軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ユージの妹サクラ、宇都宮のカフェでお茶をする

『やっぱりこの店はいいわね! 『ニホン』って感じ!』

『気に入ってもらえてうれしいけど……日本、かなあ。古民家を現代風にアレンジしたカフェ?』

『ママ、ボクはここのパンケーキが甘くておいしくて好きだよ!』

宇都宮のカフェにいる二人の女性とその子供らしき男の子。

外国人女性に合わせてか、日本人と男の子も英語で会話していた。

観光かしらね、ほらアレよ聖地巡礼ってヤツ、最近多いものねー、などという周囲の日本人の言葉を聞きながら。

『そういえば今日はお仕事はいいの? ケイト先生?』

『ちょ、やめてよサクラ。せっかくの休日なんだから』

『ウチの会社でバイトして、日本語学校で先生して。ダブルワークってすごいなあ』

『そんなことないって! 英語しかできないから、ホントやれること少ないし。はあ、なんでこんな難しいの、日本語……』

『英語とは体系が違うからね。会話は慣れればイケるよ! 文字は……うん、がんばれ』

『ママ! ボクも日本語勉強してる!』

『そうだね、ベイビーには負けないようにしないと!』

『ケイト! ボク、ベイビーじゃない!』

『はは、よしよーし』

古民家カフェで話をしているのはユージの妹のサクラと、稀人・キースの子孫のケイトであった。

大柄な体に見合った大きな手で、ユージの甥っ子の頭をわっしゃわっしゃと撫でるケイト。

不満げにぷくっと頬を膨らませながらも、男の子はちょっと嬉しそうだ。

『ケイト、それでルイスくんの仕事は落ち着いたの?』

『うん、ほとんど手を離れたって。微調整はあるけどたいしたことないみたい』

『そっか、よかったね! 仕事場にこもったり急にアメリカに戻ったり、ルイスくん大変そうだったから』

『そうだね、さすがのアタシも心配したわー』

『ルイスくんの仕事が落ち着いたってことは……もうすぐ公開なんだね』

『今年も秋のキャンプオフで上映会の予定だってさ』

『お兄ちゃんの映画の続編かあ……楽しみだけどちょっと怖いような』

ユージの映画が公開されたのは、ユージが異世界に行ってから7年目の秋のこと。

一般公開後の興行収入が好調だったことを受けて、続編の製作は早々に決定した。

というか映画の作りからして続編前提の終わり方だったのだ。

それから一年半。

二言、三言の単語しかしゃべれなかったサクラの子供も、いまでは文章で話せるようになっている。

『ルイスが言うには、今回も自信作らしいよ? 一本目よりファンタジーだ! って大騒ぎしてたから』

『あの終わり方だしエルフが出てくるもんね。今回はエルフの里に行って終わりかな? あ! ひょっとして、ケイトも出てくるんじゃない?』

『うーん、それがルイスに聞いても教えてくれないのよね』

不安げな表情を見せるケイト。

CGクリエイターのルイスは、仕事上で知り得た秘密を守れる男であるようだ。

『待つしかないね! 今年も一緒にキャンプオフに行く?』

『うん、そのつもり。よろしくねサクラ!』

『りょーかい。……コテージ、一つ取ったほうがいいかな? ルイスくんとケイト用に』

『ちょ、なに言ってんのサクラ! いい、いいから!』

『え? だって恋人同士なんでしょ? その、大きな声を出されたらアレだけど、多少イチャイチャするぐらいは……あ、でもバスルームはコテージについてないし』

『ち、違う! こ、ここ、恋人じゃないから!』

『……え? はい?』

『ア、アタシ、ルイスから告白されてないし……』

『……ルイスくんの家に、一緒に住んでるのに?』

『あ、あれは、ほら、シェアハウスっていうか、ルームメイトっていうか……その! 部屋は別だし!』

サクラの追及に慌てふためくケイト。

顔を赤くして、声も大きくなっている。初心か。ワイルド系な見た目なのに。

『え、ええー……ルイスくん、それはちょっとどうなの……私、てっきり二人はもう付き合ってるんだと……』

『うう……』

『ママ? ルイスおじちゃんがどうかしたの?』

『あ、うん、ルイスくんは男らしくない! っていうお話をしてたの』

『ボクはルイスおじちゃん好きだよ! 一緒に遊んでくれるんだ! ゾンビごっこ!』

『ええー……? ルイスくん、それもちょっとどうなの……』

ニッコニコの息子からの報告に肩を落とすサクラ。

ルイスの株はだだ下がりである。

『あとねえ、いろんなお話してくれるんだ! ママ、ユージって人はボクのおじさんなんでしょう? おじさんのユージと、映画のユージが同じ人だって教えてくれたの!』

