軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一章 エピローグ2

『サクラ、大丈夫かい? そろそろ寝たほうがいいんじゃないかな?』

『ジョージ。うん、ちょっと待ってね。このメールだけ返信しちゃうから。ベイビーはもう寝た?』

『うん、ぐっすりだよ! 今日も幸せそうな顔で眠ってる』

アメリカ、ロサンゼルス。

ユージの妹・サクラとジョージ、その子供が暮らす一軒の家。

ユージは変わらない。

だが、元の世界のユージに関わる人たちの生活は変わっていた。

『また取材の申し込みかい?』

『うーん、ちょっと違うかな。日本からの問い合わせ。ほら、お兄ちゃんの権利を管理する会社は、いちおう私が社長だからね!』

『そっか……ねえサクラ』

リビングでノートパソコンのキーをカチャカチャ叩いていたサクラが顔を上げる。

ジョージの真剣な声音に気づいたらしい。

『どうしたのジョージ?』

『ユージさんの映画が公開される前ぐらいかな、その頃からずっと考えてたんだけど』

『うん? 何を?』

『もしサクラにその気があれば……日本に家を買わないかい?』

『え? ジョージ、だって、仕事は?』

『ボクの仕事はなんとでもなるよ。馴染みのクライアントならテレビ電話やメールでやり取りしてもいいんだし、日本にだってデザイナーの仕事はあるでしょ?』

『うん、そりゃ、アメリカで自分の事務所を構えてたグラフィックデザイナーって言ったら、いくらでも仕事はあると思うけど……』

『それに、この家を引き払うつもりはないんだ。日本にも拠点を作るイメージかな。ほら、サクラはユージさん関連で日本とやり取りすることも増えたから……向こうにも住む家があれば便利だと思って』

『私の実家は異世界に行っちゃったからなあ……』

ユージは住んでいた家ごと異世界に行った。

逆に言えば、この世界にあったサクラの実家はなくなってしまったのだ。

実家に置いていた荷物ごと。

まあおかげで、針子たちは現代の服の実物を目にして技術を磨けたのだが。特にブラジャー。

『ルイスはそこまで考えてないで、単に面白がってだったけどね! でも、難しく考えないでそれでいいんじゃないかな。だってサクラの故郷でしょう?』

『そう、そうね。うん、ちょっと考えてみる。ありがとうジョージ、愛してる!』

ソファから立ち上がってジョージに飛びつくサクラ。

それにしてもこの二人、アメリカの家を維持したうえで日本に家を買える経済状態であるようだ。

ハリウッド映画のポスターさえ任されるほど腕があるグラフィックデザイナーのジョージと、そのアシスタントをしつつユージの映画関連の報酬も受け取っているサクラ。稼ぎはいいらしい。ブルジョアである。

