軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話 ユージ、ひさしぶりにプルミエの街の冒険者ギルドに行く

「す、すごい……」

「みなさんこれほどですか……これは私でも相手になりませんねえ」

「お前ら! プルミエの街の冒険者の意地を見せろ!」

ユージがプルミエの街に到着して三日目。

一行は、プルミエの街の冒険者ギルドに来ていた。

ユージとケビンは目を見張り、ギルドマスターのサロモンは檄を飛ばしている。

プルミエの街の冒険者ギルド、その訓練所。

そこでは、魔法ありの模擬戦が繰り広げられていた。

一方はプルミエの街の冒険者たちが交代で。

もう一方は、ローブを着て目深にフードをかぶり、さらにニット帽をかぶった正体不明の集団だ。

フードの下から端正な顔立ちがチラチラと見えているし、一人はやけに小柄だが正体不明の集団だ。

それにしてもケビン、『私でも』とはなんなのか。さすが『戦う行商人』である。

「うわあ、うわあ! 私も剣を教えてもらわなくっちゃ! ゲガスのおじちゃんもすごかったけど、みんなすごーい!」

ユージと並んで観戦していたアリスも、足下で出番を待つコタローも興奮した様子である。

正体不明の集団は、卓越した魔法に加えて弓矢に剣技でも冒険者を圧倒していた。

プルミエの街にいる現役では最上位の2級冒険者でさえも。

小柄なフード姿だけは剣技で押されていたが、うまく魔法を使って対戦相手の4級冒険者をコントロールしていた。

いつもの相手とは違う模擬戦に、正体不明のフード軍団はノリノリである。

叩き伏せては、次、とばかりに剣を動かして対戦相手を求めていた。

今日この日、たまたまギルドにいた冒険者たちは運が悪かったようだ。

「……あの、サロモンさん、みんな大丈夫ですかね? これだけ負け続けたらイライラするんじゃ」

「そういえばユージさんは最近のプルミエの街の様子を知りませんでしたね」

「え? ケビンさん?」

「ユージ殿、問題ない。ほれ、アイツらの目を見てみるといい」

「えっと?」

ギルドマスターのサロモンに促されて、やられまくっている冒険者たちに目を向けるユージ。

そこに負の感情はなく、技術を盗んでやるとばかりに目を鋭くする男たちがいた。

中には型をなぞるように剣を振る者、フード集団の弓の構えをマネする者もいる。

そこにいたのは、己の実力を受け止めて、ただ強くなろうと努力する真っ当な集団であった。

「ユージさんが心配するのも当然です。いえ、これまでは当然でした。かつての『深緑の風』のように信頼できる冒険者もいますが、下位の冒険者の中にはただの力自慢も多く、ならず者と変わらない者たちがいましたから」

「情けない話だが、事実だな。だがいまじゃ、そんなヤツらは数えるほどだ。目立っちまって俺が面倒見れるぐらいにな」

「はあ。なんでそんなに減ったんですか?」

「ふふ、ユージさんのおかげですよ。ユージさんと、ホウジョウの街の」

「え?」

「冒険者はな、戦うことしか能がないヤツらの集まりだ。街の雑用、モンスター退治、商隊の護衛。力と度胸だけを武器に、命を張って金を稼ぐ。だが、そんな冒険者たちに冒険者以外の道ができたんだ」

「それってもしかして……」

「そうだユージ殿。ユージ殿の開拓地、ホウジョウ村だ。ああいや、いまはホウジョウの街か。高位の冒険者の引退先ってだけじゃない。若くして引退した元5級のヤツらも移住したし、この前の募集じゃ経験の浅い元7級も受け入れてもらえた」

「初期は強さが大事でしたが、いまはそれよりも人間性を重視していますから。やる気があって真面目であれば、仕事はいくらでもあります。戦闘力はなくても問題ありません」

サロモンの言葉を補足するように話すケビン。

移住者の募集を続けたホウジョウの街の人口は、200人を超えている。

警備隊もできたいま、開拓民=戦闘員な必要はないのだ。

むしろ工場や農地、あるいはケビン商会付きの輸送員として真面目に働く人材のほうが求められている。

「もちろんどっちも信頼できるってんなら少しでも強いほうを推薦するがな。まあそんなわけでアイツらも気づいたのよ。この街じゃ強さも大事だが、真面目に生きてきゃ満足な生活が送れるようになるかもってな」

