軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百十話 交渉と進撃

最後尾の俺が見ている前で、五千人のロッチャの兵たちが前へ進む。

全身鎧に長尺の武器を持ち、五列縦隊で前へ前へ。

目指すはハータウト国の城前にいる、フェロコニー国の正規兵らしき者たちのもと。

その整然とした行進に、城を薄く包囲していた傭兵たちの態度に乱れが生じる。

『ロッチャの兵が相手なら逃げるしかない。だけど自分たちが狙われていないのに逃げたら、戦う前に逃走した腰抜けと悪い評判が立ってしまう』

そんな思考が透けて見えるような、腰が引けて逃げるきっかけを待つ姿になっている。

ここで彼らが全員、ロッチャの兵の隊列の横から突っ込んできたら、良い戦いになるかもしれないのに、傭兵たちは見る目がないな。

まあ、敵の頭が弱い分だけ、こちらは楽が出来るから万々歳ではあるんだけどね。

このままいけば、フェロコニー国の正規兵にロッチャの兵たちが突っ込んでいく。

そんな未来映像が見えかけたところで、フェロコニー国の陣地から馬に乗った人物が単独でやってきた。鎧は着ていても武器は所持していないことから、俺たちに交渉をしにきただろう。

「ロッチャ地域の兵士たちと見受ける! 指揮官は誰か!」

「それは自分! ドゥルバ・アダトム将軍である!」

相手の呼び出しに、ドゥルバ将軍が応じて前に出る。

ドゥルバ将軍の両手が義手だということに、相手側は驚いた様子だったけど、すぐに態度を改めていた。

「なにゆえ、ロッチャ地域の者たちが、この地に居るのか!」

「ハータウト国からの求めに応じた結果である!」

「それは異なことを言う! ハータウト国の国王は戦いで死した! 彼の者が行った約定は無効となっている!」

意外な発言に、俺は思わず考え込んでしまう。

ハータウト国の国王が戦争で死んだということは、王城は陥落し、停戦交渉も済んだたということだろうか。それともまだだろうか。

この土地はいまだにハータウト国のものなのか、それともフェロコニー国のものになってしまっているのか。

その事実を知らないままに話を進めると、思わぬ落とし穴に入らないだろうか。

そんな俺の心配を他所に、ドゥルバ将軍と敵の交渉役との舌戦は続く。

「国王が死んだとな。なにを証拠に言っておるのか!」

「死んだものは死んだのだ! そこらの兵たちを捕まえて聞いてみるがいい!」

「敵国の兵の言葉を信用しろとは、難しいことを言う。正しいことを言うとは限るまいに!」

「ならば、あの城に向けて王を出せと言ってみよ! それでハータウト国王が出てこなければ、それは死んだという証明である!」

「我らの言葉でハータウト国王を誘い、弓矢でもって狙撃をする腹積もりであろう! その手には乗らぬ!」

二人の押し問答を聞いて、俺は直感した。

これは時間稼ぎだ。

どういう理由でフェロコニー国が時間を欲しているかはわからないけど、ロッチャの軍は即座に動き出す必要がある場面のはずだ。

俺は素早く戦争を行える建前を組み立ててから、ドゥルバ将軍の横へと、乗っている馬を駆けさせた。

「我が名は、ミリモス・ノネッテ! ロッチャ地域の領主である!」

突然の俺の宣言に、ドゥルバ将軍と敵の交渉役が声を失う。

二人が喋り出す前に、俺は畳みかけるようにして言葉を喋り続けることにした。

「そも、我らに支援要請を出したのは王城にいるハータウト国王ではなく、ザードゥ砦に入ったエイキン王太子からである! ゆえに、ハータウト国王が死亡していようと、我が軍が進軍を止める必要はない!」

無茶苦茶な論法だけど、一応の理屈は通る理屈で、相手の主張を潰しておく。

そしてすかさず、ロッチャの軍がフェロコニー国の軍勢に戦いを挑む理由も付与する。

「そしてエイキン王太子は約束した! ロッチャの兵が王城を救援する代わりに、入手した全てを我らに与えてくれると! そう、救うべきは王城であって、ハータウト国王ではない! いざ、ロッチャの兵たちよ! フェロコニー国の軍勢を打ち倒し、全ての物を入手するのだ!」