『うん、そうだよ。そっか、映画を観たのはまだちっちゃい頃だったもんね。俳優さんが演じてたし、説明してもわからなかったか』

『だから、次の映画が楽しみなんだ! おじさんがんばれーって応援するの!』

『ふふ、そうね。ママと一緒に応援しよっか』

『ママ、ボク、ユージおじさんに会ってみたい! 今度会えるかなあ?』

『……どうかなあ。難しいかも』

キラキラと目を輝かせる息子の頭をそっと撫でるサクラ。

母の慈しみか、あるいは兄と会えない寂寥感か。

『ほらサクラ、そんな顔しない。研究が進めばいつか会えるようになるかもしれないんだから』

『……うん、そうね。魔素だって見つかったんだし!』

ユージの話が広がって以来、異世界についての研究は大真面目に進められている。

研究者たちのスポンサーは世界各国の富豪たち。

ビジネスに成功して、あるいは生まれながらの資産家で、お金と時間を持て余した者たちである。

何人かの稀人はいたようだが、基本的には誰も体験したことがない『剣と魔法のファンタジー世界』。

ユージの存在が確認されてコミュニケーションが取れるいま、金持ちたちはこぞって異世界と往還する方法を求めている。

中には往還ではなく片道でもいい、と言い出す猛者もいるほどだ。

日本人じゃなくてもニートじゃなくても、異世界に憧れる者はいるらしい。

ビジネスチャンスと好奇心と、あるいは厭世気分で。

プロデューサーが映画公開前から動いていたおかげで、各国の首脳が真剣に受け取り出した頃には、大富豪による金にあかせたロビー活動が進んでいた。

日本、アメリカ、あるいはそれ以外の国であっても、独占されたら自分たちが行けなくなる。

世界中の富豪によるロビー活動である。

『全世界の半分の富を持つ』と言われる男たちの協力体制である。

いまのところユージの話は全世界に公開されて、研究結果もほぼすべて公開されていた。

どこかの国に独占されることもなく。

この世界で魔素を観測したという、センセーショナルな第一報も。

『ボク、ユージおじさんに会うのが楽しみ! それでね、一緒に冒険するんだ!』

『ふふ、やっぱり男の子なんだなー。それじゃあいろいろ勉強しなくちゃね。剣道とか空手とかやったほうがいいのかな?』

『サクラ、ボーイスカウトがいいんじゃない? まずはサバイバル技術を覚えてさ』

『ケイト、ボーイスカウトってサバイバル技術を教えるものじゃない気がするんだけど……』

『まあね! でもほら、役立つ知識をたくさん教わるのは確かだし!』

『うーん……まあもうちょっと大きくなってからかな。秋のキャンプオフでBBQとアスレチックして、楽しんでたら考えようか。……ジョージとルイスくんみたいに、インドア派かもしれないし。ねえケイト?』

『そうなんだよね……ルイス、ぜんぜんデートに誘ってくれなくてさ』

『もう恋人同士みたいなもんじゃない。ケイト、自分から誘うのよ! 宇都宮のデートスポット教えようか? オタクと関係ない感じの』

『よし! もっと押してみることにする! サクラ、よろしく!』

『ママ! ボク、バーベキューしたい! キャンプも!』

『うんうん、今度の秋にみんなでやるからね。いっぱい人がいたほうが楽しいでしょ?』

『うん!』

ユージが異世界に行ってから、9年目の夏。

一本目の映画が公開されて話題になるにつれて、サクラの仕事も増えていった。

現在サクラは、宇都宮とロサンゼルスそれぞれに拠点を構えている。

ジョージと息子と一緒に、ルイスとケイトが暮らす家の近くに。

自らが社長を務めるユージの権利を管理する会社の仕事が増えて、日本とアメリカを行き来する生活となった。

ユージの話が世界中に広がって、関係する人たちも関心を持った人たちも増えた。

中には話でしか聞いたことがない、想像を絶するお金持ちたちも。

それでも。

サクラもジョージも友人たちも、ほとんど変わらない生活を送っているようだ。

身近な変化と言えば、宇都宮に人が増えて、ユージ家跡地周辺の開発が異常なスピードで進んでいることぐらいだろう。

興味を持った人は一般人だけではなく、資本家たちもいるので。

もう一つ大きな変化としては、キャンプオフの拡大が挙げられる。

けっきょく恒例となった秋のキャンプオフは、次で五回目。

今回は北は北海道から南は九州まで、全国五箇所で同時開催である。

ひょっとしたら。

それは、ひょっとしたら、ユージのメッセージの影響があったのかもしれない。

一本目の映画公開から一年半が経っても。

動画サイトで無料公開している特別編とメッセージは、いまだに広がっているので。