軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百四十二話 研究部とアテンツァ

研究部へやってきた俺は、仲の様子を見て、呆気にとられた。

「だから言ってんだろ! その折り方じゃ、目指した鋼の模様が浮かび上がらねえって!」

「新しい折り方だから、どんな模様が出来るかを把握するために、失敗は分かっているって言っただろう!」

「青銅に刻印する判鏨の模様を、もっと細かくできないのか?」

「細かくし過ぎると、一度の使用で模様が潰れちまいます。素材から見直さねえことには」

「新素材の候補はまだまだあるぞ! 次々に試していこう!」

「鉄や青銅に変わる、新しい金属を探すんだ!」

研究部の全員が、各班に分かれた状態で、研究方針の言い合いを熱心にしている。

それだけなら驚くだけで済んだんだろうけど、彼らが事ある拍子に口にする言葉が、俺が呆気に取られた原因だった。

「帝国の横暴に立ち向かうぞ!」

「魔法技術が自分たちの物だけじゃねえってところ、帝国に見せてやる!」

「鉄にこだわり続ける帝国の判断が間違いだって、証明してやろう!」

そう、研究部の全員が帝国を目の敵にすることで、研究に情熱を傾けているようだったのだ。

ここで俺は、彼らの不遜な発言を咎めて情熱に冷や水を浴びせるべきか、それとも彼らの発言を容認して研究にまい進させるか、悩んだ。

そして、発言を訂正させることを決断した。

「あのー、皆。聞いて欲しいんだけど」

ロッチャ地域の状況――つまり、帝国と微妙な関係にはなったけど、いますぐ戦争になるわけじゃないってことを話した。

これで研究部の暴走は止まるだろう。

そう思った俺が、間違いだった。

「ってことは、帝国と戦争になっても変じゃない状況ってことだろ」

「いや。準備に時間をかけられるってことだぞ。研究方針の練り直しが必要だ」

「つい手っ取り早く成果を上げることを目指していたが、より高い技術の確立を目指す方が、時間があるなら建設的だな」

俺が現状を説明したというのに、どうやら研究部の人たちは、どうあっても帝国への敵視を止める気はないらしい。

彼らの気持ちを無碍にするわけにもいかないので、俺は注意を別のものにすることにした。

「気持ちはわかったから、口に出して帝国を批判することは止めてくれ。帝国の間者が、ロッチャ地域のどこにいるか分からないんだから」

「そいつは、そうだ」

「じゃあ、隠語を使うとしよう」

「鋼鉄を好む魔法の国だから――『魔鋼』でどうだ」

「それなら、鍛冶の用語と誤解されることを期待できるな。よし、それでいこう!」

勝手に盛り上がった鍛冶師たちは、口々に「魔鋼め! 魔鋼め!」と親の仇のように呟きながら、研究に没頭し始めた。

色々と言いたいことはあるのだけど、これでロッチャ地域の魔法技術が進むと思えば、見てみぬふりをするぐらいは良いのかもしれないな。

用事が終わった以上、俺が研究部に居ても意味がないので、「頑張ってね」と一言かけてから研究部を後にした。

廊下を歩いて、執務室へ戻る道すがら、アテンツァにバッタリと出くわした。

いや、アテンツァの様子を見るに、出くわしたんじゃなく、俺が来るのを待ち構えていたらしい。

「ミリモス王子。面会してくる約束の日数は、とっくに過ぎていますよ?」

「そりゃあ、戦争や騎士国に出向いたりで、ロッチャ地域を離れていたし――」

「その分を除いて、ですよ」

むっ。そんなにアテンツァ――いやさ、ジヴェルデに会っていなかったっけか。

俺が首を傾げながら悩んでいると、アテンツァは仕方がないと言いたげな溜息を吐き出してきた。

「ふぅ。ミリモス王子。いま、お時間をいただけますか?」

「いや、執務室にやりかけの書類仕事が――」

「ほんの短時間で構いませんので」

にっこりと笑うアテンツァの様子は、俺の長姉のソレリーナに肌色以外は瓜二つ。つまり、問答無用で連れて行こうと考えていることが、よく分かった。

「――本当に短い時間でいいのなら」

「ミリモス王子なら、そう言ってくださると信じておりました」

信じるもなにも、絶対そうなるように仕向ける気だったクセにと思いつつ、俺はアテンツァとジヴェルデに与えた私室へと向かうことになった。

