軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百九十三話 反攻開始

ペケェノ国の軍勢の陣地を遠くに見据えながら、俺は反攻作戦の準備を続けていた。

援軍の第二陣を含めた、約千人の兵士たち。

その中から、魔導鎧を着る人員を五名選出し終え、完熟訓練をさせていた。

魔導鎧とは、二メートル半ほどの大きさがある、内部フレームに油圧式の駆動部を備えた、自立可能な強化外殻の鎧。しかしながら、未だ魔法で油圧を操る機構が試作段階で出力が甘いため軽量化をしなければならず、背面の装甲は取り外されている。

そんな鎧としては不完全な代物だし、油圧の補助で身動きするため、『着る』というよりかは『操縦する』と言い表した方が良いかもしれない。

俺が操縦手の一人に選んだキコス千人長は、既に魔導鎧の中に入り込み、手足を軽く動かして感触を確かめている。

「この鎧は凄いですよ。自分の体より一回りは大きいのに、体の延長のように動かせる。その上、鎧を着ているとは思えないほど、身動きが軽い」

油圧が駆動部が奏でる、しゅいーしゅいー、という独特の駆動音がしている。

「『流動』の魔法で、袋の中に入った油を二重筒の中へ操作することで、体の動きに合わせて油圧機構を駆動させる仕組みになっているんだよ。だから、軽く動かすことができるんだ」

「なるほど。ですが、常時魔法を使用している状態は大丈夫なので?」

魔力を垂れ流し続けるような機能だと、すぐに魔力が底をついてしまいそうという、キコス千人長の懸念はわかる。

しかし、常時魔力を消費するという問題は、魔導鎧を開発するにあたって、最初から問題視されていた部分だ。

魔力消費を緩和する策は、すでにしてあるんだよね。

「心配いらないよ。魔力消費し続けることにはなっているけど、駆動方法の中枢である『流動』の魔法は、魔力消費が極端に少ない魔法なんだよ」

それこそ、生活用の魔法とされる、『水を出す』や『火を出す』魔法よりも消費量が少ない。

何故少ないかは、詳しい理由は研究中だからハッキリとは証明されてはいない。

だけど、『流動』は『存在している液体を動かす』という魔法なので、水や火を出すような『魔力で物体や熱量を生み出す』という部分がない。それが魔力消費の少なさに直結しているんじゃないか、と考えられる。

