軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 メンダシウム国、攻撃陣地

「くそがッ。ノネッテの豆喰い猿ども。砦の硬さに舞い上がり、こちらを散々罵倒してくれおって! 」

吾輩が成果が上がらぬ状況に怒声を上げると、部下たちがおずおずと意見してくる。

「スワッガー将軍。お怒りはもっともですが、兵に聞かれると指揮に関わりますので、もう少しお声を低く」

「わかっておるわ! だが、どうしてこのような状況になっておるのだと、歯がゆくて仕方がないのだ!」

吾輩が机を叩きながら内心を吐露すると、部下たちの顔に納得が広がった。

そもそも、この戦いはすぐに終わるはずだったのだ。

ある条件と年貢の麦の大部分を引き換えにして、帝国から魔法の杖を一部隊分購入し、その打撃力をもってノネッテ国の砦を打ち砕く算段だった。

大事な兵器を守るため、陣地の外周に糧秣を置いて囮にし、やってきた襲撃者を追い返すために森歩きに強い兵で追撃部隊も作った。

そう、仮に夜襲が防ぎきれなくても、戦略的な被害を最小限に食い止める方法はとっていたのだ。

「それなのに、あの猿どもが逃げる間際に放った火矢がまぐれ当たりを起こし、帝国製の杖の集積場所が大炎上するなど運が悪すぎる」

急いで消火を試みたが、魔法の杖という者はとても繊細な作りだったらしく、少し焼けただけで大半が使い物にならなくなってしまっていたのだ。

「無事だった杖も炎の影響で、何度使用できるかは怪しいとはな……」

試しに無事だった杖を一つだけ使わせてみたところ、火球の魔法を四発放ったところで壊れて使えなくなってしまった。

「通常の魔法で、あの砦の外壁に大きなヒビ割れさえ起こせれば、帝国製の杖でダメ押しして吹き飛ばせるものを……」

しかしこちらがどれほど魔法を使用しようと、外壁は薄っすらとヒビが入るだけ。その傷跡も、翌朝には補修されてしまう。

完全に手の打ちようがない状況だ。

どうするべきかと頭を抱えていると、参謀の一人が懸案してくる。

「撤退分の食料も考えますと、そう長々とは戦ってはおられません。ここは残っている帝国製の杖を全て一気に使用し、砦の扉の一点破壊にかけてはどうでしょうか」

「たしかにそれが一番可能性が高い。高いが、砦の扉というものは破られるということを前提に、砦は全体を作ってあるものだぞ」

「破った扉から進軍すれば、多数の被害が起こりえることは、重々承知しております。しかしこれ以外に、あの砦を突破する方法はありません。そしてノネッテ国に入ることができなければ、帝国との約定も果たせません。そうなった場合、我が国は賠償をどれほどしなければならないか」

