軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

馬鹿王子はまた怒られたようです

「クソッ! クソが! アイシャ嬢め……!!」

自室に籠もったユージーンは、今日も今日とて怒り狂っていた。

言わずもがな、原因は父王からの叱責と処分についてである。

魔の森での勝手な行動を咎められ、しばらく蟄居を命じられてしまったのだ。

いったい自分のなにが悪かったのか、ユージーンはまるで理解できないでいた。愛するシャルロッテのために、王城の書庫で存在を知った珍獣を捕まえようとしただけだ。金に物を言わせて冒険者を魔の森に送り込んだだけだ。それなのに!

「なんで僕の資産が凍結されなければならないんだ」

今回の件と併せて、普段の放蕩ぶりがバレてしまったのだ。

資産管理人からは、しばらく使途不明な請求について応じないと通達されている。王子としての最低限の生活は保障されているが、思うように金が使えないことにストレスを感じていた。

「魔女がなんなんだ。王国の危機? 意味がわからない。僕はなにも悪くない」

歴史の授業をまともに受けてこなかったユージーンには、長命種のエルフを尊重する意味も、魔の森に手を出す危険性も理解できない。

「それなら、ちょっと書庫にでも行ってみるッスか? なにが悪かったのか調べてみたらどうでしょう。城から出るなって言われてることだし」

声をかけたのは、側近であるカイトだった。

「わかりやすい本、紹介できると思うッスけど。ね? ガンダルフさん」

「そうだな。いい機会だと俺も思う」

護衛騎士であるガンダルフも、無精髭を撫でながら思案げである。

だが、ユージーンは彼らの言葉を意に介さなかった。

「ふん。無駄だ。そんな知識は僕の人生に必要ない!」

「王になるのだろう? いつか必要になるかも」

「ですよね~。勉強はしておいた方がいいんじゃないッスかね。愛しの男爵令嬢ちゃんも、博識なところを見せてやったら喜ぶんじゃないッスか? ユージーン様、惚れ直しちゃったわ~♡ なんつって」

「ウッ……!?」

そういえば、しばらくシャルロッテの顔を見ていなかった。週に一度は手紙を出しているが、ここ最近は返事が少なくなっている。

もしかして、珍獣をプレゼントすると言ったのに、実現しなかったことに怒っているのだろうか。それとも、誕生日にやった宝石の色が気に食わなかったのだろうか。

シャルロッテは、その美貌と令嬢らしからぬ無邪気さで高位貴族の男性から人気だった。このままでは、他の男に出し抜かれてしまうかもしれない。

――これは、ひとつ勉強をしてみた方が……?

「い、いや。やはりいい。珍獣がいないと知れただけで十分だ」

今回の件は、アイシャが父王に告げ口したせいで発覚したという。

無知さを指摘されたようで腹が立った。ここで素直に勉強をしたら、アイシャが正しいと認めるようなものではないか。

「……そッスか」

「残念だな」

なにはともあれ、自由に使える資金がないというのが痛かった。シャルロッテに贈り物もしたいし、近しい貴族連中との付き合いもある。ユージーンにも個人資産くらいはあるから、いくらか処分すれば当分は賄えるだろうが――

それでもやられっぱなしは腹が立つ。

「おい、確か冒険者ギルドにもアイシャが絡んでいたんだったな?」

「冒険者向けの野営道具の特許とかで荒稼ぎしてるって聞きましたね。資金をギルドにプールして、投資なんかもしてるそうッス。あの人、マジはんぱないッスよね~。でも、それがなんの関係が……?」

「その金を差し押さえる」

「「はっ……?」」

呆気に取られている側近たちに、ユージーンはどこまでも得意げに言った。

「嫌がらせだ! アイツも、自由に金が使えない苦しさを味わえばいい……!」

「ど、どういう理由で差し押さえるつもりッスか?」

「理由など、いくらでもでっちあげられるだろう。王都のギルドマスターとは懇意にしている。魔の森への冒険者派遣の件でずいぶんと金を積んだからな。どうとでもなる」

「ちょ、ちょっと王子! さすがにそれはマズいんじゃないッスか?」

「そうだぜ。そもそも城から出ることは禁じられてる!」

「うるさいな!! 最初にちょっかいをかけてきたのはあっちだろう!」

怒りを露わにしたユージーンに、ふたりは困惑の色を隠せない様子だった。

「さっきからなんなんだ、お前たちは」

ユージーンは、プイとそっぽを向いた。

「邪魔をするなら今日は帰れ。僕ひとりでもできる」

「ですが、王子……」

「うるさい。うるさい。うるさい。うるさい! このままじゃ収まりがつかない」

ジロリと側近たちを睨み付ける。

「僕は王子だ。次期王だ! なんか文句があるのか」

わずかな沈黙の後、カイトとガンダルフは静かにかぶりを振った。

「……差し出がましい真似をしました。殿下」

「僕たち、邪魔はしませんッス」

「そうか」

一転して笑顔になったユージーンは、得意気に窓の外を見やった。

――アイシャめ。僕に手を出したことを後悔するといい……!

次の瞬間には、ユージーンの思考はすでに愛しのシャルロッテのことに移っている。背中に突き刺さるふたつの視線の温度には、気づいていなかった。