軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 アリスの兄のシャルル、卒業パーティで婚約破棄事件に遭遇するpart3

「この女は、隣国の間者です」

「な、何を言い出すシャルル! これは侮辱だぞ!」

烈火のごとく怒り出すアラン。

取り巻きの男二人も立ち上がる。

アンナは、驚いて目を丸くしていた。

「男爵は隣国の間者に成り下がり、この女を迎えたのです。この女は、隣国からやってきた間者です」

アランの言葉を無視してシャルルは語る。

まるで、真犯人を指摘する探偵のように。

「上級学校で貴族と結びついて、貴族の価値観を変えて内側から崩壊させる。その程度の狙いだったのかもしれませんが、うまいこと僕らの学年の最上位・公爵家の嫡男に取り入れたようですね。後継争いをおこして、次期王妃にでもなるつもりですか?」

挑発するようにフン、と嗤いながら告げるシャルル。

その言葉は止まらない。

「僕が疑いを持ったのは、この女がしていた仕事の斡旋ですよ。行き先は領地ではありません。仕事の斡旋と称して、貧民を違法に奴隷にして隣国へ連れ去っています」

シャルルの言葉に会場がざわつく。

「何を言う! そんなはずがない! そうだろアンナ?」

「ええ、もちろんですわ! ワタクシは男爵家の娘ですのよ! アラン、虚偽を言うこの男を捕らえてくださいませ」

「認めないのですね。ちょうどいい頃合いです。では証明しましょう」

すうっと体を開いて、パーティ会場の出入り口に視線を送るシャルル。

つられるように、会場にいた者たちが入り口の扉に注目する。

そっと、扉が開かれた。

「お、おわっ! し、失礼しました」

静かに扉を開いてこそっと入り込んだジェラルド。

全員から注目されているのに気づいて、ビクッと体を震わせる。小物か。

「ジェラルド、首尾は?」

「驚きました、シャルル様。ですがよろしいのですか、このような公衆の面前で」

「しょうがないよ。まさかここでコトを起こされるとは思わなかったから。さてっと」

ジェラルドから羊皮紙の束を受け取るシャルル。

二階からは、祖父であるバスチアン侯爵と狼人族のドニがシャルルを見下ろしている。

武器は手にしていないが、臨戦態勢で。

ちなみにタイミングを計ったようにジェラルドが現れたのは、二階の回廊にバスチアンとドニが帰ってきたのにシャルルが気づいたからである。

すぐに扉が開かなければ、あちらでしたか、などと言いながらドニか祖父に話を振るつもりだったようだ。

華麗な謎解きとは、こうしてたまたま印象的にされているのが現実なのだ。たぶん。

「……シャルル様、どういうことですの?」

「フレデリーク、そもそも。なぜ僕がダラダラと話していたと思いますか?」

「え? その、デビュッタントの失敗は、このパーティが終わるまでに取り返さなければなりません。終われば貴族社会の一員として扱われます。ですからワタクシの名誉を取り戻して、公爵家の嫡男であるアランの目を覚まさせるために」

「そうですね、それもあります。まあアラン様たちは手遅れかもしれませんが、ね。ただ僕の狙いは違いました。僕が話を続けている間に、手の者がその女と男爵家が間者だという証拠を取りに行ったんですよ。ちょうど当主も関連する者もここに集まってますしね」