「だから、鍛冶師に魔導鎧を試してもらったときは、二千を数えても駆動させ続けられていたね」

魔力消費で昏倒しない安全圏を見越しても、連続稼働時間は三十分ある計算だ。

「鎧に組み込んでいる『防壁』の魔法を使用すると、さらに稼働時間は短くなるけど」

この時間を長いとみるか、十分とみるか、短いとみるかは戦場による。

つまり、一対一なら長く、小勢同士の争いなら十分で、大戦争だと短いといったところだろうな。

ペケェノ国とカヴァロ国の軍勢との戦いは、大戦争の部類だから、本来なら短いと評するところだろうけど――

「――まあそこは、指揮官の頭脳次第だよね」

制限時間が三十分以下であろうと、その時間で戦果が上がるように作戦を立てればいいだけなんだからね。

魔導鎧の完熟も終わった翌日に、俺はノネッテ国の軍勢を連れて、ペケェノ国の陣地に攻め入る決断をした。

「五機の魔導鎧は、荷馬車に乗せて前線へ運ぶ! その他の兵士は、馬車を護衛するような形で前進する!」

俺が馬上から命令を発すると、鉄の全身甲冑を身に着けた兵士たちが、手にある武器を上に突き出し雄叫びを上げる。

「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」

「出陣だ!」

俺の号令に合わせて、野城の正門が開かれた。

押し止められた濁流が水門から放たれるかのように、俺とノネッテ国の軍勢は城から飛び出す。

足下の地面は、少し柔らかめな土の平地だ。多少の起伏はあるけど、荷馬車の車輪が捕られるほどじゃない。

転んで脱落する兵士や、横転するような荷馬車が現れないまま、ペケェノ国軍勢が肉眼で見える距離になってきた。

敵も間抜けではないようで、すっかりと俺たちを迎え撃つための凸形の陣形を整え終えていた。

「でも、集まってくれているなら――魔導鎧、各位! 専用の弓を準備!」

「「おう!」」

荷馬車の上に立つ魔導鎧を着た兵士たちが、その手に弓を持ち上げる。

それは研究部で試作した、魔導鎧専用の弓。攻城用の大型バリスタを改造して作り上げた逸品だ。

普通の人間なら素手では少しも引けないほどに、超がつくほどの剛弓だ。

だけど、油圧機構のアシストがある魔導鎧を用いれば、普通の矢に弓を番えるような気楽さで、矢を番えることができる。

もちろん番われる矢も特別製で、先頭から尾まで一メートルある小槍のような専用のもの。

「矢を放て!」

「「はなーてー!」」

五つの魔導鎧が持つ弓から、一斉に太い矢が水平に射出された。

厳つい見た目に似つかわしく、放たれた太矢の勢いは、普通の弓矢のもの以上に素早い。

真っ直ぐに飛び行く、五本の太矢。

十秒も経たないうちに、敵陣に三発が命中。三つの矢はどれも、先頭の兵士を貫いて、その裏にいる人物まで貫通する。

そのバカげた威力に魂消たのか、ペケェノ国の軍勢に、焦りのような雰囲気が見えた気がした。

俺はすかさず、魔導鎧の面々に再び命令する。

「次矢装填!」

「「――装填完了!」」

「任意に放て!」

俺の号令に、今度はバラバラと間を開けて、魔導鎧から矢が放たれる。

一度目の射撃でコツを掴んだのか、今度は五発とも命中。ペケェノ国の軍勢に被害を与える。

「とはいえ、敵の総数から見れば、微々たるものだけどね」

俺はそう愚痴っぽく言っている間に、敵陣に動きがあることを見抜いていた。

「敵から矢が飛んで来るぞ! 荷馬車は現地点で停止! 魔導鎧を下ろした後、反転して野城へ引き返せ! その他は、前進突撃だ!」

「「「うおおおおおおおおお! 矢雨ごとき! ロッチャ製の鎧を抜けるものか!」」」

雄叫びを上げて、約千名の兵士たちが、長尺の武器を手に駆けだす。

こちらの動きに呼応して、敵陣からいっせいの弦鳴りの音とともに斜め上に矢が放たれた。

少し間を置いてから、天上から夕立のような、バラバラといった音と共に矢が降ってくる。

そんな鉄の雨の中をものともせず、ノネッテ国の軍勢は走る続ける。

「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」

降ってきた矢が鎧に当たり、小さな火花が散る。

大部分の矢は頑丈な鎧に弾かれるが、当たり所が悪く矢が刺さるようなこともある。しかし、鎧の内側に着こんだ鎖帷子や襦袢は抜けなかったのか、血が出る様子はない。

かく観察している俺はというと、人馬一体の神聖術を使って自身と馬の防御力を上げつつ、降ってきた矢を鋼鉄の剣で打ち払うことで、無傷でやり過ごした。

敵の第一矢に続いて、第二矢、第三矢がくるが、同じ結果に終わり、俺たちは無傷の状態で、間近にペケェノ国の軍勢を捉えている。

敵は盾を持った方陣で、こちらを受け止める作戦のよう。

「それなら――突撃の先頭は魔導鎧に担ってもらう! 道を開けろ!」

俺の号令に反応して、兵士の走り方が変わり、後ろを走っている魔導鎧の兵士を前へ出すよう、左右の隙間を広げる。

「魔導鎧、突撃だ!」

「「行きます!」」

しゅいーっと油圧の駆動音が高く鳴しながら、矢雨の傷を表面に作った魔導鎧は、一歩踏み出す事に走る速度を増していく。

そして軽めに走る自動車ぐらいの速さまで増速したところで、魔導鎧は敵兵の先頭へと衝突したのだった。