軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百八十七話 会談終了

項垂れているヘピティ大使。

しかし、落胆の極みにいる感じとは、俺には見えなかった。

むしろ、嫌な予感が当たったといった、信じたくない事実を知ってしまったかのような、そんな感じが強くした。

そして俺は思い出した。

この会談の中で、ペレセ国がノネッテ国に庇護を求めた際のことだ。

チョレックス王が庇護対象を明確にしようとした際、ヘピティ大使はこう言っていた。

『出来ぬと仰られるのならば、イニシアラ王太子だけでも』と。

この言葉、考えようによっては、ペレセ国が滅亡する未来を知っていた――もっと言えば、ペケェノ国とカヴァロ国の二国に攻められる懸念があることを知っていたんじゃないだろうか。

俺と同じようにアヴコロ公爵も思い出したらしく、彼は厳しい口調でチョレックス王に進言する。

「庇護を約束する前に、ペレセ国が二国より攻められることを知れたこと、行幸と判断するべきかと」

「ペレセ国とは友好を結ばぬ方がよいと、アヴコロ公爵は言いたいのだな」

「はい。助けてもらおうとしているにも関わらず、致命的な情報を隠そうとする国など、信用に値しませんので」

確かに、ペレセ国の所業は褒められたものじゃないだろう。

だけど、相手を騙してでも優位な条件を結ぼうとすることが、外交というもののはず。

そう目くじらを立てるほどのことじゃないと思う。

それに、アヴコロ公爵が問題にしている、二つの国がペレセ国に攻め入ろうとしている点。

俺はハータウト国を支援するという形で、フェロコニー国とプルニャ国で二つの国と戦った経験がある。

加えて二年間でロッチャ地域の技術力が上がり、武具はより良い物を揃えられる状況だ。

つまるところ、二つの国との戦うことになっても勝算は高いのだから、チョレックス王に『ペレセ国を庇護しないように』と進言するのはどうなんだろうか。

これも外交上の駆け引きの一種なんだろうか。

回りくどいことは止めて、ペレセ国を助けると決めてしまった方が良いと思うんだけどなぁ。

ペレセ国の窮状の裏に、帝国の『ノネッテ国を第三の大国に』って動きがあるとすれば、俺たちが逃れることはできないだろうしね。

そうやって俺が思考を飛ばしている間にも、ヘピティ大使とアヴコロ公爵の言い合いは続いていた。

「情報を隠していた点は、こちらに非がありましょう。しかしながら、忠言申し上げるが、我が国が滅びれば、奴らの魔の手は貴国へ伸びることは明白ですぞ!」

「これは異なことを。貴殿と王太子殿下を貴国へと送り返し、山脈に空いた穴を崩落で塞げば、彼らが攻め入ってくる理由は消えるでしょうに」

「いいえ。彼らはこう言って攻めてくるはずです。ペレセ国が助けを求めたにも拘らず、それを拒否した。これは正義に悖る行為である。そんな無頼の国は攻め落とさねばならない。これは正しいことであると!」

無茶苦茶な大義名分だな。

けど、それがどういう意味を持っての名分なのかは、俺はすぐにわかった。

「『正しい行い』であると表明することで、騎士国が出張ってくることを抑えるわけですね」

俺が呟くと、アヴコロ公爵は困った顔で見てきた。

「ミリモス王子。仮に彼の二国との戦いになった際、ノネッテ国に騎士国の支援はやってこないと考えるのですね?」

「騎士国は義を重んじる国のようですからね。救援を求められたのに、その手を跳ねのけたとあれば、助けてはくれないでしょう。それに――」

これは言っていいものかと、俺はちょっと言い淀む。

しかし、アヴコロ公爵に問われてしまう。

「まだ、騎士国が助けに来ない理由があると?」

「――騎士国が助けにくるのは、決まって大義のない理由で侵攻される弱い国の側です。では、ノネッテ国は『弱い国』なのでしょうか」

帝国と比較すれば、まだまだ吹けば飛ぶような弱小国だろう。

しかし、ペレセ国やその他の小国と相対したとき、ノネッテ国は弱小国と言えるだろうか。

曲りなりにも魔導具を開発でき、鋼鉄の武器や鎧も生産でき、軍事行動を潤滑に行うために必要な経済力と農業収穫量は好調。

兵数も、各地の治安のために残す人数を除いたとしても、一万人は確実に動員できるだろう。ロッチャ地域だけで、一万人の兵士がいるんだしね。

それほどに、武器や人数の整った軍隊を持つ国は、弱小国とは扱わないだろう。

「言ってしまうと、ノネッテ国の軍を動かしさえすれば、ペケェノ国とカヴァロ国も逆に落とせるのではないかと思いますよ」

これは口には出さないけど、そういう目算があったからこそ裏で帝国がこの戦争を仕向けてきたんだと思うしね。

そんな俺の大言ともとれる自軍の評価に、アヴコロ公爵は困り顔を強め、チョレックス王は大笑いする。

「そこまで言えとは……」

「はっはっは! 仕方があるまい。ミリモスは軍人たる側面が強い。自軍の強さを誇りこそすれ、弱いなどとは口にできまいよ」

心外だな。俺は自軍の強さを把握しているだけで、盲目的に信じているわけじゃない。

「チョレックス王。帝国に比すれば、我が軍は弱いですよ?」

「はっはっはっは! それもそうだな!」

注意したつもりが、なぜか大笑いを再発させる結果になった。

うーん。比較に帝国を使ったことが拙かったか。

しかし比較することができる相手となると、隣接領地を囲い込まれていることもあって、帝国しかないしなぁ。

俺が不満に思っていると、蚊帳の外に置かれていたヘピティ大使がおずおずと声をかけてきた。

「それでその。我が国を助けてはいただけるのでしょうか?」

おっと、その話の決着がついてなかったか。

どうするのだろうと、俺はアヴコロ公爵を見る。

するとアヴコロ公爵は、自分には決定権がないと示すように、チョレックス王へと視線を向けている。

「ふむっ。ミリモスに確認する。勝てる戦いなのだな?」

「使われているという帝国製の魔導具の性能を把握しないことには確約できませんが――七割方勝てると考えています」

そも帝国軍の脅威とは、魔導具性能もそうだが、魔導具と魔法の集中運用に他ならない。

それができない相手――バラバラと帝国製の魔導具を使う程度の相手ならば、この二年間で鍛え続けたロッチャ地域の兵たちとロッチャ地域製の魔導具の敵じゃない。

俺の考えを伝えると、チョレックス王は頷いた。

「その言葉、信じよう。喜べ、ヘピティ外交代表。ミリモスと我が国の軍が、其方の国を助けてやると約束しよう」

「あ、ありがとうございます!」

喜色を浮かべるヘピティ大使だったが、続いたチョレックス王の言葉で表情が固まることになる。

「ついては、二国から攻められるという窮状を助けるからには、それなりの見返りを約束していただこう。もちろん先の話の中にあった『我が軍が手に入れたものは全てこちらのもの』という条件以上でだ」