「な、なにをおっしゃいますの! 私は間者などではありませんわ!」

「ほう? ……二階の中央にある執務室。一番下の引き出しが、二重底になっているんでしたっけ?」

ニヤリと嗤って、シャルルはアンナを、続いて二階にいるアンナの親を見据える。

動揺を隠せないのか、目を剥くアンナ。

「この羊皮紙は、そこから持ってきた物です。へえ、こんなに間者が入り込んでいましたか。ほう、こんな非道なことをしている家が。……これはこれは、血判状まで」

本来賑やかなはずのパーティ会場に、シャルルの声と羊皮紙をめくる音だけが響く。

「アラン様! この男は偽の文書で私たちを陥れるつもりですわ! 私は嵌められたんですの!」

「シャルル! その紙を見せろ!」

「なぜですアラン様? 事ここにいたっては、卒業生だけで解決できる問題ではありません。この羊皮紙に書かれた内容が真実であれば、『国家反逆罪』なのですから」

羊皮紙をかざして罪状を告げるシャルル。

会場の目は、シャルルが持った羊皮紙に集まっていた。

卒業生も、二階席から見つめる貴族たちも。

国家反逆罪。

国家を揺るがす罪であり、真実であれば一族郎党死罪となる重罪である。

「ちょうどいいですね。この書類は、この場にいる王と騎士団長に提出いたしましょう。問題ありませんよね? これは偽物だとおっしゃるのですから」

言い据えて、踵を返してパーティ会場内の大階段に向かうシャルル。

半歩遅れてジェラルドが、ダヴィドに促されてフレデリークが続く。

獅子人族の戦闘狂は空気が読める男なのだ。この場に女性を一人晒すわけにはいかない。

カツカツと、静かな会場にシャルルの足音だけが響く。

大階段に足をかけて、一歩踏み出すシャルル。

そして。

「そのような偽の書類、見せるまでもありませんわ! 稚拙な謀略に嵌められるぐらいなら私が消し去ります! アラン! 手伝ってくださいませ!」

「アンナ、何を。……え?」

「そうだ! 調子に乗るなよ小僧!」

人一倍の魔力量と言われたアンナから、二階席にいた何人かの貴族から、色とりどりの魔法が飛ぶ。

火球、石礫、水の塊、風刃。

大階段にいる、シャルルに向かって。

「さあアラン! ベルナール! エリク! みなさまは私を信じてくれましたわ! 三人はどうですの!?」

続けて。

アンナの声に促され、公爵家の嫡男・アランと侯爵家のベルナール、大神官の息子・エリクからも魔法が飛んだ。

「シャルル!」

パーティ会場に、子女の悲鳴と同級生の叫びが響き、そして。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「まさかこんな簡単に乗ってくれるとはね。フレデリーク、ジェラルド、僕の後ろでしゃがんでいて」

「シャルル! 出番か、出番だな? 攻撃してきたヤツはやっていいんだな?」

「ダヴィド、生け捕りでね。生きてれば全力で良いから。やったじゃないか、魔法ありの本気の戦闘だよ」

十人ほどの魔法攻撃。

狙われたシャルルは落ち着き払っていた。

一気にテンションが上がるダヴィド、魔法の飽和攻撃を前に魔力を練りはじめたフレデリーク、震えるジェラルド。

ダヴィドは駆け出し、シャルルはフレデリークとジェラルドの前に出る。

「シャルル様、ワタクシも」

「ああ、いいよフレデリーク。なんてことはないから」

パーティ会場に悲鳴と叫びが響く中。

一度目を閉じて、ふたたび開くシャルル。

見開いたシャルルの紅い瞳は、真っ赤に燃えていた。

シャルルが手を伸ばして、飛来する魔法に触るように手を伸ばすと。

火球が、石礫が、水球が、風刃が、次々と消えていく。

実際はシャルルが触れていないのに魔法が消えたことに気づいたのは、間近で見ていたフレデリークとジェラルドだけだろう。

「こ、これは? シャルル様?」

「ふふ。上級冒険者の戦闘技術、魔力による魔法の相殺。だと思ってほしいな」

上級学校で優秀な成績を収めたフレデリークもジェラルドも、呆然と口を開けている。

シャルルに飛んできた十数発の魔法は。

すべて、跡形もなく消え失せた。

羊皮紙一枚焼くことなく。

「だあっ、くそ、呆気なさすぎだ! てめえらちょっとは鍛えやがれ!」

「お祖父さま、ドニ。二階はお任せし……言うまでもなかったみたいだ」

一階のパーティ会場、アンナたち四人はダヴィドがあっさり制圧した。

『獣神』の血を引く獅子人族の男は、ちょっと物足りないと残念がるほどに。

王宮内に武器を持ち込むことは許されていない。

『獣神』は徒手空拳にて最強なのである。

シャルルが二階に目を向けると、魔法を放った貴族は近くにいた貴族や騎士団に捕らえられている。

間者という 言(げん) や証拠の真偽はともかく、王宮内で魔法を使って攻撃したことは確かなので。

問題ないと判断したのか、シャルルはそのまま大階段を上る。

その先に座す、王の下へ。

そして。

「陛下、恐れながら申し上げます。卒業パーティがこのような事態になったこと、参加者として恥ずべきことだと思っております。ですがどうか、初のことであっても、卒業パーティの中止をお申し付けください。そして、こちらをお改めください」

「ふむ、介入は避けるべく耐えておったが……魔法の使用までされては仕方あるまいか。シャルル、フレデリーク。我が甥が迷惑をかけたな」

「滅相もございません。この場を荒らしたこと、申し訳なく」

「伯父上! これはシャルルの謀略です! 私とアンナは嵌められたのです!」

シャルルと王の会話に割って入る声。

公爵家嫡男・アランである。

ダヴィドと騎士に簀巻きにされながら、まだ発言する元気はあったようだ。

「黙れ! コレが偽物であろうとなかろうと、王宮内で攻撃魔法を使ったのは事実なのだ! アレを見よ!」

アランを一喝して、二階席の一角を指し示す国王。

そこには、アランの実家である公爵家の面々がいた。

いや、おそらく公爵家の面々であろう人々の 両(・) 足(・) だ(・) け(・) が(・) 並(・) ん(・) で(・) い(・) た(・) 。

逆立ちでもしているのだろう。

女性陣はベロンとまくれ上がるスカートを気にすることもなく。

「あ、あれは……!? そんな、父上、母上……」

「この後、一族郎党が続けて殺されていこうとも、ただただ謝罪のみを表す。『 ヤ(・) ツ(・) ハ(・) カ(・) 』だ! 親と親族にあのような姿勢を取らせた己を恥じよ!」

