軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 ユージ、動揺のあまり行きたくないと言い出して説得される

領主であるファビアンから渡された一通の手紙。

それは、ユージの功績を讃えるパーティへの招待状だった。

貴族が集うパーティである。

同時に、国王への謁見も行われるらしい。

「バ、バスチアン様、俺、行かなきゃダメですかね? え、だって、王様と会うことになるんですよね? パーティってことは他の貴族とも?」

ユージ、動揺しまくりである。

「うむ、ユージの戸惑いもわかる。だが大丈夫だユージ、儂の配下ゆえ、同席はしてもらうが、基本は儂の功績となる。パーティで貴族と会話するのも儂の役目だな」

「ユージ殿。怯えなくても大丈夫じゃ。当然、儂もシャルルもパーティに参加する予定じゃ。ファビアンと共にユージ殿を守ろう」

「あ、それなら安心……いやいやいや! え、ホントに? 出なきゃダメですか? 行きたくない……」

「ユージ。一回だけ、一回だけですわ。大丈夫、何がなんだかわからないうちに終わりますもの」

動揺するユージ、安心させようとしながらも出席を促す領主とバスチアン。

及び腰なユージにそっと言い聞かせる領主夫人。なぜか領主夫人だけ言い方がエロい。しかも強引にホテルに誘う男のようなセリフである。

「ユージ、本音を言えば、すまないと思っておる。表舞台に出たくないというユージの意志もあって儂の配下にしたのだが……すまぬ、今回だけは避けようがないのだ。この一度だけユージが出席してくれれば、あとは二度とこのようなことはない」

「街の開設、エルフとの交易。並ぶような功績など以降はないじゃろうからな。ユージ殿、儂とファビアンが他の貴族に引き抜きさせぬし、会話はファビアンに任せればよい。難しいことは考えずに、栄誉を受けるために参加してほしいのじゃ」

「は、はあ……でも、王宮。王様」

ユージの功績は上司である領主のファビアンの功績。

貴族社会としてはファビアンだけが讃えられるのが通常である。

だが、これまで大きな成果がなかった辺境の開拓に成功したこと、ささやかな量ではあるが人間として初めてエルフとの交易に成功したこと。

ファビアンを讃える場に担当者のユージも同席させることになったらしい。

あくまでもメインはファビアンだが、担当者も褒めるべきほどの成果であるようだ。

ユージ、おかげでビビりっぱなしである。

「はあ、ニンゲンは大変そうねえ。ユージさん、エルフの里に逃げ込んじゃう?」

「イザベルさん……はは、それもいいかな、あ、ダメだ。里に行ったら家がない」

「家ぐらいエルフが用意するけど……そうね、ユージさんのこの家は作れないわ」

「ですよねえ……」

「うーん…………そうだ! ねえ、ユージさんは私たちエルフとの交易に成功したから呼ばれたんでしょう? それじゃ、友好の証として私たちも行っていいかしら?」

ビビるユージに、エルフの里に逃げ込んだら? と逃げ道を示すイザベル。

かつて恩を受けた稀人を保護するという、エルフの方針にのっとった提案である。

まあユージと交流してきたいま、エルフはユージ自身にも感謝しており、ユージとアリスとコタローが望めば喜んで保護するだろうが。

「も、もちろんです。イザベル様は初代国王の父・テッサ様の奥方様。もしいらっしゃるようであれば、国を挙げての歓迎となるでしょう!」

「うーん、そこまでしてもらわなくていいんだけど。ユージさん、ほら、私たちも行くことにすれば、何かあっても守れるじゃない? ニンゲンと違って王様や貴族に気を遣わなくていいんだし!」

