作品タイトル不明
百八十二話 現状整理
二年前にフンセロイアから伝えられていた騒動の予感に、俺は現在のノネッテ国の状況を改めて整理することにした。
現在のノネッテ国は、二年前と領土の大きさは変わっていない。
ノネッテ本国、ロッチャ地域、アンビトース地域、フェロニャ地域。属国のハータウト国。
友好国の数も、姉のソレリーナが嫁いだスポザート国の一つだけ。
しかし二年前と比べて、代わった部分がかなりある。
まずは領地全体の経済が向上していること。
アンビトース地域から採れる白砂と、ロッチャ地域で作る手芸品は、相変わらず帝国への輸出品として好調だ。
そしてこの二年で販路が開拓できたことで、森林が豊富なフェロニャ地域とハータウト国からの木炭と建築用の木材も、利率は低いものの、着実な利益を出せている。
砂漠地帯で行われている商業路も、ほぼ一社独占状態なので、濡れ手に粟な状況が続いている。
こうして経済が好調なので、帝国に借金を毎年想定分を払っても資金が余り気味になったので、民に還元するために領地内で公共事業を行うようになった。
ロッチャ地域の荒れ地を整備して畑をさらに広大化し、ロッチャ地域からアンビトース地域にかけて流れる川の護岸工事を行った。
ノネッテ本国内では街道の整備、ロッチャ地域からハータウト国を通りフェロニャ地域までの商業路の敷設もした。
民が気軽に使える利用金額に設定した保養施設の開設もやった。
そうして領地間の行き来と暮らしぶりが楽になったことで、領地内の金回りが加速して更なる経済向上を生み、より税収が増えて予算が潤沢になり、公共事業にもっとお金を入れるという好循環が生まれている。
身近な国家間の状況はというと、ノネッテ国は帝国領と砂漠によって、全域に渡って封鎖されている状況だ。
そのため外交相手国は帝国とスポザート国に、ほぼ限られている。ハータウト国は属国扱いなので外ではなく内――いわば『内交』という扱いだしね。
帝国との外交は、ありていに言って穏やかだ。
二年前のノネッテ国を利用した暗闘で、フンセロイアが敵対派閥より一歩先んじた権力を手にしたからか、無茶なことを言ってこなくなった。
ノネッテ国領地の何か所かに存在する、帝国に本店を置く商店の支店についても、二年前とそれ以前に比べて、より真っ当な――というと語弊があるけど、儲けを低くしての商いをするようになっている。
それらノネッテ国に有利な状況から、本当に帝国はノネッテ国を第三の大国に押し上げようという企みを持っているんだなと、理解することができる。
スポザート国については、大した変化はない。
あえて挙げるなら、ソレリーナが子供を出産し、俺はお祝いにロッチャ地域にいる鍛冶の匠に願って作ってもらった守り刀こと『守護剣』を送ったぐらいなのだから、スポザート国の内政の穏やかっぷりが分かるだろう。
砂漠の通商路に関係することで、いくつかの国とも関係はないことはないけれど、それは民間レベルの話だ。
外交とまで言えるほど、国家間の繋がりはない。
そんな好調なノネッテ国の各地を治めている、俺や家族の状況はというとだ。
ノネッテ本国は、チョレックス王が玉座に座ったままの状態。
しかし、俺を王権代理人に指名したからか、半引退状態で穏やかな日々を送っているらしい。趣味で王城に作った豆畑を耕しているなんて話も聞く。
そのことについて、宰相のアヴコロ公爵が苦言を行っているらしいけど、今のままの状態でも国が治まっているのであまり強くは言えないらしい。
フェロニャ地域を治めるのは、長兄のフッテーロ。
俺が王権代理人になったことに、次期王として育てられた彼が文句を言ってくるんじゃないかと危惧したのだけど、そうはならなかった。
「プルニャの領主としての仕事で、外交で帝国相手に四苦八苦するような僕じゃ、この先のロッチャ国の舵取りは難しいよ。ミリモスが王権代理人になったことで、荷が下りたと感じた部分もあるんだよ」
