軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

公爵令嬢に振り回される者たちの集い②

「なんでこんな状況に? まるで、自分から選んで有名な人物と繋がりを持ったみたいやね。意外とご主人様自身が王様になりたがっとったりして……」

「それはあり得ません。お嬢はむしろ仕事を辞めたがっているくらいですから」

「なら、なんで……」

「心当たりがあるんじゃないですか?」

あまりにも直球なヴァイスの言葉に、サリーは思わず苦い顔になった。

「……確かに。アタシも絆されたひとりだったわ」

「ご主人様、もしかして誰にでもああなん?」

「いい人、仲良くなりたい認定した相手には、いつだって全力ですよ。なんにも考えていないんです。ただ、話や趣味が合う人が好きで親しくしたがるだけ。お嬢自身が優秀なせいで、自然と周りのレベルが高くなってるんですよ。厄介な状況に陥っていることに、本人はまるで気づいていません」

「交友関係を制限してみたら?」

「――お嬢の楽しみを、俺が奪えるとでも?」

「無理ね。アンタも苦労するわねえ……」

「ええ、まったくです」

肩を竦めたヴァイスは「だからこそ、我々が守って差し上げねば」と決意を口にした。

「これからお嬢との距離が近くなりそうなふたりには、協力していただきたいんです」

「アイシャが誰かに利用されないように?」

「それに加えて、お嬢を排除しようとする輩から守ることもでしょうか」

「ああ!」

グリードが目を輝かせる。ポンと手を打った後、どこか歪に笑んだ。

「ユージーン王子とかやな。ちょっくら殺ってこよか?」

「……お嬢が望んでいないので、駄目です」

「ええ。なんでや~」

「そうしたいのはやまやまなんですけどね。アレが死んだら、お嬢から犯人じゃないかと疑われますよ。場合によったら嫌われるかもしれません。それでもいいですか?」

「嫌や。ご主人様からは嫌われとうない」

「俺もです」とヴァイスは小さく笑った。

「これからの方針としては、なるべくお嬢がしたいことを妨げず、けれども余計な横入は排除する。そんな感じでしょうか」

「ふうん。難しそうやな」

「そもそも、あのアイシャだからねえ……」

「不安しかないですね」

三人は同時に目を合わせた。深々と嘆息する。

「なるべく想定内の行動をしていただけると助かるんですが」

「無理じゃないかしら。アイシャよ? 歩き始めた幼児よりも目が離せないわ」

「ウワッ! ふたりとも苦労してきたんやね……」

「これからはアンタもよ。アイシャを飼い主だって仰ぐなら、早めにアサシンギルドの件はなんとかしておきなさいよ。自由に動けないなんて論外だわ」

「わかっとんで。ちゃんとけじめはつけてきます~」

唇を尖らせたグリードをサリーが茶化している。彼らが醸す好意的な雰囲気に、ヴァイスは胸をなで下ろした。ふたりとも厭世的な印象があったが、アイシャのためなら動いてくれる気はあるらしい。

ふたりとも、正しい意味でアイシャに魅了されている。

自身もそうだという自覚があるヴァイスにとって、それはなによりの安心材料だった。

「やはりお嬢の人の目を見る能力は確かですね」

その言葉に目を丸くしたのは、もちろんグリードとサリーだ。

「アンタに褒められるとこそばゆいわ。やめてくんない……?」

「愛を感じる発言やなあ。ご主人様とそういう関係だったりします?」

「そんな訳がないでしょう。幼い頃から仕えられたことを喜びこそすれ、俺はお嬢の執事、それ以上でもそれ以下でもありません。ですが――」

にこりとヴァイスが笑む。普段よりいくぶん柔らかい声で彼は言った。

「俺の死に場所は、お嬢の隣だと思っています」

サリーとグリードが同時に噴き出す。

「それって愛よりすごい奴やろ」

「そうでしょうか?」

「どれだけ惚れ込んでいるのかしら。アイシャの恐ろしさを再確認したわ」

「そんなこと言って。魔女さんもでしょ~」

「う、うるさいわね! こっ、これからも仲良くしてあげるつもりではあるけど!? なんなら、死後に墓守くらいはしてあげてもいいけど!?」

「重……! 想像以上に重い。あはは。僕もいつかそんな感じになるんやろか」

彼らの間に流れる空気は、この会合を始める前より緩んでいた。三人三様、様々な思いを胸に抱きながらも、なんだかんだアイシャと共にあろうと考えている。

「……まあ、なんにせよ。僕らはご主人様の動向を見守りつつ、適切に動くだけやね」

「お嬢が大人しくしてくれたら、話が早いんですけどねえ」

「無理でしょ。アイシャよ。初対面で魔女に菓子折を叩き付けるような女よ」

「アレは僕も肝を冷やしました」

「なんなん、それ! 面白っ……。え、その時のこと、ちょっと教えてくれへん?」

彼らが胸中に抱く想いは共通だ。

アイシャには、できるだけ大人しくしていてほしい。

だが、テントの中で眠る彼女が、彼らの想定内に収まることは、おそらくほとんどないだろう。それがアイシャ・ヴァレンティノという女性だからだ。変えようがない。彼女と関わることで、彼ら三人の人生はこれからも驚きと波乱に満ちたものになるのだが――

「とりあえずなにか飲まない?」

「お茶にしましょうか」

「えっ。酒は駄目なん?」

「黙って飲んだと知ったら、お嬢が怒りそうですねえ」

「じゃ、やめとこ。ご主人様にはいつも笑っていてもらわな」

残念ながら、そのことを焚き火を囲む彼らが知る由はなかった。