傍からすると破綻した論理にしか聞こえないだろうけど、ドゥルバ将軍がすかさず追従してくれた。

「ミリモス王子の言葉は聞いたな! 全軍、突撃だ! フェロコニー国の軍勢を打ち滅ぼせ!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」」

俺の言葉には反応が薄かった兵士たちも、直属の上官であるドゥルバ将軍の言葉は条件反射的に従うようで、長尺の武器を手に一斉に駆け始めた。

このことに泡を食ったのは、フェロコニー国の方から交渉役として出てきた人物だった。

「交渉途中で進軍を始めるとは、野蛮な!」

言いたいことは分かる。俺もアンビトース国との戦前交渉の場で、スペルビアードにやられたからな。

だからこそ、この手の強襲を受けると相手が困ることも、重々にわかっているのだけどね。

「このような蛮行! 決して正しき騎士国が見逃すはずが――」

喚き続ける交渉役に俺は近寄ると、掴んで馬の上から引きずり落とし、近くの兵士に捕縛させた。この人は職務に忠実に動いただけなので、奇襲で殺すのは忍びなかったのだ。

進軍途中で捕まえた傭兵と一緒にまとめてから、俺は隊列の最後尾へと戻った。

すると、ファミリスから苦言が飛んできた。

「ミリモス王子。強引すぎませんか?」

「あの建前だと、騎士国は目くじらを立てるのかな?」

「……フェロコニー国の戦争理由も褒められたものではなかったので、お相子というところでしょうか」

とりあえず、直ちに指摘が入るわけじゃなさそうなので、セーフという判断だろう。

俺が安堵していると、ファミリスから更なる指摘がやってきた。

「それで、ミリモス王子はフェロコニー国をどこまでやっつけるつもりですか?」

「どこまでって、蹴散らして終わりじゃダメかな?」

「個人的には構いませんが、果たしてロッチャの兵たちが止まるでしょうかね」

ファミリスの言いたいことがわからずにいると、パルベラ姫が補足説明をしてくれた。

「ファミリスが問題視している点はですね、さっきミリモスくんが「フェロコニー国の軍勢を打ち倒し、全ての物を入手するのだ」と言った部分なんです」

「間違ったことは言ってないと思うけど?」

「間違ってはいませんけど、これ聞きようによっては『フェロコニー国を打倒し、その土地も奪う』という決意表明にも聞こえるんです」

ここでようやく、俺が失言していたことに気付く。

「いやでも、ロッチャの兵たちが侵略を狙っても、ほらファミリスが騎士国の監視として許しはしないだろうし」

でしょ、と尋ねたところで、ファミリスが意地悪い微笑みを浮かべていた。

「いいえ、許可しますよ。攻め入ってきた国を逆襲で落とし、国土を併合することは戦の定石ですので」

「うえぇ!? いや、でもさ――そう、プルニャ国の軍勢がザードゥ砦を攻めているんだよ。あっちの救援にもいかないといけないし」

「フェロコニー国を倒してから、フェロコニー国の国土を通ってプルニャ国の本土を攻めればいいでしょう。プルニャ国は、フェロコニー国側から敵軍がくるとは思っていないでしょうから、あっという間に攻め落とせることでしょう」

ファミリスの軍略は、確かに正しい。言うとおりにすれば、楽に素早く両国を攻め落とすことができるだろう。

そう理解できてしまうから、俺は余計に困ってしまう。

「ああもう。一気に二国分も領土が増えたりしたら、これまで以上に多くの統治業務をしたりしなきゃいけないじゃないか。それに、チョレックス王に説明しにノネッテ本国に戻らないといけないし……」

苦悩する俺に、ファミリスが意地悪を言ってくる。

「では、後の世に今回の戦いに負けた仕返しにくるかもしれない二国を、放置して力を蓄えさせるのですか?」

「卑怯な言い方をしないでよ。最低でもフェロコニー国とプルニャ国を属国化しなきゃいけないって、わかっているんだから」

「わかっているのなら、実行するだけではありませんか?」

「ああもう、腹をくくったぞ! 二国を落とすんだ。戦費を抑えるためにも、出来るだけ素早くやってやる!」

俺は自棄になり、いまからフェロコニー国とプルニャ国を攻め落とす手順を考えていく。

そんな俺を他所に、ロッチャの兵たちはフェロコニー国の正規軍に打ち掛かって戦果を上げに上げ、ハータウト国の王城の周りにいたはずの傭兵たちは森の木々に隠れるようにしてどこかへと逃げ始めていたのだった。