そう安堵した顔つきで語られて、俺はちょっと複雑な気分になったものだった。
なにせフッテーロは、その帝国との外交を通じて、帝国貴族のいくつかの家と独自のパイプを繋ぐことに成功している。それも対等な関係でだ。
どうやって言葉だけで事を成せたのかが分からず、俺はいまでも疑問のまま。
それほどの能力があるのだから、ノネッテ国の次の王はフッテーロのままで良いと思うのだけどなぁ。
それは兎も角として。
アンビトース地域を治める、俺の二つ歳が上の兄、ヴィシカについて。
彼はこの二年で、一人のお嫁さんを迎えていた。
旧アンビトース王族の子女の一人で、ジヴェルデの姉だという。
旧支配者を身内にすることは、地域の平定に帰する部分はあるけれど、騒動の種になる懸念もある。
けど、ヴィシカから言葉少なげに「恋愛結婚だ」と理由を伝えられてしまうと、それなら仕方がないと納得せざるを得なかった。
こうして、アンビトース王族が領主の妻として内政に関われるようになったことで、俺の下にジヴェルデとアテンツァが人質としている意味がなくなった。
なので自由にアンビトース地域に戻っていいと伝えると、猛反発を食らってしまった。
「助言という形で手助けしたこともありますのに、要らなくなったから捨てると仰いますのね!」
「ミリモス王子が、そこまでの人でなしとは、この目は曇っていたようです……」
予想外の状況に、俺は面食らってしまった。
「い、いや。二人は人質から解放されるんだよ。故郷に帰りたいでしょ?」
「そんな気遣い、必要ありませんわ! ロッチャ地域での暮らしは物が豊かであり、人質とは思えないほどの行動の自由があって、気に入っていますもの!」
「アンビトースが国ではなくなった原因である者を夫としていた身。出戻ったところで、歓迎してくれるとは……」
俺は二人の迫力にタジタジになってしまい、ロッチャ地域に隙に滞在していいと約束させられることになってしまったっけ。
話がずれた。元に戻そう。
帝国に人質として出されているガンテとカリノは、帝国生活を謳歌しているらしい。
魔導具が生活のあらゆる場面に存在して、とても快適に暮らせているそうだ。
その様子を手紙で見る限り、前世の日本並み――とまでは行かないまでも、上下水道完備かつ公衆衛生にも配慮された生活らしい。
魔導具や武器を作る工廠のあたりは、次の戦争に向けての準備で常に排煙が上がっていて、近くの区画にいくと煙いらしいけどね。
帝国に行ったといえば、サルカジモもそうだ。
妻のスピスクの婿養子という形で帝国に送られ、帝国貴族の分家として家を持つことになった。
貴族の分家といっても、それは形だけで、実際は平民と変わらない暮らしぶりを強いられているらしい。
その様子を見てきたというフンセロイアが言うには、サルカジモにとって帝国平民の暮らしはノネッテ国での生活とあまり変わらないらしく、平然としているらしい。
しかもノネッテ国の元帥位を持っていた背景から、帝国軍で役職を貰ったらしい。役職と言っても、大したことのない下級のものらしいけどね。
「そうやってサルカジモが小さく纏まっちゃったことに、一国を手にしようとしていたスピスク義姉上は忸怩たる思いを抱いているんじゃない?」
そう質問すると、フンセロイアはニヤリと笑い返してきた。
「彼女の主家が『味方する方を間違えた』と、派閥をこちらに乗り換えてしましたよ」
「それって派閥を裏切ったってことでしょ。味方に引き入れたところで、信じられるの?」
「彼らを信じる必要などありませんよ。有益なら使う、害悪になるのなら敵対派閥に反逆者として売りつける、それだけのことです」
身の破滅が身近にあると感じれば裏切らないと、フンセロイアが言っているように、俺には聞こえた。