「え? イザベルさん?」

「エルフの戦闘力と、船と水路の知識。面倒なことになったら一緒に逃げちゃいましょ?」

「は、はあ……いいっすね、それ」

ユージ、遠い目をして頷いている。

イザベルの誘惑に負けそうである。現実逃避か。

「それに……テッサと一緒に引っ込んだからわからないけど、私、偉いんでしょう?」

「もちろんです! テッサ様の奥様とその子が、王家と六宗家の祖先なのですから!」

「あ、前にケビンさんが言ってたヤツ」

「そうですユージさん。イザベルさんとその家族は、最低でも侯爵家としての扱いになるでしょう。生母ではありませんが『初代国王の母』ですから、王家に準じる扱いでしょうね。以前にユージさんにお教えした通り」

「うむ、そうじゃろうな。イザベル殿ご本人が来るとなれば、友好関係にあるユージ殿に手を出す者などおらんじゃろう」

「ですがよろしいのですか? 『風神姫』とその血族は権力に関わりたくないとエルフの里に帰ったと……それに、エルフが人間の街にいると狙われることもございます」

「まあユージさんと一緒に、一回顔を出すぐらいは良いわよ。狙われる? ふふ、今回は戦力を揃えていくわ。狙われたら一族根絶やしにします。構わないでしょう?」

「え、ええ、賓客であるわけですから。もし何かあれば、国を挙げてエルフのみなさまに協力いたします」

「そう、ならいいわ」

ニッコリと笑って領主に応えるイザベル。

イザベル、ユージを守るために王宮に同行するらしい。

王宮でのパーティに興味があったわけではない。ユージやホウジョウの街の住人と交流してエルフたちの好奇心が刺激されていたが、決して興味本位の提案ではない。ひさしぶりに大都市や王宮を見たかったわけではないのだ。きっと。

領主とイザベルの会話を見守っていたユージ。

ようやく考えをまとめたようだ。

一つ頷いて、口を開く。

「イザベルさんも、ファビアン様もバスチアン様もそこまで言ってくれるなら。俺、行きます!」

自分に気を遣って、貴族やエルフが動いてくれる。

ユージは、ようやく王宮でのパーティと謁見に向かう決意を固めるのだった。

「ユージさん、同行する人員を決めなければなりませんね。必要な物の手配はお任せください」

「ありがとうございます、ケビンさん。それとブレーズさん」

「ああ、不在の間は任しとけ。なあに、いつものことだ」

そう、王宮へ行くのは初めてだが、ユージがふらっといなくなるのはいつものことである。

ケビンもブレーズも慣れたものだ。

今回、ケビンは用意するだけで終わりではない。

「ユージさん。私は人間とエルフの橋渡しをするお役目に就いています。王宮には同行できないでしょうが、ユージさんとエルフのみなさんと一緒に、王都まで行きますからね」

「ありがとうございます、ケビンさん。心強いです」

「私は確定だけど、ほかのエルフが行くかどうかは一度里に戻って決めるわ。それまで待てるのかしら?」

「ええ、問題ございません。儂から知らせを走らせます。『風神姫』に来ていただけるのでしたら、王も貴族も喜んで待つことでしょう。建国の英雄にお目通りできるのですから」

「そ、そこまでなんだイザベルさん……」

「ユージ殿、当然じゃろう。国を興した英雄たちの話を聞けるのじゃから。それにイザベル殿は、この国の中枢である王家と六宗家の祖先と知り合いなのじゃ。各家の初代をご存じなわけじゃからな」

