軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百九十話 前線到着

俺は、戦争の前線の一ヶ所である、ペレセ国にある野戦城に着いた。

予想以上の速さで、戦線が押し込まれている。

そのため早速、部隊の掌握に移ることにした。

「千人長。配下の人数は、どれほど残っている?」

「自分が把握している限り、この城にいる手勢はノネッテ国の手勢が四百五十名と、ペレセ国の方が若干名といったところです」

俺が選別した先遣隊がほぼ全員生き残っていることは予想通りだったけど、ペレセ国の兵士は酷い状況らしい。

「若干って、そんな人数になるほど大敗したの?」

「いえ。ペレセ国の連中は、撤退中に離散するのが常なのです。中には付近の村に乱暴を働く者もあり、その村々から要望があって、戦の合間に討伐に出ることもあるほどでして」

おいおい。

これが敵国の土地ならわからないではないけどさ。兵士が守るべき自国の村を襲ってどうするよ。

まあ、兵法書にも統率を失った敗残兵が仕出かす酷い例があったし、驚くほどのことでもないのか。判断がつきかねる。

そんなことより、いま問題にするべきは、城に居る兵力が少ないという点だった。

「この状況だと、援軍の第二陣の到着を待ってから反撃が、作戦的には妥当かな」

「千を割る数で、反攻に出ると?」

千人長は、彼我の兵力差が開いていると言いたいのだろう。

それは重々承知しているけど、無理をしなきゃいけない理由があるんだよね。

「どこかで一回は激しく叩いて侵攻の足を止めさせないと、勢いに任せて全土を平定されかねないんだ。そしてそれができるのは、こちら側では俺たちだけしかない」

「ペレセ国の兵士に奮闘してもらいたいところではありますが」

「計画的な撤退ですら千々に離散するほど統率力のない軍なんて、あてになんてできないよ」

「その統率力を高めるために、ペレセ国の王が前線に来ると噂がありますが?」

その噂は知っている。

ペレセ国の王太子をノネッテ国で預かっているから、仮に戦争に負けても王家断絶の心配はないと考えての出陣だろう。

「でも、ペレセ国の王様が軍事の天才だと知れ回っているならいざ知らず、そうじゃないのなら兵の士気を保つことすら無理だと思うけどなぁ」

兵士というのは現金なものだ。

戦争に勝てる上司の命令なら、どんな理不尽なことでも従う。

しかし負け続ける上司の命令だと、どんな理路整然とした正しい内容だとしても、反感を抱く。

事実、勝ち続けている俺が出した命令の中には、無理目なものも多いのけど、兵士はちゃんと動いてくれる。俺がいままでの戦争で負けていれば、そうはなっていないだろう。

「とにかく、四、五日中には援軍の第二陣が来るんだ。彼らが持ってくる補給物資を受け取ったら、一度大きな反攻作戦を実行する」

「了解です。しかし大丈夫でしょうか?」

「大丈夫って、何が?」

「我々が現在いる方面は、いわばペケェノ国の軍勢と戦う戦力です。カヴァロ国の軍勢と戦う方面は……」

「ペレセ国の腰抜け兵士しかいないから、あっという間に突破されてしまいかねない。仮にそうなった場合、俺たちがペケェノ国の軍勢を押し返したところで、後方をカヴァロ国の軍勢に遮断されて、逃げるに逃げられなくなるってわけだね」

「はい。結果的に、ペケェノ国とカヴァロ国の軍勢で、挟み撃ちにされてしまうかと」

真っ当な意見だし、そうなる未来がありありと想像できる。

でも、解決策はある。

「そうなったらなったで、俺たちは前の敵を蹴散らしてから、後方に進軍すればいいんだよ」

俺の無茶苦茶な方針を聞いて、千人長はぽかんとした表情の後で、大笑いを始める。

「あはははははは! そうでした。目の前の敵は倒し続ければ、戦争は勝てるものでしたね。いやぁ、負け戦続きで、ロッチャ兵の魂を見失っていたようです」

「……初耳の単語だから聞いておくけど、ロッチャ兵の魂ってなに?」

「防御は防具に任せて、自身は一心不乱に敵を打ち倒すことに傾注することですよ」

なんとも『勇ましい』の前に『蛮』の一字がくっ付きそうな考え方だ。

けど、そういう気構えでいてくれるなら、第二陣に持たせた『アレ』が役に立ちそうだ。

「大反攻を行う際には、研究部で作った、油圧のオモチャを使っちゃおう」

「えっ、あれをですか。実用に耐えるものに仕上がっているので?」

「長時間動かすのは厳しいけど、短時間なら十分だよ」

「ほう。あれは動きにくいものの、全身を金属の塊で覆いつつ、何倍もの力を付加してくれますからな。ペケェノ国の連中の度肝を抜けそうです」

お互いに悪だくみをするような顔で笑い合っていると、伝令が走ってきた。

「ミリモス王子。この城よりやや後方の陣にて軍議を行うため、前線指揮官は出頭するようにと、ペレセ国の王からの知らせが」

おいおい、マジでか。

負け続けの状況で、前線の指揮官を後方に引っ張るだなんて、何を考えているのやら。

ノネッテ国の軍勢は士気を保っているから、俺や千人長が離れたところで問題はないだろう。

でも、ペレセ国の軍勢から現場指揮官が抜けたら、脱走兵がドッと出ることになりかねないっていうのに。

俺は溜息を吐き出す代わりに、千人長に命令を下すことにした。

「ということらしいから、俺は後方の陣に行く。ここの指揮は任せた」

「敵の攻勢があった場合は、どうしたらよいでしょう?」

「この城を死守して。俺が後方の陣から帰ってくるとき、援軍の第二陣を引き連れてくるから」

俺は休ませていた馬に乗ると、人馬一体の神聖術を使いながら、ペレセ国の王が待つという後方の陣へと駆け出したのだった。