軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 ユージ、エルフの里の変化を見聞きする

小さな泉の水面に、コポコポと泡が上がってくる。

次第に泡の数が増えて、ついにはゴボゴボと。

最後には、水面を割って船が出てきた。

エルフの潜水艇である。

「ついたー! あいかわらずファンタジーだなあ」

「ユージ兄、すごかったね! 私もこの魔法使えるようになりたい!」

「アリスちゃんは火魔法が得意なんだもの、難しいと思うわ。リーゼがやるから大丈夫!」

「そういえばユージさんもアリスちゃんも、里に来るのはひさしぶりだものね」

浮上モードの船からキョロキョロとあたりを見るのは、ユージとアリスである。

一緒にいたコタローは、さっと舳先に前脚をかけて周囲を見渡している。ノリノリである。

ユージたちが乗った船の船頭とエンジン役は、エルフの少女・リーゼとイザベルだったようだ。

船は一艘だけではない。

滝の裏から繋がる地下洞窟を通り抜けて、続けて何艘もエルフの船が浮上する。

人とエルフを繋ぐお役目のケビン、エルフ居留地に住んでいたリーゼの両親とユリアーネ、街開きのお祭りに遊びに来ていた長老たち、王都を拠点に活動している1級冒険者のハル。

ホウジョウの街に集まっていたエルフご一行様である。

ユージが王都に行くのに合わせて、イザベルをはじめとして何人かのエルフが同行することになった。

同行者を決めるために、ホウジョウの街に来ていた全員が一度エルフの里に行くことになったのだ。

アドバイザーとしてユージとアリスとケビンとコタローを連れて。

まあ実際にアドバイスするのはケビンだけなのだが。

エルフの里の中心部へ向けて、船はゆっくりと小川を進む。

やがて桟橋にたどり着いたユージはひさしぶりにエルフの里に足をつける。

エルフ居留地ができてホウジョウ村にリーゼたちが住むようになってから、ユージはちょっとご無沙汰していたようだ。

年に二度、取引に来ているのでおよそ半年ぶりか。

出迎えに来てくれた里のエルフを撮影しながら、ユージが気づく。

「……あれ? なんか、みなさんの服装が変わってません? ひさしぶりだからかな?」

「ユージ兄、私もそう思う! ……ホウジョウ村の、じゃなかったホウジョウの街のみんなっぽい!」

「ふふ、ユージさんもアリスちゃんもなに言ってるの。二人とケビンのおかげじゃない」

「え?」

「ユージさんのおかげで絹糸の生産量が増えたもの。それに、ユージさんとケビンがいろいろ服を持ち込んでくるでしょう? ああ、こちらから布を持っていって、針子の工房で服に仕立ててもらうこともあったわね。アリスちゃんもアイデアを出してるって聞いたわよ?」