「ふふ、みんなの子孫ね。ちょっと楽しみになってきたわ!」

バスチアンの言葉に微笑みを浮かべるイザベル。

喜びと、わずかに寂しさが交じっているのは長命種ゆえだろう。

「あー、ユージさん、ケビンさん。護衛はどうする? 俺は動けねえし、エンゾも隊長だからなあ。警備隊の人員は減らさねえ方がいいだろうし」

「ええっと、行くのは俺とケビンさん、イザベルさんとエルフたち。たぶんアリスもコタローも行きたいって言うから……」

「ユージさん。今回は公式な招待ですし、 陸(・) 路(・) で行くほうがいいでしょう」

「ケビンさん?」

「そうじゃな、ケビン殿。水路でも通常であれば問題はないのじゃが……」

ケビンとバスチアンが、チラッとイザベルに目を向ける。

ホウジョウの街の西を流れる川は、プルミエの街と湿原を経由して王都に繋がっている。

ユージ、ケビン、バスチアンはエルフの船で何度も通った道だ。

エルフの船で、ところどころ 潜(・) 水(・) して。

浮上したまま水路を使えば潜水できることは隠せるが、『エルフが船を使う』ことは隠せない。

それを考慮したケビンとバスチアンのアドバイスのようだ。

「了解です。えっと、イザベルさんたちも陸路にしますか?」

「そうね、そうするわ! ふふ、陸路の旅はひさしぶりでワクワクするわね!」

イザベル、ノリノリである。

王宮に同行するのはユージを守ることが目的なはずなのに。

「ユージ殿、では儂やファビアンと一緒に向かうのはどうじゃ? 馬車は別じゃから、貴族との同道であっても緊張はせぬじゃろう。さすればユージ殿が護衛を手配する必要もないし、わずらわしい手続きも簡略化できることじゃろう」

「バスチアン様。その、エルフの皆様も行かれるのですし、儂はむしろ同行させてほしいのですが……儂の領地で問題を起こすわけには……」

「うむ、さもありなん。ユージ殿、イザベル殿、よいじゃろうか?」

「あ、はい。いいですよねケビンさん? イザベルさんは?」

「ええ、いいわよ。ケビン、馬車の準備はお願いしてもいいかしら?」

「はい、お任せください。ではホウジョウの街から行くのはユージさん、アリスちゃん、コタロー、私。それと、エルフの皆様ですね。……これは、準備のためにプルミエの街に人を走らせたほうがいいか」

「すみません、ケビンさん」

「いえいえ! ユージさんと商売をしてきた私にとっても光栄なことですし、エルフの皆様を手助けするのは私のお役目ですから」

ユージの行動に振り回されるのは、今も昔もケビンの役目である。

もっともユージに振り回されることで、ケビン商会は辺境でも有数の商会に成り上がったのだ。

今回もケビンはニコニコと旅の準備を請け負っていた。

ユージとの友情と善意だけではない。

『領主と代官、さらにエルフと同道を許されるほど信頼されている商会』という評価を得られるのだ。

この事実だけで、旅の準備の手間と費用など余裕でペイしてプラスである。

「話は終わりね! じゃあさっそくエルフの里に帰って話し合わなくちゃ! ユージさん、ケビン、ついてきてもらっていいかしら? ニンゲンの意見も聞きたいもの。あとはハルも連れてかなきゃね!」

話が一段落したと見て取ったのだろう。

パン、と手を叩いて立ち上がるイザベル。

さっそく里に戻って、王都に行くエルフを決めるつもりらしい。ご機嫌である。

領主とバスチアンの返事を待つことなく、スタスタと立ち去るほどに。

「ファビアン様、バスチアン様。エルフの皆様の人数に制限はございますか? それほど大人数にはならないと思いますが、その、イザベルさんのあの張り切りようは……」

「う、うむ、ケビン殿、その、あまり大人数にならぬようにな。他国の使節同様と考えても、50人程度は問題ないと思うが……」

「その程度じゃろうなあ。使節団として50人ほど、護衛を含めて150人までといったところじゃろうか」

「あ、さすがにそんなに来ないと思います。ですよねケビンさん?」

「ええ、おそらく。それに、私たちもエルフの話し合いに参加させてもらえるようですから。最大でもその程度、という話はしてきましょう」

「うむ、頼む。近隣国との兼ね合いもあるのでなあ」

「はあ、貴族も大変なんですねえ……」

ユージ、暢気か。

ともあれ。

ユージがこの世界に来てから12年目。

ユージは王都に向かうことになるのだった。

ひさしぶりに、陸路で。

まずはエルフの里に行くため、出発はまだ先のようだが。