軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話 ユージ、ホウジョウの街を見てまわりながら家に帰るpart1

「それでユージさん、王宮はどうだったんだ?」

「ブレーズさん……俺、もう行きたくないです……貴族こわい」

「ははっ! まあ辺境の領主様は話せる方だからな! バスチアン様だって、ここじゃああだし!」

ホウジョウの街の外門でひとしきり帰還の挨拶をして歩き出したユージたち。

鉄道馬車はまだレールが続いているが、街の中では徐行である。

ゆっくり進むのは馬に負担をかけるため、人間は御者を残して馬車から下りるルールになっていた。

それにしてもブレーズ、『ここじゃああ』とはなんなのか。

まあお忍びでも貴族としてでも、ホウジョウの街に来たバスチアンはアリスにデレデレだったせいである。そこに貴族らしさはない。爺バカである。

「一時だけですが、私まで王宮に招かれましてね。肝が冷えました……」

「くくっ、ケビンさんでもそうなるのか。よかったなユージさん、お仲間がいて!」

バッシバッシとユージの背中を叩くブレーズ。

ユージが不在の間の大変さはおくびにも出さない。できる町長である。

「ええー? みんな優しかったよ! 私のドレスのこととか、ここで作った服のことをいっぱい褒めてくれたの!」

「エルフの装飾品も褒めてくれたわ。ニンゲンもなかなか見る目があるのね。お菓子も美味しかったし!」

「お、おう、嬢ちゃんたちはあいかわらず肝が太いな……」

ユージとケビンと違って、アリスとエルフの少女・リーゼは王宮とお茶会を楽しめたらしい。

保護者が盾になったとはいえ、タフな少女たちである。

あるいは相手に知られていなくても、そのように育てられていなくても、貴族の孫として資質があるのかもしれない。どこまでも一般人なユージと違って。

「ブレーズさん、不在の間、何か問題はありませんでしたか?」

「大きな問題はねえな。ああ、ドミニクに聞いたんだが、冒険者ギルドの支部を作るかもしれねえんだろ? その辺、あとで話したいぐらいか。今日じゃなくていいぞ、今日はゆっくり休みたいだろうからな」

「あ、俺もプルミエの街でサロモンさんに聞きました。了解です、あとで話しましょう」

ガラガラと馬車は進み、ユージたちはのんびり歩く。

ホウジョウの街を囲う第四防壁と第三防壁の間の空間は広い。

街の拡張を見込んで作ったエリアだが、それまでここはオオカミたちのテリトリー。

のんびり暮らせるようにと、森を内包してかなりの広さを取っているのだ。

ここまで来れば護衛は必要ないと判断したのか、コタローはユージのもとを離れて森に消えていた。

オオカミたちに帰還の挨拶をしに行ったのだろう。なにしろこのオオカミ型モンスターの群れのボスはコタローなので。犬なのに。

「あとはそうだな、いずれまた人が増えるんだろ? だったら警備隊を増員しようかってエンゾと話しててな」

「はあ……いまのままじゃ危ないんですか?」

「戦力的には充分なんだが、街が広くなったからな。人が増えりゃ揉め事もあるだろうし、早いうちから警備隊を増やしときたいんだと。元斥候だけあって、戦闘に関しちゃ心配性なのよ」