「あ、そういえば」

「おかげでみんなこだわり出しちゃってね。新しい織りも生まれたし、染料なんかもいろいろ試してるのよ?」

集まったエルフたちは、これまでにないデザインで色とりどりの服を着こなしていた。

パリジャン&パリジェンヌっぽいのは痩身長躯のスタイルのせいか、あるいは撮影用の澄まし顔のせいか。

ユージとケビンが人間の国で巻き起こした服飾ブームは、エルフの里にも波及しているらしい。

「あ、じゃあ今度、織りとか染めとか調べてきましょうか? ニンゲンのやり方もあるでしょうし、俺が元いた世界のヤツもいろいろ……」

ユージの言葉に、まわりにいたエルフが反応する。ギロッと。

ヒュッと息を呑むユージ。

ファッショニスタの情熱は、エルフにおいても一般人が引くほどらしい。

「ふふ、今度の旅から帰ってきたらね。さあユージさん、行きましょう。今日はこのまま休んで、長老会は明日ね!」

「あ、はい」

「お祖母さま! リーゼ、みんなと一緒に泊まりたい!」

「ふふ、そうね、じゃあ私たちは今日は家じゃなくてホテルにしましょうか」

「やったあ! お祖母さま大好き!」

ご機嫌なイザベルとリーゼに案内されて。

ユージたちは、エルフの里の客人用の宿に泊まるのだった。

ひさしぶりの『ホテルリバーサイド』である。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

エルフの里にある客人用の宿『ホテルリバーサイド』。

看板に描かれた文字は日本語である。

かつてエルフの里に隠棲したテッサの仕業である。

いま、ホテルリバーサイドの中庭にはユージたちの姿があった。

椅子を持ち出して入浴後の談笑をしているらしい。

ちなみにこのホテル、中庭があって建物がいくつか独立したモーテルスタイルである。古い。

「ユージ兄! いいお風呂だったね!」

「そうだねアリス。やっぱり温泉はいいなあ。ホウジョウ村にも欲しいんだけど……」

「ユージさん、ホウジョウの街、ですよ」

「あ、そっか。まだ慣れなくて。ケビンさんはさすがですねー」

暢気な会話である。

ちなみにホテルリバーサイドにある露天風呂は本来、混浴だ。

だが今回、ニンゲンの希望に合わせて男女時間をずらして利用していた。

なにしろアリスが大人になったので。深い意味ではなく、年齢的に。

「それにしても……なんか、昔来たときよりキレイになってません? それに宿に建物が増えたような……」

「ふふ、よく気づいたわねユージさん。最近、利用者が増えたって長老会でも話題になってるの」

「利用者ですか? えっと、俺たちのほかに客人が?」

「お祖母さま、どういうことなのかしら?」

「うーん、リーゼに聞かせるにはまだ早いわ。大人になってからね」

「ええっ!? お祖母さま、リーゼもう立派なレディなんだから! アリスちゃんとおんなじよ!」

子供扱いに憤るリーゼ。

ぷっくりと頬を膨らませるあたり子供である。

ユージたちが泊まる客人用の宿『ホテルリバーサイド』。

当たり前のことだがユージたち以外の訪問者は存在しないため、普段、この宿は別の用途で使われている。

『ホテルリバーサイド』の名前の通り。

アリスとリーゼに聞かせるわけにはいかない。

「ほら、エルフは服にこだわるようになったじゃない? それが影響してるのかもって話題になってたわ。ユージさんたちのおかげね!」

「はあ……」

「それに……ケビンがこの前持ち込んだ、例の下着。アレも効果があるみたいでね、エルフが悩まされていた少子化はもうすぐ解決しちゃいそうよ?」

「それは何よりです。数は少ないですが、今回もお持ちしましたよ」

「え? ケビンさん?」

「そう、じゃあ後で見せてちょうだい! 欲しがる子も多くてね、誰に分配するか長老会で決めなくっちゃ」

「ケビンさん? 何を持ってきたんですか?」

「ユージさん、例の下着ですよ。その、機能性よりも見た目を重視した……」

「ああ、アレかあ……」

言葉を濁してユージに教えるケビン。

ユージもケビンもイザベルも、はっきりと口にしない。

なにしろエルフに求められてケビンが持ち込んだのは、下着なのだ。

それもただの下着ではない。

ユージの家にあった下着の通販雑誌に載っているようなエロ下着である。ブラとTである。あとネグリジェである。シルク製でテカテカの。

針子のヴァレリーとユルシェルは、ユージやケビン、エンゾの念願だったエロ下着を完成させていた。

まあ機能性重視のブラジャーより難易度は低いのだ。

見た目がそれっぽくなれば、実用性は確保できるのである。ある意味で。

リーゼしか子供がいなかったエルフの里だが、そのうち弟分や妹分が続出するらしい。いいことである。たぶん。

「利用者が増えたのはそのおかげだけじゃないのよ? ほら、ユージさんとケビンから保存食を仕入れているじゃない? 絹も増産できたし、もしもの時の資金源もバッチリだもの。たとえ人が増えても、飢饉が起きてもなんとでもなる。そんな安心感から子づくり――」

「あっ」

「お祖母さま? そう、そういうことね! リーゼわかっちゃった!」

「どうしたのリーゼちゃん?」

「あのねアリスちゃん、この宿はね」

「待ってリーゼ! ほらアリスもね、まだちょっと早いからね」

イザベルが口を滑らせたおかげでリーゼはピンときたらしい。耳年増か。おませさんである。いや、いくらエルフの成長が遅いとはいえ、リーゼは18才なのだ。知っていて当然か。

庭に寝そべったコタローのリアクションはない。まるで少女たちを大人扱いするかのように。さすが 雌犬(ビッチ) である。文字通り。

「あら、気づかれちゃった。リーゼ、詳しい話は両親に聞きなさい。あの子たちも子供への説明に苦しめばいいんだわ。イチャイチャしてないで」

「えっ? お祖母さま?」

「リーゼ、そのうち弟か妹ができるかもしれないわね。お姉さんになれるかしら?」

「ええ! もちろんよ! リーゼ、立派なレディだもの!」

「うわあ、うわあ! いいなあリーゼちゃん!」

イザベル、この宿はどんな使われ方をしているのか、そこから派生するアレコレについて、リーゼへの説明は両親に投げるようだ。賢明な判断である。

「エルフたちに服飾の流行ができて、不安が取り除かれた。このままいけば子供も増えていく。ユージさん、私たちはユージさんに感謝してるのよ。稀人としてではなく、ユージさん個人に」

「い、いや、俺はたまたま言葉が通じただけで、その、ケビンさんとか針子のみんなのがんばりとか、掲示板のみんなとか」

「ユージさん。ユージさんがいなければ、私たちだけでは作れませんでしたから。エルフとの交流もありませんでしたしね。私なんてしがない行商人だったんですよ?」

「そうよユージ兄! それに、リーゼ危ないところだったんだから! ユージ兄とアリスちゃんとコタローがいなかったら、リーゼ、ひょっとしたら」

謙遜するユージに畳み掛けるケビンとリーゼ。

ユージ、自信がないのは今も変わらないらしい。

それでも。

「……そっか。俺、役に立ててたんだなあ」

ユージ、思うところはあったようだ。

何しろこれまでの功績を認められて、王宮でパーティが開かれるほどなので。

エルフの里、滞在初日。

ユージたちは、のんびりとお祭りの疲れを癒すのだった。

誰が行くか、紛糾必至の長老会の前に。