ジヴェルデに会うと、意外なことに、沈んだ様子だった。

「どうかした?」

俺が何気なく問いかけると、ジヴェルデに深々と溜息を吐かれてしまった。

「はぁ~~。ミリモス王子も、やっぱり男性だったってことですわね」

「なんだよ、いきなり」

意味が分からずにいると、ジヴェルデが白い目を向けてきた。

「聞きましたわよ。騎士国から妻を迎えてすぐに、新しい愛人を囲ったことは」

言外に節操なしと言われた気がして、俺はムッとした。

「俺が望んだというよりかは、妻のパルベラが率先して愛人――というか、第二夫人候補を宛がってくれたんだ」

「まぁ。そんな女性がいるはずがないですわ。もしパルベラ姫がそうなさったとしたら、なにか事情や裏があるはずですわ」

ジヴェルデの言葉は、納得がいく。

普通に考えたら、パルベラの行動は奇異に感じるだろう。

けど、パルベラに思惑はあったかもしれないけれど、俺に隠す事情や裏があるとまでは考えられない。

「ジヴェルデは、パルベラと一度話してみるといいよ。超大国である騎士国の次女姫様は、こっちの考えに収まらる存在じゃないってことが、よく分かるだろうから」

パルベラの人となりを知れば考えが改まるだろうと考えの発言だったのだけど、俺は言葉選びを間違えてしまったようで、ジヴェルデが急に怒り出した。

「そうでしょうね! 片や大陸に覇を唱える騎士国の姫、片や間抜けにも国を滅ぼされた亡国の姫! 考え方が違って当然ですわね!」

なんで怒り出したか分からずにいると、お茶を配膳しにきたアテンツァが、ジヴェルデの肩に手を添えて諫めていた。

そしてジヴェルデは、こちらに謝罪の言葉を告げてくる。

「ミリモス王子。少しアテンツァと内向きの話がありますので、共に少し席を外してもよろしいでしょうか?」

「構わないけど?」

このタイミングで内緒話と疑問を持つ俺を余所に、アテンツァとジヴェルデは部屋の片隅へと二人で向かった。そして、声を潜めて内緒話を始める。

「いいですか、ジヴェルデ。貴女は――で――――ミリモス王子―――――――――ですよ」

「アテンツァ姉様! だって!」

「声量を落としなさい。そして聞きなさい――――――機会――――でしょ」

「でも、だって――――――ミリモス―――――――ですわよ」

漏れ聞こえてくる声からするに、どうやら俺のことについて話し合っているようではある。

俺が予想するに、ジヴェルデは人質としてここにいるのだから殊勝にしろ、とでも言っているんじゃないだろうか。もしくは、別の話題にするべきだとでも、言っているんじゃないだろうか。

そんな風に思考していると、話し合いは終わったようで、ジヴェルデとアテンツァが戻ってきた。

「中座、失礼いたしました」

「途中で席を立って、申し訳ありませんでしたわ」

俺が二人の謝罪を受け入れると、ジヴェルデが間を取らない様子で喋りかけてきた。

「ミリモス王子。パルベラ姫との結婚生活は、どんな調子ですの?」

アテンツァに指導されたことが丸わかりの、棒読みに近い抑揚の声だった。

俺はチラリとアテンツァに視線を向け、『話に付き合ってあげてください』といった目線を返されたので、要望通りにすることにした。

「結婚生活といっても、そんな浮いた話はなくてね――」

俺はパルベラとの関係を語っていく。これに、どんな意味があるかを知らないまま。

そうして一通り話終わり、さてアテンツァはどんな反応をするだろうと待つが、ジヴェルデが割って入ってきた。

「書類仕事が残っているので、この面会は短時間というお約束でしたね。ミリモス王子」

「えっ、ああ、うん」

「では、今日はご足労頂き、大変ありがとうございました。アテンツァも満足した様子ですし、執務室までお送りいたします」

ジヴェルデと俺を引き離すように言うアテンツァに、不思議なものを感じた。

しかし、執務室で書類仕事が待っていることも事実だし、あまりに遅く戻るとホネスが不機嫌になりかねない。書類のことは脇におけるとしても、ホネスとは仲直りしたばかりなので、それはまずい。

だから俺は、奇妙さに疑問を抱きつつも、アテンツァの言い分に従って、ジヴェルデの部屋を辞することにしたのだった。