悩みが深くなり、吾輩は頭痛を感じてしまう。

「政治屋どもめ。王を誑かすだけならまだしも、自分の利益のためだけに、帝国に生まれ故郷を売るような約定を結びよって。恥を知らんのか」

「王と農民では同じものを見ても見えるものが違う、と言いますからね。我ら軍人の目には見えないものが見えているのでしょう」

「ふんっ。それが幻想ではないことを祈るばかりだ」

一通り悪態をつき終わったところで、先ほどの献策について考えることにしよう。

「……扉を破るしか、砦を攻略する方法はないのだな?」

「無理です。食糧と打撃力が足りません」

「であるなら、やるしかあるまいな」

明日の朝の攻撃に、帝国製の杖を前線に持っていくよう命令を出す。そして、砦の突破に人的被害が多数出ると見越して、全員で出撃するよう命令を下した。

吾輩たちは砦を突破することが至上命題である。撤退のことは考えないことにする。

明日の準備を行って夜になった。

総攻撃に伴い、出来るだけ農民兵たちの腹を満たしてやり、夜もぐっすりと眠らせてやることにした。

ノネッテの山猿どもは、砦に籠って出てくる気配はないが、歩哨は一応立てておく。

夜襲で煮え湯を飲まされたのだ。警戒を強めていて損はない。

そしてこの備えは、役に立った。

「夜襲! 夜襲だ! 陣地が燃える!!」

歩哨の大声に外に飛び出てみると、陣地の一区画が燃えていた。

どこに敵兵がいのだと見回すと、陣地近くの山の中腹から火が棚引いて落ちてきて地面に当たり、バリンと音を立てると炎上する。

「山の上にいるぞ! 弓隊! 魔法隊! 攻撃せよ!」

吾輩の命令に、少数ながら即座に兵が反応。魔法と弓矢が山の上へ向かって放たれる。

敵側も急反応に泡を食った様子で、山の上へ逃げていく。

「弓隊、攻撃止め! 魔法隊、光を上げて追い散らせ!」

魔法使いたちが光の魔法を上空に何発も上げて、陣地周辺を明るくする。

ノネッテの山猿どもは、これでは夜襲は無理と判断してか、山の頂上へと逃げていき、やがて見えなくなった。

吾輩はこれで危険は去ったと判断することにした。

「消火の具合はどうか! 被害状況は!」

「消火は完了! 被害も農民兵が数人、天幕がいくつか焼かれただけに留まりました!」

「よくやった。この調子で警戒を続けてくれたまえ」

労いの言葉を掛けてから、吾輩は天幕に戻ろうとした。

しかしここで、別の兵から声があがった。

「スワッガー将軍! 山向こうが燃えているようです!」

夜闇に、炎の赤色が山を越えて見えている。

「後方の陣地にまで夜襲をしかけていたのか!?」

まさかの二段構えの作戦に、吾輩は唇を噛む。

後方陣地は、輸送隊のみの最低人員しか配置していない。そして夜襲の備えもさせていない。

なにせ、ノネッテの山猿どもが吾輩たちの横を通り過ぎて後方へ向かうなど、想像の埒外に過ぎた。

衝撃の光景に言葉を失っていると、参謀の一人がやってきた。

「夜とはいえ、山を越えて火の光が見えるほどの大火事です。後方陣地は焼き尽くされたと考えた方がいいでしょう」

「やってくれたな、山猿め。この陣地にある食料はどれほどか?」

「幸いなことに、後方からの食料補給は今日来たばかりです。夕食を大盤振る舞いしましたが、通常で四日分はあるかと」

「切り詰めて七日分、一食に減らせば、もう少し伸びるな」

直ちに飢えることがないと分かったところで、吾輩は決断する。

「明日の総攻撃。成功すれば、あの砦の中の食料を奪い、ノネッテ内へ進軍だ」

「失敗した場合は、即時撤退で構いませんね?」

「構わぬ。撤退分も食料はないのだ。そして食べるものがなければ兵は動かぬし、農民兵たちは逃げだす。戦っていられる状況ではない」

「撤退すれば、将軍の責任問題になるとしてもですか?」

「もう吾輩の手には負えんよ。あの砦の頑強さもそうだが、政治屋どもの策略に応じ続けることはな」

つい弱音を吐いてしまったところで、これはいかんと気を引き締める。

「明日の総攻撃が成功すれば、それでよいのだ。夜襲で目が冴えてしまったかもしれんが、夜明けまで眠るとするぞ」

「はい。砦を突破して進軍でも、突破できなくて撤退でも、明日は長距離を歩かねばなりませんからね」

参謀と少しだけ笑い合い、お互いの天幕に戻った。

吾輩はベッドに入る前に、隠し持っていた蒸留酒の小瓶を開けて、中身を全て飲み干す。

「これが、現役最後の酒になるであろうな」

明日の作戦について、半ば失敗を確信しながら眠る夜は、相変わらず慣れそうもなかった。