軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔女は魔女であって魔女ではない

はっきり断言した私に、サリマンはなんだか複雑そうな顔をしている。

「……変な子ね。そもそも、アタシの姿を見たら誰だって驚くのに」

「ああ~! 確かに。すっごい綺麗ですもんね……!」

「……はあ?」

「いや、最初に会った時からずっと思っていて」

「アタシ、襲ったわよね!? ちょっとした命の危機だったわよね!?」

「まあ、それはそれじゃないですか。目鼻立ちは整ってるし、メイクも完璧。毛穴ないのすごくないですか! こっちのメイク道具ってなんだか物足りなくて……。なに使ってます? おすすめの化粧品とか情報交換しません?」

「い、いや! そうじゃなくって!!」

いきなり声を荒らげたサリマンは、わずかに声を掠れさせてこう言った。

「ア、アタシ。魔女だし、こんな格好してるけれど。男なのよ」

さわさわと私たちの間を風が吹き抜けていく。

サリマンを見つめていた私は、どこか不安げな彼女に大きく頷いて見せた。

「そうですか!」

まん丸に目を見開いているサリマンに詰め寄る。

それよりも、せっかく魔女さんにお近づきになれたのだ。この機会を逃すのは惜しい。

「まあ、それはそれとして。まずは、その得も言われぬいい匂いの正体を教えてもらえません? 香水!? それともお香ですか!! 売れる予感しかしないんですよね。よかったら商品化に向けて打ち合わせでも……!!」

「ア、アアアア、アンタ、なにを」

「お嬢、いい加減にしてください。サリマンが困ってます。あと、仕事が増えそうな発言はよしてください」

「はっ……!!」

おおう。どうやらガツガツ行き過ぎたようだ。

「ごめんなさい!」

「なんなのよ。アンタ、本当になんなの……!!」

いつの間にか、サリマンは耳まで薔薇色に染まっていた。

唇を噛みしめて、涙さえ浮かべている。なんだか不満げだ。

「普通はね、アタシの姿を見たら怖がるものなのよ。なのにケロッとして! 馬鹿なの。心臓に毛でも生えてるの! 服だって、化粧だって、男の癖にって馬鹿にするものなのよ。なのにアンタときたら……!」

「好きな格好をしたら駄目なんですか……?」

「……ッ! 人が何百年と悩んでいたことを、簡単に切り捨てないでくれる!? もうっ!なんなのよ。危機感をどこに置いてきたの。一歩間違えれば、氷漬けにされてたのよ!」

「いやあ、その時はその時というか」

「ちょっと! アンタの主人、楽天的すぎない!?」

「俺も苦労してるんですよ……」

げんなりしているヴァイスを、サリマンが哀れみのこもった眼差しで見つめている。

ひどっ! ひどくない?

私だって、ちゃんと安全マージンを確保していたから、あんな行動に出たってのに。

すると、サリマンが深々と嘆息した。

「……もう、わかったわ。とにかくここに温泉はないの。だから帰ってちょうだい」

すぐに帰れと言わんばかりである。まあ、気持ちは大変わかるんだけどね。

――正直、このまま帰るのは惜しい。

「すぐに帰らないと駄目ですか?」

「は?」

「せっかく知り合えましたし、お茶でもしませんか?」

私の申し出に、サリマンは怪訝な表情を隠そうともしなかった。

「なにを狙っているの」

「別に他意はないですよ。私、野外でアレコレするのが好きなんです。泊まったり、お茶をしたり、お酒を飲んだり。今日も、魔女さんが許してくれたら一泊するつもりできたので、いろいろと持ってきたんですよね」

ふと視線を上げる。空を覆い尽くすほどに成長した巨木たち。圧倒的ではあるけれど、ただ静かに見守ってくれているような存在感。ここは特別な場所だと肌でわかる。非日常は、日常に慣れきった私たちにとって刺激的で、魅力的だ。

「温泉がなかったのは残念でしたけど、こんな絶景に出会えたことは、とても嬉しく思ってるんです。だからね、一緒にティータイムにしませんか」

「アタシとお茶を?」

すると、わずかにサリマンの瞳が揺れた。なぜだか複雑な顔をしている。

なにか気に障っただろうか。不思議に思いつつも、こう続けた。

「ええ、是非。珈琲を淹れる準備があるんです。美味しいお菓子もありますし。図々しいお願いでしょうか」

「…………」

さすがに駄目だったろうか。

ほんのり不安に思っていると、サリマンは指で眉間を解し始めた。

「アンタたち、本当に温泉を探しに来ただけなのね?」

「はい。それ以上でも、それ以下でもありません」

「…………。わかった、わかったわよ。好きにすればいいじゃない」

「やったー!」

「その代わり、見張らせてもらうわよ。火事でも起こされたらたまったもんじゃないわ」

「わかってます! いやあ。サリマンさんって優しいな~」

「アタシが人間を襲う魔女だって忘れてるでしょう……」

最初は怒りを露わにしていたサリマンだったが、今は呆れながらも、どこか気の抜けた姿を見せている。温泉がなかったのは残念だったけれど――

「呆れた子ね」

この笑顔を見られただけでよかったかな!

そんな風に思っていた。