「はあ、そんなものですか……」

「ユージさん。この世界では血縁や地縁がない限り、仕事に就くというのは難しいものなのですよ。冒険者ギルドはその受け皿でもありました。ですが、冒険者として真面目に働きながら鍛えれば、その後の仕事があるかもしれない。人間、未来に希望を持てればそうそう腐りません」

「……そうかも、しれないですね」

ケビンの言葉を咀嚼してゆっくり頷くユージ。

ひょっとしたら、10年間引きこもっていた頃のことを思い出していたのかもしれない。

「ユージ殿。だから、儂らはユージ殿に感謝している。ユージ殿がこの辺境にいたことに、この辺境で開拓をはじめてくれたことに、そして儂ら冒険者を受け入れてくれたことに」

「そんな、俺なんて。ケビンさんのアドバイスもありましたし、サロモンさんがいい人たちを紹介してくれたから……」

「はは、代官様になってもユージ殿は変わらないな!」

あらためて感謝を伝えたサロモンに、ちょっと戸惑いながら謙遜するユージ。

そんなユージの背中を、サロモンは嬉しそうにバンバン叩く。

「サロモンさん、そろそろいい頃合いでは?」

ギルドマスターのサロモンに声をかけて、訓練所を示すケビン。

そこには冒険者たちが死屍累々と転がっていた。いや、死んではいないようだ。疲れと痛みで起き上がれないだけである。

一方で6人のフード軍団はいい運動になった、と満足そうな様子であった。

イザベル一家と二人の長老は、辺境の冒険者では相手にならないらしい。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

場所を変えて、冒険者ギルドの個室に移動したユージとケビン、ギルドマスターのサロモン。

ユージのヒザの上にはコタローがいるが、アリスやローブを着たエルフの姿はない。

アリスの案内で、汗をかいたエルフたちはケビンが貸し切ったサウナに向かった。

プルミエの街の名物で、一団体で一棟貸し切りのため、耳を隠さずとも使える施設である。

ちなみに男女の区別はない。

ユージ、混浴の機会を逃したようだ。

「サロモンさん、これが移動の申請書類です。俺とアリスの分ですね。いちおうリーゼの分も書いてきたんですけど……」

「ああ、リーゼの嬢ちゃんも冒険者登録していたな。受け取ろう」

ユージは冒険者ギルドに遊びに来たわけでも、エルフたちのストレス解消のために来たわけでもない。

冒険者が街を移動する場合、登録した冒険者ギルドに届け出ることになっている。

ギルドが今いる戦力を把握するために必要な手続きである。

ちなみに高位の冒険者ともなれば、ギルドから領主や代官に申請して許可を得ることになっている。

移動先で領主や代官が許可を出さない場合は、街に入れないことさえあるのだ。当然、高位の冒険者はそうならないよう事前に連絡して、許可を得てから移動を始めるのが一般的だが。

