軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

波乱の予感

「おじ様ゆるすまじ」

「えらいことになりましたねえ、お嬢」

真珠採りをしてから数日後。いつものように執務室で仕事に忙殺されていた私は、城から届いた報せに目を通した途端、すべてを投げ出した。

だって、とんでもないことになったんだもの。仕事なんてやってられるかってんだ。

「長子相続制度の廃止。これは第一王子が荒れますねえ」

「それだけじゃないわよ。場合によっては私にまで王の座が転がり込んでくるかも」

「第一王子を含め、ヨハン王の子は三人でしたっけ」

「そう。だけど、第二王子は幼いし、第一王女は他国に嫁ぐことがもう決まってる。お父様は継承権を放棄してるし、うちにも兄はいるけどアレは王向きじゃない……」

「継承者争いに巻き込まれるとか。お嬢、やりますね!」

「なんにも嬉しくないわよ……!」

頭を抱えてしまった私に、ヴァイスは気遣わしげだった。

「城に出仕している者からの情報によると、城内は混乱しているそうですね。貴族連中は誰につくかで右往左往しているようで……。あっ、お嬢宛にあっちこっちの貴族から大量のラブレターが届いてますよ。贈り物も山のように。モテモテですねえ」

「それは燃やしておいて。ねえ、アイツがどうしているか聞いた?」

「ユージーン王子ですか。いまは大人しくしているようですよ。さすがに堪えたようで、執務も真面目にこなしているようです。取り巻きだった高位貴族と連絡を取ろうとしているようですが、無視されているみたいです。長子相続制度の廃止は、実質ユージーン王子への最後通牒ですしね。当然の結果でしょうね」

「……奴はこれからどう動くと思う?」

「表面上は堅実さをアピールしていくでしょうね。今までの評価を覆すべく、なにか目立った手柄を得ようとするんじゃないでしょうか。ぶっちゃけ、最終的にはヨハン王からの印象勝負みたいなところありますからねえ」

「……表面上は、ね。じゃあ、裏では?」

「そうですね~」

すると突然、轟音が辺りに鳴り響いた。

邸が揺れている。書類の山が崩れるのを横目で見ながら、思わず冷や汗が流れた。

そんな私に、ヴァイスはしれっと爆弾発言を投下した。

「有力な王位継承権持ちの排除に動くんじゃないでしょうか」

「アイツ、本当にメチャクチャね……!?」

状況を確認すると、贈り物の一部が爆発したらしい。送り主は不明だが、この絶妙なタイミング!

「なんなのよ! あのクソ王子……!」

机を拳で叩いた私に、ヴァイスはどこまでも冷静だった。

「お嬢、落ち着いてください。さすがにあからさま過ぎです。さすがに王子本人の仕業とは思えませんが……」

「そうなの?」

「王位継承権を持つ人間は他にもいますからね。お嬢を排除するついでに王子に罪を被せようとしている可能性がありますね。もしくは、王子の取り巻きが暴走した可能性。この機会に成り上がってやろうと、野心しか脳みそに詰まってない馬鹿が動いたのかもしれません」

「どっちにしろ! 私に迷惑をかけるなってんのよ!」

怒りの収まらない様子の私に、ヴァイスがあるものを差し出した。

「そういえば、ヨハン王から手紙が届いていましたよ」

「えっ? おじ様から?」

まさか、この状況をわかっていて救いの手を……!?

ちょっぴり感動しながら内容を確認する。

だけど、淡い期待はすぐに打ち砕かれた。

『もしかすると迷惑がかかるかもしれない。ほとぼりが冷めるまで、ちょっとだけがんばって♡ 追伸:落ち着いたら真珠の養殖について相談しようね。ハニーがめちゃくちゃ喜んでくれてさあ。おじ様超ハッピー! ありがとうね! イエイイエイ!』

「なにがハッピーだ、イエイイエイだ。あのジジイ……!」

笑顔でダブルピースに興じるイケオジの姿が思い浮かぶようだ。

頭にきたので、手紙をビリビリに破いてやった。

「どこまでも自由ですねえ」

「巻き込まれるこっちの身にもなってほしいわ!」

新たな仕事フラグまで立てやがって!

もううんざりだ。私は自由に生きるって決めたのに!

「逃げるわよ」

王位になんて興味はない。

これ以上、変な状況に巻き込まれる前に雲隠れしてやる!

「どこかにいい隠れ場所はないかしら」

頼れる執事に視線を投げかけると、ヴァイスはいつもと変わらない様子で言った。

「実は今朝方、ご友人に手紙を出しておきました」

「友人……?」

「そろそろ返事が来る頃合いかと。お、噂をすれば……」

ヴァイスの視線をたどると、一羽の烏が窓ガラスを突いているのに気がついた。

部屋の中に招くと、ふわりと私の執務机の上に降り立つ。大きく羽を開いた烏は、まるで人間のような声でこう言った。

「行くところがないならうちに来なさい! 魔の森は、公爵令嬢アイシャ・ヴァレンシュタインを歓迎するわ……!!」

魔の森。誰もが恐れて近づかない禁足地――

ああ、隠れ場所としてこれほどまで相応しい場所はあっただろうか!

「サリーと連絡を取るなんて! ヴァイスよくやったわ!」

「もっと褒めてくださってもいいですよ?」

「獣化しなさい。いっぱいもふもふしてあげる!」

持つべきものは、気の合う友だちと有能な執事である。

そう思った瞬間だった。