々と暗く、なって――…………・・・