『ボクも愛してるよ、サクラ』

飛びついたサクラを抱きとめて、そっとささやくジョージ。

口付けを交わして見つめ合う。

イチャイチャしながら無言でベッドルームに向かう二人。

その夜、サクラから書きかけのメールが送信されることはなかった。

ユージは変わらない。

だが、元の世界のユージに関わる人たちの生活は変わっていた。

とりあえず、ユージに二人目の甥っ子か姪っ子ができる日も近い。

□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □

「おはよーっす。クールなニート、昨日はサクラさんから返信あったの?」

「おはようミート。いや、今朝来たら届いていた。こっちの深夜が向こうの朝だからな」

「あ、なるほど。時差っていつになっても慣れないなー」

日本、宇都宮。

ユージの希望を受けて、引きこもりやニートの社会復帰を緩く支援するNPO法人。

朝、徐々に集まってきた面々が仕事を始める。

目下の最大の仕事は、間近に迫ってきた春のキャンプオフの準備である。

「それで、サクラさんはなんて? 問題なし?」

「ああ、こちらの判断に任せるということだ。決まりだな」

「けっきょく滋賀かー。まあ名古屋からも行ける距離だし、いいのかな?」

「名神でも伊勢まわりでも2時間程度だ。中部、関西あたりは集まりやすいだろう。四国と中国地方組は滋賀か福岡か迷うだろうが」

「不安なのは会場の運営が公益法人ってところかなあ」

「キャンプの規模が大きくなるとどうしても私営の施設は少ない。まあこれまで話した感触ではわりと柔軟に対応してもらえそうだ。こちらは俺が仕切る」

「ああ、任せるわ。じゃあ予定通り、俺はまた九州かな?」

「頼む」

ユージは変わらない。

だが、元の世界のユージに関わる人たちの生活は変わっていた。

ユージの映画が公開されて、ユージの話が大々的に知られた。

サクラが代表のユージの権利を管理する会社もNPO法人も、人員を増やして忙しさに対応している。

自宅勤務、短時間勤務、あるいはキャンプ開催地に近い現地での勤務。

それぞれの状況と能力に合わせて、できるところからやらせているらしい。

逆に言えば、それだけ仕事が増えているということでもある。

春のキャンプオフは複数箇所で開催される。

ユージ家跡地キャンプ場、千葉の清水公園、福岡の海の中道海浜公園。

そして。

今年は、掲示板住人念願の関西開催もあるようだ。

場所は大阪でも京都でも兵庫でもなく滋賀県らしいが。

「それにしても、一気に規模がでかくなったなー」

「それだけ映画とユージの話の反響があったということだ。各開催地に大型モニターは必須だな。少なくともユージの映画と特別編、それとリアルタイムの映像と掲示板は流したい」

「あとは服屋と美容院か。ほんと、服屋は初期のうちにチェーン店を口説いてよかったなー」

キャンプオフの目的は、いまやBBQだけではない。

一歩足を踏み出した引きこもりやニートをサポートする。

ユージのメッセージの通り。

NPO法人と臨時のキャンプオフ事務局メンバーは、そのために動いているのだ。

自分たちも、そうだったから。

ユージは変わらない。

だが、元の世界のユージに関わる人たちの生活は変わっていた。

これまでのユージの話を聞いて動き出した掲示板住人も、これから足を踏み出そうとする引きこもりやニートたちも。

「それと、今年もサクラさんたちが来るそうだ。キャンプオフと、宇都宮に家を探しに」

「マジか! ルイスさんだけじゃなくてサクラさんたちもか!」

「ああ。郡司先生にも知らせておかないとな」

「……どうなんだろ、宇都宮、人が増えたからなあ」

「サクラさんは宇都宮出身なんだ。比較的スムーズにいくだろう」

ユージは家ごと異世界に行った。

映画が公開されたことで、家があった宇都宮はいまや世界中に知られている。

なにしろハリウッド製作のエンタメ映画だったので。

宇都宮には日本各地から、アジア圏から、アメリカ、ヨーロッパから人が訪れていた。

聖地巡礼だけではない。

ここから家ごと異世界に行ったのだ。

研究者たちも、それぞれスポンサーを見つけて徐々に集まりつつあった。

宇都宮の住宅事情に影響するほどに。

「家探しはなんとかなるだろうけど……大丈夫なんかね?」

「ネット環境さえ繋がれば問題ないだろう。少なくともルイスさんよりは仕事は少ないんじゃないか? いくら 続(・) 編(・) を(・) 製(・) 作(・) 中(・) といっても」

そう言って、クールなニートは口の端を持ち上げる。

笑っているつもりらしい。

ユージの映画は大ヒットした。

そのエンタメ性もさることながら、実話を基にしているという特異性はビッグニュースだったのだ。

当然である。

ファンタジー映画も物語もゲームも数あれど、設定や空想ではなく『異世界に行った実話』を基にした映画など世界初だ。

『特別賞』も当然である。

製作班はすでに二作目を作りはじめているらしい。

なにしろ最初の映画はエルフの少女・リーゼを保護したところで終わったので。

続編がある前提の終わり方である。

「キャンプオフ、また参加者増えそうだなー」

「そうだな。俺たちは秋のキャンプオフで観たが……ユージの映画が公開されてから、初めてのキャンプオフになる。……英語に対応できるスタッフを増やしたほうがよさそうだな」

「それは間違いないね!」

「それに……参加者が増えるのはいいことだ。全員が全員ではないだろうが……足を踏み出したということだろうから」

「ああ、うん。できるだけサポートしてやりたいね」

「ああ」

ユージ家の跡地で、30人程度ではじまったキャンプオフ。

それが今では、4箇所で同時に開催して、ユージ家跡地以外の各会場は1000人弱の参加者を見込んで準備を進めている。

ユージは変わらない。

だが、元の世界のユージに関わる人たちの生活は変わっていた。

ユージが異世界に行ってから7年目が終わり、8年目になる。

映画は公開されて世界中に話が広まり、ユージとその映画はアカデ○ー賞さえ受賞した。

続編も作られているし、世界中で『異世界』についての研究がはじまっている。

ユージの話は、これからも広がっていくのだろう。

ユージのメッセージとともに。