「俺は問題ないですけど……判断するのはたぶん領主様だと思います」

装備品など予算の管轄は代官であるユージの担当である。

だが警備隊といえど、戦力なのだ。

補充ではなく人員の枠を増やすには、領主の判断が必要となっていた。

勝手に戦力を増強されてはたまったものではない。

「おう、じゃあエンゾに伝えとくわ。ユージさんが帰ってきたんだし、アイツが街に行って領主様と話してくりゃいいだろ。おっと、第三防壁が見えてきたな」

ユージたちを迎えに来ていたエンゾとマルクは、挨拶の後はついでだからと周辺の見まわりに出た。

といっても第四防壁の上をぐるっと一周歩くだけ。

あとは犬人族の少年・マルクが遠吠えをして、オオカミたちに異常がないか確かめるだけである。

壁こそできているものの、警備隊も街の住人たちも、第三防壁の外は『街の外』のイメージなのだ。

いまのところ『ホウジョウの街』とは、ユージの目の前にある第三防壁とその門から先のことである。

「みなさんお疲れさまです! はいこれ、みんなの分の割符です」

「お帰りなさいユージさん。確認するんでちょっと待っててくださいね」

ホウジョウの街に入るには、いまも許可制である。

代官のユージさえ、途中の宿場とホウジョウの街の門で割符を見せることになっていた。

この街には秘密が多い。

次々にもたらされる衣料品の新しいデザイン、保存食の製法、エルフの存在。

しかもこの秘密は領主の資金源になりつつある。

ケビン商会が納める税に加えて、貴族用の高級缶詰は領主夫妻が貴族に売っているので。

他所の商人や他領のスパイを排する。

掲示板住人とユージの発案ではじまった許可制の往来は、いまでは領主も厳格に守らせるものになっていた。

ユージは知らないが、途中の宿場ではすでに何度か血が流れている。割符なしで潜入しようとした人間の。

無事に確認が終わって、ユージたちは街の中に足を踏み入れる。

といっても、この辺りには建物が少なく、ちらほらと見えるだけだ。

そのかわり一軒一軒の建物は大きな造りになっている。

「この辺はのどかですねー。やっと帰ってきたって気がします」

「はは、そうかもな。このあたりは見るからに農村だからな」

「あっ、ユージ兄! 羊さんだ! 私たちにお帰りって言いに来たのかな?」

第三防壁を越えた場所に広がるのは、農地と牧場である。

きらびやかな王宮、賑やかな王都、毎日移動を続ける旅。

ユージ、のどかな環境を目にしてようやく帰ってきた実感が湧いてきたらしい。

いまユージたちは、目の前の道をのんびり横切る羊の群れに遮られていた。

群れを誘導するオオカミが、ユージたちに申し訳なさそうな目を向けながら。コタローが不在で幸いである。

第三防壁はかつてエルフたちがノリノリで作った土壁だ。

ここから次の壁までは農地と牧場。

ここで暮らす住人は、馬や羊を管理する畜産農家と、畑のそばで暮らすことを望んだ一部の農家だけ。

このエリアは人の数より家畜と獣の数のほうが多い。

馬も羊も数を増やして、鶏にも専用の小屋ができている。

畜産農家を手助けするのはコタロー配下のオオカミたちだ。

日々の食事と引き換えに、馬や羊がはぐれないように群れに同行している。すっかり飼い慣らされたオオカミたちである。犬になる日も近いかもしれない。

あと広いエリアを活かして、オオカミをお目付役にイノシシの放し飼いもはじまっている。豚になる日も近いかもしれない。

農業はさすがに300人規模の人間をまかなう生産量になっていないが、畜産は見えてきたところ、というか卵はすでにプルミエの街に輸出している。

モンスターがはびこる世界において、家畜を育てるのは並大抵の苦労ではない。

オオカミ型モンスターが協力してくれることなどあり得ないのである。コタローさまさまである。

とりあえず、畜産も農業も順調であるらしい。

「羊さん、バイバーイ! オオカミさんもお仕事がんばってね!」

道を横切っていった羊の群れとオオカミに手を振るアリス。

リーゼやエルフたちは、おもしろそうに放牧の様子を見つめている。

「うーん、この様子だと種類を増やしてもいいかもしれませんね。ケビンさん、飼える動物って他になにかいますか?」

「あとは牛と山羊でしょうか。どちらもここまで運んでくるのが大変なので、避けていたんですよ」

「あ、そっか、牛はでかいですもんね。あれ? 山羊はなんでですか?」

「ユージさん、山羊は俊敏なうえに悪路を苦にしないのです。馬車に入れると少数しか運べませんし、外を歩かせると峠越えで逃げられることが多いんですよ。プルミエの街まで連れてこられれば、あとは鉄道馬車とオオカミたちの協力でなんとかなりそうですが……」

「なるほど……なかなか難しいんですねえ」

「ユージ兄! アリス、牛肉食べたいっ!」

「ユージ兄、リーゼ、リーゼも! 王宮で食べた牛肉のシチュー、美味しかったんだもの!」

「アリス、『私』じゃなくて『アリス』になってるよ。お肉好きなのは変わらないなあ。でもそっか、シチューにステーキ……」

「ユージさん、領主様に言ってコタローとオオカミたちを連れてきゃいいんじゃねえか? あとは危険を冒して水路を船で……うん? 危険?」

「あっ」

「ああっ!」

「え? 水路は危なくないわよ?」

「ああ、私としたことがその手を忘れてました……ゲガス商会もケビン商会も、水路には手を出してこなかったもので」

町長のブレーズの言葉に反応するユージ、アリス、リーゼ、ケビン。

この世界において、水運はいつ水棲モンスターに襲われるかわからない危険がある。

水中へ攻撃しにくい人間にとって、運試しと言ってもいいほどの。

博打を嫌うゲガス商会とケビン商会では水路を利用してこなかった。

ケビンはそのせいで、水運を意識の外に置いていたようだ。

ホウジョウの街では火魔法を得意とするアリスがいて、それどころか水中行動を苦にしないリザードマンと交流があるのに。

エルフの潜水艇を使うまでもない。

水の魔眼持ちで『水場では最強なの!』なエルフの少女・リーゼにお願いするまでもない。

船を用意してアリスを乗せて、リザードマンと一緒に行けばいいだけである。

どうやら近いうちに、ホウジョウの街に牛と山羊が増えるようだ。

家畜天国である。

「ユージさん、それについては後でゆっくり話し合いましょうか。もう見えてきましたからね、ホウジョウの街の中心地が」

「おっ、みんな迎えに来てくれてる」

「ほんとだユージ兄! ああっ、子供たちもいる!」

ひとまず考えるのを止めたケビン。

ケビンが指を示す先には、三つ目の門が見える。

アリスがメインで作った土壁と堀で守られた第二防壁、その門である。

そこには仕事の手を止めた住人たちと、街で生まれた・家族ごと移住してきた子供たちがいた。

女性や子供は安全のために第二防壁の内側で待っていたらしい。

ちなみに第一防壁は、いまやただのお飾りと化した木の柵である。

「ユージさん、アリスちゃん、エルフのみなさんも、おかえりなさい!」

今日何度目かの『おかえり』を告げられるユージたち。

集まった子供たちも一斉に挨拶して、でもその目はキョロキョロと何かを探している。何かを、というかオオカミへの挨拶に向かったコタローの姿を。

コタローは子供たちのアイドルであるようだ。さすが雌犬である。

「みんな、ただいま!」

ホウジョウの街の広い外縁部を越えて。

ユージはようやく、街の中心地に帰ってくるのだった。

家は、もうすぐそこである。