「信じてください! アンナは聖女なんだ、間者じゃない! 伯父上!」

「『獣神』の血族よ、その男の口をふさげ。これ以上は聞くに耐えん」

王の指示を受けて、ダヴィドがアランに猿ぐつわをかませる。夏休みの間に 出張(でば) った戦場仕込みの荒さで。

口を布でふさがれても、アランはもごもごと言葉にならない言葉を発していた。

「王よ、私は間違っておりません。そも、この短時間で男爵家から書類を取ってこられるわけがない。その男は最初から私たちを嵌めるつもりだったのです。おそらく嫉妬でしょう」

「よもや『賢神姫』の家系が、諌めるどころか冷静な判断もできぬとはな。失望したぞ、ベルナール。其方の行動の結果はアレだ」

今度は侯爵家の息子・ベルナールを見据えて、先ほどと同じように二階席を示す国王。

そこには、ベルナールの実家である侯爵家の面々がいた。

魔法で作ったであろう巨大な浴槽に、張った水を魔法で煮えたぎらせ、全裸で身を浸して。

「あ、あれは! バカな……私はそれほど間違っていたというのか……」

「『賢神姫』の血筋が冷静さを失った時、体は熱くとも頭は冷静にと言い聞かせるために行う。『 ネ(・) ッ(・) ト(・) ウ(・) ブ(・) ロ(・) 』だ! 頭を冷やすが良い!」

家族は、ベルナールは冷静ではなかったと体で表現している。

それを見たベルナールはがっくりと項垂れた。

「エリクとやらには何も言うまい。アレを見よ」

三度、王が指し示した二階席。

そこには、エリクの父である大神官が手すりに立っていた。

両手を斜めに伸ばして。

エリクが目を向けると、大神官は素早い動きで、 大(・) き(・) く(・) 口(・) を(・) 開(・) け(・) て(・) 腕(・) で(・) バ(・) ツ(・) 印(・) を(・) 作(・) る(・) 。

「ま、まさか、そんな!」

「『 ザ(・) ン(・) ゲ(・) シ(・) ツ(・) 』の許しは得られなかったようだな。王宮ゆえ、水責めに続けることを遠慮したのだろう」

大神官の息子・エリクは、嗚咽しながらその場にうずくまる。

懺悔コールからのマル印と紙吹雪を期待したらしい。古い。

残された男爵家の娘・アンナは、助けはないかと周囲をキョロキョロと見渡して。

孤立したと知り、ただひたすらにシャルルを睨みつけるのだった。

「聞け、皆の者! 今宵の卒業パーティは中止とする! 騎士団はアラン、ベルナール、エリク、アンナ、および先ほどの魔法使用者を引っ立てよ! 追って沙汰を言い渡す!」

上級学校の卒業パーティにして、貴族の子弟たちのデビュッタント。

公爵家嫡男による婚約破棄宣言で騒がしくなったそれは、王の言葉で終わるのだった。

騒動の中心となったアランとアンナ、取り巻きの二人、さらに幾人かの貴族が捕らえられて。

「フレデリーク、すまない。僕の力じゃアランを改心させられなかったみたいだ。アンナを怪しんでいたのに……まさかここまで取り込まれてるなんて」

「いいえ、シャルル様。ワタクシこそアランを止められませんでした。婚約者として恥ずかしい限りですわ」

そっと目を伏せて答えるフレデリーク。

踏みにじられたフレデリークの誇りは、アランの『貴族としてあるまじき言動』によって回復された。

パーティに参加した卒業生も二階席に揃ったこの国の大半の貴族も、あ、ダメだコイツら、と判断したので。

むしろフレデリークには同情さえ集まっている。

あと独身貴族たちの熱い眼差しも。フリーになったので。

「それにしてもこの様子、ユージさんが見たらなんて言うかなあ……」

誰にも聞こえないように、小さな声で呟くシャルル。

もしユージが見ていたら、こう言うことだろう。

なんか大変だったんだね、あとあの謝り方、ぜったいテッサのせいだろ、と。軽い。ヤツハカではなくせめてスケキヨかイヌガミじゃないのかというツッコミはない。少なくともユージからは。

「あら、シャルル様? そのユージさんという方が、普段と勝負の時の差がヒドいという方ですの? いつか会わせていただけるのかしら?」

「……いえ、違います。違いますから、ユージさんには会わせませんよ」

「まあ? ふふ、何か事情があるのですね。わかりましたわ」

それはユージが稀人なことをバレないようにか、あるいはシャルルの淡い嫉妬か。

ともあれユージは、美しい伯爵家令嬢に会うことはなくなったようだ。知らない間に独身同士の出会いを潰されていた。

上級学校の卒業パーティ。

貴族の子弟はデビュッタントとして、平民の卒業生はひょっとしたら一生に一度の王宮での晴れ舞台。

今年の卒業パーティは、婚約破棄騒動に端を発して、史上初めて途中で中止となるのだった。

卒業生から四人の逮捕者を出して。