なにしろ位階が上がると強くなるこの世界において、個人は一軍に匹敵する戦力になり得るのだ。

保有戦力を把握するため、敵対しかねない実力者から身を守るため、領主としては当然の措置である。

実力者の自由な移動が許されるわけがない。

ユージは冒険者の規則に則って、王都に行くことを伝えるのだった。

ちなみに残る5人のエルフたちは、領主が王都に連絡して移動の許可を得ている。

冒険者ではなくとも、強いことに間違いはないので。

「ユージ殿、話があるのだが少しいいだろうか? ユージ殿はプルミエの街に来てもなかなか冒険者ギルドに寄ってくれないのでな」

「あ、はい、すみません」

必要な書類を提出したユージに話を持ちかけるギルドマスターのサロモン。

たしかにユージが冒険者ギルドを訪れる回数は少ない。

剣と魔法のファンタジー世界にやってきた日本人なのに。

「ユージ殿、ホウジョウの街に冒険者ギルドの支部を作る気はないだろうか?」

「え? どうしたんですか突然? その、ウチの街に来るのは許可制なので難しいと思いますけど……」

「ああ、それは知っている。だから支部を作った場合は、引退した元冒険者や移住した者たちが依頼を受けることになるだろうな」

「そっか、受けようと思ったら受ける人はいるんですね」

「そうだ。あとは冒険者としての新規登録も受け付けることになるだろう」

「はあ。でも依頼がありますかね? 警備隊とオオカミたちが森の外を見まわってるから、モンスターもほとんど出ませんし、往来はケビン商会の便と一緒だから商隊とか人の護衛もありませんし……」

「ユージ殿、街の中の雑用でもいいのだ。あとは例えば、こちらからホウジョウの街のギルドに伝えて、森の中の素材を収集してもらうこともあるだろう。深い場所でしか採れない素材もある」

「あ、なるほど。でもいままでは雑用とかどうしてたんだろ」

「ユージさん、これまでは町長のブレーズさんが人を割り振っていました。よその冒険者たちが出入りするのでなければ、悪い話ではないと思いますよ。ブレーズさんが忙しいのは仕事の振り分けを調整していたせいもありますから」

ユージ、町長の仕事内容を把握していなかったようだ。いまや街のトップなのに。

コタローは呆れた様子で首を振っていた。ゆーじ、ぼすはちゃんとはあくしておかなきゃ、とばかりに。

「ブレーズは仕事が楽になるし、移住した元冒険者や希望者は小遣い稼ぎになる。支部ができれば、儂らは森の素材を得やすくなる。依頼主はいまより金がかかることになるかもしれんが……悪い話じゃないだろう?」

「はあ……」

「そうですね。人が増えて、善意の協力だけで成り立たせるのはそろそろ無理がありましたから。ユージさん、いいと思いますよ」

「えっと……支部を作ることになったら、ギルドの職員はどうしましょうか? 人が要りますよね?」

「実はこの話、今のホウジョウの街の住人から持ちかけられてな。冒険者ギルド支部を作りたいって手紙をもらったのよ」

「え? 誰でしょう?」

「ドミニクだ。元『深緑の風』の盾役の大男。儂が許可を出して、代官のユージ殿がいいと言えば夫婦で支部の職員をやる気だってよ」

初期のホウジョウ村に移住してきた元3級冒険者パーティ『深緑の風』。

リーダーのブレーズは町長となり、妻で弓士のセリーヌは補佐をしている。

斥候役のエンゾはホウジョウの街の警備隊の隊長。

盾役のドミニクは、いま農業と伐採作業に従事している。

もし冒険者ギルド支部ができたら、元奴隷の妻とともに職員を務めるつもりらしい。

「ドミニクは村の頃の雰囲気をずいぶん気に入ってたらしい。人が増えて誰が受けた、受けないで揉めたり、そのせいで雑用を頼みづらくなるのがイヤなんだとよ。あとは元冒険者たちの小遣い稼ぎを手伝ってやりたいってのと、ブレーズにちょっとはラクをさせてやりたいって気もあるみたいだな」

「は、はは……すみませんブレーズさん」

ブレーズがラクをできない原因のユージはごまかし笑いである。まあブレーズも覚悟の上で町長を務めているのだろう。ユージとは長い付き合いである。

「えっと、細かいことは帰ってきてからでいいですか? ファビアン様にも話したほうがいいと思いますし……でも、冒険者ギルドの支部、作る方向でお願いします」

「了解だユージ殿! いや、代官様!」

「ちょっ、代官様とか止めてくださいよ!」

「いいじゃねえか、ユージ殿は代官様なんだからな!」

「その通りなんですけど、なんかむずがゆくって」

ユージが正式に代官となったのはこの春。

『代官様』と呼ばれるのはまだ慣れないようだ。

ユージがこの世界に来てから12年目。

新人冒険者として登録したプルミエの街の冒険者ギルドで。

ユージは、ホウジョウの街のトップとして冒険者ギルド支部の設立を受け入れるのだった。

かつての新人冒険者が、変われば変わるものである。